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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科94巻6号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

著者: 大石直樹

ページ範囲:P.405 - P.405

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の魅力として,「外来・手術のどちらもできる」という点がよく挙げられる。優れた「手術書」は国内外から出版され,人気を博すが,優れた「外来書」というのは「あるようでない」のではないだろうか。私が専門医取得前に必死に外来診療を行っていた際,当時の指導医の先生がされていた外来を可能な限り見学し,外来のコツを学び取ろうとしていた。また,当時出版されたばかりの『一人で対処する耳鼻咽喉科診療』1)という単行本を何度も読み返して,外来で独り立ちできるよう必死であったことを思い出す。

 耳鼻咽喉科外来は,単なる知識のみではうまくこなせない。所見を正確に取るための手技の工夫,局所治療の工夫,そして感覚器医学という特殊性ゆえに,患者さんの「主訴(何に困っているか)」を正確に聞き取る力,うつや不安などの心理的背景への配慮,など多面的な要素が求められる分野である。

《耳疾患》

めまい患者に対する問診のコツ

著者: 五島史行

ページ範囲:P.406 - P.409

POINT

●めまい診療は問診に入る前にすでに始まっている。

●問診に入る前に得られる患者個人情報,問診票からの情報を把握する。

●予想診断に基づいて問診を行う場合と画一的問診を行う方法がある。

外耳道炎と慢性中耳炎に伴う耳漏への対処法

著者: 齊藤秀行

ページ範囲:P.410 - P.414

POINT

●骨部外耳道皮膚の易傷性を考慮する必要がある.

●患者自身により耳の不適切な処置が行われている可能性があるので,指導が必要である.

●検出される菌種から,慢性中耳炎に対しても皮膚感染症としての見方が必要である.

●抗菌薬治療が奏効しなければ,局所処置を中心とした治療に切り替える.

外耳道真珠腫の保存的治療

著者: 金沢弘美

ページ範囲:P.415 - P.419

POINT

●外耳道真珠腫は,糖尿病や透析中など合併症の多い高齢者にみられることが多い。原因背景の把握・CTによる進展範囲の確認が治療方針を決めるうえで大切である。

●ワセリンなどによる自宅でのセルフケアを併用することで,痛みのない処置が可能である。

●適切な処置により進行をある程度止めることができるため,患者に無理のない頻度で通院加療を行う。

耳管疾患に対する治療法選択のポイント

著者: 増田正次

ページ範囲:P.420 - P.425

POINT

●筆者は大学病院の耳科外来のみならず,地域医療最前線の診療所でも診療を行っており,その経験から本稿を記述している。筆者の個人的意見も含まれた内容である。

●鼓膜穿孔のない成人を想定した耳管狭窄症・開放症の治療フローを示す。

●即効性のある保存療法を初診時に提供し,良好な医師-患者関係を速やかに構築する。

●耳管狭窄症に対しては,耳管通気,鼻処置,薬物治療,鼓膜切開術,鼓室内ステロイド投与術,鼓膜チューブ留置術,バルーン耳管開大術の選択肢がある。

●耳管開放症に対しては,生活指導,生理食塩水点鼻,漢方薬,耳管処置,耳管ピン挿入術の選択肢がある。

《鼻・副鼻腔疾患》

アレルギー性鼻炎に対する治療法選択のポイント

著者: 湯田厚司

ページ範囲:P.426 - P.431

POINT

●アレルギー性鼻炎の治療にあたっては問診や補助検査を参考にする。

●頻用される抗ヒスタミン薬は,患者背景と薬剤特性を考慮して選択する。

●重症度に応じて複数の薬剤を組み合わせることが有用である。

●適応例には抗IgE抗体薬や舌下免疫療法などの治療も考慮する。

鼻出血に対する観察と止血のポイント

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.432 - P.436

POINT

●患者を落ち着かせ,病状を診ながら,治療に必要な情報を得る。

●止血状態,あるいは出血が軽度な状態で出血部位を目視あるいは内視鏡で同定する。

●内視鏡下に出血部位を電気焼灼するのを原則にする。

●アルギン酸塩被覆材か酸化セルロースを活用するとよい。

難治性副鼻腔炎の保存療法・手術を勧めるタイミング

著者: 野島知人 ,   野中学

ページ範囲:P.437 - P.441

POINT

●好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は難治性副鼻腔炎の代表であり,治療に難渋することが多い。

●保存的治療で効果が得られないECRSは,診断から1年以内に手術治療へ転換するほうが治療効果は高く,予後もよいとされている。術後は再発を防止するための保存的治療が必要であり,再手術の適応判断が重要である。

●ECRSの術後の再発症例に対するデュピルマブの有効性が報告されている。

●ECRS以外の難治性副鼻腔炎には,浸潤型(急性,慢性)真菌症,アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(AFRS),多発血管炎性肉芽腫症(GPA)やIgG4関連疾患(IgG4-RD)に伴う鼻副鼻腔炎などがあり,それら疾患を念頭に置いて診療する必要がある。

《口腔・咽喉頭・頭頸部疾患》

難治性口内炎の見分け方

著者: 白崎英明

ページ範囲:P.442 - P.445

POINT

●ステロイドで改善しない場合は悪性腫瘍の可能性を考える。

●全身性疾患の一症状である可能性も念頭に置く。

●最も頻度が高い再発性アフタ性口内炎の病型を理解して治療にあたる。

喉頭・下咽頭の観察のコツ

著者: 酒井昭博

ページ範囲:P.446 - P.449

POINT

●内視鏡の進歩に伴い,より早期に微小な病変を診断することが可能となった。

●観察法の工夫により可視範囲を広げることが重要である。

●Narrow Band Imaging(NBI)や画像強調も病変の診断に有用である。

咽喉頭異常感症に対する問診のツボ

著者: 桑原達 ,   折舘伸彦

ページ範囲:P.450 - P.453

POINT

●異常感の訴えは主観的なものであり,「のどがイガイガする」「何か異物があるような感じがする」「なんとなくつまった感じがする」というものが多く,症状の特徴として痛みを伴わないこと,食事により症状が改善すること,摂食時の嚥下では自覚されないことなどがある。

●咽喉頭異常感の原因となる疾患は,局所的要因,全身的要因,精神的要因によるものに大別され,その8割は局所的要因である。なかでも,胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)が最も多く40〜55%を占め,次いで喉頭アレルギーが12〜16%,甲状腺疾患が10%,精神的疾患は5%と報告されている。

●咽喉頭異常感を惹起する疾患が多彩であること,診断法が確立されていないこと,実臨床上は除外診断であることから,器質的疾患を見逃さないように留意すること,器質的疾患が除外された場合には十分に説明して安心させること,が重要である。

音声診療のポイント

著者: 望月隆一

ページ範囲:P.454 - P.458

POINT

●音声診療は言語によるコミュニケーションに対する診療の核として,耳鼻咽喉科医にとって必須の分野である。

●問診で得られる情報には,音声障害の診断や治療に有用なヒントが満載である。

●喉頭内視鏡検査の所見はきわめて重要であり,より的確な診断のためストロボスコピーの使用が望ましい。

●患者の職業や生活環境によるニーズに合わせて治療法を選択する必要がある。

耳鼻咽喉科外来での高齢者の嚥下障害診療

著者: 加藤健吾

ページ範囲:P.459 - P.463

POINT

●緩徐に発症する高齢者の嚥下障害に対しては外来での早期対応が重要である。

●外来での嚥下診療は初診,精査,説明,指導などと分割して行うことにより一般外来と並行して実施可能で,検討する時間も確保できる。

●高齢者の嚥下障害では嚥下機能の改善以上に,栄養療法,義歯と口腔ケア,療養環境の整備など支持的なアプローチが重要である。

●嚥下障害を気にかけてフォローアップするだけでも十分な意義がある。

原著

妊娠中期に鼻腔より発生した化膿性肉芽腫の1例

著者: 佐伯忠彦 ,   春名威範 ,   小川晃弘

ページ範囲:P.464 - P.469

はじめに

 化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma)は炎症性病変を伴う毛細血管の増生が主病変で,頭頸部や四肢に発生する血管腫の一種である。頭頸部の粘膜領域では口唇や口腔内に発生する場合が多く,鼻腔粘膜に生じる例は比較的稀とされている1)。化膿性肉芽腫のうち妊娠中に発生する例は妊娠性肉芽腫などとも称され,女性ホルモンが増加する妊娠後期に発生することが多い。

 今回われわれは,妊娠中期に鼻腔内より発生した化膿性肉芽腫の1例を経験したので報告する。

脳脊髄液減少症が原因と考えられた急性感音難聴症例

著者: 伊東明子 ,   中屋宗雄 ,   熊田純子 ,   木田渉 ,   稲吉康比呂

ページ範囲:P.471 - P.475

はじめに

 脳脊髄液減少症は脳脊髄腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し,頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴りなどさまざまな症状を呈する疾患で,急性難聴,また変動する難聴をきたすことのある疾患の1つとして,突発性難聴,低音障害型感音難聴などとの鑑別において重要である。

 今回,われわれは,谷型の右急性感音難聴を呈し,脳脊髄液減少症の診断で硬膜外自己血液注入療法(ブラッドパッチ)が有効であった症例を経験したので報告する。

ガス産生性喉頭蓋膿瘍の1例

著者: 佐伯忠彦 ,   小川晃弘 ,   春名威範

ページ範囲:P.477 - P.481

はじめに

 喉頭蓋囊胞の感染から急性喉頭蓋炎や喉頭蓋膿瘍を発症する例は時に遭遇することがあるが,ガス産生性の喉頭蓋囊胞感染により発症する喉頭蓋膿瘍例は稀である。今回われわれは,ガス産生性の喉頭蓋囊胞感染から発症し,緊急気道確保を要した喉頭蓋膿瘍の1例を経験したので報告する。

予防的ステントを留置しレンバチニブを導入した鎖骨下動脈浸潤を伴う甲状腺未分化癌の1例

著者: 村川誠太郎 ,   勢井洋史 ,   眞田朋昌 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.483 - P.486

はじめに

 甲状腺未分化癌は急速進行性のきわめて予後不良な疾患であり,手術・放射線・抗癌剤を組み合わせた集学的治療にも抵抗性であることが多い1)。2015年5月に登場した分子標的薬のレンバチニブは甲状腺未分化癌に対する画期的な抗腫瘍効果2)が報告されているが,腫瘍縮小や壊死に伴い頸動脈などの大血管から致命的な出血をきたす症例3,4)も報告されたことから,注意喚起がなされている。今回,左鎖骨下動脈浸潤を伴った切除不能の甲状腺未分化癌に対して,予防的なステント留置を施行したうえでレンバチニブ投与したところ,出血なく抗腫瘍効果を得ることができた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

マスク装用下の人工内耳装用者(児)の語音聴取への影響

著者: 角木拓也 ,   倉島楓 ,   海崎文 ,   高野賢一

ページ範囲:P.487 - P.490

はじめに

 2021年現在,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界的に流行しており,エアロゾルにより伝播するその感染様式により,われわれの生活は大きく変化している。感染拡大予防策として,個人間の接触においてはソーシャルディスタンスをとることや感染防護具を装着することなどが推奨されている。感染防護具に関してはさまざまな装備があり,不織布マスクや布マスク,透明プラスチックマスク(以下,プラマスク),ゴーグル,フェイスシールドなどが用いられている。この感染拡大予防策については,新型コロナウイルスの変異株の出現により,ワクチン接種が広く行われたとしても今後も継続することが予想される。

 一方,難聴者は聞こえにくい部分をある程度視覚情報から補うことでコミュニケーションをとる場合が多く,視覚情報が遮られることによる語音聴取への影響は,難聴の程度によっては大きくなる。以前から病院で医療関係者がマスクをしていることによる難聴者の聞き取りへの影響が指摘されており1),過去の報告によると,アンケート調査の結果,聴覚障害者が医療者のマスク装用に関して基本的に「マスクを外してほしい」と希望していることが明らかとなった2,3)。しかしながら,上記のごとく身体的距離を確保し,さまざまな感染防護具を日常的に装用する必要が生じており,難聴者の聞き取りへの影響はさらに大きくなってきている。実際に難聴者から,学校生活や仕事,日常生活上での対人コミュニケーションの困難さを耳にする機会が増えている。

 難聴者の診療にあたる臨床医としては,マスク装用が患者の語音聴取にどれほどの影響を与えるのか認識する必要がある。本研究では,当院に通院する人工内耳(cochlea implant:CI)装用者を対象に,マスク装用下およびシールド設置条件での語音聴取への影響について検討した。

お知らせ

第39回 耳鼻咽喉科ニューロサイエンス研究会

ページ範囲:P.470 - P.470

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目次

ページ範囲:P.401 - P.401

欧文目次

ページ範囲:P.403 - P.403

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.492 - P.492

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.496 - P.496

 木々の緑が青々として,風が肌に心地よい季節となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 当誌編集委員の丹生健一先生が会長を務める第123回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会総会・学術講演会,5月25〜28日に神戸でいよいよ開催です。コロナ禍ですっかりオンライン学会が定着しました。レジデントの先生方にとっては医局ミーティングや症例カンファレンスにはじまり学会まで,何でもオンライン参加という状況にすっかり慣れてしまっているようです。でも今回,神戸にはできるだけ多くのレジデント,さらには学生さんを連れて行きたいと思っています。たくさんの講演を聞いて勉強するだけならオンラインは便利ですが,学会に現地参加するメリットはたくさんあります。演者への質問はフロアでもできるし,聴講したあとに仲間内で再度ディスカッションして知識もさらに深まります。あとは,開催地自慢の食や酒を味わいながら先輩と後輩が入り交じって語らうことでしょうか。先輩方のお話には,教科書には書いていないけれど数多くの臨床経験から得たとても重要なコツや注意点などがたくさんあり,しばしば情熱をもってその優れた技術を伝えようとしてくださるので頭に残ります。そんな匠のような方が身近にいらっしゃるはず。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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