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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻10号

1989年10月発行

雑誌目次

特集 下肢切断の理学療法

CAT-CAMの使用経験

著者: 新小田幸一 ,   大峯三郎 ,   大川裕行 ,   蜂須賀研二 ,   荒井光男 ,   緒方甫

ページ範囲:P.668 - P.674

 Ⅰ.初めに

 科学技術の進歩とともに義肢装具の材質も木・革から高分子化合物に変わり,それらの導入により,製作・修正が容易となり義肢装具の軽量化ももたらされた.大腿義足のソケット形状を例にとると,第二次大戦後,現在主流となっている四辺形ソケット(quadrilateral socket:以下QLSと略す.)が用いられるようになって30年余りが過ぎた.

 しかし現在のQLSの形状に落ち着くまでに多少の変遷はあったにせよ,ほぼ変化の無いままに今日に至っている.Long1)は1975年の発表の中で,QLSを装着して起立位で撮影したX線写真の所見では,ほとんどの者の大腿骨がソケット内で外転位になっていると報告した.このときの発表が,後になって彼が提唱したLong's Line2)へと発展した.このため1975年のLongの発表は,今日,我が国でも普及しつつある3-7)CAT-CAMの源流に当たるものと思われる.

 その後10年が経過し,Lehneis8),Long2),Sabolich9),Shamp10)らが従来のQLSとは異なるソケットを,義肢装具士の立場から製作法を中心に発表した.これらはLongがNormal Shape-Normal Alignment (NSNA),SabolichがContoured Adducted Trochanteric-Controlled Alignment Method (CAT-CAM),ShampがNarrow ML AK prosthesisと称しており,採型法やアラインメントのとりかたには差がある.しかし,坐骨結節がソケット内に包み込まれている点が共通しているために,国際義肢装具連盟(ISPO:International Society for Prosthetics and Orthotics)では1987年のMiami会議において,Ischial-Ramal Containment (IRC) Socketsの呼称を採択している11).現在日本国内ではCAT-CAMの呼びかたが一般的であり,本論でもCAT-CAMの表現を用いることとする.

 今回はCAT-CAMの特徴を従来のQLSと比較しながら,その長所と短所とを述べる.また筆者らの行なっている理学療法の実際と,経験例に対して行なった床反力計による歩行分析,歪ゲージを利用したソケット内歪量計測の結果も紹介したい.さらに,CAT-CAMの適応に成功した例と難渋した例とを併せて紹介し,その結果から得られたCAT-CAM適応の指標についてもふれたい.

血管原性切断者に対する理学療法とその目標設定

著者: 星永剛 ,   隆島研吾

ページ範囲:P.675 - P.679

 Ⅰ.初めに

 下肢切断者のリハビリテーションにおける移動能力のゴールは,速やかに義足歩行を獲得することにある.しかし切断の原因,切断高位,年齢などによりそのゴールはさまざまであり,中には義足歩行の獲得までに至らない例も多い.特に,血管原性の切断の場合は,その移動能力のゴールがイコール義足歩行というわけにはいかないように思われる.

 そこで今回は,血管原性の下肢切断者に対する移動能力のゴール設定と理学療法についてわれわれの経験を基に,述べてみたい.

高齢切断者に対する義肢装着訓練

著者: 新妻晶

ページ範囲:P.680 - P.687

 Ⅰ.初めに

 近年,高齢化社会が進む中で,高齢になってからの切断例が増加している.その原疾患として末梢循環障害の占める割合が多くなってきている1).これらの高齢切断者にとって,義足歩行を習得することはとてもたいへんなことである.できれば,ベッドや車いすなどによる楽な生活を望むであろう.しかし,我が国では核家族化が進むにつれ,一人暮し,老夫婦のみ,高齢二世代などの家庭が増しており,介護者も高齢であることが多い.そこで,介護者の負担を少しでも減らすために,より上のレベルのADL能力が求められるようになってきた.

 だが,高齢者は,筋力,持久力,平衡機能,反射能力などの低下や不良肢位による拘縮,視力,聴力,理解力の減退がみられ,感情的に不安定で依存性も強いため,訓練量の設定や訓練意欲の引き出しに苦慮する2).さらに,さまざまな合併症を有しているため,運動自体が制限されることも多い.また,たとえ義足歩行が可能となっても,退院後の介護者の理解と協力がなければ,義足による生活実現はみられない.本稿では,切断レベル別にそれぞれの合併症をもつ症例にふれながら,高齢切断者の訓練プログラムについて述べてみたい.(なお,高齢者の基準についてはいろいろと議論されるところであるが,欧米で血行障害の多くみられる60代以上を取り上げてみた1).)

悪性腫瘍による高位下肢切断患者の理学療法

著者: 滝野勝昭 ,   長屋崇 ,   菊池詞 ,   石川朗 ,   福山勝彦

ページ範囲:P.688 - P.694

 Ⅰ.初めに

 高位下肢切断とは,特に定義があるわけではないので,本稿では半側骨盤切断(hemipelvectomy,以下HPと略す.),股関節離断(hip disarticulation,以下HDと略す.)および大腿切断の短断端の症例とする.

 このレベルの切断症例は大多数が骨盤あるいは大腿骨近位部に発生した腫瘍が原因となっている.したがって治療はまず生命の予後が改善することを優先すべきであり,理学療法は化学療法と並行して進めることが不可欠である.

 下肢切断者の最終的目標は,実用的な歩行と日常生活動作とを獲得して社会生活に復帰することにあるが,その前提条件として義足を装着して容易に歩行するための筋力と関節可動域との確保,そして義足への体重負荷に関して痛みの無い健康な断端を育成する必要がある.HPおよびHDの最終的目標も当然のことながら股義足を装着した歩行を目指すべきである.

 義足を選択するに当たっては,第一の条件として機能的に優れていること,第二は外観が良いことなどが挙げられる.近年,大多数の症例に骨格構造のカナダ式股義足が処方されるのはこれらの要素が満たされているからである.

 下肢切断者の理学療法を進めてゆく上で,一般的なポイントとして第一に患者の身体的機能の向上,すなわち全身の運動能力を向上させるとともに,断端の成熟を図ること,第二は適切な義足の各部の選択と軸調整が,第三には理学療法士の治療方法と指導方法の在りかたを挙げることができる.下肢切断者の理学療法は,つねにこの三つの視点から検討してゆくことがたいせつである.また患者の心理的側面に対しても十分に配慮しなければならない.原疾患が腫瘍である場合はことに心理面への配慮を念頭に置く必要がある1)

重複障害を伴う下肢切断者に対する理学療法

著者: 長倉裕二 ,   小嶋功 ,   大藪弘子 ,   山下隆昭 ,   澤村誠志 ,   横手博臣 ,   二宮秀治郎 ,   福田靖子

ページ範囲:P.695 - P.701

 Ⅰ.初めに

 近年,医療の発達により切断術の適応となる疾患がより重度化し,さらにそれに伴う血行障害の増加や高齢化など,種々の因子が重複する傾向がある.われわれが臨床において下肢切断に重複した障害を伴った患者を扱う場合,その義足装着訓練に難渋することがしばしばある.しかし現在までに下肢切断者における個々の重複障害例の報告はいくつかあるが,その疾患別の特徴や留意点を報告したものはきわめて少ない.本稿では過去20年間に兵庫県リハビリテーションセンターに入院した下肢切断者566例および巡回相談に来所した例のうち,他の疾患を合併し義足装着訓練に支障をきたした87例に対して1~3),入院時記録,電話によるアンケート調査および訪問調査を行なった結果と治療経験に基づいた疾患別の傾向や問題点および装着訓練の実際について述べる.

とびら

思い込みを排し,ありのままの障害像を

著者: 半田健壽

ページ範囲:P.667 - P.667

 最近の某新聞に,ある轢(ひ)き逃げ事件の容疑者が十数年間にわたる裁判の末,無罪の判決を受けた記事とその事件での,十分な証拠の無いままの度重なる過剰な見込み捜査を行なったことに対する警鐘の論説とが掲載された.事件の詳細はともかく,この事件については容疑者の法的名誉回復が図られた.しかし,この人の失われた長時間に及ぶブランクを取り戻すための社会的リハビリテーションはまだこれから先になるとのことである.

 私ども,理学療法士の日常活動の中に,このような憶測や偏見を是正しないまま事を運んでしまっていることは無いだろうか!?

 理学療法士の思考過程を評価・計画・実行・反省という一連の診療を通して点検してみると,憶測や偏見が何と多いものかと驚くことが多い.

クリニカル・ヒント

下肢装具,アームスリング装着時のポイント

著者: 山下隆昭

ページ範囲:P.702 - P.702

 片麻痺の装具などについて,過去の経験や試行錯誤を通して筆者が日ごろ考え実践している事柄について二,三述べてみたい.

講座 理学療法評価・10

心機能の評価

著者: 山田純生

ページ範囲:P.703 - P.708

 Ⅰ.初めに

 現在のところ,運動療法を施行する上で厳密な心機能評価を必要とし,かつ理学療法士がその評価内容を的確に把握する必要があると思われる疾患は,心臓リハビリテーションの主な対象となっている虚血性心疾患である.虚血性心疾患における心機能評価の目的は損傷された心機能の程度を知ることにあるが,リハビリテーションの観点からは,運動参加の適否を決定し,適切な運動処方を行なうことである.また,個々の患者の心機能を的確に把握することは,単に運動処方のみでなく,内科的管理の一部としての運動療法を受け持つという視点を育てることにも役だつ.

 以上の観点より,本稿では各種心機能評価の中で,主に心臓リハビリテーションにおいて用いられる代表的な心機能評価について述べることにしたい.

哲学・4

これからの哲学

著者: 磯江景孜

ページ範囲:P.709 - P.713

 20世紀の哲学を回顧すれば,実に種々な立場が登場して相互に反発したり影響し合ったりしてきたことに人は驚きを感じることだろう.Marx主義,実証主義,分析哲学,プラグマティズム,実存主義,構造主義,ポスト構造主義,現象学,解釈学的哲学などである.哲学の諸問題が本来的には哲学者たちだけの問題ではなくて人間の社会的生活に根ざした問題であるなら,このように多様な哲学的立場の登場は現代社会の複雑多様な要求を反映していることを示唆するものであって,複雑な社会の未来的方向は見極め難いであろう.それでも21世紀へ向かおうとしている現在状況の中でもっとも問題的として予感されているのは,地球的規模での自然破壊や環境汚染による人類生存の危機であろう.またある人たちにとっては世界の社会体制の大きな変勤が切迫した問題になるだろうし,またこれと関連して異文化間の相互関係が問題とされるだろう.このような切迫している現実的諸問題に対してそれぞれの哲学は直接的なしかたにおいてではなくとも何らかのしかたで応答することによって社会的機能を果たさなければならないだろう.そうでなければ哲学的思索が哲学者だけの秘儀的な営為に終わってしまうだろう.

雑誌レビュー

“The Australian Journal of Physiotherapy”(1988年版)まとめ

著者: 木山喬博 ,   井神玲子 ,   岩月宏泰 ,   太田敏幸

ページ範囲:P.715 - P.719

 Ⅰ.初めに

 オーストラリア理学療法協会が発行している“The Australian Journal of Physiotherapy”は1988年で第34巻を数え,日本の理学療法協会誌よりも先輩となっている.年間に4号しか発行しない季刊誌であるため,総冊数は少ないが,多くの情報が盛り込まれている.雑誌の内容を区分すると,いわゆる論文形式のものは21編,Clinical Note欄には症例研究発表が6編,学位論文などの要旨をまとめたResearch Note欄には48編,Abstract欄には43編の他誌掲載論文の要旨が収録されている.以下に,おのおのの欄の内容の要約と,印象的であったものは比較的詳しく紹介してみたい.

 なお文中の[ ]には,掲載号数とページを示した.

1ページ講座 臨床検査値のみかた・10

「免疫異常」

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.720 - P.720

 ⅩⅤⅡ.免疫異常

 免疫系が見つけ出して排除する対象となるものは,微生物,他の個体の細胞や組織,異物,老廃化した自分の組織,ウイルスや化学物質により変化した自分の細胞,変異した異常な自分の細胞などである.免疫を遂行する因子は,抗体,補体,B細胞,T細胞(キラー,ヘルパー,DTHエフェクター),NK細胞,K細胞,マクロファージ・抗原提供細胞,好中球,好塩基球・マスト細胞,好酸球などがある.炎症反応は免疫応答の側面としてもとらえられることから,自己免疫,高IgEを含むアレルギー,細胞性免疫,免疫不全などを介して,これまで本講座でふれられた項目と重複する内容が多い.

プログレス

痴呆の治療薬

著者: 田所作太郎

ページ範囲:P.721 - P.721

 ここで言う痴呆とは,主として老年期痴呆を指すと考え,話を進めることにする.

 さて,平均寿命の著しい延長によって人生80年時代が到来したことは喜ぶべきであるが,反面痴呆老人への対応を真剣に考えねばならなくなった.老年期痴呆とは加齢に伴い,脳に器質的変化が生じ,記憶,思考,判断,計算などの知的機能の障害,さらに失見当識や人格変化が進行的に増悪し,社会生活が不能になった患者を言う.現在我が国には少なくとも数十万もの痴呆患者がいると推定され,深刻な社会問題となっている.いまや痴呆治療薬の開発は焦眉の急であり,社会的要求なのである.

PT最前線

地域に根を張るリハビリテーション病院―趣味も生かして 大塚彰氏

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.722 - P.723

 松山市内から少し山間に入った所に,まだ新しい栗林病院の建物は在った.院長の“すべて平等に”の理念の下,特色ある地域リハビリテーションを実践しつつある.

あんてな

生活保護の現状と課題

著者: 岸勇

ページ範囲:P.724 - P.724

 昨年「福祉が人を殺すとき」というショッキングな題名の本が出版され人々の注目をひいたが,この本で画かれているように,いま生活保護行政の下で,札幌市での母子世帯の母親の餓死事件や東京都荒川区での老人の自殺事件をはじめ,全国各地において多くの悲惨な事件が生み出されている.生活保護法は「日本国憲法第25条に規定する理念に基き」国が生活に困窮するすべての国民に対し,健康で文化的な最低限度の生活を保障すると格調高くうたっているにもかかわらず,何故現実にはこのような事件が次々と引き起こされているのであろうか.それは,根底的には,生活保護制度そのものに内在する,建前とは裏腹に非民主的で権利侵害的な本質に深く根差しているとともに,直接的には,いわゆる臨調・行革路線の下で生活保護行政が,特に1980年代に入って,「適正実施」の名の下に,その厳しさを一段と強めてきたという事情によるものと思われる.以下生活保護行政の最近の動向を概観することを通じて,この点を明らかにしてみたい.

資料

第24回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1989年度) 模範解答と解説・Ⅲ―理学療法・作業療法共通問題(1)

著者: 和才嘉昭 ,   橋元隆 ,   中山彰一 ,   高橋精一郎 ,   千住秀明 ,   田原弘幸 ,   中野裕之 ,   井口茂 ,   鶴崎俊哉 ,   大島吉英 ,   佐藤豪 ,   神津玲 ,   安永尚美 ,   古場佐登子

ページ範囲:P.725 - P.730

実習レポート

ギラン・バレー症候群患者の理学療法評価/Comment

著者: 日高正巳 ,   奈良勲

ページ範囲:P.731 - P.733

 初めに

 今回,40歳男性のGuillain-Barre症候群(以下,G.B.S.と略す)の症例に対し,理学療法評価を行なったので,その要点をまとめ若干の考察を加え報告する.

PTのひろば

アメリカにおける老人ケア視察旅行に参加して

著者: 西森善一

ページ範囲:P.713 - P.713

 1989年3月27日より4月5日までの10日間,金沢大学医療技術短期大学部の奈良勲教授をコーディネーターとする“アメリカにおける老人ケア視察旅行”に参加する機会を得た.参加者の構成メンバーは,PT,OT,ST,ナース,養護学校教諭,ボランティア協会理事など計17名であった.主な訪問先は,ニューヨークのRusk Institute of Rehabilitation Medicine,Morningside House Nursing Home,オハイオ州トレドではMedical College of Thio Hospital,そしてロスアンジェルスではRancho Los Amigos Medical Centerであり,それぞれの施設で老人ケアのシステムを中心に視察した.

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文献抄録

ページ範囲:P.734 - P.735

編集後記

著者: 安藤徳彦

ページ範囲:P.738 - P.738

 今月号は下肢切断の特集である.最近の義足の進歩は著しいが,歩行を実現することの難しい切断患者も増加している.そこで今回はこの問題に焦点を当てて特集を組んだ.

 新小田氏にはCAT-CAMの使用経験と題して,その特徴・理学療法・歩行分析結果・代表症例を詳述していただいた.星氏は血管原性切断者に対する目標設定を解説しておのおのの訓練を述べ,新妻氏には高齢切断者の訓練を,滝野氏には悪性腫瘍の高位制断患者の訓練方法を,長倉氏には重複障害について種類別にゴールと注意事項を述べていただいた.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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