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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科96巻3号

2024年03月発行

雑誌目次

特集 顔面神経麻痺—治癒への10の鍵 《治療》

Bell麻痺の重症度とステロイド投与量のエビデンス

著者: 藤原崇志

ページ範囲:P.214 - P.216

POINT

●Bell麻痺に対してステロイド全身投与(プレドニゾロン60mg/日)が世界中で推奨・使用されている。

●日本のガイドラインは重症例にステロイド大量療法(プレドニゾロン120〜200mg/日)を弱く推奨している。

●Bell麻痺は数日かけて悪化し,ステロイドの用量は最も重症な時を目処に決定する。発症初日(まだ麻痺が進行中)に少量で投与すると,過少投与になるリスクがある。

●小児は成人に比して治癒率が高い。ステロイド全身投与でほぼ100%治癒が得られる。

Bell麻痺,Hunt症候群へのステロイド鼓室内投与

著者: 金井理絵

ページ範囲:P.218 - P.222

POINT

●本治療のエビデンスはまだ確立されていないが,過去の報告から,ステロイド鼓室内投与を全身投与と併用することによって,全身投与と同等かそれ以上の効果が期待できる可能性があると考えられる。

●注入後は,顔面神経の走行部位に効率よくステロイドの薬液が届くような体勢をとる必要があると考えられる。

●鼓室内投与併用による全身合併症の増加は報告されていない。

●特別な設備を要することなく,ある程度の経験を積んだ耳鼻咽喉科医であれば実施できる治療法である。

徐放化栄養因子を用いた顔面神経減荷術

著者: 木村拓也 ,   山田啓之

ページ範囲:P.223 - P.226

POINT

●従来の顔面神経減荷術は,現状,高度麻痺治療において数少ない追加治療の選択肢であるが,早期施術が困難であるなどの課題を抱えている。

●徐放化栄養因子を用いた顔面神経減荷術は,従来の減荷術の課題を克服しうる治療法である。

末梢性顔面神経麻痺への鍼治療の実際と有効性

著者: 粕谷大智

ページ範囲:P.227 - P.231

POINT

●『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版』において,急性期(麻痺の回復),慢性期(後遺症の軽減)の治療として鍼治療は弱く推奨するとされた。

●鍼治療の部位は顔面部以外に手足の末梢部のツボに行うことが多く,随伴する肩こりや頭痛などの不定愁訴にもアプローチする。

●麻痺の後遺症のこわばり感やつっぱり感などの軽減が期待できる。

●鍼治療と併用して伸張マッサージなどのセルフケアを指導することも鍼灸師の役割である。

重度顔面神経麻痺に対するリハビリテーションの実際

著者: 笠原隆

ページ範囲:P.232 - P.236

POINT

●リハビリテーションには患者自身の積極的関与が必須である。

●患者自身に,解剖や疾患の病態を理解してもらうことが大切である。

●病的共同運動の出現を可能な限り早く察知し,フィードバック訓練を開始する(中枢へのアプローチ)。

●拘縮も予防が肝心である。しっかりとした筋伸張ストレッチ,マッサージが大切となる(末梢へのアプローチ)。

顔面神経麻痺後遺症に対する形成外科的治療の進歩

著者: 成田圭吾 ,   多久嶋亮彦

ページ範囲:P.237 - P.241

POINT

●残存麻痺と病的共同運動,拘縮に対する手術は大きく異なる。

●眼瞼周囲の後遺症に対しては,選択的筋切除と眼瞼下垂症手術が有用である。

●頰部,口唇周囲の後遺症に対しては,選択的神経・筋切除や遊離筋肉移植,脂肪注入などが行われている。

●頸部の後遺症に対しては,選択的神経・筋切除が有用である。

顔面神経麻痺患者の心理評価と介入

著者: 平賀良彦

ページ範囲:P.242 - P.247

POINT

●顔面神経麻痺患者に対しては,どのタイミングにおいても心理的サポートを意識した診療が不可欠で,十分な病状説明が重要である。

●初診時,経過観察時,終診時の心理的サポートのポイントについてそれぞれ解説した。

●心理的影響が顕著な患者を特定し,より強い介入を行うことも重要で,そのためにはQOL質問紙やVisual Analogue Scale(VAS),うつ・不安の質問紙(Self-rating Depression Scale:SDS,State-Trait Anxiety Inventory:STAI,Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS)が活用できる。

《将来展望》

帯状疱疹ワクチンによるHunt症候群の予防

著者: 古田康

ページ範囲:P.248 - P.252

POINT

●水痘ワクチンが2014年から定期接種化され,小児の水痘は激減した。

●水痘ワクチンの定期接種化により,小児のHunt症候群(zoster sine herpete症例を含む)が減少することが予測される。

●50歳以上の者に対する帯状疱疹発症予防のため,帯状疱疹ワクチンが推奨される。

●帯状疱疹ワクチン接種の普及により,Hunt症候群の発生率が低下し,軽症化することが期待できる。

顔面神経麻痺の客観的評価とAI

著者: 勝見さち代

ページ範囲:P.254 - P.257

POINT

●顔面神経麻痺の重症度評価は治療方針の決定や治療効果判定に不可欠で,普遍的な評価法が必要である。

●柳原40点法に代表される主観的評価法は簡便で優れた評価法だが,再現性,客観性が弱点である。

●人工知能(AI)を導入した顔認証技術の進歩が,顔面神経麻痺の客観的評価法の発展に寄与する可能性が期待される。

●客観的評価法を標準化(評価方法や評価表情の決定など)し,多施設で症例を蓄積して精度を向上させていくことが理想的である。

顔面神経麻痺重症例の予後予測の精度は上がるか

著者: 山田浩之

ページ範囲:P.258 - P.261

POINT

●重症例の予後を最も効率よく予測できる検査は誘発筋電図検査(ENoG)で,特に正中法は得られる複合筋活動電位(CMAP)も大きく,ばらつきが小さいため結果がわかりやすい。

●ENoG < 5%となるような最重症例をより早期に判定する目的で,発症4〜5日に施行する「早期ENoG」の有用性について検討した。

●対象55例中,早期ENoG値が10%未満となった症例は1例存在したが,発症9日目に減荷術を施行し,発症後7か月で完治した。

●早期ENoGは特異度が低い検査であり,単独で早期手術を決定する検査としては有用性が低い。

原著

前頭洞手術における拡張現実(AR)ナビゲーションの使用経験

著者: 伊藤栄祐 ,   鈴木正宣 ,   中薗彬 ,   本間あや ,   中丸裕爾 ,   本間明宏

ページ範囲:P.263 - P.266

はじめに

 近年,拡張現実(augmented reality:AR)技術を用い,術前CT画像をもとに作製したブロックをコンピュータグラフィック(computer graphic:CG)として内視鏡画像上に重ね合わせて表示(重畳表示)できるナビゲーションシステムが開発された。今回,ARナビゲーション(以下,ARナビ)が有用であった前頭洞手術の1例を報告する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます。

当科で加療した鼓室型グロムス腫瘍の2症例

著者: 堀中昭良 ,   成尾一彦 ,   岡本倫朋 ,   阪上剛 ,   北原糺

ページ範囲:P.267 - P.274

はじめに

 グロムス腫瘍は神経や血管壁に近接して存在する傍神経節由来の腫瘍で,鼓室型グロムス腫瘍は鼓室岬角のJacobson神経やArnold神経のグロムス小体より生じ,血流は大変豊富である。筆者らは,血管塞栓術を施行したうえで手術を施行した症例について,血管塞栓術翌日(手術当日)の鼓膜所見を記録した。加えて,摘出した腫瘍の病理所見にて血管塞栓物質を確認できたので,それらも呈示する。

 また,中耳グロムス腫瘍は頭頸部傍神経節腫(head and neck paraganglioma:HNPGL)に含まれるが,傍神経節腫(paraganglioma:PGL)患者においてコハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase:SDH)をコードする遺伝子群のバリアントが発症に関与していることが明らかになっており1),若干の文献的考察を加えて報告する。

cavity problemを伴ったopen法術後耳に発生した扁平上皮癌の2例

著者: 飯塚太朗 ,   村上昌史 ,   平野真希子 ,   清水裕也 ,   大島康利 ,   斉藤光次 ,   伊藤健

ページ範囲:P.275 - P.280

はじめに

 open法術後耳におけるcavity problemはしばしばみられる病態である。間歇的に耳漏が再発するものの,保存的治療により寛解するため,手術適応とは判断されず長期間にわたって通院する症例は稀でない。今回われわれは,上記のような経過をたどっていたものの耳漏の増悪から手術適応判定のために紹介を受け,結果的に扁平上皮癌が確認された2例を経験した。見落とされる可能性も高い病態であり,臨床的に重要であると考え,これらを報告し診断についての考察を加える。

上咽頭腫瘤を呈した斜台脊索腫

著者: 上畑里奈 ,   小林祐太 ,   戸塚大幾 ,   織田潔 ,   渡邊健一

ページ範囲:P.281 - P.284

はじめに

 脊索腫は,遺残した胎生期の脊索から発生すると考えられている稀な悪性骨軟部腫瘍である。発生部位はその機序から,仙骨,斜台骨,脊椎などの軸骨格が中心となるが,頭蓋底に発生した脊索腫は上咽頭腫瘤として遭遇する可能性がある。今回われわれは,偶発的に見つかった上咽頭腫瘤により,脊索腫の画像診断に至った症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。

囊胞様所見を呈した外耳道耳垢腺腫例

著者: 古川智英子 ,   橘智靖 ,   和仁洋治 ,   松本淳也 ,   假谷彰文 ,   佐藤明日香 ,   安藤瑞生

ページ範囲:P.285 - P.288

はじめに

 耳垢腺は主に軟骨部外耳道に存在する,アポクリン分化を伴う腺組織である1)。2022年のWHO分類において,耳垢腺由来の良性腫瘍は耳垢腺腫,多形腺腫,および乳頭状汗管囊胞腺腫,そして悪性腫瘍は腺癌,腺様囊胞癌,および粘表皮癌に分類されている2)。耳垢腺腫は非常に稀な疾患であるため,日常診療で遭遇する機会は少ない。今回われわれは,囊胞様所見を呈した外耳道耳垢腺腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

中咽頭まで下垂し嘔吐反射を反復していた鼻腔内反性乳頭腫の1例

著者: 阪上剛 ,   成尾一彦 ,   岡本倫朋 ,   堀中昭良

ページ範囲:P.289 - P.294

はじめに

 鼻副鼻腔内反性乳頭腫は病理組織学的には良性腫瘍であるが,局所再発率が高く,悪性腫瘍の合併がみられる場合もあり,腫瘍基部を含めた完全切除が必要である。また,中咽頭まで下垂した鼻腔腫瘤は,鼻症状に加え,咽喉頭症状もきたしうる。今回,嘔吐反射を主訴に受診し,右鼻腔から中咽頭まで下垂していた内反性乳頭腫を経験した。腫瘍基部を含めて切除したのちに鼻腔から摘出し,症状も消失したので,考察を交えて報告する。

頸部回旋を伴った心因性顔面痙攣の1症例

著者: 金海隆子 ,   井上彰子 ,   由井亮輔 ,   福生瑛 ,   和田弘太

ページ範囲:P.295 - P.299

はじめに

 顔面痙攣の多くは,脳血管による顔面神経の圧迫や,Bell麻痺やHunt症候群などの後遺症によるものが知られている。これらに対しては,脳神経血管減圧術・神経ブロック術・ボツリヌス療法が有用である。しかし,心因性顔面痙攣の場合には,このような治療ではなく心理療法が有用であり,そのため,顔面痙攣では詳細に鑑別を行う必要がある。今回われわれは,心理療法で良好な経過を得た心因性顔面痙攣の1症例を経験したので報告する。

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目次

ページ範囲:P.209 - P.209

欧文目次

ページ範囲:P.211 - P.211

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.300 - P.300

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.304 - P.304

 1月下旬,2024年度専門医養成プログラムの募集が締め切られました。お陰様で今年も耳鼻咽喉科専門医養成プログラムへの応募がなんとか200名を超え,専門医制度担当理事としてホッと胸を撫で下ろしています。さて,今年から耳鼻咽喉科の専門医認定試験が大きく変わります。従来,専門医試験はマークシート(MCQ)と記述式筆記試験,小論文,面接の4本立てでした。しかし,コロナ禍に検討を重ね,今回から面接は廃止となり,記述式筆記試験に代わり連問式MCQが行われます。一方,日耳鼻総会と秋季大会に各1回ずつ出席することが申請要件となります。昨年の秋季大会はまだオンデマンド配信中なので,参加していない方はぜひ視聴してください。総会に出席していない方は,今回限りの救済措置として,本年5月に開催される第125回日耳鼻総会に事前参加登録していれば受験をお認めします。

 研修期間については,従来,専門医試験の受験申請時点で「3年6か月以上」研修していることが申請要件となっていましたが,今回,専門医試験の前月(7月末)までの4か月間,研修を続けることで,研修期間が3年6か月以上となる見込みがある場合は受験申請できることになりました。産休や育休などで研修休止期間が10か月以下の方(申請時点で3年2か月以上研修している方)が対象となります。今回の試験から適用されますので,今年の受験を諦めかけていた先生も,もう一度,確認してみてください。また,これまで「継続して3年以上」日耳鼻会員であることが受験要件となっていましたが,今回から「通算で3年以上」に変更されました。会費未払いで退会処分を受けた先生でも,受験できるかもしれません。詳しくは日耳鼻事務局にご確認ください。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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