文献詳細
文献概要
講座 理学療法評価・1
理学療法評価の考えかた
著者: 嶋田智明1
所属機関: 1神戸大学医療技術短期大学部
ページ範囲:P.57 - P.64
文献購入ページに移動 Ⅰ.初めに
理学療法士が,対象者の問題をとらえ,治療目標を設定し,治療プログラムを立案して,それに基づいて理学療法を展開していく過程において,まず必要となるのは,対象者の有するさまざまな問題を包括的にとらえるための評価(evaluation)の実施である,つまり,理学療法評価(以下単に評価と言う.)とは,理学療法という一連の過程の中で,情報を収集し,それを基にして対象者の障害像を整理・分析し,治療目標設定や治療プログラム立案に役だてようとすることである,これは,内科や外科といった一般の臨床医学の領域で,治療を行うために医師が病歴や臨床検査所見を収集・分析して,疾病の診断(diagnosis)を下すことに対応するものである.
しかし,診断によって求めるものが,人間の内部に生じた病理学的変化やその原因にあるのに対して,評価は(むろん作業療法や言語療法での評価もそうであるが)病気や外傷で起こった機能や能力の障害を追求する点で大きく異なる.つまり診断が患者のもつ病理学的異常を追求する作業であるのに対して,評価は,その病理学的異常によって生じた機能やさらには能力の異常に関する性質と広がりおよび重症度を測る作業なのである1).
このように評価の目的2)は,一つには治療目標の設定にあるが,そのためには,対象者の正常な日常生活を妨げるさまざまな因子を科学的に分析することがまずもって不可欠である.その因子とは,単にROMの制限や筋力低下かもしれないし,もっと複雑には,中枢神経系の障害による運動パターンの異常に精神・心理障害の組み合わさったものかもしれない.したがって,これらの障害がどこに,どの程度存在し,これらが対象者である患者個々のADLにどのように影響を及ぼしているか,あるいは社会生活との関係ではどのような障害になっているかを包括的に把握することが,評価の第二の目的となるであろう.また評価の第三の目的は,理学療法における具体的な治療の方法論を検討することである.
つまりROM制限や筋力低下というimpairmentに対して,その改善や増強の手技,手段を決定したり,歩行や起居動作の障害というdisabilityに対しては,その代償法としての自助具や装具の適切な使用法が検討されなければならない.Billette3)は,専門職の責務としての評価の目的にふれ,①治療目標の基本線を決定し,治療プログラムの基礎となるものを提供し,②治療過程でどんな問題が解決しうるか否かを区別し,③治療において機能や能力に変化の可能性のあるものを探し出したり,④クライエントの能力やニーズを評定したりして,⑤クライエントが以前に自力で試みたときには困難だったことを克服できるよう計画された一連の行動を始めるのを援助する,と説明している.Ridley4)も,評価の目的として,①患者の全体像の把握,②治療プログラムの参考,③目標設定に役だてる,④将来のための基本路線の設定を挙げている.
このように評価の目的は,さまざまであるが,その範囲は非常に広くかつ内容も深いので,専門的にもきわめてレベルの高い知識や技術が要求されるのは当然である.また治療の際と同様,すでに評価の過程から理学療法士は可能な限り他の専門職とチームを組み,互いに情報を交換し合い,それぞれの患者にアプローチするのが望ましく,理学療法士にはこういった協調性も強く要求される.
本稿では以上の点をふまえ評価がどうあるべきかを今一度原点に立ち戻って考え,この領域での研究の現状も含めて将来の展望についても言及してみたい.
理学療法士が,対象者の問題をとらえ,治療目標を設定し,治療プログラムを立案して,それに基づいて理学療法を展開していく過程において,まず必要となるのは,対象者の有するさまざまな問題を包括的にとらえるための評価(evaluation)の実施である,つまり,理学療法評価(以下単に評価と言う.)とは,理学療法という一連の過程の中で,情報を収集し,それを基にして対象者の障害像を整理・分析し,治療目標設定や治療プログラム立案に役だてようとすることである,これは,内科や外科といった一般の臨床医学の領域で,治療を行うために医師が病歴や臨床検査所見を収集・分析して,疾病の診断(diagnosis)を下すことに対応するものである.
しかし,診断によって求めるものが,人間の内部に生じた病理学的変化やその原因にあるのに対して,評価は(むろん作業療法や言語療法での評価もそうであるが)病気や外傷で起こった機能や能力の障害を追求する点で大きく異なる.つまり診断が患者のもつ病理学的異常を追求する作業であるのに対して,評価は,その病理学的異常によって生じた機能やさらには能力の異常に関する性質と広がりおよび重症度を測る作業なのである1).
このように評価の目的2)は,一つには治療目標の設定にあるが,そのためには,対象者の正常な日常生活を妨げるさまざまな因子を科学的に分析することがまずもって不可欠である.その因子とは,単にROMの制限や筋力低下かもしれないし,もっと複雑には,中枢神経系の障害による運動パターンの異常に精神・心理障害の組み合わさったものかもしれない.したがって,これらの障害がどこに,どの程度存在し,これらが対象者である患者個々のADLにどのように影響を及ぼしているか,あるいは社会生活との関係ではどのような障害になっているかを包括的に把握することが,評価の第二の目的となるであろう.また評価の第三の目的は,理学療法における具体的な治療の方法論を検討することである.
つまりROM制限や筋力低下というimpairmentに対して,その改善や増強の手技,手段を決定したり,歩行や起居動作の障害というdisabilityに対しては,その代償法としての自助具や装具の適切な使用法が検討されなければならない.Billette3)は,専門職の責務としての評価の目的にふれ,①治療目標の基本線を決定し,治療プログラムの基礎となるものを提供し,②治療過程でどんな問題が解決しうるか否かを区別し,③治療において機能や能力に変化の可能性のあるものを探し出したり,④クライエントの能力やニーズを評定したりして,⑤クライエントが以前に自力で試みたときには困難だったことを克服できるよう計画された一連の行動を始めるのを援助する,と説明している.Ridley4)も,評価の目的として,①患者の全体像の把握,②治療プログラムの参考,③目標設定に役だてる,④将来のための基本路線の設定を挙げている.
このように評価の目的は,さまざまであるが,その範囲は非常に広くかつ内容も深いので,専門的にもきわめてレベルの高い知識や技術が要求されるのは当然である.また治療の際と同様,すでに評価の過程から理学療法士は可能な限り他の専門職とチームを組み,互いに情報を交換し合い,それぞれの患者にアプローチするのが望ましく,理学療法士にはこういった協調性も強く要求される.
本稿では以上の点をふまえ評価がどうあるべきかを今一度原点に立ち戻って考え,この領域での研究の現状も含めて将来の展望についても言及してみたい.
掲載誌情報