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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル23巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

特集 通所・訪問リハビリテーションの技術

在宅身体障害者の生活指導―リハビリテーション援助に必要な生活構成要素の分析

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.374 - P.383

 Ⅰ.初めに

 “主体的な存在である人間”にとって,他人に指図されたり操作されたりすることは,受け入れ難いことである.人間にとっていちばん基本的な生きていくための毎日の生活の部分は,その人の主体性を裏付ける最後の砦(とりで)のようなものと言えよう.

 在宅身体障害者の“生活指導”の特性は,

 1)既存の生活を変革するための指導であること

 2)リハビリテーション(以下リハと略.)目標達成のための土台,すなわち,自己実現の基盤作りであること

 に有るとも言うことができる.

 と言うのは,“既存の生活観”で生活した結果,廃用症候群に陥ったり,“寝たきり”になったりした人,あるいは,機能低下の虞(おそれ)のある人が生活指導の対象であるからである.

 砂原は1),「リハ援助は,一人の人格としての障害者に対する全人間的接近であり,人間の価値の回復を目指すものであるから,単なる生物的人間ではなく,家庭的人間,社会的人間への到達を指向するのは当然である.」として,リハ関係者の日常の実践の足場としての“リハ理念”下での“技術”の重要性を述べている.

 この主体性という砦に迫る,生活指導の難しさは,「既存の生活を変える必要性を認識させること」にあり,どこまで生活を変える必要性を真にわかってもらえるかが,指導の効果を左右すると言っても過言ではない.

訪問指導の展開

著者: 鎌田ケイ子

ページ範囲:P.384 - P.389

 Ⅰ.初めに

 医療者が,病院を出て患者の家庭に出向くには,それなりの意識の転換を必要とする.なぜならば,現在の医療は医療者が病院で待っていても引きも切らず,自然と患者は病院を訪れてくるからである.しかし,実際に病院に出向けない患者が,家庭に置き去りにされている姿は,病院の中にいては,杳(よう)として見えないだけなのである.

 したがって,病院を出て患者の家庭に出向くには,見えにくい現実をあえて見ようとする医療者としての責任ある眼識と,さらには実際にそこに出向いていく責任ある行動力とが必要であろう.

 本稿では,今ここでなぜ,訪問指導が必要なのかを問うてから,訪問指導の実際の展開について述べてみたいと思う.

機能訓練事業の展開について―兵庫県稲美町での経験を通して

著者: 藤林英樹

ページ範囲:P.390 - P.394

 Ⅰ.初めに

 1987年10月に,兵庫県理学療法士会が老人保健法による機能訓練事業に協力している県下の理学療法士に対して,本事業に関するアンケート調査を行なった1).それによると,この事業で「ジレンマに陥っている」とか,「楽しみが無い」といった否定的な回答は38.1%であった.また,この事業で悩んでいる点として,展開方法が46.2%,概念や位置付けが30.8%,行政機関や他組織とのかかわりが28.2%で,これらが悩みの主たることであった.

 一方,1988年9月に,県下の機能訓練事業への参加者615名に対して意識調査2)をしたところ,この機能訓練事業に参加して良かった点として,友人ができた52%,身体の調子が良くなった45%,精神的に落ち着いた40%,といったように,心身両面にこの事業が役割を果たしている.

 理学療法士が本事業における基本的問題に悩みつつも,参加者にとっては有意義なものとなっており,評価されるべき事業であろう.

 こういう実態を踏まえ,稲美町での経緯を述べながら,機能訓練事業における理学療法士の姿勢についても考えてみたい.

機能訓練事業の展開

著者: 奥村愛泉

ページ範囲:P.395 - P.401

 Ⅰ.初めに

 1983年2月施行された老人保健法は,病気の予防・治療・リハビリテーションまでの一貫した保健医療サービスを総合的に行なうべく創設された.その中でわれわれ理学療法士にもっとも関係の深い機能訓練事業については従来病院・施設中心であったリハビリテーション関係者の眼を障害老人の住む地域へ向けさせたという点でその功績は大きいと言えよう.筆者自身常々「第三の医学」と称するリハビリテーションが治療医学の場でしか有効性を発揮できえぬことに疑問をもっていただけに,理学療法士の活躍する場が法的に地域の中で保証されたことを素直に喜んでいるものである.

 この事業が真に軌道にのれば理学療法サービスの充実に連なり,本来もつべき業務を取得しえたという感を強くする.しかしこのことは反面「われわれ自身が理学療法を単に病院・施設内治療で終わらせることなく,地域の生活の中にリハビリテーションを如何に展開し根づかせていくか」ということに連なる.すなわち在宅生活という地域の中で,老人保健法の中の社会的機能訓練をどのようにとらえ,実践していくかがわれわれ自身に厳しく問われているわけである.

 筆者は1975年初頭より長崎市を中心とした地域リハビリテーション活動(現在のリハビリテーション協議会・代表浜村明徳医師)に加わり,実践と検討とを重ねてきた.特に老人保健法施行以来,長崎県がリハビリテーション協議会に委託した機能訓練事業1)に携わる機会に恵まれ,従来リハビリテーションに縁の無かった長崎の離島(下五島地区)での機能訓練事業2)の展開の経験と,市町の保健婦のアンケート調査とから私見を述べてみたい.

保健所におけるリハビリテーション技術の展開

著者: 山田星三

ページ範囲:P.402 - P.408

 Ⅰ.初めに

 保健所において理学療法士としての立場で,今から何を,どう展開していったらよいのであろうか.もう目の前にすぐ超高齢化の時代が到来し,ますます多種多様な障害構造を背負った患者が増加している昨今である.地域には異なった境遇・生活環境で暮らしている人々が集まって社会を構成しており,そのような中にいる患者・家族に対する支援が保健所の主な仕事であることを再認識していなければならないだろう.

 したがって,理学療法士自身もそれらの多様な疾患に対して的確に対応し,それぞれに合った適切な指導ができる技能を備えていること,また,熱心な研究意欲と,しっかりと前向きに仕事をする姿勢とが必要になってくる.そこで,理学療法士が保健所で働き出すときに,背景として何が備わっていれば仕事が展開しやすいであろうか.

 (1)リハビリテーション思想の啓蒙と普及:社会一般に加齢も含めて身体的精神的に障害を負った場合,積極的に適切な考えかたの下,身体・精神機能の向上を目指してアプローチすることが望ましいという思想の啓蒙と普及.すなわち精神機能低下や,寝たきり老人にならないための手だてを知っていること.

 (2)住民の理解とリハビリテーションの必要性:リハビリテーション思想が普及していれば,地域の人々は健康教室や種々の検診にも積極的に参加するだろうし,また障害を負った場合でも,理学療法などが回復に十分に役だちまた必要なことを理解していること.

 (3)医療機関との協力と役割分担:その地域において,もうすでに公的総合病院,開業医院や保健所,それに福祉サイドの各種の施設間において理解が進んでいれば,おのずと各施設間の特色を生かした役割分担ができていく.しかし,この点においてはもうすでにさまざまの型で既成機関は系列化されてしまっていて,住民本位でない指導や紹介が往々にしてあるので,お互いに気を付けたい点である.

 (4)保健所の地域リハビリテーション活動に対する行政側の理解と処遇:1983年に老人保健法が施行されたことに伴い,全国の市町村は対応を迫られている.しかし,高齢者に対する対策としてどう取り組んでいくかは市町村において大きな隔たりがある.その中で保健所長自ら高齢者などに対する地域ケアネットワークづくりを基に,機能訓練事業をはじめとする各種の事業を意欲的に展開し,その成果を十分に発揮している保健所もかなり出てきた.当然そのような所では機能訓練事業に必要な予算も,働きかけと,理解によりかなり措置されている.

 (5)保健所内における理解と協力:理学療法士という職種は机を離れて現場で働いていることが多いし,熱心に働けば働くほどそうなってしまう.しかし,新しい発想で地域住民のために事業を展開するには,必ず予算が必要となる.この予算は長期・中期計画と言われる計画の中から多くは割り振りされるようで,また毎年の予算計画を必ず提出しておかないと当然予算化されないし,予算化されていないと後は,消耗品で処理できる程度の予算しかまわしてもらえないことになる.したがって,忙しい業務の間にも必ず他部署とのコミニケーションを交わして理解と,協力を常日頃から得ておくことがたいせつである(表1).

 私の経験からこれら五つのことが背景としてあれば申し分無いと言えるが,そのような地域・職場環境はなかなか望めず,やはり,理学療法士の努力が必要である.そこでさらに,理学療法士自身が保健所内で気持良く意欲的に仕事が遂行できていく背景を表2に経験的にまとめてみた.

 事務職員の方々の理学療法への理解程度はまったく素人のレベルであり,技術者同士においてやっと少しずつの理解と親近感が漂(ただよ)う.ただし保健婦との間の親頼関係は十分に深くないと仕事が表面上だけのことになってしまい,うまくいかないことを付け加えておく.

デイケアセンターにおけるリハビリテーション技術の展開

著者: 林幸治 ,   宮原龍司

ページ範囲:P.409 - P.413

 Ⅰ.初めに

 日本型高齢化社会は,さまざまな分野において従来とは異なる幅広い問題を提起している.

 リハビリテーション医療の果たすべき役割も,おのずと広がりが生じ,リハビリテーションの社会化が行なわれるようになってきている.現在の医療・福祉・保健の各分野が,それぞれの特性を十分に生かし,かつ各分野の連携ができうれば諸問題への解決につながり,豊かな社会が形成されるだろう.

 今日の老人福祉分野においては,収容を中心とした施設ケアから,在宅を中心とした施策が行なわれており,老人施設からの地域活動も積極的に試みられてきている.地域リハビリテーションを支える諸活動は,個々人が必要とする多様なニーズにすばやく対応せねばならず,地域の中での自立した生活を,多くの人々の理解と参加により,成り立たせていかねばならない.

 ここでは,在宅福祉サービスの一環としての当院で行なっているデイ・ケア・センター(以下,センターと略す.)におけるリハビリテーション活動にふれ,理学療法の現状と役割,理学療法士が参加しているグループ・ワークにもふれる.

とびら

生かされて生き,学ばされて学ぶ

著者: 米田睦男

ページ範囲:P.373 - P.373

 釈迦のことばに「人間は生きているのではなく生かされているのだ」とある.それは太陽や水や空気がなければ1日たりとも生きていけないことからしても証明される.

 このことは,われわれ理学療法士の世界にも通用することばである.患者や障害者を治しているといった意識はまさしくこの生きている図式に当たる.ほんとうは,患者さんや障害者の方から学んでいる(教わる)ことのほうが多い現実を認めざるをえない.つまり生かされている図式である.

1ページ講座 臨床検査値のみかた・6

「電解質異常」および「呼吸器疾患」

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.414 - P.414

Ⅱ.電解質異常と酸塩基平衡異常

 〔病態生理〕体液量の変化を伴うものとしてナトリウム(Na)過剰は浮腫により,Na欠乏と水欠乏とは脱水症により,水過剰は抗利尿ホルモン分泌抑制などにより生じる.血清電解質濃度の異常は各正常値との対比で高Na血症とか低Na血症などと呼ばれる.酸塩基平衡の異常は呼吸性変化によるものと代謝性変化に伴うものとがある.血液pHが酸性側に傾く病態をアシドーシス(呼吸性,代謝性),アルカリ側に傾く病態をアルカローシス(呼吸性,代謝性)と呼ぶ.

プログレス

アラキドン酸カスケード

著者: 鈴木啓文 ,   賀来正俊

ページ範囲:P.415 - P.415

 筋肉,骨,脳,神経を含む全身のほとんどすべての臓器細胞について言えることであるが,細胞がホルモンや化学物質,物理的作用などの刺激を受けると,主にホスホリパーゼA2という酵素が活性化されて,これが細胞膜のリン脂質に結合したアラキドン酸を細胞内へ遊離させる.さらに,このアラキドン酸は次の三つの経路で代謝されて,以下の物質が生成される.

 ①シクロオキシゲナーゼ経路:プロスタグランジン(PG),トロンボキサン(TX).②リポキシゲナーゼ経路:HPETE,HETE,ロイコトリエン(LT),リポキシン(LX),ヘポキシリン(HX)など.③チトクロームP-450経路:エポキシド(EET),ω-水酸化-アラキドン酸など.これら全体の代謝図は,あたかも滝が流れの筋を広げながら落ちていくようすに似ているので,アラキドン酸カスケード(Arachidonic acid cascade;AC)と呼ばれている.一般に炭素数20個の多価不飽和脂肪酸(複数の二重結合をもった脂肪酸)をエイコサノイドと総称するが,そのカスケード(Eicosanoids cascade)の前駆物質には,それぞれ,三つ,四つ,五つの二重結合を有するジホモ-γ-リノレン酸,アラキドン酸,エイコサペンタエン酸があり,おのおの1(PGE1など),2(PGE2など),3(PGE3など)の三つのシリーズのカスケードをなす.その中で最も多く研究されているのが,2シリーズのACである(是非ACを雑誌1~3)で御覧ください).

PT最前線

東京都の機能訓練モデル事業―機能訓練施設として,モデルとして 真壁寿氏

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.416 - P.417

 1983年10月13日,東京都八王子保健所の東側敷地で工事が始まった.160日ばかりの後,延べ床面積280.977m2(1階185.495m2,2階95.482m2)の鉄筋コンクリート造りの建物が完成した.1984年3月23日のことだった.1階部分には機能訓練室を,2階部分には二つの作業訓練室を備えるこの建物の正式名称は「東京都八王子保健所機能訓練棟」である.

あんてな

義肢装具士国家試験の結果

著者: 加倉井周一

ページ範囲:P.418 - P.418

 義肢装具士法の制定と施行に基づく第1回経過措置指定講習会と国家試験が(財)テクノイド協会の下で昨年実施され,ここに735名の有資格者が誕生した.この間の経過と新しい資格制度についてはすでに本誌23巻2号に紹介されているし,最近では日本義肢装具学会誌(5巻2号)が「義肢装具士の生涯教育」という特集を組んでいるので興味をおもちの方は参照されたい.

 ところで第1回の国家試験であるが,内容は5題の主観式問題と50題の客観式テストとから成っており,平均の合格率が予想していよりも高いこともあって,第1回としてはいささかやさしすぎたのではないかという意見もあるようである.しかし今回の経過措置指定講習会の受講者の平均年齢44歳,平均経験年数20.4年という背景を考えるならば,受験者が満を持して準備したということを考える必要もあると思われる.

講座 理学療法評価・6

運動機能の評価・2―小児;小児神経発達学的治療における感覚運動障害の評価

著者: 河村光俊

ページ範囲:P.419 - P.424

 Ⅰ.初めに

 運動機能を評価する目的は①発達を停滞もしくは停止させている要因を発達運動学的・神経発達学的にとらえ,②早急に抑制すべき異常姿勢と異常運動とを明確にし,③早急に獲得すべき運動要素を明確にし,④機能的活動の獲得のための理学療法の計画・実施において,仮説とその実証を臨床的に確認し,理学療法の効果の考察を行なうことである.この視点に立って運動機能評価を計画もしくは選択しなければならない.理学療法士は日々の臨床でこのことを意識的もしくは無意識的に繰り返していると言える.

 ほとんどの評価スケールは発達に問題をもつ子どもの診断と評価のために計画されているが運動学的要素を評価するようにはなっていない.すでに多く報告されている小児の運動発達・精神発達評価は直接理学療に結び付くものではなく,主として早期診断や発達診断のための評価であり1~3),中枢神経系障害の子どもや発達遅滞の子どもの運動要素を質的に評価し,具体的に運動療法に役だてるようには計画されていない.そのため,今までに多くの運動機能評価法が諸家から報告されているが,それらの目的を理解して使用する必要がある.

 現在日本において報告されている小児の運動機能評価のほとんどが検者間の信頼性とテストの再現性(test-retest reliability)とについて検定されていない.欧米では多くの運動発達検査に対して検査の検者間の信頼性や評価の再現性についての研究報告が必ずと言ってもよいほどなされている.そして,標準化されていないことや,検者間の一致度,テスト結果に対する解釈の不備などを徹底して批判していることもある4~7)

科学としての理学療法学・6

物理療法の科学的基礎

著者: 杉元雅晴

ページ範囲:P.425 - P.431

 Ⅰ.初めに

 理学療法には,物理療法,運動療法,義肢・装具療法と日常生活動作訓練・指導がある.しかし,その中の治療手段の一つである物理療法が最近軽視されていることは問題である.

 物理療法の特性は,対症療法である.対原因療法でないため,その効果の持続時間もほぼ治療時間に等しくなる.このような治療の特性を理解しないまま,過大な治療効果を期待して,持続的な効果を得られないからといって,その現象を嘆き,物理療法を軽視することが問題の起源と考えられる.

 そこで,この小論では物理的刺激による生体の反応について考えることにより,それがいかにして治療効果に結び付くのか,それらのメカニズムを中心に述べてみたい.

クリニカル・ヒント

腰痛の再発予防対応策

著者: 内田順市

ページ範囲:P.432 - P.432

 1.初めに

 日常生活を行なう際に,自分では気付かない多くの癖をもっている.これらの癖と仙腸関節,脊柱骨格との間には,何らかの関係が存在してもおかしくない.

 臨床場面では,股関節の変位と角度の異常とは直接的に骨盤に影響を及ぼし脊柱に至り,体幹の回旋と全身の筋の偏在,ならびに異常緊張を生じさせ,形態上では左右,下肢の長短,(内外)旋,転の差異となり,歪みの主なる原因の一つとなり,腰痛への起因となっている.また,手技療法で痛みを解消させても,すぐ再発してくる症例が,施行患者の何%かにあることも事実である.そこで,手技療法後,「ハイ,オサラバ」では無責任すぎるので,私の経験から,日常の不良姿勢と,その指導ポイントについて,述べてみたい.

紹介

MATRIX SEATING SYSTEMの使用経験とその適用について

著者: 弓削類 ,   前田真一 ,   三秋泰一 ,   山崎俊明 ,   鏡田智美 ,   井上昭 ,   河村光俊 ,   立野勝彦 ,   野村忠雄

ページ範囲:P.433 - P.435

 Ⅰ.初めに

 坐位は,食事,排泄,入浴動作や休息などの日常動作において欠くことのできない基本姿勢である.しかし,臨床場面において坐位保持が困難な障害者(児)が多く見かけられる.近年,それらの坐位が困難な障害者(児)対し,「装具」という観点から,坐位保持用いす,車いすの開発が進んでいる.今回われわれは,自力で坐位が不能であった症例に対し,ロンドン大学で開発されたMATRIX SEATING SYSTEM(以下,MSSと略す.)のいすを使用したところ坐位装具として有用であったので,ここに症例と併せて紹介する.

書評

大阪市立大学島津晃・浅田莞爾編集―『バイオメカニクスよりみた整形外科』

著者: 灰田信英

ページ範囲:P.437 - P.437

 生体の営みを力学的な原理に基づいて理解しようとして医学,生物学と,工学の分野を統合して誕生したBiomechanicsという呼称はBiologyとMechanicsとの合成語として作られたものと解される.そしてこの分野の研究は現在,非常に広範な領域を包含して,かつ急速な発展を遂げ,われわれに大きな学問的成果を提供している.

 本書の成り立ちは大阪市立大学医学部整形外科学教室の開講40周年を記念して,同門会員が集いバイオメカニクスの知識に基づいた整形外科妻の入門書として刊行されたものである.その内容は,整形外科が対象とする人体運動器官について,力学的な理解の基礎となる事項を平易に説明し,整形外科医として将来,専門的な研究を行なう場合のバイオメカニカルな考えかたの基礎を提供しようという意図で書かれたものである.

 全体は14章から成り,37名の筆者による451ページのやや重厚な本である.

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文献抄録

ページ範囲:P.438 - P.439

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.442 - P.442

 新年度の慌しさも一段落し,希望に溢れるさわやかな季節となりました.新理学療法士諸氏はいかがお過ごしですか?国家試験の発表でホッとしたのもつかの間そろそろまた勉強しなくてはと気がかりな時期かと推測します.何事も初めが肝心で職業人としての良い習慣も悪い習慣も初めの1年間が鍵を握っています.大学病院における医師の研修の厳しさと一年後の生長ぶりには驚嘆させられます,残念ながら理学療法士の卒後教育はまだ自己研修に依存しており,そのため,初めの1年の意識と行動で大きな格差が生じやすいようです.

 医学の進歩は日進月歩で理学療法も例外ではなく,それに遅れないためには専門誌に目を通すのがいちばん良いとされています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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