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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻12号

1989年12月発行

雑誌目次

特集 整形外科

骨粗鬆症と理学療法

著者: 太田隆 ,   小沼正臣 ,   林𣳾史

ページ範囲:P.814 - P.817

 Ⅰ.理学療法の骨粗鬆症へのかかわり

 理学療法の中でも特に運動療法が骨疾患にかかわってきた歴史を振り返ってみると,以前は小児の骨変形・奇形,成人の戦傷や産業災害による骨折などがほとんどであった.そこには老人の骨萎縮性疾患である骨粗鬆症を運動負荷により治療しようとする考えは無かった.また,骨粗鬆症により生じる老人の四肢の骨折に対しては積極的な治療がなされなかったため,骨粗鬆症に対して,医療としての運動療法の入り込む余地が少なかった.それは老人の骨が弱くなり,腰が曲がり,骨折しやすくなるのはすべて歳のせいであり,白髪や顔のしわと同様にしかたが無いものとされてきたためであろう.

 しかし,近年の高齢化社会の到来,骨粗鬆症の原因解明,予防・治療法の進歩,骨折治療手技の進歩を含めた老年病学の発展により,科学的根拠に基づいた医療としての理学療法が骨粗鬆症にかかわれるようになってきた.一方,寝たきり老人の原因疾患として,骨粗鬆症が15~20%を占め,脳血管障害に次いで大きな割合を占めることがわかってきた1).また,米国では骨粗鬆症が移動能力欠如老人の原因疾患のトップの座を占めているとも言われている.このことから,老人の福祉,生活の質の向上の面からも骨粗鬆症およびそれに伴う骨折は在宅リハビリテーションの対象疾患の中でも比重が増しつつある.これらのことを考えると理学療法の骨粗鬆症へのかかわりは,大腿骨頸部骨折における術後急性期から,骨量増加を目的とした訓練,そして在宅リハビリテーションまでと広範にわたることになる.

手の外科後の理学療法

著者: 内山靖

ページ範囲:P.818 - P.825

 Ⅰ.緒言

 ヒトの特徴として二足歩行とともに,道具を巧みに操る二本の手を挙げることができる1).その中でも特に人間らしい機能の一つとして,コミュニケーションや感情表出手段としても手の役割を位置づけることができよう.このように手の機能は高度に構築・発達しているため,従来動物実験やモデルシミュレーションでは限界があり,他の部位や機能系に比して不明な点が多い分野の一つであった.

 しかし近年の神経生理学の発達に伴い末梢感覚受容器の諸特性が解明される2)とともに,1970年代に入ると無麻酔のサルにおいて微小電極による大脳の活動電位を記録する方法が確立3)し,感覚-運動情報処理過程の一部が明らかにされるようになった.同時に臨床医学領域においても顕微鏡下による手術法の発達は日進月歩であり,腱・神経の縫合術の確立とともに切断後再接着術4)やいわゆるno man's land5)への積極的なアプローチなど,手の機能再建についての概念も変容を遂げつつある.これらの知見に伴い,リハビリテーションにおいても早期自動運動の確立6)や積極的な関節可動域訓練に加えて,さまざまな装具療法7)も実践応用されている.

 一方ハイテクノロジーの進む今日,日常生活において手の機能はますます重要となっているが,機械化のために生ずる上肢損傷患者は増加,重症化している現状である.

 そこで本稿では,最近の生理学的知見に基づきかつリハビリテーション独自の立場である障害学からみた「手」の機能について,重要な評価観点と治療の原則について述べることとする.次に,手の外科領域における自験例の治療結果について検討し,その治療効果について代表的な症例を供覧して明確にする.その際特に,多くの評価-治療の中から現在まであまり報告の無い感覚機能の回復過程(感覚再教育)とReal ADLとの関係に論点を絞って考察を進めたい.また,これらを通して,機能―障害学的観点からみた手の外科のリハビリテーションの在りかたについて筆者の意見を述べることとする.

腕神経叢損傷のリハビリテーション

著者: 原徹也 ,   椎名喜美子 ,   仲木右京

ページ範囲:P.826 - P.834

 Ⅰ.診断と評価;麻痺型の分類

 外傷性腕神経叢麻痺の治療に当たってはまず,正確な麻痺型を診断し,治療方針を決定,予後を推測することがたいせつである.診断に当たっては臨床的診断と補助的診断とに大別できよう.また,手術的展開による確認などの直接外科的な確認も重要である.

 運動機能の評価は徒手筋力テストによる.著者らは図1(次ページ)のような筋力表を用いている.徒手筋力テスト評価の困難な場合(筋力が〔0〕であるか〔1〕であるかの鑑別は重要である.)は筋電図検査による確認も必要である.

習慣性膝蓋骨脱臼の発生機序と手術治療

著者: 長谷川博一 ,   丹羽滋郎

ページ範囲:P.835 - P.841

 Ⅰ.初めに

 習慣性膝蓋骨脱臼の治療の目的は,大腿膝蓋関節部の疼痛,不安定感およびgiving way,lockingなどの臨床症状を改善し脱臼を防止することである.さらには,今後予想される大腿膝蓋関節症を予防することにある.しかし,これらの目的で数多くの手術療法が考案されているが,種々の誘因が存在しまたそれらが混在しているために,決定的な治療法が見いだされていないのが現状である.

 膝蓋骨脱臼を分類すると恒久性脱臼(先天性,後天性)と習慣性脱臼(再発性,反復性)とに分かれる.習慣性脱臼は,第Ⅰ型(狭義の習慣性脱臼),第Ⅱ型(随意性脱臼),第Ⅲ型(狭義の再発性脱臼),第Ⅳ型(再戻脱臼)に分類される1).ここでは,習慣性脱臼についてその発生機序,誘因と手術療法についてバイオメカニクスを踏まえた観点から検討を加え紹介する.

下肢変形に対する手術的治療と術後理学療法

著者: 臼田滋 ,   吉川靖三 ,   福屋靖子 ,   長谷川恵子 ,   宇川康二

ページ範囲:P.842 - P.847

 Ⅰ.初めに

 理学療法を施行する上で,痙性や筋のアンバランスなどによる下肢の変形が問題となり,保存的な治療ではその矯正に限界がある症例を経験することが多い.このような症例の全体的な治療の流れの中では,機能再建,変形の矯正,拘縮の除去および痙性の軽減を目的とした整形外科的な手術が多く施行されている1~6)

 その際理学療法士は,整形外科手術に対する知識をもち,術前術後の治療プログラムを展開する中で,整形外科医との密接な連携をとりながら積極的に取り組んでいく姿勢が必要であると思われる.

 今回当院で手術を施行され,術前および術後の理学療法を経験した脳性麻痺児,片麻痺患者,および二分脊椎児の症例を,手術法の解説を含み報告する.

とびら

「この一年」

著者: 佐々木伸一

ページ範囲:P.813 - P.813

 この1年,理学療法士として患者に対し,適切かつ効果的な治療法を選択し,いらぬ不安や苦痛を与えなかっただろうか.患者の人格を尊重し,思いやりをもって接してきただろうか.講習会,研修会,研究会や学会には,どれだけ参加しただろうか.論文や本は,何編あるいは何冊読めただろうか.研究は,計画どおり進行しただろうか.臨床実習生に対し,思いやりのある教育的指導ができただろうか.協会や士会活動において,課せられた役割を十分果たせただろうか…….

 理学療法士としての五つの仕事,すなわち,①患者の治療,②知識および技術の研鑽,③基礎または臨床研究,④学生および理学療法士の教育,⑤協会および士会活動を,量的および質的面から,良い・普通・不良で自己評価すると,理学療法士としての姿(治療家型,研究者型,教育者型,事業家型,政治家型,5時から型,マイホーム型,無気力型など)がみえてくるように思う.今年は,どの型が色濃く出ていただろうか.

1ページ講座 臨床検査値のみかた・12

「正常値一覧・2」

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.848 - P.848

 Ⅳ.血液生化学的検査

 Ⅴ.髄液

講座 理学療法評価・12

日常生活動作の評価

著者: 秋田裕

ページ範囲:P.849 - P.855

 Ⅰ.初めに

 ADLとその評価については,これまでにも多くの報告がなされており,リハビリテーションの現場では,その重要性が等しく認識されていることは言うまでもない.しかし「日常生活動作」あるいは「ADL」という用語が広く普及しているのとは裏腹に,「ADLとは何か」についての合意が得られたのはごく最近のことであり1),また,これがいちばん重要な点であるが,そもそもわれわれが現在使用しているADL評価表で,理学療法の治療に役だつ情報がとらえられているのか,という問題が提起されて久しい2~4)

 この講座では,ADLの概念と評価についての知識を整理し,理学療法士にとって,ADL評価はどうあるべきかを考えてみたい.

哲学・6

理学療法(士)と哲学―自己認識の拡大

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.856 - P.860

 Ⅰ.初めに

 理学療法ジャーナルの講座として,『哲学』を取り上げるのは馴染みの無いことかもしれない.しかし理学療法教育機関の教養科目として哲学を開講している所は多いし,その講義を受けた人々も多いと思う.だが哲学の講義を居眠りもせず,固唾を呑んで聞いたという話はあまり耳にしない.むしろ訳もわからず,退屈であったという反応が多い.その理由は明らかではないが,察するところ,聴講者がその講義に何を期待していたかということと,講師が何を提供したかということの食い違いの大きさによるのではないだろうか.

 われわれは哲学を専攻して講義に臨むわけではないので,理解しにくい概念や哲学史だけをえんえんと話されてもなかなか興味が湧かない.哲学の講義を通して,哲学することの意味を認識し,日ごろの私生活や,仕事に関連して,自ら哲学する喜びを覚えるようになり,それを幾らかでも実践するまでになれば,教養科目としての哲学に大きな意義がある.

 さてこれまで5回の講座『哲学』をそれぞれの哲学者に執筆願ったが,読者の哲学への関心が少しは高まっただろうか.最終回として,理学療法士の立場から『理学療法(士)と哲学』について,この講座を企画した筆者なりの見解を述べたい.なお筆者は『理学療法と作業療法』の第14巻第1号,1980の講座「理学療法概論」で『理学療法,その倫理と思想的背景』と題した小論1)を書いているが,それを土台にして新たな展開ができればと願う.

クリニカル・ヒント

深部軟部組織へのアプローチ

著者: 東保潤の介

ページ範囲:P.861 - P.862

 1.初めに

 connective tissue massage(以下,CMTと略す.)は臨床において痛みの除去や,筋硬結,スパズムの改善,浮腫の除去などに頻繁に用いられる手技であり,結果として関節可動域の改善や筋力増強訓練にも有効である.CTMを実施するに当たっては,治療者の触診による的確な評価,判断が不可欠であり,また症状を改善しうる技術の修得が必要なことは言うまでもない.

 しかしながら問題となる部位が深層の筋や結合組織であったり,深い硬い浮腫であったりすると指ではタッチできない場合もあり,また治療部位が広い範囲にわたっていると,徒手による治療には限界を感じざるをえないのが筆者の実情であった.

 そのような折,徒手による治療感覚を保ちながら深部にまでアプローチする治療用具を考えつき,使用した結果,徒手による治療の限界を突破し成果がみられたのでここに症例を挙げ紹介する.

プログレス

骨・軟骨移植の進歩

著者: 矢野寛一 ,   真角昭吾

ページ範囲:P.863 - P.863

 1.骨移植の歴史

 医学史上で骨移植が最初に行なわれたのは,17世紀後半の1682年と言われている.ロシア貴族が剣によって頭部に傷を受け,骨が欠損したのに対して犬の骨を用いて補填したというのが骨移植の始まりらしい.その後,人は,人間同士の骨(同種骨)を使うこと無く,貪欲にも他の動物の骨(異種骨)の利用を19世紀まで続けた.その後は同種骨の利用へと遷っていったが,成績は満足できるものではなかった.20世紀になってからは自分の骨(自家骨)の利用が主流となり,その成績も向上してきたのである.この間の骨移植に関する基礎的,免疫学的研究の進歩により,現在では再び同種骨利用へと向かっている.

PT最前線

スポーツ選手のためにリハビリテーションを―トレーナーへの道を拓く 村井貞夫氏

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.864 - P.865

 ここ関東労災病院には,プロ・アマを問わず多くの運動競技の選手がリハビリテーションに訪れる.多くのオリンピック選手を手がけられたのが,今回の登場人物である.

あんてな

筑波大学(夜間大学院)教育研究科リハビリテーションコース

著者: 工藤俊輔

ページ範囲:P.866 - P.866

 1989年度筑波大学(夜間大学院)が本年4月より国立大学では初めて開講された.この大学院にはリハビリテーションのコースがあり筆者も受験し合格したので,一学期間の印象も含め紹介したい.

 このリハビリテーションコースは筑波大学教育研究科のカウンセリング専攻の中に位置づけられている.高度な職業人の養成と社会人の再教育の場として設けられ,入学資格は大卒者で修業年限は2年間である.授与される修士号は教育学修士である.

第1回『理学療法ジャーナル』賞・準入賞論文

脳卒中陳旧例に合併する排尿障害と運動機能の改善との関係について

著者: 泉唯史

ページ範囲:P.867 - P.872

 Ⅰ.初めに

 脳卒中発症後に合併する排尿障害は,患者や家族にとって大きな悩みであるばかりでなく,リハビリテーション(以下リハと略す.)のプログラムを遂行し,社会復帰を促進する上でも大きな阻害因子となっている.この合併率は,14.5%(斉藤ら)1)から45.5%(沢浦ら)2)まで,報告者により幅はあるが,いずれも,排尿障害の存在が,患者の身体面・心理面での自立を妨げ,家族の精神的・肉体的・経済的負担の著しい増加に直結すること,および尿が分解し臭気を生じることで社会生活に対して大きな障害となることなどを言及している.

 しかしながら,排尿障害を合併した脳卒中患者の障害像やリハ予後についての詳細な報告3,4)や脳卒中急性期の排尿障害と運動障害の回復との関係について述べた論文2)は散見されるが,陳旧期に至った脳卒中片麻痺患者で,なお排尿障害を合併している患者の運動障害と排尿障害の改善との関係について述べた論文は少ない.

 当院には,発症後の経過の比較的長い患者が集中しているが,入院時より排尿障害を合併する脳卒中片麻痺患者に対して,理学療法士による運動療法と,病棟看護婦による排尿訓練を通じて,排尿障害の改善する例が少なくないことをよく経験する.

 今回,この脳卒中片麻痺患者の排尿障害について,身体能力の改善との関係に注目して当院におけるリハ前後での変化を検討した.

PTのひろば

たまにはまじになる

著者: 高橋誠

ページ範囲:P.862 - P.862

 私たちBobath法の成人片麻痺講習会を受講した者を中心として,症例検討会を始めました.

 具体的な方法は,講習会の治療実習の進めかたとほぼ同じですが,違う点が二つあります.参加者が自分の意見を飾らずに話し合える点と,指導するインストラクターがいない点(これは重大な問題ですが)です.会場は,参加者の所属する病院を持ち回りとして,2か月に1度行なっています.参加者の大半は1~2年目のセラピストと,私たち4~5名(7~16年目)を合わせて12名程度です.

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文献抄録

ページ範囲:P.874 - P.875

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.878 - P.878

 『理学療法と作業療法』から分離独立して『理学療法ジャーナル』が誕生して一年を終えた.作業療法を知る機会が減って残念だという意見を耳にするたびに,そのデメリットを乗り越えるほどのメリットのあるものにしなくてはと,編集委員一同試行錯誤の一年だつた.内容の方向性はまだ決して満足できるものとは言えないが,理学療法の専門を育む場としての可能性が少しみえてきたようにも感じているが,読者諸氏の御感想,御意見などをぜひお寄せいただきたい.

 今月号の特集は「整形外科」である.術前・術後の治療と一体化した理学療法の重要性が,どの論文をみてもよくわかる.手術術式をどこまで理解し,術後の修復機序や手術のねらいとするところと限界とをどこまできめ細かく知って理学療法プログラムを実施できているかが問われている.患者に対してより良い理学療法を提供するためには,外科医のメスの動きのような細心の技術の開発は今後の課題であろうし,今第一になすべきことは,執刀医,主治医との密接な連携であろう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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