Werdnig-Hoffmann病のリハビリテーション―慢性経過型および早期発症型について
著者:
大川弥生
,
木村伸也
,
江藤文夫
,
上田敏
ページ範囲:P.599 - P.606
Ⅰ.初めに
Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy)に属する疾患である.本症の疾患概念については,最初の報告であるWerdnig1,2),Hoffmann3,4,5)の例が,比較的慢性経過をとるタイプであったにもかかわらず,急性致死性であると一般的に考えられた時代があった.その後,良性経過をとる若年性脊髄性筋萎縮症であるKugelberg-Welander病が報告されてからは,Werdnig-Hoffmann病の慢性経過型が強調6)されるようになった.そして,1970年代以降の脊髄性筋萎縮症を分割・分類して考える傾向の中で,主にその発症年齢・生命予後・坐位獲得の有無などの臨床上の特徴から,Werdnig-Hoffmann病を早期発症型(狭義Werdnig-Hoffmann病)と慢性経過型とに分類7,8)して考えることが現在一般的に認められている.例として,表1にEmeryの1981年に改変した脊髄性筋萎縮症の分類を示すが,このうちinfantile typeとintermediate typeとをWerdnig-Hoffmann病と診断し,以外をKugelberg-Welander病とすることが多い.
このように本疾患は急性致死性疾患であるという考えかたが一般的な時代が長かったためか,乳児期発症の進行性筋萎縮性疾患ではもっとも頻度の高い疾患の一つでありながら,リハビリテーションの対象疾患として重要視されることが遅れたと言ってよい.しかし本症のうち,特に慢性経過型(例えばEmeryの言うintermediate type)は,疾患と障害が共存し,長期的フォローが必要な意味からもリハビリテーション上重要な対象疾患として認識されるようになってきており,われわれも臨床経験を報告している9,10).しかし一方従来急性致死性とされていたタイプ(例えばEmeryの言うinfantile type)も,その最大の死因であった呼吸器感染・呼吸障害の医学的管理技術の向上により延命が可能となってきている.そしてそれにより,リハビリテーションの対象として今後より重要視されなければならないものと考えられる.
本稿ではまず,従来われわれが行なってきた慢性経過型の運動能力および社会的側面についての障害学的研究の最新のデータを紹介し,次いで,最近われわれの経験した,レスピレーター管理下に生存している早期発症型2例の症例を呈示し,本疾患のリハビリテーション・プログラムについて考察を加えることとしたい.