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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科96巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

特集 伝音難聴を克服する 一歩進んだ診断と手術・人工聴覚器の適応の見極め 《一歩進んだ診断のために》

伝音難聴の聴覚生理

著者: 麻生沙和 ,   山田啓之 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.6 - P.10

POINT

●鼓膜は3kHzより低周波数では一体となって振動し,3kHzより高周波数では部位によって異なる振動(多分割振動)となる。

●耳小骨は低周波数では3つが一体となって動き,ツチ骨とアブミ骨は同方向に動くが,高周波数ではツチ骨とアブミ骨は逆方向に動く。

●鼓膜や耳小骨の可動性が低下すると純音聴力検査で低音域の気骨導差(stiffness curve)が生じ,中耳の貯留液や耳小骨の重量が増えると高音域で気骨導差(mass curve)が生じる。

●伝音再建ではⅠ型,Ⅲ型,Ⅳ型の順で伝音効率がよく,Ⅲ型ではコルメラをツチ骨頸部に挿入すると最も伝音効率がよい。Ⅳ型ではアブミ骨底板中央に挿入すると伝音効率が良好となる。

純音聴力検査におけるマスキング困難例への対応

著者: 村山陽子 ,   樫尾明憲

ページ範囲:P.11 - P.16

POINT

●骨導閾値の測定には一般にマスキングが必須である。マスキングを行わずに測定すると,良聴耳の骨導閾値が得られる。

●検耳の気導閾値が,非検耳の骨導閾値と両耳間移行減衰量の和よりも大きい場合に,非検耳による陰影聴取の可能性を考え,マスキングが必要となる。

●オージオグラムをみてマスキングレベル(遮蔽量)の妥当性を評価するための事後検証法を紹介する。

●伝音難聴耳へのマスキングは困難となる。特に,どちらかの耳に最大の伝音難聴〔気骨導差(A-B gap)=両耳間移行減衰量(IA)〕がある場合,左右別の骨導聴力の測定は不可能となる。

●マスキングによる閾値決定ができない場合の対応の工夫を紹介する。

一側性伝音難聴のハンディキャップ

著者: 西山崇経

ページ範囲:P.17 - P.20

POINT

●一側性伝音難聴は,両耳聴ができなくなることで生活の質の低下,音源定位能力の低下,雑音下聴取能力の低下を生じる。

●感音難聴とは異なり,聴力改善手術や軟骨伝導補聴器などの治療選択肢が存在する。

●一側性伝音難聴に伴って音源定位能力は低下し,聴力改善によって音源定位能力は改善すると考えられるが,検査音圧の設定や治療開始すべき年齢,長期治療成績などは明らかになっていない。

●一側性伝音難聴に伴って雑音下聴取能力は低下し,聴力改善によって雑音下聴取能力は改善すると考えられるが,評価方法の標準化などの課題が存在する。

《手術適応の見極め》

外耳道閉鎖症への手術適応と課題

著者: 加我君孝 ,   竹腰英樹 ,   朝戸裕貴

ページ範囲:P.21 - P.27

POINT

●外耳道形成術の適応の評価にはJahrsdoerferのスコアを用いる。

●小耳症・外耳道閉鎖症は第1鰓弓,第2鰓弓の発生の問題に伴って生じる。

●外耳道形成術の課題には,鼓膜の浅在化,補聴,形成した外耳道形状のコントロール,両耳聴の実現などがある。

●片側または両側小耳症・外耳道閉鎖症に対し,外耳道形成と耳穴型補聴器あるいは軟骨伝導補聴器の装用によって両耳聴の獲得が実現可能である。

小児滲出性中耳炎への手術適応と課題

著者: 伊藤真人

ページ範囲:P.28 - P.31

POINT

●鼓膜換気チューブ留置術の手術適応の決定にあたっては,難聴の程度とそれが及ぼす影響を評価する。

●アデノイド切除術の手術適応の決定にあたっては,患児の年齢と夜間無呼吸の程度を評価する。

●幼少児のアデノイド手術では,パワーデバイスを用いたendoscopic powered adenoidectomy(EPA)も考慮する。

●鼓膜換気チューブ留置術は有効な治療法であるが,鼓膜の菲薄化,穿孔残存や鼓膜石灰化などの合併症や後遺症を伴うことのある侵襲的治療である。

鼓膜穿孔への手術適応と課題

著者: 綾仁悠介 ,   萩森伸一

ページ範囲:P.32 - P.36

POINT

●症状に乏しい鼓膜穿孔であっても,聴力予後の点から早期に穿孔閉鎖を図るのがよい1)

●経外耳道的内視鏡下手術(transcanal endoscopic ear surgery:TEES)やトラフェルミン(遺伝子組換え)製剤(リティンパ®)を用いた鼓膜穿孔閉鎖術など,新しい手術法により治療の選択肢が増加している。

●鼓膜穿孔の状態,併存病態,患者背景を考慮し,症例ごとに最適な術式を選択することが大切である。

浅在化鼓膜への手術適応と課題

著者: 岡上雄介 ,   堀龍介

ページ範囲:P.37 - P.42

POINT

●浅在化鼓膜は手術を行っても再発し治療に難渋することがある。

●画像検査で浅在化の程度やmedial meatal fibrosis(MMF)・真珠腫の存在などを確認し,再発しやすい疾患であることを十分に説明したうえで手術適応を決定するべきである。

●治療法としては浅在化した鼓膜を作り直す方法と,コルメラの長さで調整する方法があるが,再発予防のためにさまざまな対策が必要となる。

●何より初回手術の際に,手術合併症として浅在化鼓膜をきたさないように注意することが重要である。

癒着性中耳炎への手術適応と課題

著者: 岡野高之

ページ範囲:P.43 - P.49

POINT

●癒着性中耳炎,アテレクターシス,緊張部型真珠腫の病態概念には依然として合意がない。

●従来の報告を引用し,癒着性中耳炎に対する鼓室形成術における手技・手法を概説した。

●CTなどを用いた癒着性中耳炎の病態分類を行うことで予後予測をする試みがなされている。

●癒着性中耳炎に対する鼓室形成術では,手術の効果と限界について十分な説明を患者に行ったうえで,術式を選択することが重要である。

一側性伝音難聴への手術適応と課題

著者: 山田浩之

ページ範囲:P.50 - P.53

POINT

●鼓膜所見が正常である一側性伝音難聴を術前に正確に診断することは非常に困難である。

●手術による患者利益はあり,技術と経験を有している耳科医であれば積極的に手術を勧めてもよい。

●一側性難聴による障害の程度は患者の聴力や生活環境により異なるため,あくまでも手術を決定するのは患者の主観的な希望による。

●患者が手術の効果と合併症を正しく理解し,希望した時点で手術を行うのがよく,小児でもリスクを理解できる年齢までは手術を控えたほうがよい。

《人工聴覚器をどう使う?》

補聴器(気導・骨導・軟骨伝導)の適応と課題

著者: 西村忠己

ページ範囲:P.54 - P.58

POINT

●伝音難聴は感音難聴に比べ,装用効果を得ることは比較的容易であるが,疾患が装用に与える影響を考慮する必要がある。

●装用効果だけでなく,装用感,審美性,経済性を含めた検討が重要である。

●気導補聴器の装用に問題なく,十分な装用効果が得られる例では,気導補聴器が優先される。

●装用可能な補聴器の選択肢を示し,メリット,デメリットを説明し,試聴などを行って評価する。

骨導インプラントの適応と課題

著者: 我那覇章

ページ範囲:P.60 - P.69

POINT

【Baha】

●「少なくとも一側の」骨導閥値が55dB HL以内であれば,聾側への植え込みも適応となる。

●MRI撮影時のアーチファクトが少ない。

●術後の皮膚・皮下組織合併症のリスクが約10%あるが対応は容易である。

【BONEBRIDGE】

●「植え込み側耳の」骨導閾値が平均45dB HL以内であれば適応となる。

●審美性に優れ,術後の皮膚・皮下組織合併症のリスクが低い。

●MRI撮影時のアーチファクトが大きく,定期的なMRIを要する場合は慎重な適応判断が必要である。

人工中耳の適応と課題

著者: 高橋優宏

ページ範囲:P.70 - P.73

POINT

●適応判断に際し,側頭骨CTでの術前評価が重要である。

●人工中耳(Vibrant Soundbridge:VSB)は音質がよい。

●先天性外耳道閉鎖症例では,形成外科との連携が重要である。

●一側伝音・混合性難聴への適応拡大が期待される。

Review Article

上気道粘膜免疫および粘膜ワクチンの現状と展望

著者: 黒野祐一

ページ範囲:P.74 - P.83

Summary

●粘膜免疫の主役となる分泌型IgAは外分泌液中に含まれ,微生物の生体内への侵入を阻止する。

●粘膜免疫は誘導組織と実効組織,そして両者を結ぶ共通粘膜免疫システムからなり,上気道では鼻咽腔関連リンパ組織(NALT)や扁桃が誘導組織,粘膜や分泌腺が実効組織として働く。

●上気道の粘膜免疫応答を誘導するにはワクチンの経鼻投与が最も優れ,経鼻インフルエンザワクチン(FluMist®)がすでに市販されている。

●ホスホリルコリンはすべての細菌の細胞壁構成成分であり,広域スペクトラムを有する細菌感染予防経鼻ワクチンの候補となりうる。

●ホスホリルコリン誘導体は粘膜アジュバントとして応用が可能である。

原著

肺MAC症の経過観察中に生じた鼻腔・顔面皮膚・肺結核例

著者: 永野広海 ,   松崎尚寛 ,   松元隼人

ページ範囲:P.84 - P.88

はじめに

 本邦の結核患者は減少傾向で,結核罹患率(人口10万対)が10.0以下となり,2021年に結核低蔓延国になった。今後もこの減少傾向が続くと予想される1)

 肺外結核のなかでは,頸部リンパ節結核は散見されるが2),鼻副鼻腔領域の結核は少なく,遭遇する機会は少ないため,疑わなければ診断は難しい。しかし,診断が遅れると患者への不利益のみならず,同居者や医療従事者へ伝播することも否定できない疾患であることを理解する必要があることに変わりはない3)。今回われわれは,肺非結核性抗酸菌症〔以下,肺Mycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)症〕の経過観察中に生じた鼻腔・顔面皮膚・肺結核例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する。

仮道への涙管チューブ留置によりcheese wiringを生じた症例

著者: 倉持篤史 ,   太田康 ,   昌原英隆 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.89 - P.92

はじめに

 cheese wiringとは,涙管チューブ挿入後に涙点と涙小管の周囲の軟部組織が,チーズをワイヤーで切ったようにチューブによって切断されることを指す1)。眼角部の疼痛,霧視,鼻汁のほか,流涙をきたすことがあるが,無症状の症例も報告されている。涙管チューブ挿入後にcheese wiringをきたした症例の報告は4例と少なく,いずれも鼻腔内視鏡下で涙管チューブを抜去されている2,3)

 今回われわれは,仮道への涙管チューブ留置によるcheese wiringを生じ,同時に流涙が再発した症例に対して内視鏡下涙囊鼻腔吻合術(endoscopic dacryocystorhinostomy:EN-DCR)を施行し,良好な術後経過を得た症例を経験したため,報告する。

動画を用いた耳鼻咽喉科医以外のための鼻出血対応マニュアル

著者: 樋口雅大 ,   武田純治 ,   三村昇平

ページ範囲:P.93 - P.97

はじめに

 鼻出血は耳鼻咽喉科救急疾患のなかでも頻度が高く,救急外来を受診した耳鼻咽喉科患者の約8〜10%1,2)という報告もある。時間外に受診した場合,その対応は当直医が行うことになるが,慣れていない医師が救急搬送要請を断ることや,止血に難渋し耳鼻咽喉科コールとなることも珍しくない。さらに,実際に耳鼻咽喉科医到着時は止血しており処置の必要がない場合や,ガーゼ挿入の際に鼻粘膜を傷つけている場合もある。結果として対応時間が長くなり,患者,当直医,耳鼻咽喉科医それぞれの負担となる。そこで当科では,耳鼻咽喉科医以外のための鼻出血対応マニュアルを動画付きで作成し,院内で周知した。今回われわれはその内容を紹介するとともに,その効果についても検討したため,若干の文献的考察を踏まえて報告する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます。

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目次

ページ範囲:P.1 - P.1

欧文目次

ページ範囲:P.3 - P.3

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.99 - P.99

あとがき

著者: 大石直樹

ページ範囲:P.104 - P.104

 早いもので,2023年が過ぎようとしていますね! 皆さんにとって2023年はどのような年でしたでしょうか? 新型コロナウイルス感染症の5類への移行は,われわれ医療者にとって間違いなくとても大きな変化でした。国内外の学会に直接行き,仲間たちに会い,楽しく語らい合う時間をとれるようになりました。診療では患者の受診控えという状況はなくなったと思いますが,一方で新年度の耳鼻咽喉科新入局者は200人の大台を割ることが予想されています。働き方改革もいよいよ2024年4月から始まり,より厳密な労働時間の管理が必要になるでしょう。働く人員が減って,かつ働く時間も減る状況では,さまざまなアクティビティを維持するために勤務内容の見直しや工夫が必須なのは自明です。新人勧誘という点からは,他科に比べて「冴えない」「落ち目」の科という評判が一度確立してしまうと,それを覆すのは容易ではありません。悪循環に陥ることなく,もう一度上昇の気流に乗せるためには,きっと多方面からの改善が求められますが,それが可能な時期はまさにいましかないのかもしれません。ぜひ「楽しい」耳鼻咽喉科・頭頸部外科をめざし,一緒に楽しく働く人たちが集まる集団にしていけたら,と思っています。

 11月末には韓国より悲しいニュースが飛び込んできました。ソウル国立大学耳鼻咽喉科頭頸部外科の主任教授を務められ,韓国の耳科学を牽引していらしたSeung Ha Oh先生が突然ご逝去されました。いま韓国からの帰国の最中にこのあとがきを記載していますが,韓国の友人たちは悲しみに打ちひしがれるともに,リーダーを突然失った亡失感に苛まれていました。よい仕事を長年していくには,やはり健康第一です。皆さまにはぜひ健康に留意してご活躍いただきたいと思っております。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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