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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科96巻9号

2024年08月発行

雑誌目次

特集 嗅覚診療最前線

《嗅覚伝導路》

嗅覚受容のメカニズム

著者: 岸本めぐみ ,   近藤健二

ページ範囲:P.702 - P.705

POINT

●1991年にBuckとAxellらによって嗅覚受容体遺伝子が単離され,嗅覚受容体の存在が示された。

●ヒトの嗅覚受容体は400種類存在し,1つの嗅神経細胞に1つの嗅覚受容体が発現している(one neuron-one receptor rule)。

●刺激される嗅覚受容体の組み合わせで約10万種類のにおい分子の「におい」を識別する。

●受容されたにおいは嗅皮質(梨状皮質,前嗅核,嗅内野など),扁桃体,海馬などの嗅覚中枢で情動や記憶と関連し処理される。

拡散テンソルトラクトグラフィによる嗅神経の可視化

著者: 鄭雅誠 ,   栗原渉

ページ範囲:P.706 - P.711

POINT

●拡散テンソルトラクトグラフィ(DTT)は,組織中の神経線維走行を3次元的に構築し可視化する手法である。

●嗅神経は篩骨甲介(中・上甲介)に多く分布しており,相応の鼻中隔にも分布している。

●甲介側の嗅神経は嗅球の外側半分に投射し,鼻中隔側の嗅神経は嗅球の内側半分に投射する。

●嗅上皮と嗅球の間では空間的相関性が保存されており,「嗅神経地図」として模式化できる。

《検査》

成人の嗅覚検査

著者: 鈴木元彦

ページ範囲:P.712 - P.716

POINT

●基準嗅覚検査によって嗅覚障害の程度を評価することができる。

●基準嗅覚検査は基準臭が室内に広がらないように専用の脱臭装置を用いて行う。

●基準嗅覚検査では被検者の体や衣服に嗅素液が付かないように配慮が必要である。

●静脈性嗅覚検査では注射による血管痛を訴える症例もあり,検査前に説明が必要である。

●現在保険診療における診療報酬請求が可能な検査は基準嗅覚検査と静脈性嗅覚検査である。

小児の嗅覚検査

著者: 石倉友子 ,   三輪高喜

ページ範囲:P.717 - P.720

POINT

●小児の嗅覚障害は自覚が乏しいことや嗅覚障害であることの表出が難しい場合があることから,発見されにくく医療機関受診も成人と比較して少ない。

●小児の嗅覚検査実施の際は簡易な語表や絵が表現の手助けになるため使用が勧められる。

●言語発達を考慮した小児用の嗅覚検査法の確立が望まれる。

嗅覚診療における画像検査

著者: 伏見勝哉

ページ範囲:P.721 - P.724

POINT

●嗅覚障害に対する画像検査は,CTおよびMRIが有用である。

●CTは鼻副鼻腔,嗅裂の形態異常や炎症性病変の診断に適している。

●MRIは主に中枢性嗅覚障害の診断を目的に行うが,気導性嗅覚障害の評価にも適している。

●正確な画像診断によって,嗅覚障害の病態や原因を診断することが重要である。

《治療》

嗅覚刺激療法

著者: 柴田美雅 ,   堀龍介

ページ範囲:P.725 - P.728

POINT

●嗅覚刺激療法は自分でにおいを繰り返し嗅ぐという簡便な手法で嗅覚を改善させる治療法として注目されている。

●嗅覚刺激療法は感冒後嗅覚障害,外傷性嗅覚障害を改善する。

●嗅覚刺激療法が嗅覚を改善するメカニズムとして嗅神経細胞の増殖や嗅球内のシナプスの可塑性による伝達効率の変化が考えられるが,完全には解明されていない。

薬物療法

著者: 鈴木久美子

ページ範囲:P.729 - P.732

POINT

●嗅覚障害に用いられる薬剤には,局所および経口ステロイド,分子標的治療薬,医療用漢方製剤,ビタミンB12,亜鉛製剤などがある。

●その多くは適応症に嗅覚障害はなく,嗅覚障害の原因疾患や併存疾患に対して処方していくことが多い。

●汎用される薬剤のうち嗅覚障害の適応症を有するのは経口ステロイド薬のみだが,長期に使用することは勧められない。

●薬剤の作用機序を理解し,個々の患者の病態に即した薬剤を,適切なタイミングと期間で使用していくことが重要である。

手術療法—嗅覚改善を目指した内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)

著者: 和田弘太

ページ範囲:P.733 - P.737

POINT

●嗅覚障害の原因を的確に判断する。

●ESSで改善する可能性のある病態かを判別する。

●静脈性嗅覚検査にて予後予測を行う。

●嗅裂に気流が十分に入るためのESSを行う。

《疾患別 病態・診断・治療のポイント》

コロナ罹患後嗅覚障害

著者: 上村佐和 ,   平野康次郎

ページ範囲:P.738 - P.743

POINT

●コロナ罹患後嗅覚障害の多くは気導性嗅覚障害であり早期に回復するが,嗅神経性嗅覚障害となり難治化する症例,異嗅症となる症例が臨床的に問題となる。

●患者の病態を考え,適切なタイミングに適切な治療を行う必要がある。

●COVID-19による嗅神経性嗅覚障害の治療方法としては嗅覚刺激療法,当帰芍薬散,ビタミンB12製剤,亜鉛製剤などが使用されている。

神経変性疾患による嗅覚障害

著者: 濵本真一

ページ範囲:P.744 - P.748

POINT

●神経変性疾患であるアルツハイマー病,パーキンソン病,レビー小体型認知症などは発症前から病初期に嗅覚障害を高頻度に認める。

●原因不明の嗅覚障害患者のなかに,神経変性疾患の前駆症状としての嗅覚障害患者が含まれている可能性がある。

●神経変性疾患に生じる嗅覚障害の特徴として,「におっても何のにおいかわからない」というように嗅覚同定能が障害される。

●嗅覚障害は,神経変性疾患における認知機能障害の発症予測や早期診断のバイオマーカーとして有用である。

異嗅症

著者: 田中大貴 ,   鄭雅誠 ,   森恵莉

ページ範囲:P.749 - P.752

POINT

●異嗅症には刺激性異嗅症と自発性異嗅症があり,前者は感冒後嗅覚障害に,後者は外傷性嗅覚障害に合併しやすい。

●異嗅症の診断には病歴聴取が重要であり,「本来のにおいと違うにおいに感じますか?」や「何もにおいがないところでもにおいを感じますか?」といった問診を行う。

●異嗅症の治療としては基本的には原因疾患に対する治療を行うが,近年では嗅覚刺激療法が有効である可能性が報告されている。

好酸球性副鼻腔炎

著者: 意元義政

ページ範囲:P.753 - P.756

POINT

●好酸球性副鼻腔炎患者における嗅覚障害の重要性

●病態の理解と治療方法

●生物学的製剤の現状

原著

当科における嗅覚障害患者42例の検討

著者: 二宮千裕 ,   鈴木淳 ,   逸見朋隆 ,   生島寛享 ,   香取幸夫

ページ範囲:P.757 - P.762

はじめに

 嗅覚障害は患者のQOLに大きく関連し,生活満足度を低下させる。食生活の質の低下,またガス漏れのにおいに気づくことができないといった,生命予後にも影響を与えうる重要な問題である。嗅覚障害を発症する原因として鼻副鼻腔炎,感冒,薬剤,外傷などが挙げられ,主に耳鼻咽喉科で治療が行われることが多い1)。また嗅覚障害の診断と治療には,嗅覚検査による重症度判定が重要とされる2)。基準嗅力検査はT & Tオルファクトメーター(第一薬品産業株式会社,以下T & T)を用いて施行される嗅覚域値評価法であり3),嗅覚障害の程度や治療効果を評価することが可能である4)。しかしながら,嗅覚障害の基礎的な検査とされる基準嗅力検査の機器を有する医療施設は少なく,基準嗅力検査を使用した検討例は多いとはいえない。嗅覚障害の治療過程で基準嗅力検査を行い,治療効果を評価・検討することは,嗅覚障害の治療成績の向上に寄与する可能性がある。

 今回われわれは,東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科を受診し,治療前後で基準嗅力検査を実施した嗅覚障害患者を対象に,臨床的特徴と治療効果を検討したので報告する。

嚥下困難を自覚した皮膚筋炎18例の嚥下内視鏡検査

著者: 永野広海 ,   安藤由実 ,   喜山敏志 ,   松元隼人 ,   吉松誠芳 ,   田淵みな子 ,   大堀純一郎 ,   山下勝

ページ範囲:P.763 - P.769

はじめに

 多発性筋炎および皮膚筋炎(polymyositis/dermatomyositis:PM/DM)は,対称的な近位筋炎を特徴とする自己免疫性の結合組織疾患である。臨床症状には,筋力低下,筋肉痛,皮膚症状,嚥下困難,発声困難,レイノー現象,発熱,体重減少,疲労,非びらん性炎症性多発性関節炎などがある1,2)。筋力低下は,潜在性または亜急性に発症し,数か月かけて徐々に悪化する。特に嚥下障害は,生命を脅かす症状と認識されている3)。本検討では,嚥下困難を自覚したDM例の嚥下機能を嚥下内視鏡検査スコア評価基準を用いて評価し,症例を提示し文献的考察を踏まえて報告する。

診断に難渋した副鼻腔炎を伴うANCA関連血管炎の1例

著者: 平賀幸弘

ページ範囲:P.770 - P.775

はじめに

 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎(ANCA-associated vasculitis:AAV)は,その上気道病変に耳鼻咽喉科領域である中耳・鼻副鼻腔・喉頭などを含む。しかし,その血管炎は主として全身の小血管に起こり多彩な症状を呈するため,耳鼻咽喉科医単独ではしばしば診断に苦慮することが多く,その結果治療開始が遅れた報告も認める1,2)

 本報告では,抗菌薬に反応しない頭痛を伴う副鼻腔炎の治療に苦慮したが,その後肺病変,急速な腎機能障害,およびMPO(myeloperoxidase)-ANCA高値が明らかとなり,AAVのうち多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)の診断に至った1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

総頸動脈に誤挿入された中心静脈カテーテルの頸部外切開による摘出例

著者: 宮平貴裕 ,   喜瀬乗基 ,   安慶名信也 ,   真栄田裕行 ,   鈴木幹男

ページ範囲:P.776 - P.780

はじめに

 中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)はベッドサイド,手術室など場所を問わず行うことのできる簡便な静脈路確保手技である。しかし,しばしば重要血管や臓器に誤挿入されることがあり,対応を誤ると脳梗塞・血胸・動静脈瘻などの重篤な合併症の発生や死亡事故につながる,リスクを有する手技でもある。今回われわれは,総頸動脈の単純抜去困難部位に誤挿入されたCVCカテーテルを,開胸処置や血管内治療を要することなく頸部切開法にて抜去することができたため報告する。

下咽頭癌に対してセツキシマブ併用の化学放射線治療中に門脈気腫が生じた1例

著者: 山本祐輝 ,   横田知衣子 ,   寺西裕一 ,   大石賢弥 ,   角南貴司子

ページ範囲:P.781 - P.784

はじめに

 腸管気腫症(pneumatosis intestinalis:PI)は,腸管壁内にガスを含む多発性囊胞が形成された病態である1)。腸管壁内にガスが存在する病態であるPIの場合,門脈気腫(portal venous gas:PVG)を同時もしくは続発的に認めることがある。PVGを認める場合は,腸管壊死や消化管穿孔などを考慮する必要があり,予後不良の徴候であり,場合によっては緊急手術を要することがある2)。頭頸部扁平上皮癌に対する分子標的薬としてセツキシマブが保険適用となっている。特に,プラチナ製剤を代表とする殺細胞性抗がん薬に不耐の症例に対して放射線併用療法や再発・転移症例に対する多剤併用化学療法のキードラッグとして使用されることが多い。

 セツキシマブの有害事象としてinfusion reaction,間質性肺炎,ざ瘡様皮疹,爪囲炎などの報告はあるが,PIやPVGなどの気腫に関する有害事象は挙げられていない。しかし,PIは頭頸部領域において最近報告されている事例が見受けられる3〜5)。今回われわれは,下咽頭癌に対してセツキシマブ併用化学放射線治療中に偶然PIやPVGを認め,保存的加療で軽快した1例を経験したので報告する。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.697 - P.697

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.699 - P.699

あとがき フリーアクセス

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.790 - P.790

 夏の真っ盛り,皆様いかがお過ごしでしょうか。天気予報では今年の8月も高温多湿とのこと。猛暑の日々で体力を消耗しないよう,くれぐれもご自愛ください。しかし,夏の日本列島いつからこんなに暑くなってしまったのでしょう。昼間の酷暑と熱帯夜で自宅のエアコンは休む暇なく働いています。自分がまだ子供のころ,夜はもちろん昼でも,全開にした窓と扇風機からの風で過ごせました。ただし蚊が近寄ってくるから虫除けは欠かせないアイテムでしたが。そういえば,あの渦巻き型蚊取り線香のにおい,自分にとっては少年時代の夏のにおいです。今でもたまに,懐かしくなってつい買ってしまいます。夏のにおいといえばほかにも,虫刺されの塗り薬,カルピスをたっぷりかけたかき氷,イチゴ味のシャービック,花火の燃えた火薬,カブトムシときゅうりが入った飼育ケース,プール帰りの水着が入ったビニールバッグ,夕立のあとの地面などなど,たくさんあります。少年時代に経験したそんな夏のにおい。今こうして文字にしただけで鼻の中に広がります。不思議な感覚ですね。皆さんにとって子供のころの夏のにおいには,一体どんなものがあるのでしょうか?

 さて,今月の特集は「嗅覚診療最前線」です。新型コロナウイルス感染症パンデミック以来,世間一般に広く知られるようになった嗅覚障害。その病態は患者さんによりさまざまです。本特集では,嗅覚の基礎から検査,診断,治療まで最新の知見も交え12名の先生方にご執筆いただきました。ご多忙のなか,ご寄稿くださいました著者の先生方に心より御礼申し上げます。読者の先生方にはぜひとも診察室に置かれ,日々の嗅覚診療の手助けとしてご活用いただければ幸いです。また本号では,興味深い内容の原著論文5本も掲載され,盛りだくさんの内容です。ご一読くださいませ。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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