マスク装用下の人工内耳装用者(児)の語音聴取への影響
著者:
角木拓也
,
倉島楓
,
海崎文
,
高野賢一
ページ範囲:P.487 - P.490
はじめに
2021年現在,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界的に流行しており,エアロゾルにより伝播するその感染様式により,われわれの生活は大きく変化している。感染拡大予防策として,個人間の接触においてはソーシャルディスタンスをとることや感染防護具を装着することなどが推奨されている。感染防護具に関してはさまざまな装備があり,不織布マスクや布マスク,透明プラスチックマスク(以下,プラマスク),ゴーグル,フェイスシールドなどが用いられている。この感染拡大予防策については,新型コロナウイルスの変異株の出現により,ワクチン接種が広く行われたとしても今後も継続することが予想される。
一方,難聴者は聞こえにくい部分をある程度視覚情報から補うことでコミュニケーションをとる場合が多く,視覚情報が遮られることによる語音聴取への影響は,難聴の程度によっては大きくなる。以前から病院で医療関係者がマスクをしていることによる難聴者の聞き取りへの影響が指摘されており1),過去の報告によると,アンケート調査の結果,聴覚障害者が医療者のマスク装用に関して基本的に「マスクを外してほしい」と希望していることが明らかとなった2,3)。しかしながら,上記のごとく身体的距離を確保し,さまざまな感染防護具を日常的に装用する必要が生じており,難聴者の聞き取りへの影響はさらに大きくなってきている。実際に難聴者から,学校生活や仕事,日常生活上での対人コミュニケーションの困難さを耳にする機会が増えている。
難聴者の診療にあたる臨床医としては,マスク装用が患者の語音聴取にどれほどの影響を与えるのか認識する必要がある。本研究では,当院に通院する人工内耳(cochlea implant:CI)装用者を対象に,マスク装用下およびシールド設置条件での語音聴取への影響について検討した。