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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科95巻11号

2023年10月発行

雑誌目次

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

目で見て学ぶ エキスパートの頸部郭清術

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.878 - P.880

 進行頭頸部がんに対して化学放射線療法が初回治療として選択されることが多い現在でも,化学療法後の残存・再発病変,後発リンパ節転移に対する救済手術,口腔がん症例および臓器機能の低下や併存症により化学放射線治療を実施できない症例に対する初回治療など,頭頸部がんの治療において頸部郭清術が果たす役割は大きい。

 Crile1)が1906年に根治的頸部郭清術を報告して以来,120年近くとなる。その基本概念は,下顎下縁,僧帽筋前縁,鎖骨上縁に囲まれた領域の脂肪組織を,胸鎖乳突筋,内頸静脈,副神経を含めて一塊に切除することにより,同部のリンパ節を徹底して郭清するものであり,現在でも頸部リンパ節転移に対する最も根治性の高い外科的治療である。しかし,頸部郭清術が広く普及し,長期生存例が増加するとともに,術後の頸部の疼痛や上肢挙上障害などさまざまな後遺症が問題となり2),Boccaら3)により提唱された機能的頸部郭清術(functional neck dissection)をはじめとして,「郭清範囲の縮小」や「非リンパ組織の温存」によるさまざまな変法が提唱された4〜6)。現在では,原発巣の部位や進展範囲,リンパ節転移の数や位置に応じた術式が実施されている7)

舌がんに対する頸部郭清術:level Ⅰ〜Ⅲ

著者: 大峡慎一 ,   松本文彦

ページ範囲:P.881 - P.885

POINT

●舌がんに対する予防的頸部郭清(level Ⅰ〜Ⅲの選択的頸部郭清)の有用性については議論が続いている。

●オトガイに切りあがらず皮膚割線に沿った皮膚切開により,審美面で優れた手術が行える。

●舌骨傍の郭清を必ず行うこと。

●基本的な手術手技の連続であり,1つ1つ確実に行うこと。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

中咽頭がんに対する頸部郭清術:level Ⅱ〜Ⅲ

著者: 塚原清彰

ページ範囲:P.886 - P.890

POINT

●手術は切る・切らないの判断を繰り返す作業である。

●トラクションで間隙を作る。

●術野全体をとらえて俯瞰する眼を養う。

●ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)陽性中咽頭がんのリンパ節転移は線維形成する。

●線維化の強い組織での手術は鋭的切除の技術が重要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

喉頭・下咽頭がんに対する頸部郭清術:level Ⅱ〜Ⅳ

著者: 向川卓志

ページ範囲:P.891 - P.895

POINT

●既知の解剖知識と画像所見を統合し,立体像の構築と細かい術前シミュレーションを行う。

●基本手技の組み合わせで成立する手術であり,それらの手技向上が手術の進歩につながる。

●律速となる工程は,主に深頸筋膜および頸動脈鞘からの剝離であり,対側の手の誘導によるカウンタートラクションの維持が重要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

喉頭・下咽頭がんに対する頸部郭清術:level Ⅱ〜Ⅴ(内側から外側へ)

著者: 本多啓吾

ページ範囲:P.896 - P.904

POINT

●内側から外側へ行う頸部郭清は,組織の流れ目やリンパ流の方向に沿った術式であり,上頸部の転移好発部位から郭清を開始する。

●深頸筋膜中葉は気管前筋膜から派生し,顎二腹筋後腹と肩甲舌骨筋に沿って外側に広がっている。

●肩甲舌骨筋筋膜については,特に意識して同定し剝離する必要がある。

●中葉裏面で外頸動脈周囲にあるリンパ組織の把握と郭清が,咽喉頭がんでは重要である。

●辺縁部の詳細な郭清範囲や徹底度は,転移好発部位の術中所見に基づいて調整する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

進行がんに対する頸部郭清術:副神経周囲を中心に

著者: 上村裕和

ページ範囲:P.906 - P.911

POINT

●安定して副神経外枝を同定・温存し,郭清を適切に行うには,耳下腺と胸鎖乳突筋の剝離などを行って広い術野を確保することが不可欠である。

●副神経外枝が顎二腹筋後腹,胸鎖乳突筋と交差する部分と,僧帽筋前縁では副神経外枝走行の位置,頸神経との交通などのバリエーションに注意を払う。

●副神経外枝を直接筋鉤で牽引するようなストレスをかけないように愛護的な手術操作に努める。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

進行がんに対する頸部郭清術:鎖骨上窩・静脈角を中心に

著者: 益田宗幸

ページ範囲:P.912 - P.918

POINT

●上縦隔・鎖骨下の郭清では骨性胸郭が障壁となり,頸部手術に連続してオープンスペースでの手術を行うことができない。

●不十分な視野およびワーキングスペースで手術を継続すると,大血管損傷などの致死的合併症を引き起こす可能性がある。

●骨処理を行わない場合の手術として,頸部食道がん,フローズンネック症例について解説する。

●骨処理を行う場合の手術として,胸鎖関節授動術について解説する。この方法により頸部手術と連続して良好な術野での縦隔手術が可能となる。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

喉頭・下咽頭がんに対する外側咽頭後リンパ節郭清術

著者: 手島直則

ページ範囲:P.920 - P.923

POINT

●外側咽頭後リンパ節(RPLN)はルビエールリンパ節とも呼ばれ,前方で咽頭収縮筋,後方で椎骨前筋膜を境とする咽頭後間隙に存在し,特に上咽頭がん,中咽頭側壁・後壁がん,下咽頭後壁がんで転移が好発するといわれている。

●下咽頭喉頭全摘術と同時にRPLN郭清を施行する場合,術野を広く展開することが可能であり,重要臓器を温存しながら比較的容易かつ迅速に郭清組織を摘出できる。

●局所進行下咽頭・喉頭がん症例の根治手術に際しては,原発巣の亜部位や多発リンパ節転移の有無にかかわらず,同側RPLN郭清は考慮されるべきであると考える。

喉頭・下咽頭がんに対する気管傍郭清術

著者: 小村豪

ページ範囲:P.924 - P.929

POINT

●気管傍領域の尾側境界は術野においては曖昧である。

●原発巣の亜部位,進展範囲によって,健側の甲状腺片葉と気管傍の郭清範囲は決定されることが多い。

●健側甲状腺片葉を温存する場合,上・下甲状腺動脈とそれらに囲まれた深頸筋膜中葉の膜を温存するよう心がけている。

甲状腺がんに対する気管周囲郭清術

著者: 笹井久徳

ページ範囲:P.930 - P.932

POINT

●甲状腺がん,特に最も頻度の多い甲状腺乳頭癌はリンパ節への転移が多く,気管周囲の脂肪組織を郭清することは必須の手技となる。

●気管周囲の郭清を行うにあたり,左右で反回神経の走行経路が異なるため,郭清する脂肪組織の領域に違いがあることに留意する必要がある。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

甲状腺がんに対する縦隔郭清術

著者: 北村守正

ページ範囲:P.934 - P.937

POINT

●縦隔郭清術は多くの場合,頸部アプローチで可能であるが,より安全な術野を確保するために胸骨・鎖骨の操作が必要となることがある。

●感染を起こすと致死的になることもあるため,感染をきたさないような工夫(死腔の充塡,各組織の血流の維持,リンパ管の処理など)を行う。

●静脈角周囲は胸骨切開だけでは術野が悪いため,transmanubrial approachを用いるのがよい。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

局所麻酔下の頸部郭清術

著者: 小林謙也

ページ範囲:P.938 - P.942

POINT

●「十分な疼痛コントロール」と「適切な道具の選択」を行う。

●遭遇する頸神経1本1本に対し神経ブロックを行う。

●筋収縮が生じやすい部位ではメスや剪刀などのcold instrumentsを使用する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年10月).

原著

シスプラチン使用後に著しい低ナトリウム血症をきたした1例

著者: 佐藤詩織 ,   遠藤一平 ,   吉崎智一

ページ範囲:P.943 - P.948

はじめに

 シスプラチンは,頭頸部癌治療でよく使用されるが,有害事象の1つに低ナトリウム血症がある。原因として,抗利尿ホルモン不適合分泌(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)がよく知られているが,塩類喪失性腎症(renal salt-wasting syndrome:RSWS)という報告は少ない1)。今回,シスプラチン3コース目施行後,意識障害にて発症したRSWSによる低ナトリウム血症をきたした症例を経験したため報告する。

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死に起因した眼窩内膿瘍の1例

著者: 斎藤友紀子 ,   松見文晶 ,   三ッ井瑞季 ,   室野重之

ページ範囲:P.949 - P.954

はじめに

 ビスホスホネート製剤(bisphosphonate:BP)は破骨細胞を抑制することで骨吸収を阻害する薬剤であり,骨粗鬆症やがん患者の骨転移の治療に用いられている。BPの有害事象として難治性の顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw:BRONJ)が発生することが知られている1)。近年,BPと同様に破骨細胞による骨吸収を抑制する抗RANKL抗体製剤であるデノスマブでも顎骨壊死(denosumab-related ONJ:DRONJ)が報告されており2),BRONJと併せてanti-resorptive agents-related ONJ(ARONJ)と呼称されている3)

 ARONJではさまざまな重篤な感染性合併症を生じうるが,今回われわれはARONJに起因する歯性上顎洞炎から波及したと考えられた眼窩内膿瘍の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。

副耳下腺腫瘍7症例における臨床像,治療選択と治療上の問題点

著者: 平本琢人 ,   今野昭義 ,   植木雄司 ,   間多祐輔 ,   中里龍彦 ,   佐久間秀夫 ,   長尾俊孝

ページ範囲:P.955 - P.962

はじめに

 筆者らは,過去16年間に7例の副耳下腺腫瘍を経験した。多型腺腫3例,癌腫4例であり,従来の報告1〜5)と同じように耳下腺腫瘍と比較して悪性腫瘍の頻度が高かった。副耳下腺は耳下腺の前方に伸びるステノン管上に位置し,副耳下腺腫瘍は頰部皮膚と咬筋の間に発生するため,解剖学的には早期発見,早期治療が容易である。しかし,副耳下腺の容積が小さいため,浸潤癌では腫瘍は容易に咬筋,皮下組織,皮膚,顔面神経中枝に浸潤し,拡大手術が必要となる。自験例では副耳下腺癌4例中3例は浸潤癌であり,2例はN1〜2bのリンパ節転移を伴っていた。

 本腫瘍の治療に際しては良悪性の鑑別,悪性度診断が最も重要であり,癌症例では早期治療が必要となる。自験例における臨床像と診断法,治療法を提示し,副耳下腺腫瘍の診断と治療上の問題点について考察する。

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目次

ページ範囲:P.873 - P.873

欧文目次

ページ範囲:P.875 - P.875

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.964 - P.964

あとがき

著者: 大石直樹

ページ範囲:P.968 - P.968

 みなさん,夏休みで十分充電されましたでしょうか? あまりの猛暑続きに,「地球温暖化」の時代は過ぎ「地球沸騰化」の時代に入った,という国連事務総長の警告も,まさにその通りと危機が身近に感じられる夏でした。また,日本の出生数に関するニュースも先日目にしましたが,今年の上半期の出生数は37万余人と,過去最低数を更新したとのことでした。私はほぼ第2次ベビーブーム世代ですが,年に換算した出生数は私の世代のほぼ3分の1に減少したことになります。将来,産婦人科,小児科のみならず,耳鼻咽喉科を含めた医学会全体が大きな構造改革を迫られるのは間違いないと思われます。極端な少子化,超高齢社会において,耳鼻咽喉科・頭頸部外科はどのような対応を取っていくべきなのか,皆の知恵が必要だと思います。

 外科医の技術が習熟するためには,一定の症例数の経験は絶対に必要ですが,全体の症例数が減れば減るほど,熟練した外科医に症例が集まるのは必然です。そのような環境で,若手外科医が手術を習得するには,教育環境の整備が必須になります。本特集号の頸部郭清術は,頭頸部外科医にとって習得すべき手術の1つですが,本企画ではエキスパートの先生方に,惜しみなくその技術やコツを披露いただいていまして,頸部郭清術を学ぶのに最適な特集号となっています。リンクが張られている動画を繰り返しみて,各手技の解説を繰り返しお読みいただき,そのうえで手術に臨む機会があれば,手術を習得する過程を速められることが期待されます。これからの少子化の時代には,このような学習過程は必須になることと思います。それぞれの施設による「独自の秘伝の手技」という考え方は時代遅れであり,頸部郭清術のみならず,鼓室形成術やTEES,ESSや頭蓋底手術なども全国的に同様の教育コンテンツを充実させて,優れた術者を生み出すシステム作りが重要だと思っています。若手・中堅の皆さんは,さまざまな教育コンテンツを有効利用して学んでいかれることを期待しています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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