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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

特集 理学療法の展望

理学療法の展望

著者: 松村秩

ページ範囲:P.4 - P.7

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーション医療の医療関連職種として,理学療法士は作業療法士とともに,1965年に身分法が制定されて20余年の歩みを重ねた.

 本来,理学療法はPhysical medicineという治療医学の技術・手段として,また我が国においては,古くから物療内科の治療技術・手段としての役割を果たしてきた.

 ところが,リハビリテーションという障害を対象とし,治療だけを目的とするのではなく全人間的復権,全人的自立を目的とするリハビリテーション医療の下位専門化した技術・手段として,理学療法は新たな展開の下に,時代のニーズに合わせて新しい革袋に詰められることとなった.そして,理学療法士は,リハビリテーションという理念の装いの下に,新たな使命と役割をもって,この世に誕生したのである.

 誕生後,20余年を経て,理学療法は時代の変化による新しい展開に対して,どのように対応するのか,多様な選択肢の中から,その選択枝を選ぶ必要性に迫られている.

 ここで,理学療法の将来を展望しながら,可能な限り,これから5年くらい先を見透して,新しい提言をしてみたいと思う.

 そのために,我が国の理学療法分野の進歩・発展の現状を外国のそれと比較することからスタートしてみよう.

日本における理学療法士の就業状況

著者: 伊東元

ページ範囲:P.8 - P.14

 Ⅰ.初めに

 理学療法士作業療法士法が制定されて以来理学療法士の数は着実に増加している.1976年,厚生省は理学療法士の当面目標を6000名と算出したが,諸情勢の変化によりその見直しが必要となり,1983年厚生省医療関係者審議会は理学療法士の必要数として1990年に約10800人,1995年には約12100人との意見書を提出した.さらに1988年同審議会は,1983年以降新たな需要要因である老人保健施設を考慮し,1990年に11200人,1995年には13400人の理学療法士が必要とされることから,1989年を目途に養成校の定員を100人増加させることを意見書にまとめた.しかし,これらの理学療法士数は現在までの就業実態を充分に反映したものとは考えにくい.また理学療法士養成施設の増加に伴い理学療法士の就業先についても適正な配置が望まれているが,その実態に関しての整理がなされていないのが現状である.そこで主に官庁統計資料(昭和48年度から昭和61年度の医療施設調査病院報告,社会福祉施設調査報告)を基に理学療法従事者の実態を概観してみる.

理学療法士への提言

理学療法士への提言

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.15 - P.17

 私が,切断者のリハビリテーション(以下リハ),義肢装具の領域を窓口に,兵庫県におけるリハの現場と身体障害者の行政に足を踏み入れたのが,1960年である.その後の過去30年にわたる流れの中で,日本理学療法士協会の活動を垣間みてきた.現在会員7000名を越え,毎年800名の卒業生を送り出している事実は,30年前と比較するとまさに昔日の感がある.現在なお欧米に比較して我が国での対人口比率からみた理学療法士の数は,まだまだ少ないものの,この比較的短い期間これほど多くの理学療法士の養成を行った国は他に類をみないのではないかと思われる.まず,各関係機関の御努力に心から敬意を表したい.

 さて,今回,理学療法士への提言というタイトルをいただき,自問自答を重ねたが,所詮私にはリハの門前の小僧的知識しかないところから正直なところあまり具体的な注文が湧いてこない.それというのも,私どものセンターに理学療法士会兵庫県支部があり,山下隆昭支部長以下が,多くの余暇を犠牲にしてまでも,会員に対する各種セミナー,情報提供,機関紙の発行などの自己研鑽と協会の発展に励んでいるからに他ならない.地域への巡回相談や,地域リハマンパワー,特に保健婦に対するリハ研修,そして,リハ医療集談会の事務局としての活動も見逃してはならない.

患者のためのリハビリテーション

著者: 山口鞆音

ページ範囲:P.18 - P.19

 1.初めに

 リハビリテーション医療に従事するものにとって国際障害者年(International Year of Disabled Persons)や自立生活運動(Independent Living Movement)は,患者さんのみかたを考えるうえで画期的なものであった.障害者の社会への「完全参加と平等」の実現を目標にして,1981年から10年計画で始まったIYDPも残り数年となった.当時はマスコミ(masscommunication)を賑(にぎ)わした話題も昨今は少なくなり,リハビリテーション医療を目指す学生でさえIYDPについて知らない者がふえた.私たちはひとりの人間に役割をもたせて社会へ返す仕事を専門としている.はたして,その仕事はしっかり根づいてきたのであろうか? 今回,『理学療法と作業療法』がそれぞれ『理学療法ジャーナル』と『作業療法ジャーナル』とに独立するに当たって一言述べることになったが,浅学のため理学療法についての知見も乏しく,日ごろ感じている事柄について書かせていただくことで責を免れたい.

批判に耐えうる論理の展開を

著者: 田中春美

ページ範囲:P.20 - P.21

 言語療法士になって14年数か月,「私はST(言語療法士)です」と胸を張って言いきれるように,と悩み模索する日々でした,その過程で得た“自分に対する忠告”はSTである私のみでなく,理学療法士(PT)の皆さんにとっても少しは役だつのではないかと考え,以下に述べさせていただきます.

リハビリテーションの理念と理学療法士

著者: 田中誠

ページ範囲:P.22 - P.23

 私はリハビリテーション専門病院でソーシャルワーカー(MSW)として働いているので,理学療法士とはつねに協力しながら活動を進めている.

 今回は,日ごろ感じている理学療法士に対する私見を述べてみたい.

生活の場からの提言

著者: 諸伏悦子 ,   上野智子

ページ範囲:P.24 - P.25

 私たちリハビリテーションナースは,当初,いろいろな専門技術を理学療法士から教わりました.その支えの中から,現在はチームの一員として,ADLや社会復帰について役割を果たせるようになってまいりました.

 今,時代の変化に伴い患者のニーズも変わってきています,それらを満たせるようともに働く者として理学療法士の方々に日ごろ思っているいくつかを掲げさせていただきたいと思います.

理学療法士の教育と教師教育

著者: 沼野一男

ページ範囲:P.26 - P.27

 私は理学療法に関してはまったくの門外漢であり,理学療法に関係があると言えば,この十数年「理学療法士・作業療法士養成施設等教員長期講習会」に教育方法論の講師として参加していることだけである.しかし,大学の教職課程で教師志望の学生の教育方法の授業を担当している者として,理学療法士の養成教育について考えてみよう.

 長期講習会には第1回から今年の第14回まで毎年参加しているが,運営委員や受講者の方たちと話していていつも思うことは,教師とセラピストには幾つかの類似点があるということである.まず,どちらも人間を対象とする仕事である,単に人間を対象とするというだけなら,デパートの店員や接客業の人たちもそうだが,教師とセラピストの重要な共通点は,対象とする人間を望ましい方向に変化させることを意図して,対象に働きかけることである.教師は生徒や学生の精神的・身体的成長を援助することを意図して彼らに働きかけるのだし,セラピストも患者の心身の機能をより良い状態に変化させようとして,治療活動を行なっている.

これからの理学療法を考える

明日への挑戦

著者: 貴田正秀

ページ範囲:P.28 - P.29

 私が専門学校を卒業し初めて勤務した1963年ころ,青森県内の市町村立病院における理学療法室,物理療法室では電気療法(低周波,赤外線,超短波など)とマッサージ療法が主流の時代であった.

 私は学生時代に夏休み,春休みを利用して関東労災病院,東北労災病院を見学し機能訓練担当者から数回にわたり指導を受けたことから,機能訓練とマッサージ療法との違いは知っていた.そのような背景の中で,いつか,是が非でも機能訓練を主に治療している東京(中央へのあこがれ)の病院,施設などで勉強してみたいという強い願望をもつようになった.

これからの理学療法における光と影

著者: 山下隆昭

ページ範囲:P.30 - P.31

 1.初めに

 我国に理学療法士の制度が誕生して23年目を迎える.この間,理学療法士が社会的な評価を得て医療およびその関連分野に専門職として受け入れられているであろうか謙虚に省みる必要がある.

 これらの現実に立ってこれからの理学療法を考えなければならないが問題点を浮き彫りにするために明るい未来<光>と暗い未来<影>とに意識的に分けて対比してみたい.

臨床現場からみた理学療法の課題

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.32 - P.33

 1.初めに

 一般病院の理学療法士として17年勤務してきた経験を通して,これからの理学療法について若干の私見を述べてみたい.

 理学療法が医学,医療の中でどのように位置づけられようか.リハビリテーション医学自体,その学問体系が完全に確立していない現状の中で,理学療法の学問的位置づけを論ずることは容易ではない.ただ言えることはリハビリテーション医学の中で治療手段の一つとして位置づけられていることである.これとて不明確であることは否めない.理学療法を学問としてどのように体系づけ確立させるかを論議すると,何か無から創り出すように考えるが,理学療法の歴史23年の臨床経験と研究の積み重ねを基本にして,リハビリテーション医学,整形外科,内科,小児科などの各臨床医学,あるいは隣接する学問体系をうまく活用し調整していくことで道は開かれてこよう.

 では,と具体的になるとまだまだ多くの課題がある.例えば,理学療法の分野は医師のように医学部に講座や教室制のようなシステムが無いため,継続して学問を構築していくうえでの核になる機構が存在しない点である.しかし,医学部のような講座制を千秋の想いで待つよりも,全国各地の第一線の病院,施設で勤務する約8,000名の理学療法士の臨床経験と研究活動とを集積していくことが理学療法学への早道と思われる.すなわち,既存の学問体系の構築過程と同じである必要は無い.リハビリテーション医学とまったく離れては在りえないものの,理学療法の分野に関するところは,日本理学療法士協会あるいは学会のなかに理学療法の体系化に関する研究部門を設置し,新しい構築方法で独自性に富むたたき台となる体系づくりが必要ではないだろうか.

地域社会に受け入れられる理学療法

著者: 山田星三

ページ範囲:P.34 - P.35

 私は現在,保健所勤務の理学療法士として働いていますが,約15年前より総合病院,肢体不自由児施設と勤務してきながら,つねに地域医療ともかかわってきました.ここ保健所に勤務したきっかけは,神経発達学的治療法(Bobathアプローチ)を学んできた経過があって,それをより小児から老人にいたるまでの特に在宅患者に応用発展してみたいと思ったからです.今回は,この保健所勤務を通じて日ごろ経験し,思索にふけっていることを自由に述べさせてもらい,これからのより良い理学療法の発展に少しでも寄与できればと思います.

 まずは現状把握として日本の職域として多い順に列記してみると,総合病院,一般身体障害者施設,小児施設,大学病院,老人病院,教育施設,行政機関,老人施設,保健所などの順になり,特に今後ますます理学療法士を必要とするだろう施設としては,老人病院,老人関連施設,重度心身障害児・者施設,保健所,保健センター,その他行政機関などが考えられる.

心疾患の理学療法「現状と展望」

著者: 奈須田鎮雄

ページ範囲:P.36 - P.37

 リハビリテーションの目的は「障害者(児)・患者(児)」が何らかの形で社会復帰し,日常生活などにおいて活動的で質の高い生活を達成することにある.

 ひとたび心疾患によって引き起こされた心臓の機能障害と,それによる身体的機能低下を主として運動療法によって改善し,その機能をさらに向上させて可能な限り良好な社会生活に適応していくための過程をリハビリテーションと言うことができよう.つまり.虚血性心疾患などにおいては冠状動脈硬化の進行などに関与する阻害因子を可能な限り軽減し,心臓死の予防や心筋梗塞などの再発や心筋虚血発作などの機会減少を期待するもので,われわれ理学療法士は理学療法の一部である運動療法をこれらの人々に提供する立場にある.

自滅しないように

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.38 - P.39

 1.理学療法の科学性

 “事実”を解明すること.“事実”に基づくこと.これが自然科学である.

 理学療法の対象となる障害には,未だ解明されていない事実が数多くある.運動障害をもったヒトの生体内で生じている現象,すなわち事実はほとんど知られていないと言っても過言ではない.障害に対する理学療法は事実に基づいた納得のいくものであるべきであるが,多くは経験的なものであり,科学的なものとは言い難い.もちろん経験は,その手法によって改善をもたらすことがあったという事実を基に積み重ねられてきたものではあるが,反面,改善をもたらすことができなかったという事実もあったはずである.そのことを解明しようとせず,つごうの良い解釈によって臨床に用いるのが経験的なものである.

中枢神経疾患の運動療法に対する一視点

著者: 星文彦

ページ範囲:P.40 - P.42

 1.初めに

 種々の疾患に対する理学療法,特に運動療法に関する科学的根拠として,呼吸循環器系は運動とその生体反応との対応関係から説明され,また整形疾患においても筋力や関節可動域の変化が組織変化に対応した形で説明される.この分野は運動療法が生理学や解剖学といった基礎医学によってある程度理論的に説明できると思われる.しかし中枢神経疾患に対する運動療法はBobath法やPNF法など神経生理学的アプローチなどと言われるアプローチに代表される1)が,その名称に対応した説明がどれだけなされているのであろうか,はなはだ疑問である.つまり末梢からの局部的刺激が脊髄レベルあるいは上位中枢に及ぼす現象は部分的に明らかにされてきているものの2~4),健常脳と部分的に損傷を受けた脳とではその反応性に違いがあるはずである.われわれが運動療法を行う場合,種々の感覚器を通して多くの刺激を同時に提供し具体的な運動動作を獲得させていくのであるが,その具体的な機能変化に対応した説明がなされているわけではない.また,実際運動療法を行っている場合に,われわれは神経生理学的現象を操作しているという実感をもって運動療法を行っているであろうか.このように中枢神経疾患に対するアプローチにはその名称に対しても種々の疑問がある.藤原も指摘している5)が,理学療法にとっての生理学は,「その理論的背景よりも,治療手技の発達が先行した理学療法分野に科学的思考性と方法論を提供してくれた」ものであり,神経生理学に基づいたという意味での,神経生理学的アプローチという名称が一般化するには時期尚早だったのかもしれない.

 本論では中枢神経疾患に対する運動療法に関し,われわれが臨床で問題としているものは何か,操作(ハンドリング)の直接的目的は何か,学問的基盤をどこに置いたら良いかを考えながら,現在混乱している中枢神経疾患に対する運動療法について考えてみることにする.そして,これからの理学療法,特に中枢神経疾患に対する運動療法を考えるうえでの一つの問題提起となれば幸いである.

アスレティックリハビリテーションの展望

著者: 浦辺幸夫 ,   川野哲英

ページ範囲:P.43 - P.45

 1.アスレティックリハビリテーションの現状

 理学療法士がスポーツ外傷,障害(まとめてスポーツ傷害とも言う)のリハビリテーションに携わる機会は近年特に増加している.これはいわゆるスポーツブームによりスポーツドクターや整形外科スポーツ登録医などが社会に要請された結果とも言えるが,理学療法の対象範囲の拡大および多角化ととらえることもできよう.

 (社)日本理学療法士協会の第19回~23回の学会誌を見るとスポーツに関する演題は表1のようになり,現在は全体の約8%を占め,関心の高まりがうかがわれる.また,内容も活動報告,術後のリハビリテーションの検討,バイオメカニクスの解析などと多岐にわたり,今後の質的な向上が期待できる.

 欧米の状況をみると米国理学療法士協会にスポーツセクションがあり,機関誌JOSPT(Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy)を発行している.西ドイツでも理学療法士がスポーツクリニックを開業するところまで来ている1).我が国でも年を追うごとにスポーツ傷害のリハビリテーションを卒後の業務に選ぼうとする学生が増えているが,就職先にスポーツ専門病院は未だ皆無に等しい状態である.

小児科領域の理学療法士の専門性と今後の展望

著者: 今川忠男

ページ範囲:P.46 - P.48

 1.小児科領域の理学療法とは?

 近年,我が国においても,欧米にみられるように「小児神経学」が医学の専門分野として確立されてきている.と同時に,理学療法士にも,小児の感覚運動発達障害に対する専門性が要求され,「小児科領域の理学療法」または「発達科学領域の理学療法」といった分野が出現してきている.

 ただ小児科領域の理学療法といっても対象疾患は多岐にわたり,新生児から成人に至るまでの非常に幅の広い年齢層を範囲としている.周産期の危険因子をもつ新生児,先天性の異常性をもつ子どもたち,脳性麻痺をはじめとする神経学的損傷をもつ子どもたち,整形外科的な問題をもつ子どもたち,呼吸―循環障害をもつ子どもたち,筋ジストロフィー症などの神経筋障害をもつ子どもたちの治療と,それぞれの発達に伴う諸問題に対処していく知識と技術とが要求されている.

とびら

『理学療法ジャーナル』の船出によせて

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.3 - P.3

 故砂原茂一先生を編集委員長として発刊された『理学療法と作業療法』が,“理学療法”と“作業療法”とに分かれて,それぞれ独立して歩むことになった.相互の支え合いがあってやっと一人前に育ってきた22年の経緯を振り返ってみると,我が国における新しい職業として,量的にも質的にも,当初の予想をはるかに凌(しの)ぐ発展をみせていると思う.第1巻第1号から第22巻第12号までの226冊の『理学療法と作業療法』は,その足跡を鮮明に残してくれただけではなく,職業人としての道標(しるべ)として重要な役割を担ってきたものと信じている.

 分離独立した今後の方向性としては,真の専門誌を目指すことにあると思う.今までは,相互の蓑(みの)に隠れて庇(かば)い合っていた弱点を明らかにし,ふらつきながらも自分の足で踏み出すしかない.正直なところ,『理学療法ジャーナル』第1巻の企画編集に当たってみて,いかに依存し合っていたかを実感した次第である.

プログレス

慢性関節リウマチにおける薬物療法

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.49 - P.49

 1.初めに

 慢性関節リウマチ(RA)における薬物療法は,つい最近までは単なる対症療法の域を越えるものではなかった.しかし,RAの病態が解明されるにつれて,数あるRA治療法の中で薬物療法はますます中心的役割を担うようになってきた.それは疼痛の軽減,RA炎症の抑制ないしは鎮静化をもたらすのは当然として,RA炎症の背景にある免疫異常の是正も薬物療法により可能になってきたからである.紙数の関係上本稿ではその進展がもっとも期待されている免疫療法剤に焦点を当てて解説する.

PT最前線

地域リハビリテーションを担う混成チーム

著者: 横浜市総合リハビリテーションセンター地域サービス部門

ページ範囲:P.50 - P.51

 地域リハビリテーションは,救命医学が発達した現在,そして高齢化社会を迎えようとする現在,早急にその体制が充実されなくてはならない.そして,必要な人にきめ細かなリハビリテーションサービスが提唱されるには,対象の発掘と充分なケア,フォローがなされなくてはならない.

 ここ横浜市総合リハビリテーションセンターの地域サービス部門には,「チームの居宅訪問による評価,指導(介助法,住宅改善等),機能訓練」(同センターパンフレット)を行なう多職種(医師,理学療法士,作業療法士,保健婦,ケースワーカー(センターおよび福祉事務所)が主)の混成チームが存在する.記者は,とある日,このチームに同道してその活動ぶりを追ってみた.

あんてな

理学療法カリキュラム改定の動き

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.52 - P.52

 1987年8月から2回の厚生省医事課ヒアリング,12月から4回のカリキュラム小委員会を経て,1988年6月をもって改定作業はいちおう終了した.

 カリキュラム小委員会案は,医療関係者審議会理学療法・作業療法部会において,さらに検討されまとめられる方向である.

論説

養護学校での理学療法―養護・訓練の技術として

著者: 工藤俊輔

ページ範囲:P.53 - P.53

 養護学校へ養護・訓練(以下養訓と略す)の専門教諭として転出し8年目になる.転出を考えた理由は幾つかあるが現状の障害児教育の中で理学療法士が理学療法士の資格で制度的にかかわることができないことを目の当たりにし,外側からそのあれこれを批判するのではなく内側から考えてみたいという思いが強くあったからだ.養護学校は障害児の療育を考えるうえでのブラックボックスであると言われている.有名な成瀬・小池論争の中で感じていたことをその中で確かめてみたかった.

 多少気負っていたかもしれない.今になってみるとお笑い草になるかもしれないが,当初は学校の中での理学療法の役割を明示するために随分と専門家ぶった話をしたり態度を示しだいぶ反発を買った.しかし障害児教育は1人だけの力ではできない.教育には教育目標というのがあり,その実現のために教育課程があるのだということに気が付いた.理学療法の技術のみでその教育目標をすべて実現することはできない.とすればいったいここで自分に何ができるか,いろいろ悩んだ末第一に考えたことは,子どもの合理的な介助法のくふうや道具のくふうであった.このことは直接子どもの教育にかかわることでないかもしれないが,見過ごされていることだと思った.車いす上での姿勢の変換のしかた,抱きかた,降ろしかたなど当初私が紹介した方法の幾つかが定着している.特に子どもの抱きかたなどを通じて脳性麻痺児についての理解を深めてもらうことは具体的で意味があった.ここで学んだことはすべて問題を具体的に説明できるかどうかが,異なる職種の中で仕事を理解してもらう重要なステップだということだった.

クリニカル・ヒント

寝たきり患者への基本的対応策

著者: 和才嘉昭

ページ範囲:P.54 - P.55

 1.寝たきり状態とは

 リハビリテーション医療も,それが労災病院における実践においてすら,労働災害の減少に逆比例して台頭してきた,交通災害や老人人口の増加に伴い,それらに起因する寝たきりの状態の患者対応を余儀無くされるに至っている.

 毎日の臨床では,リハビリテーション医療の急性期は言うに及ばず慢性期と,これを現実社会の医療変遷の過程からみれば,careからcureへ,そして,さらにcareへと,つまりは予防医学,治療医学,保健医学と,各医相の広域重複での患者対応が余儀無くされるような社会ニードとなり,病院中心の医療から在宅地域医療へと,その浸透の必要性が叫ばれている.

1ページ講座 臨床検査値のみかた・1

「初めに」および「貧血」

著者: 上田敏 ,   大川弥生

ページ範囲:P.56 - P.56

 Ⅰ.初めに;臨床検査値というもののとらえかた

 これから1年間1ページ講座として臨床検査値のみかたを連載することになったが,その初めに全体にわたっての考えかたを述べておきたい.

 リハビリテーション医療の対象となる患者は今急激に変わりつつある.老齢化,重症化(疾患が重い),重度化(障害が重い),重複化(二つ以上の疾患・障害を同時にもつ)の傾向の急速な進行である.かつては避けて通ることもできた,悪性腫瘍や心不全などで体力が一次的にすでに消耗しきっていて,それにさらに二次的な廃用症候群が加わっている「著しい体力消耗」と呼ぶほかない状態がもはや避けられないほど多くなってきている.全身状態の全面的な把握とリスクに関する鋭い認識とがなければ到底このような患者のリハビリテーションは行なうことができない.

講座 理学療法評価・1

理学療法評価の考えかた

著者: 嶋田智明

ページ範囲:P.57 - P.64

 Ⅰ.初めに

 理学療法士が,対象者の問題をとらえ,治療目標を設定し,治療プログラムを立案して,それに基づいて理学療法を展開していく過程において,まず必要となるのは,対象者の有するさまざまな問題を包括的にとらえるための評価(evaluation)の実施である,つまり,理学療法評価(以下単に評価と言う.)とは,理学療法という一連の過程の中で,情報を収集し,それを基にして対象者の障害像を整理・分析し,治療目標設定や治療プログラム立案に役だてようとすることである,これは,内科や外科といった一般の臨床医学の領域で,治療を行うために医師が病歴や臨床検査所見を収集・分析して,疾病の診断(diagnosis)を下すことに対応するものである.

 しかし,診断によって求めるものが,人間の内部に生じた病理学的変化やその原因にあるのに対して,評価は(むろん作業療法や言語療法での評価もそうであるが)病気や外傷で起こった機能や能力の障害を追求する点で大きく異なる.つまり診断が患者のもつ病理学的異常を追求する作業であるのに対して,評価は,その病理学的異常によって生じた機能やさらには能力の異常に関する性質と広がりおよび重症度を測る作業なのである1)

 このように評価の目的2)は,一つには治療目標の設定にあるが,そのためには,対象者の正常な日常生活を妨げるさまざまな因子を科学的に分析することがまずもって不可欠である.その因子とは,単にROMの制限や筋力低下かもしれないし,もっと複雑には,中枢神経系の障害による運動パターンの異常に精神・心理障害の組み合わさったものかもしれない.したがって,これらの障害がどこに,どの程度存在し,これらが対象者である患者個々のADLにどのように影響を及ぼしているか,あるいは社会生活との関係ではどのような障害になっているかを包括的に把握することが,評価の第二の目的となるであろう.また評価の第三の目的は,理学療法における具体的な治療の方法論を検討することである.

 つまりROM制限や筋力低下というimpairmentに対して,その改善や増強の手技,手段を決定したり,歩行や起居動作の障害というdisabilityに対しては,その代償法としての自助具や装具の適切な使用法が検討されなければならない.Billette3)は,専門職の責務としての評価の目的にふれ,①治療目標の基本線を決定し,治療プログラムの基礎となるものを提供し,②治療過程でどんな問題が解決しうるか否かを区別し,③治療において機能や能力に変化の可能性のあるものを探し出したり,④クライエントの能力やニーズを評定したりして,⑤クライエントが以前に自力で試みたときには困難だったことを克服できるよう計画された一連の行動を始めるのを援助する,と説明している.Ridley4)も,評価の目的として,①患者の全体像の把握,②治療プログラムの参考,③目標設定に役だてる,④将来のための基本路線の設定を挙げている.

 このように評価の目的は,さまざまであるが,その範囲は非常に広くかつ内容も深いので,専門的にもきわめてレベルの高い知識や技術が要求されるのは当然である.また治療の際と同様,すでに評価の過程から理学療法士は可能な限り他の専門職とチームを組み,互いに情報を交換し合い,それぞれの患者にアプローチするのが望ましく,理学療法士にはこういった協調性も強く要求される.

 本稿では以上の点をふまえ評価がどうあるべきかを今一度原点に立ち戻って考え,この領域での研究の現状も含めて将来の展望についても言及してみたい.

科学としての理学療法学・1

科学としての理学療法学の立場

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.65 - P.70

 Ⅰ.初めに

 筆者は『理学療法と作業療法』の編集委員を務めているとき,その第13巻第1号(1979年)において,『理学療法・作業療法の学問体系をどうするか』という特集を企画し,かつその中で,「理学療法の学問的体系化への思索」1)と題した小論を書いた.それから時はちょうど10年を経過したことになる.

 今回,『理学療法ジャーナル』として発刊されることになり,その講座で「科学としての理学療法学」が6回シリーズで取り上げられることになった,その1回目に,10年前の題名とは異なるが,「科学としての理学療法学の立場」と題して,基本的には同じテーマについて論じることになった,はたしてこの10年間で,我が国の理学療法はどのように進展したのか,それとも特記すべき進展は無いのか,種々の視点からながめてみたい.

豆知識

原著論文の書きかた

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.17 - P.17

 論文を書くうえでいちばんたいせつなことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由をはっきり示すこと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことです.

「引用」とは

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.42 - P.42

 「引用」の範囲を超えて他人の著作物を,自身の著作物へ取り込む場合(”転載”)には相手方(著作権者・出版社)の許諾が要ります.(許諾の条件として著作権使用料を請求される場合もあります.)ただし,「引用」の条件を満たして利用する場合は自由に利用できます.

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文献抄録

ページ範囲:P.72 - P.73

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.76 - P.76

 過去22年間に226冊の『理学療法と作業療法』の雑誌を読者に提供してきた本誌が,新生『理学療法ジャーナル』として,再出発することになった.

 新生第1号の編集後記を書くに当たり,感慨無量なるものがあるのは筆者1人ではあるまい.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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