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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

特集 先天性疾患

先天異常,発達障害とその発生のしくみ

著者: 熊谷公明

ページ範囲:P.296 - P.305

 Ⅰ.初めに

 小児の理学療法というと我が国では脳性麻痺を中心とする理学療法ばかりが思い起こされ,その他の理学療法についてはあまり知られているとは思えない.例えば呼吸器疾患の理学療法などはその一例である.また脳性麻痺については,Vojta法やBobath法などの早期アプローチなどが知られているが,先天異常の各疾患に対する理学療法についてはあまり関心をもたれてはいなかった.こうした機会に多くの理学療法士の方々に先天性の異常,発達障害に理解,関心をもっていただき,あらたな創意くふうある理学療法が開発利用されるならば,小児科医で小児神経学を専門とする筆者にとってはたいへん嬉しいことである.

 先天異常と発達障害とのすべてについて,ここで詳細にふれるのはきわめて困難であるが,まず用語の問題,次いで代表的疾患を挙げ,発生学的な問題にふれてみる.

フロッピーインファントの理学療法

著者: 大澤真木子 ,   川俣薫 ,   笹崎みちる ,   渡辺昌英 ,   炭田澤子 ,   新井ゆみ

ページ範囲:P.306 - P.315

 Ⅰ.初めに

 乳幼児健診あるいは日常診療において筋緊張低下を示す児に遭遇する機会は比較的多い.

 筋緊張低下を示す乳幼児は

 1)奇妙なあるいは異常な姿勢をとりやすい

 2)関節の受動運動に対する抵抗の減弱(被動性(パッシビティ)の亢進))

 3)関節可能域の異常な拡大(伸展性(エクステンシビリティ)の亢進)

 などを特徴とするフロッピーインファント(ぐにゃぐにゃ乳児)症候群の像を呈する.

 すなわち,新生児期には自動運動が少なく,異常な姿勢をとる児として,乳幼児期には運動発達の遅れを示す児として認識される.Dubowitz1)は,筋緊張低下に筋力低下ないし弛緩性麻痺を伴う場合(狭義のフロッピーインファント症候群―麻痺群)と伴わない場合(非麻痺群)とに大別している.

先天性多発性関節拘縮症の理学療法

著者: 新田通子 ,   陣内一保

ページ範囲:P.316 - P.321

 Ⅰ.初めに

 先天性多発性関節拘縮症(Arthrogryposis multiplex congenita)は,生下時よりみられる多発性関節拘縮を主徴とする症候群である.

 本症の存在を最初に記載したのはOtto(1841)であるが,arthrogryposis(彎曲した関節を意味するギリシャ語)という語を初めて用いたのはRosenkranz(1905)である.その後,1923年にSternがArthrogryposis multiplex congenitaの名称を使用し,定着するに至った.

猫なき症候群の理学療法

著者: 沢村泰弘 ,   野村忠雄

ページ範囲:P.322 - P.329

 Ⅰ.初めに

 猫なき症候群がLejeuneら1)によって1963年に報告されて以来,現在までに数多くの例が報告されたが,その多くは疫学,病態,細胞遺伝学的立場からの報告2~7)であり,リハビリテーションに関する報告8)はほとんどみられない.

 染色体異常のリハビリテーションについては,欧米ではDown症がよく研究され,社会への適応も実践されている.我が国においても同様で,各地の施設で積極的に治療が行なわれ,それなりの治療効果を挙げている.しかしながら,猫なき症候群に代表されるような,まれな染色体異常症に対する早期からのリハビリテーションは未だ十分検討されておらず,その方法はDown症のプログラムに準じて行なわれているのが現状である.こうした染色体異常症の症状は,個々の疾患と,個々の症例により異なる部分があり,したがってDown症のプログラムが適切でない場合もある.

 ここでは猫なき症候群の治療例を中心に述べ,われわれの行なってきた理学療法を検討する.同時に本症候群についても概説する.

毛細血管拡張性失調症の理学療法

著者: 辻清張 ,   坂後恒久

ページ範囲:P.330 - P.335

 Ⅰ.初めに

 毛細血管拡張性失調症(Ataxia telangiectasia,Louis-Bar syndrome)は主として神経系と免疫系の異常を主徴とする常染色体劣性遺伝を示す疾患である.

 臨床症状としては眼球結膜や皮膚の毛細血管拡張,細胞性および体液性の免疫能の低下による易感染性,神経症状などである.

 神経症状としては,進行性の小脳失調症,構音障害,深部腱反射減弱,不随意運動(choreoathetosis)などがみられる1)

Myelodysplasia(脊髄形成不全)の理学療法

著者: 川村博文 ,   石田健司 ,   山本博司

ページ範囲:P.336 - P.342

 Ⅰ.初めに

 Myelodysplasia(脊髄形成不全)の病態は複雑で運動麻痺,知覚障害,膀胱直腸障害などの多彩な障害を伴っていることが多く,これらに対する医学的なアプローチは各臨床科と連携をとりつつリハビリテーションを進めていく必要がある.特にimpairmentに対しては整形外科,脳神経外科,泌尿器科,外科,小児科などが出生直後から児の成長を先取りした適切な治療方針を立て実施していくことがたいせつである.同時に移動能力,ADL動作の獲得や保育園,小学校入学などのdisability,handicapへのアプローチが行なわれてこそ,障害をもちつつも社会に適応した社会生活を営むことができよう.

 本稿ではMyelodysplasiaの病態を解説し,われわれが経験した両下肢完全運動麻痺でかつ多発性の奇形を有する一症例の理学療法の経緯について述べる.

とびら

地殻変動

著者: 牧田光代

ページ範囲:P.295 - P.295

 理学療法士が日本に誕生して以来,この20数年の時代の変貌は目を見張るばかりである.日本の経済成長は,国民一人当たりの国民総生産がアメリカや西ヨーロッパを凌(しの)ぎ,世界で最高に近い生活水準を亨受しているとも言われる.それに伴う価値観の変遷や,コンピューター,バイオテクノロジー,通信手段移動手段の発達は,まるで空想小説の世界に導かれたような錯覚すら覚える.また人口構成比の変化,すなわち高齢化社会への移行も大きな社会変化と言えよう.

 これらの変化に伴い,理学療法業務でも対象,勤務場所,使用する機器など大きな変化が遂げられてきた.理学療法の対象は確実に高齢化が進んでおり,高齢者特有の複雑,多様化した病態に対する認識の上に立つアプローチが必要とされている.また内科管理を有する糖尿病,腎不全などの慢性疾患や心筋梗塞者への運動処方も行なわれつつあるし,アスレティックリハビリテーションへのかかわりも増している.健常者の健康増進への取り組みもなされ始めている.

クリニカル・ヒント

〈雑感〉臨床理学療法あれこれ

著者: 石橋朝子

ページ範囲:P.343 - P.344

 1.はじめに

 臨床ということばを広辞苑でみる.“病床に臨むこと”“病人を実地に診察・治療すること”とある.

 私は今,学校という臨床場面からは,かけ離れた場所で臨床理学療法士のタマゴを養成しているので,表題はそぐわないものがあるかもしれない.

 編集室からの「成書には無い,実践の中から得られたこつ,ポイント,ヒントをどうぞ」ということなので,生来の老婆心も手伝い,これまでの目につくまま,思いつくままを綴ってみたい.

 まず初めに臨床理学療法への思いから,現東邦大学教授のF先生の御ことばを,ここに紹介したい.F先生は私の前任地,東京都立養育院付属病院での,かつての恩師であり内科学(呼吸器)の権威でいらっしゃるが,ある日,訓練室でしみじみと以下のようなことを言われた.「あなた方が手一つで患者に接し,そこから潜在的,生理的な生体がもっている仕組みというものを,うまく引き出しながら,患者全体を,いきいきと活性化させてゆく様をみると薬物療法主体の西洋医学というものを考え直さねばなるまいナ」と.

 まことに理学療法士冥利に尽きるおことばをちょうだいしたものであるが,その後も年を経るごとに臨床理学療法の一面を語るものとして今もなお,実感を新たにするのである.その後も,しだいに,こうした考えが臨床医学の中に取り入れられて理学療法の位置づけも,治療医学の中に定着してきつつあるかに思える.しかし反面,こうした医療側の期待に対して,はたして臨床理学療法全般が,うまく,呼応しているであろうか.残念ながら未だしの感を拭(ぬぐ)いえないのである.

プログレス

向精神薬

著者: 融道男

ページ範囲:P.345 - P.345

 向精神薬(psychotropic drugs)には,主として精神分裂病に使われる抗精神病薬(以前は神経遮断薬とか,メージャー・トランキライザーとも呼ばれた.),うつ病に使われる抗うつ薬(躁病に使う薬はリチウムなどわずかであるが抗躁病薬と言う.),神経症に使われる抗不安薬が含まれる.精神科では,このほかにも睡眠薬,抗てんかん薬,抗痴呆薬などがよく用いられる.

PT最前線

日本に唯一の理学療法課―生みの親山本和儀氏の歩みとして 山本和儀氏

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.346 - P.347

 大阪府大東市は,奈良県に接する大阪市のベッドタウンである.大東市の誇るべき機能に理学療法課の存在が挙げられる.地域リハビリテーションの在りかたをみに,大東市にその誕生までを追ってみた.

あんてな

理学療法士・作業療法士の需給計画見直しについて

著者: 古川良三

ページ範囲:P.348 - P.348

 医療関係者審議会理学療法士・作業療法士部会(横山巌部会長)は「理学療法士・作業療法士の需給計画見直し」についての意見書を1988年9月文部・厚生両大臣に提出した.これはリハビリテーション医療を行なう上で,理学療法・作業療法の重要性が増大するとともに新たな需要要因が生じたことなどから,理学療法士・作業療法士の養成数の見直しを行なったもの.特に老人保健施設における需要増を考慮し,1989年度を目処に養成力を100名増加させる必要があると述べている.

講座 理学療法評価・5

運動機能の評価・1―成人;脳卒中片麻痺患者の運動機能評価

著者: 吉尾雅春 ,   松田淳子 ,   山﨑賢治

ページ範囲:P.349 - P.356

 Ⅰ.初めに

 脳卒中片麻痺患者の運動機能の評価法は,Brunnstrom,上田,Bobathら1~10)によるものをはじめ,われわれの知識としていくつか存在しているが,いずれも運動療法を行なう上で十分な情報源になっているとは言えない.すなわち,その結果はある運動や動作がなぜできないかという答を必ずしも示しているわけではない.それを考えることが評価であり,理学療法士の役割ではあるが,その運動障害は複雑であり,その質の部分を解説するに足りる知識をもち合わせていないのが現状である.

 脳卒中片麻痺患者の運動障害は多種多様であり,しかも検者の視点によってそのとらえかたはさまざまである.また,対象に高齢者が多いだけに,その臨床像をただ単に片麻痺としてのみ理解することは好ましい結果を導くとは言い難い.脳の障害部位や病前の活動などと合わせ,老化についても十分理解した上で,片麻痺としての運動障害の評価を行なう必要がある.その際,上下肢の機能もさることながら体幹や骨盤帯の運動機能が重要になってくる.

 上下肢の運動機能評価については諸家の方法に譲ることにして,ここでは頸,体幹,骨盤帯の役割などにふれながら,その運動機能障害のとらえかたについて述べる.

科学としての理学療法学・5

日常生活動作の評価,治療の科学的基礎

著者: 冨田昌夫 ,   宇野潤 ,   梅村文子 ,   吉村美紀子 ,   安藤徳彦 ,   水落和也 ,   佐々木和義 ,   小川亮 ,   宮森孝史

ページ範囲:P.357 - P.363

 Ⅰ.初めに

 ADL評価項目は患者が日常生活の中で遭遇する条件にできるだけ近づけ,しかも少しずつ違った側面から検討する目的で選ばれる.したがって項目はややもすると羅列的になりやすい.高橋1)によれば全国的に集めた80種の評価表に収録された評価項目は3388にも上ぼる.これら多くの評価表が何の関連も無く独自に使用されていたのが日本のADL評価の実状であった.厚生省特定疾患神経・筋疾患リハビリテーション調査研究班ADL分科会ではこれらの評価項目を全面的に検討し,整理統合したものをすべての障害に共通して使用可能な共通評価表試案2)として1982年に公表した.起居動作,移動動作,食事動作,更衣動作,整容動作,トイレ動作,入浴動作,コミュニケーションの八大項目に含まれる32小項目および社会的自立性より構成される.しかしこの評価表の標準化に至る作業は完了していない.

 これとは別にもっとも広く利用されているADL評価表の一つにBarthel Indexがある.障害者の自立度を手軽に評価でき,結果を数量化できること,および米国で標準化されたADL評価表ということで利用頻度こそ高いが,生活習慣や文化の違う日本で標準化されているものではない.したがって我が国には標準化されたADL評価方法は存在しないと言える.

 一方ADL評価表はその重要性が叫ばれながら臨床場面では意外に利用されていない側面がある.ADL評価では従来目的動作ができるか,できないかという自立度中心の評価に偏りがちであったためいくつかの問題点が指摘されてきた.例えば①障害の量的変化はとらえられても質的変化はみられない,②主観的要素が入りやすい,③統合された目的動作をテストするため障害の原因がつかみにくく何を評価しているのかわからない,などが批判の主な理由になっている.これらの批判をふまえて,私たちが臨床場面で行なうADL評価や治療を客観的でより科学的なものとするためにはどのような配慮が必要か述べてみたい.当病院作業療法科で行なったADL評価の検討もふまえて論を進めさせていただく.

1ページ講座 臨床検査値のみかた・5

「腎疾患」および「循環器疾患」

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.364 - P.364

 Ⅹ.腎疾患

 〔病態生理〕腎疾患の症候としては蛋白尿,血尿,浮腫,乏尿・無尿などさまざまにあるので代表的な蛋白尿について述べる.正常な糸球体では低分子の蛋白やごく少量のアルブミンが透過されるが,これらのほとんどは近位尿細管で再吸収されるので,尿中に排泄される1日の蛋白量は150mg以下であり,この中でアルブミンは約10mgである.尿蛋白の異常は糸球体性,尿細管性,溢流性に大別されるが,さらにHenle係蹄上行脚の尿細管細胞で産生されるTamm-Horsfall蛋白が加わる.これは正常人では1日30~50mg尿中に排泄される.

 蛋白尿は生理的蛋白尿と病的蛋白尿とに分けられる.前者には労作時や有熱時などに出現する熱性蛋白尿,運動性蛋白尿,食事性蛋白尿などが含まれ,腎血行動態の変化による直接的,間接的影響によるものと考えられる.病的蛋白尿はヘモグロビン尿,ミオグロビン尿,Bence Jones蛋白などの腎前性蛋白尿と,尿路感染症や尿路結石や腫瘍などによる腎後性蛋白尿と,本来の腎疾患による腎性蛋白尿とに分けられる.

書評

Steefel J著『嚥下障害のリハビリテーション:訓練と食餌計画の実際』―国立身体障害者リハビリテーションセンター 柴田貞雄監訳

著者: 前田真治

ページ範囲:P.335 - P.335

 食餌摂取機能は生命に直結している機能であり,生活の質を高める意味でも欠くことのできないものである.そこで,特に重症の成人の神経疾患や外傷患者にとって,この嚥下障害の諸問題はリハビリテーションの最終目標にもなりうる重要な問題となる.本書はこのような患者に対するSteefel J氏の長年の経験に基づき臨床的立場から書かれたものであり,ともするとくじけてしまいそうな嚥下障害という難問に取り組む意欲をわきたたせてくれる.

 著者の嚥下障害リハビリテーションの理念は患者の食生活を終生,どのように治療し保証していくかという長期的展望にある.

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文献抄録

ページ範囲:P.366 - P.367

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.370 - P.370

 『とびら』の中で,牧田氏が指摘されているごとく,全般的傾向としては,理学療法の対象患者は確実に高齢化している.だれもが一日でも長生きしたいと願っている.そして,温熱効果に悩む地球上で医療の恩恵をもっとも甘受しているのが日本人である.しかし,長寿社会を迎える医療を含む福祉制度は後手に回っている.

 一方,長寿社会にもかかわらず,それを体験できないかもしれない『先天性疾患』という十字架を背負って誕生する生命体がある.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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