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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科96巻11号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 頭頸部がん薬物療法—プロに学ぶ最善の選択

《扁平上皮癌に対する薬物療法》

局所進行がんに対する治療:導入化学療法

著者: 横田知哉

ページ範囲:P.906 - P.910

POINT

●切除可能例に対して,喉頭温存を目的として,放射線療法の前に導入化学療法先行が考慮されるが,化学放射線療法先行との優劣はつけがたい。

●切除不能例に対する遠隔制御,生存向上を目的とした導入化学療法は標準治療として位置づけられていないが,advanced N stageに対しては導入化学療法先行が1つの治療オプションである。

●導入化学療法としての標準レジメンはTPF療法であるが,消化器毒性,電解質異常や骨髄抑制に対する全身管理が必要であり,高齢者,PS低下,腎機能低下などの臓器機能障害や複数の合併症を有する場合には不適である。

●TPFによる導入化学療法の実施が困難と考えられる場合は,PCEによる導入化学療法が考慮される。

局所進行がんに対する治療:薬物併用放射線治療

著者: 藤澤建志 ,   全田貞幹

ページ範囲:P.912 - P.917

POINT

●頭頸部がんにおける化学放射線治療ではシスプラチンがキードラッグである。

●頭頸部がんにおける術後化学放射線治療では,シスプラチンの毎週投与が有用であることが報告された。

●頭頸部がんにおける化学放射線治療に免疫チェックポイント阻害薬を併用することの上乗せ効果は,今のところ示されていない。

●新薬開発や投与法の最適化などさらなる治療開発が望まれる。

切除不能/再発・転移頭頸部がんに対する治療:免疫チェックポイント阻害薬

著者: 若崎高裕 ,   安松隆治

ページ範囲:P.918 - P.923

POINT

●切除不能/再発・転移頭頸部扁平上皮癌に対する免疫チェックポイント阻害薬治療は,一定数の長期生存例が期待できるようになり,この領域の治療にパラダイムシフトを起こした。

●免疫チェックポイント阻害薬導入後はQOLが保たれる症例が多く,サルベージ薬物療法が効果的である。

●免疫チェックポイント阻害薬開始後のirAEにしっかり対応し,QOLを保つことでPFS2の延長が可能となり,OSを延長へつながる。

●CPS(combined positive score)以外の有効なバイオマーカーの登場が,今後期待される。

切除不能/再発・転移頭頸部がんに対する治療:殺細胞性抗がん薬を中心に

著者: 山﨑知子

ページ範囲:P.924 - P.928

POINT

●頭頸部がんで承認されている薬剤として,殺細胞性抗がん薬ではプラチナ系,フッ化ピリミジン系,タキサン系が,分子標的薬ではEGFR阻害薬であるセツキシマブが,免疫チェックポイント阻害薬では抗PD-1抗体薬であるニボルマブ,ペムブロリズマブが挙げられる。本稿では,殺細胞性抗がん薬を中心にまとめた。

《甲状腺がんに対する薬物療法》

乳頭癌・濾胞癌

著者: 森谷季吉

ページ範囲:P.930 - P.934

POINT

●切除不能/再発・転移甲状腺分化癌に対して,マルチキナーゼ阻害薬に加え選択的チロシンキナーゼ阻害薬が複数使用可能となった。

●副作用が多彩で重症化しやすいマルチキナーゼ阻害薬は,予定休薬により副作用を軽減しながら治療効果を引き出すことができる。

●選択的チロシンキナーゼ阻害薬は,それぞれの臨床試験の解析結果から高い有効性とともに高い忍容性が示された。使用にあたっては,治療薬ごとに対応する遺伝子異常を所定の検査で証明する必要がある。

●切除不能/再発・転移甲状腺分化癌を有する患者の予後延長・QOL維持には,患者の状態と腫瘍の広がりを考慮したうえで,投与可能な薬剤を丁寧にそして逐次的に使用することが重要である。

髄様癌

著者: 田原信

ページ範囲:P.935 - P.938

POINT

●甲状腺髄様癌(MTC)は,RET遺伝子変異が散発性で60%以上,遺伝性で90%以上と高頻度に認められる。

●セルペルカチニブは,未治療の根治切除不能なRET遺伝子変異陽性MTCを対象とした第Ⅲ相試験にて,マルチキナーゼ阻害薬(バンデタニブ,カボザンチニブ)と比較して統計学的有意に無増悪生存期間を延長させた。

●根治切除不能なMTCに対してマルチキナーゼ阻害薬であるバンデタニブ,ソラフェニブ,レンバチニブが使用可能である。

甲状腺未分化癌における薬物治療の現状

著者: 銭真臣 ,   杉谷巌

ページ範囲:P.940 - P.944

POINT

●甲状腺未分化癌は稀だが,非常に予後不良である。

●マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは血管新生を阻害し腫瘍増生を抑制する。

●遺伝子検査は,コンパニオン診断と遺伝子パネル検査に分けられる。

●コンパニオン診断でBRAFV600E変異陽性を認めた場合,BRAF/MEK阻害薬が使用できる。

《唾液腺がんに対する薬物療法》

HER2陽性/AR陽性唾液腺導管癌

著者: 岩城翔 ,   川北大介 ,   多田雄一郎

ページ範囲:P.945 - P.948

POINT

●HER2陽性例ではトラスツズマブ+ドセタキセル併用療法が実施可能である。

●コンパニオン診断薬を用いてHER2陽性例を判定する。

●AR陽性例ではリュープロレリン+ビカルタミド併用療法が実施可能である。

●免疫組織化学染色でAR陽性の判定を行うが,統一された診断基準はない。

HER2陰性/AR陰性腺系癌

著者: 今村善宣

ページ範囲:P.949 - P.954

POINT

●術後治療ならびに非外科的治療としてのがん薬物療法の意義は確立していない。

●再発転移例に対し,watchful waitも重要な戦略の1つである。

●一次治療として,シスプラチン+ドセタキセル併用療法が提案可能である。

●免疫チェックポイント阻害薬の位置づけは明確でなく,過度な期待は禁物である。

NTRK融合遺伝子陽性分泌癌

著者: 本間義崇

ページ範囲:P.955 - P.958

POINT

●唾液腺から発生する分泌癌は,数あるがん種のなかで最もNTRK融合遺伝子が検出される腫瘍である。

●根治的治療の適応がない病態の場合には,がん遺伝子パネル検査にてNTRK融合遺伝子を確認し,きわめて高い抗腫瘍効果を有するTRK阻害薬を適用することが,患者アウトカムの向上に重要である。

《粘膜悪性黒色腫に対する薬物療法》

免疫チェックポイント阻害薬/分子標的治療薬

著者: 野村基雄

ページ範囲:P.959 - P.963

POINT

●粘膜黒色腫に対する大規模な試験がなく,皮膚悪性黒色腫に準じた治療が弱く推奨されている。

●粘膜黒色腫に対する周術期治療について,皮膚悪性黒色腫を含む既報から最新情報を検討した。

●粘膜黒色腫独自の治療開発が急務である。

原著

当科で経験した甲状腺髄様癌に対するセルペルカチニブ治療中に発症した過敏症の1例

著者: 深瀬諒 ,   千田邦明 ,   八鍬修一 ,   倉上和也 ,   鎌田恭平 ,   平野雄介 ,   安孫子祐子 ,   伊藤吏

ページ範囲:P.964 - P.969

はじめに

 セルペルカチニブは選択的RET受容体型チロシンキナーゼ阻害薬で,2021年9月にRET融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)に対して,2022年2月にRET融合遺伝子陽性の根治切除不能な甲状腺癌,RET遺伝子変異陽性の根治切除不能な甲状腺髄様癌に対して本邦で承認された1,2)。その重大な副作用として,肝機能障害,QT間隔延長,過敏症,高血圧,間質性肺疾患があるが,過敏症の発現頻度は低く,本邦での報告は少ない3)。過敏症はセルペルカチニブの中止または減量により管理可能である。われわれは甲状腺髄様癌に対してセルペルカチニブを導入後約3週間で過敏症に至った症例を経験した。一時的な投与中止・減量期間を経て改善が得られ,現在は開始量に戻り治療を継続している。その診断と対応について考察する。

動眼神経麻痺および外転神経麻痺を呈した副鼻腔悪性リンパ腫の1例

著者: 中村美代子 ,   鈴木祐輔 ,   千葉真人 ,   天野真太郎 ,   後藤崇成 ,   新川智佳子 ,   伊藤吏

ページ範囲:P.970 - P.975

はじめに

 頭頸部領域における悪性リンパ腫のなかで,鼻副鼻腔原発のものは約18%とされる1)。その中でも副鼻腔原発の頻度は低く,鼻副鼻腔悪性リンパ腫のうち約14%と報告されている2)。組織型は鼻腔原発ではT細胞由来が多く,副鼻腔原発ではB細胞由来が多いとされるが3),鼻副鼻腔悪性リンパ腫の検体は壊死組織が多いため病理診断を確定しづらく,診断に難渋することが少なくない。一方で,頰部痛や頰部腫脹などの症状や,CT上の軽度骨破壊所見,脳神経麻痺の有無が診断の一助となる可能性がある。今回,動眼神経麻痺および外転神経麻痺を呈し,副鼻腔炎急性増悪との鑑別を要した副鼻腔悪性リンパ腫の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。

前庭性片頭痛確実例における五苓散とロメリジン塩酸塩の併用治療—気象病関連症状の有無による治療効果の差の検討

著者: 新井基洋

ページ範囲:P.977 - P.981

はじめに

 頭痛やめまいは気象病関連症状1〜3)と考えられている。五苓散は慢性頭痛の診療ガイドライン20134)から明記され,頭痛とめまいの保険適応を有し,さらに気象病関連症状に効果があるとの報告1〜3)を認める。

 一方,片頭痛を本態とし,めまいを認める前庭性片頭痛5)患者は気象病関連症状と酷似している。前庭性片頭痛の代表的治療にはCa拮抗薬(ロメリジン塩酸塩:以下ロメリジン)を用いた予防治療がある5,6)。そこで,本研究では前庭性片頭痛患者にロメリジンと五苓散7)を併用治療した。その治療下で気象病関連症状を有する患者が有しない患者より片頭痛改善効果が認めやすい(=レスポンダー)ことを確認した。本研究は横浜市立みなと赤十字病院医療倫理委員会 承認番号2022-28を得て実施した。

書評

がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版 フリーアクセス

著者: 鈴木昭夫

ページ範囲:P.911 - P.911

 がん薬物療法においては副作用が高頻度に発現し,重篤な場合には患者の生活の質(QOL:quality of life)を低下させるだけでなく,治療の中断や中止につながります。したがって,副作用対策は患者QOLの改善のみならず,治療効果を高めるためにも薬剤師が実施し得る重要な業務と考えます。さらに,令和6年度診療報酬改定では,「がん薬物療法体制充実加算」が新設され,がん薬物療法の副作用管理における薬剤師の役割がますます求められています。

 一方で,抗がん薬は従来の殺細胞性抗がん薬以外に分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が次々に上市され,レジメンの数は膨大になっています。抗がん薬の種類やその作用機序により副作用のプロファイルはまったく異なり,さらに,がんの進展に伴うさまざまな有害事象により,日々の副作用管理に苦慮されている先生は多いのではないでしょうか。本書はそんな先生方の悩みを解決してくれる一冊になると確信しています。

がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版 フリーアクセス

著者: 末永光邦

ページ範囲:P.939 - P.939

 本書は,がん薬物療法における副作用マネジメントにおいて貴重な情報源となると確信する。がん薬物療法の進歩に伴い,副作用マネジメントは年々複雑化している。すでに本書の初版が登場してから6年の歳月が流れた。その間に殺細胞性抗がん薬,分子標的治療薬の開発が進むなかで,免疫チェックポイント阻害薬の開発の勢いはとどまる気配がない。免疫関連有害事象においては,より臓器横断的なチーム医療の必要性が求められている。

 評者はがん薬物療法専門医として長年がん患者の薬物療法に携わってきたが,薬剤師外来や化学療法室所属の薬剤師による服薬指導,投与スケジュール・副作用マネジメントに関する指導,また経口薬アドヒアランスの確認,支持療法に関する提案などにおいて日々活躍されている薬剤師の存在は,外来通院治療を安全に行うにおいて欠かせない存在である。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.901 - P.901

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.903 - P.903

あとがき フリーアクセス

著者: 大石直樹

ページ範囲:P.986 - P.986

 ようやく朝夕の気温が少し下がり,秋めいた日が出てきましたが,9月もまだまだ暑い日が続いています。今年の夏も猛暑でしたが,南海トラフ地震臨時情報や,異例の迷走をした台風10号の記録的な大雨・暴風など,自然の脅威を強く感じる自然現象が続きました。地震の予知は現時点ではほぼ不可能とは聞いていますが,台風10号の進路予想が大きく外れたのは予想外でした。ネット情報では,温暖化の影響で偏西風や海水温が変化していることの影響だったのでは,と推測されているもののまだ未解明のようです。自然科学がこれだけ発達しても,まだまだごく近い将来の予測も難しいことが実感としてわかりました。

 翻って私たちがかかわる医学は,不確実性の連続とは言われています。しかし知識と経験は間違いなくその不確実性の幅を狭めてくれます。先月の特集号(「伝えたい レジェンドによる耳科診療の極意」)で,村上信五先生は「予後を正確に判断でき伝えられる医者が名医」であると述べられ,橋本省先生は「その道の専門家は,専門家になろうという意思も重要」と述べられていました。まさに,専門家集団たる医師の在り方を述べられた金言だと思います。そして,今月の特集号は,「頭頸部がん薬物療法—プロに学ぶ最善の選択」です。やはり「最善」と判断できるのは,知識と経験を背景にした「プロ」ですよね。そのプロたちの判断を惜しみなく伝えていただいている素晴らしい特集号となっています。特に中堅・若手の先生方は,ぜひご一読いただき,日々の臨床の参考にしていただければと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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