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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル24巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

特集 起居動作

起居動作総論

著者: 安藤徳彦

ページ範囲:P.432 - P.434

 Ⅰ.用語について

 起居動作をkey word集で渉猟してみても,起坐・起立・歩行などの個別具体的な動作を示す用語はあるが,「起居動作」ということばを見つけることはできない.代表的な教科書の類も,脊髄損傷や脳卒中片麻痺の各論中に動作訓練の方法が記載されているのみで,総論の章に歩行という項目は設定してあっても,起居動作というものを総括的に取り上げたものは見付からない.

 ベッドやいすを利用する生活環境では,三次元空間での上下方向の移動距離は少なくて済むのに対して,日本のように屋外と屋内との間にすでに高い段差があり,室内でも畳を利用し,便所や風呂の構造も特殊な環境ではそうはいかない.しかも上下方向の移動だけでなく,狭い・掴(つか)まれない・改造できないなどの固有の問題も多い.以上のように考えると,少なくとも,日本の特殊な居住環境では,総論的な検討が不可欠であろうと思う.

起居動作と福祉機器

著者: 廣瀬秀行

ページ範囲:P.435 - P.440

 Ⅰ.初めに

 最近いろいろな種類の福祉機器が開発されている.これには,社会が高齢化社会に対する取り組みの中で福祉機器に注目し始めたことや,リハ工学カンファレンスでの福祉機器コンテストやデザイン博での車いすデザインコンペ,また福祉機器デザインコンペなどのコンテストが多くなったのも一因であろう.なかなか使用しにくい福祉機器が,多くのアイディアから少しでも障害者にとって使いやすいものが生まれる良い機会である.

 しかし,多くの福祉機器が誕生しそれが有効であっても,個々の障害者の状況が異なるので機器の選択には注意が必要である.その機器が有効に活用されるには,十分な機器のハードとソフトの情報を得て,なおかつ実際に使用できることが必要である.そして,それらの多くの選択肢から専門家の意見を聞き,選ぶことができ,またアフターケアーも可能な機関が必要である.このような機関が早急に全国各地にできることが望まれる.

 さて,福祉機器は使用される環境と障害者の能力とに関係する.障害者の能力に限界があれば,環境を変えるか福祉機器を使うかであるが,機器は環境に非常に影響される.特に移動については畳と段差とはその致命的な影響を与える代表である.

 例えば,車いすに60kgの人体模型を載せ,床を変えたときの静止時から動き始めたときの引っ張り荷重を測定した.また,段差を乗り越えるための高さを中心に操作性を検討した.使用した床は,畳の代わりに泥落としマットと滑らかなコンクリートである.コンクリート上では1kg・fであったのが,マットでは4kg・fと増加していた.また,段差がスムースに乗り越えられるのは10mmまでであった1)

 このように,機器を使用すれば無限の可能性があるわけではないことを明確にし,同時に建築を合めた環境側との効率の良い共存が必要である.

片麻痺患者の起居動作―在宅患者の起居動作と介助者の労作を減少させるための指導とくふう

著者: 井口恭一

ページ範囲:P.441 - P.445

 Ⅰ.起居動作とその指導の問題点

 在宅患者の訪問指導をする中で,運動機能面から能力があるにもかかわらず,起居動作さえも満足にできないケース,できても動作自体が拙劣で,かつ次の動作に生かされないケースをみかける.高次脳障害,痴呆,意欲の欠如などを除くと,動作の型,方法に問題がある場合が多い.これらの運動機能面を観察してみると,次のような共通点がある.

 各動作の中で①首を反るため動きづらくなる

 ②体幹を反るため体全体が一枚の板のように固く動きづらくなる.

 ③健側の手足が体幹の回転などの動きを助ける力とならない.

 ④(動作ができても,本人にもって大きな労力を要するので,動かない)(運動機能面に入れていいか問題あるが)

Parkinson病患者の起居動作の指導とくふう

著者: 増本正太郎 ,   福本美和 ,   福元賢吾

ページ範囲:P.446 - P.452

 Ⅰ.初めに

 Parkinson病は体軸内回旋の乏しい小刻みな歩容を呈し,加速歩行・すくみ足など特有の歩行障害で知られる.このほか「体に板が入ったように重く感じ」られ,寝返りや起き上がり動作が困難になりやすく,歩行障害にも増して問題になることが多い.まずParkinson病患者の起居動作障害の特徴について述べ,障害の進行段階に応じた対応を考えてみたい.

四肢麻痺患者の起居動作の指導とくふう

著者: 椎野達

ページ範囲:P.453 - P.457

 Ⅰ.初めに

 頸髄損傷者の起居動作は,大きく二つに分けられる.一つは床上動作,もう一つは車いす上の動作(躯幹の前屈,起き上がり,下肢のコントロールなど)である.この動作は日常生活動作(トランスファー,更衣動作,排尿・排便動作など)の基礎動作となり,非常に重要な動作と考えられる.しかしこれらの動作を獲得するためには,半年から1年の基礎体力作りのためのトレーニング期間と1年以上の動作訓練期間が必要であり,この間理学療法士と患者はマラソンランナーのように短期目標を幾つも設定し,訓練をしながら忍耐と努力の日々をゴールを目指して送らなければならない.この基礎体力作りの期間がもっとも重要であり,この間の努力の結果として,何らかの動作能力が獲得できると考えられる.

 一つの動作を獲得するためには,筋力と持久力,そして四肢および体幹の柔軟性および動作の習熟が必要である.このとき,人間は考える葦であり道具を使ったり,くふうすることで動作の獲得が容易になる場合も多い.

 頸髄損傷者の動作訓練のポイント,器具,車いす処方上の考慮点などについて,Zancoliの分類表(せき損センターの判断基準を用いる.)に基づいて述べる.その際起居動作をはじめ各種の動作は,stabilityを確保して初めてmobilityが生じるので,この点に注目して,以下,床上動作訓練,車いす動作訓練,トランスファー,頸髄損傷者用車いす処方上の考慮点について述べる.

リウマチ患者の起居動作の指導とくふう

著者: 川西雄三郎 ,   高木章好 ,   伊藤正彦 ,   杉山寿美子 ,   羽根田匡代 ,   浅井克己 ,   吉田勝彦 ,   廣林達也 ,   川極由里香

ページ範囲:P.458 - P.461

 Ⅰ.初めに

 慢性関節リウマチ(以下,RAと略.)は非化膿性の慢性関節炎を主症状とし,他の全身症状や多くの関節外の炎症症状を有する全身性疾患である1).そのためRA患者の起居動作の指導においては,痛みに注意を有することはもちろんであるが,特に関節への影響に注意を要する.起居動作において,現在どの動作ができないのか,またそれが何故できないのか(疼痛のためか,拘縮のためか,筋力の低下のためか,朝のこわばりのためか,また全身症状のためかなど)要因はいろいろと考えられる.また,現在,動作は可能だがこの動作により将来関節への悪影響を与えるおそれは無いか,また他の関節部位への影響はどうかなどをセラピストは考慮しながらRA患者に起居動作を指導する必要がある.しかし患者に将来,関節に悪影響を与えるおそれのある動作を行なわないように指導しても,なかなか守られない.それは起居動作が,人が生活していく上で必要不可欠な動作であるからである.RA患者は他の疾患と違って,多くは徐々に進行し,起居動作が困難になっていく.その間RA患者は,自身の筋力低下や関節可動域の減少などを身体で自覚し,できるだけ疼痛を誘発しない方法を自らくふうする.セラピストは,RA患者がその自らくふうした起居動作を寛容に受け止めながら,他の関節への悪影響を考慮し指導する.

 本稿では特に頸椎に異常を認めたRA患者に対しての起居動作の指導と,当院で行なっているRA患者全般に対しての起居動作の指導を述べる.

とびら

ひとりごと

著者: 松永義博

ページ範囲:P.431 - P.431

 1965年,理学療法士・作業療法士法が公布され,翌年理学療法士,作業療法士が誕生して早くも20余年になる.この間諸先輩の努力で,リハビリテーションということばも今や,世間で当たり前のように使用されるようになった.

 しかしその内容たるものはどうであろうか?

クリニカル・ヒント

身体代償機構の理解の重要性―肩と股関節の場合

著者: 嶋田智明 ,   武政誠一 ,   講武芳英

ページ範囲:P.462 - P.462

 人間の身体が単なる機械と異なる大きな点は,それが実に精巧な代償機構を備えた自動制御装置であるということである.

 例えば,肝硬変のため門脈血が通過して下大静脈に流れ込むことが困難なときには,臍傍静脈や腹壁皮下静脈の吻合を利用して前腹壁に向かって血液は流れ,腋窩静脈などを介して心臓に戻るために,臍を中心として静脈が著しく怒張する.これは,病理学の講義でおなじみのMedusaの頭(Caput Medusae)発生機序である.

入門講座 関節の運動学と運動療法・1

股関節

著者: 中山彰一

ページ範囲:P.463 - P.470

 Ⅰ.初めに

 ヒトの股関節は四足起立から二足直立歩行の進化の過程において,支持性・安定性と相反する運動性という機能を満足せねばならない宿命を有してきた.このため股関節は,構築学的・生体力学的に有利な面と弱点とを共有することとなった.この構築学的・生体力学的弱点は小児・成人・老人にみられる股関節疾患の病態と治療方針に深く関連しているため,機能解剖・運動学・生体力学の知識が重要,不可欠となる.

 本稿は入門講座ということで,股関節の機能解剖・運動力学と股関節疾患に対する運動療法の基本事項のみについて述べる.

講座 人間関係論・1

人間関係論

著者: 八重澤敏男

ページ範囲:P.471 - P.475

 Ⅰ.社会的動物としての人間

 人間が社会的動物であるとは,すでに多くの研究者の指摘するところである.その理由として,次の四点が挙げられる.

 ①社会が存続していくためにはその構成員である人間が再生産されていなければならない.人間が社会という集合体に属していることにより,社会は安定的に維持される.

1ページ講座 福祉制度の手引き・7

更生医療・育成医療・老人医療

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.476 - P.476

 1.初めに

 身体上の障害を軽減し,日常生活を容易にするために医療が必要なときは,成人の場合(18歳以上)は更生医療,児童の場合は育成医療が受けられます.医療は現物給付が原則となっていますが,実際は国民皆保険制度により,全員が医療保険に加入していますので,医療保険の給付の残額(本人負担分)に対する給付を受けることになります.

 ただし他の公費負担制度(老人保健,難病特定疾患医療費,生活保護法による医療扶助制度など)がある場合は,そちらが優先されます.また本人や扶養義務者は一定以上の所得がある場合は,所得に応じて費用の一部を負担します.負担額は補装具の場合と同じ表が使われます.

 *更生医療・育成医療を受けることができるのは,厚生大臣,知事,指定都市市長の指定する,更生医療指定医療機関,指定育成医療機関に限りますので注意が必要です.

プログレス

難治性骨折に対する電気刺激療法

著者: 井上四郎

ページ範囲:P.477 - P.477

 1.直流電気刺激法

 1)電極を外部より刺入する方法(semi-invasive法)

 1800年にVoltaが電池を発見して間もない1812年にはイギリスのSt Thomas病院のBirchが骨折の治療に直流電気刺激を実施したとの報告など,古くより電気刺激は試みられたが,電流量などの正確な記載がなく,おそらく1mA以上の電流が流れていたことが想像され,骨癒合には不利であったと考えられる.前述したように電流量を規定した科学的な電気刺激療法は,1953年に本邦の保田に始まった.

 まず,軟部組織の電気抵抗が小さいため陰極の軟部組織貫通部はTeflon coatingで絶縁してある.陽極はスレンレスティールでは錆びる(酸化する)ため,井上はカーボンファイバー製を採用した.Brightonは皮膚電極を使用している.陰極は眉折部の電気刺激に反応すると思われる骨片に1~4本刺入し,陽極は少し距離をおいて刺入する.

PT最前線

一人一人の子どもに丸ごとかかわる―養護学校で250名を相手に奮闘中 佐藤秀紀氏/<証言>まちがいの無い男

著者: 本誌編集室 ,   工藤俊輔

ページ範囲:P.478 - P.479

 工業高校電気科を出て,大学は法学部.ちょっと毛色の変わった出身である.老人を追い続け,子どもたちを深く知るために筑波大学夜間大学院に学ぶところまで来てしまった.都心では得られない広々とした,自然の残る町田市の町田養護学校に佐藤氏をお訪ねした.

あんてな

障害児保育の現状

著者: 杤尾勲

ページ範囲:P.480 - P.480

 心身障害児の福祉対策は,施設福祉や在宅福祉の観点から多様な施策が講じられているが,特に就学前の児童については,保育所も障害児保育を通じて福祉対策の一環を担っていると言える.

資料

第25回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1990年度) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 大橋ゆかり ,   薄葉眞理子 ,   谷浩明 ,   藤井菜穂子 ,   竹井仁

ページ範囲:P.481 - P.485

報告

NICU入院児の運動機能検査結果とその後に運動障害を呈した患児の検討

著者: 吉田ゆかり ,   辻清張 ,   坂後恒久 ,   平谷美智夫 ,   若林正三郎 ,   足立壮一 ,   生田敬定 ,   福原君栄 ,   春木伸一

ページ範囲:P.487 - P.491

 Ⅰ.初めに

 欧米では1970年代後半より未熟児,新生児に対する理学療法が行なわれており,その効果も報告されている1,2)

 本邦でも,小児の理学療法が肢体不自由児施設だけでなく一般病院でも実施されることが多くなり,新生児室や新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit;NICU)への導入も積極的に行なわれるようになった.宮腰らは危険因子の高い未熟児に対し,NICU入院時より理学療法を実施した結果,修正月齢では正常範囲の運動発達を得たことを報告している3).また,江連らはNICUでの胸部理学療法の方法と効果について述べている4).しかし,新生児期より障害の有無やその予後を判断することは難しく,またどのような状態から理学療法の対象とするかなど不明が点も多い.

 筆者らは,1986年9月より隣接の福井県立病院NICU入院児に対し理学療法を実施しており,退院後も当センターにて治療継続している.

 本稿では,著者らが行なっているNICUにおける理学療法を紹介するとともに,過去2年間に運動機能検査を行なった児の中で,運動障害をきたす可能性が高いと判断し運動療法を施行した児と,実際に障害を残した児に関する運動所見を比較検討したので報告する.

青壮年および老人のROMの考察―健常人男性下肢・脊柱のROMについて

著者: 武政誠一 ,   嶋田智明

ページ範囲:P.492 - P.495

 Ⅰ.初めに

 関節可動域(Range of motion,以下ROMと略.)の計測は,整形外科や医学的リハビリテーション領域の診療に際して必須の検査項目である.その点からしても,健常者の可動域を知ることは重要である.

 健常者のROMについては,1914年,10名の兵隊の四肢の主要関節および体幹の計測について柏1)が報告している.また,Glanvilleら2)も同様に10名の健常男性を対象にした四肢の主要関節および体幹の計測について報告している.その後も多くの報告があるが,これらも含めこれまで報告されてきたROMは,母集団の年齢に偏りがあること,計測方法も発表者によって異なることから,その値を相互に比較することは困難であった.こうした中で,ROMの測定方法について,1974年に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会の両学会が,American Academy of Orthopedic Surgeon3)(以下,AAOSと略.)を骨子とした,解剖学的基本肢位を0°としたZero-strating positioningを採用して,ROMテストを公示した4).しかし,このテストは,実際臨床場面で使用する理学療法士や作業療法士のみならず,教育の場においてですら合点のいかない点が多く指摘され,1984年に日本理学療法士協会・作業療法士協会により,ROM計測法が検討され,最終的に「ROM計測の手引き」(以下,協会法と言う.)が発表された5).しかし,いずれの計測法も,その正常値は,その一部がAAOSそのものの引用であったり,我が国の人々を対象とした年齢,性別,左右差についての考慮がされているとは言えない.

 そこで今回われわれは,87名の健常男性を18~25歳未満・25~60歳未満・60歳以上の三群に分け,おのおのの下肢主要関節と脊柱のROMを計測し,比較検討するとともに,若干の文献的考察を加えて報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.496 - P.497

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.500 - P.500

 本誌の特集企画者として,起居動作ということばの英文表現をいろいろ探してみたが,見付けることができなかった.

 日本の和風生活,つまり畳の上での生活は我が国特有のものである.起居動作を表すことばとして,立居振舞があるが,これはまさしく畳をもつ生活様式の中で生まれたことばであろう.つまり畳文化の中で使われる起居動作は,欧米のいす中心の生活とは明らかに異なった意味をもつものであろう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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