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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻11号

1989年11月発行

文献概要

講座 理学療法評価・11

高次脳機能障害の評価―半側無視例を中心として

著者: 網本和1

所属機関: 1聖マリアンナ医科大学病院

ページ範囲:P.777 - P.784

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 Ⅰ.初めに

 脳損傷例のリハビリテーションにおける主要で最大の問題は,高次脳機能障害であることは多くの報告23,24,27,55,82)が指摘するところであり,すでに多彩な評価方法が開発され75),幾つかのアプローチ49,50,62,79,86,87)が試みられている.しかし理学療法の分野における高次脳機能障害への接近はその関心の高さと重要性に比べ,必ずしも十分とは言えない.この理由としで第一に高次脳機能障害がきわめて多様で複雑な臨床像を示すことから,その把握が少なからず困難であることが挙げられる.第二に高次脳機能障害がリハビリテーション上の阻害因子として強調される90,91)あまり,いわば治療困難なものとして認識され,「除外対象」に陥る傾向が無いとは言えないものと考えられる.そこで本論に入る前に,高次脳機能障害が歩行の自立度にどのような影響を及ぼしているかについて概観し,問題点を再確認しておく必要がある.

 表1は聖マリアンナ医科大学病院における最近3年間にリハビリテーションが施行された脳損傷例477例のうち,初回発作で一側性脳血管障害192例のデータである.なお発症からリハビリテーション開始までの平均は19日,退院までの経過は約90日である.ここに示されているように何らかの高次脳機能障害をもつ者の歩行自立度は全体として26%から41%であり,もっとも歩行自立度が低いものは,失認すなわち半側空間無視であることがわかる.一方リハビリテーション開始時にいずれの高次脳機能障害も示さなかったものの自立度はきわめて高く(89%),換言すれば脳損傷例のリハビリテーションの問題はとりもなおさず高次脳機能障害の問題であることが改めて理解される.

 しかしここで注目しなければならないのは高次脳機能障害例であっても,発症から数か月のうちにかなりの頻度で歩行自立に至る,という事実である.このことは高次脳機能障害の回復に関する幾つかの報告20,42)とも対応し,高次脳機能障害は困難であるものの決して治療不可能ではない,ということを示している.このような視角から,すなわち「回復可能な対象」として高次脳機能障害をとらえるとき,何が変化し,どの機能が治療によって変容しえたかを適切に把握することが重要となる.

 そこでこの小論では,まず臨床的評価方法として①ベッドサイドで簡便に行なえる高次脳機能評価法を紹介し,②しばしば問題となる右半球機能障害のうち空間情報操作の障害および空間知覚障害17,36)の中で半側空間無視と視覚的垂直定位障害とに注目し,平衡機能障害との関連においてその評価方法を述べることにする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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