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文献概要
講座 人間関係論・2
患者・家族と理学療法士との人間関係
著者: 桝田康彦1
所属機関: 1大阪暁明館病院
ページ範囲:P.542 - P.545
文献購入ページに移動 Ⅰ.初めに
理学療法学は,自然科学を基礎とした学問である.自然科学は自然を対象とし,それに働きかけ,それを変化させることを合理的・合法則的に考え,理解しようとする.同じく,理学療法学は,障害をもった人を対象とし,それに働きかけ,それを変化させることを合理的・合法則的に考え,理解しようとする体系と言える.
しかし,われわれが対象とする人間は,科学的・論理的な思考とは別に,もともと非論理的思考をもつ存在である.そして,この非論理的思考が,潜在的な形で人間の活動に個性を与え,個々の人間性を彩っているのである.同様に,われわれ理学療法士も人間として,非論理的思考をもつ存在である.したがって,われわれのもっとも基本的行為である,科学的な理学療法を患者に提供するとき,それを,より効果的にするためには,より良い患者と理学療法士との人間関係を築くことがたいせつであることは言うまでも無い.
患者と治療者との関係については,医療が始まった時代から注目されてきた課題の一つである.ギリシャ時代の聖医と言われているHippocratesが,熟練した医療技術によって患者の信頼を勝ちえたことは歴史的事実である.しかし,この技術だけが唯一の理由ではなかった.彼らが残した著書1)の一つに,医者が患者の信頼を得るために必要な非科学的基準が詳細に述べられている.「医者の服装は上品で清潔でなければならないし,品の良い香水をふりかけておいたほうが良い.…医者は正直な規則的な生活をいとなまねばならないし,まじめな態度を保ち,思いやり深くしなければならない.また,こっけいな,あるいは不公平な態度や極度の貧困生活は避け,…」「面接に際しては厳粛で,しかも飾り気無しに鋭敏に対処し,解答は速やかに為し,反論は確信をもって行ない,機知がよく働き,愛想う良くすべての人に気嫌良く対応し,困難に直面しても沈着に行動し…」等々内容は細部にまでわたっており,彼らが,いかに治療を効果的に行なうために,患者から信頼されることをつねに心がけていたかがよくわかる.
近年においては,医師の専門分化,技術優先の医療への反省,慢性疾患の増加,QOL思考の広まりなどから,患者と治療者との人間関係の重要性の認識が高まり,これに関する文献も数多く出版され,患者と治療者との人間関係が科学的に分析され,臨床の場に応用されつつある.しかし,理学療法士の教育機関のカリキュラムには,臨床心理学の科目はあるものの,基礎的知識の講義に留まることが多く,臨床場面において必要な,患者および治療者の心理,さらには患者と治療者とのコミュニケーションの取りかた・技術まで教授している所は少ないようである.これらについてはもっぱら自己の体験を通して学び,徐々に修得せざるをえないのが実情である.これは,患者の立場からみれば,不満要素の一つであろう.しかし,われわれは,このような現状に甘え,患者との成熟した人間関係の修得を怠ってはならない.
理学療法学は,自然科学を基礎とした学問である.自然科学は自然を対象とし,それに働きかけ,それを変化させることを合理的・合法則的に考え,理解しようとする.同じく,理学療法学は,障害をもった人を対象とし,それに働きかけ,それを変化させることを合理的・合法則的に考え,理解しようとする体系と言える.
しかし,われわれが対象とする人間は,科学的・論理的な思考とは別に,もともと非論理的思考をもつ存在である.そして,この非論理的思考が,潜在的な形で人間の活動に個性を与え,個々の人間性を彩っているのである.同様に,われわれ理学療法士も人間として,非論理的思考をもつ存在である.したがって,われわれのもっとも基本的行為である,科学的な理学療法を患者に提供するとき,それを,より効果的にするためには,より良い患者と理学療法士との人間関係を築くことがたいせつであることは言うまでも無い.
患者と治療者との関係については,医療が始まった時代から注目されてきた課題の一つである.ギリシャ時代の聖医と言われているHippocratesが,熟練した医療技術によって患者の信頼を勝ちえたことは歴史的事実である.しかし,この技術だけが唯一の理由ではなかった.彼らが残した著書1)の一つに,医者が患者の信頼を得るために必要な非科学的基準が詳細に述べられている.「医者の服装は上品で清潔でなければならないし,品の良い香水をふりかけておいたほうが良い.…医者は正直な規則的な生活をいとなまねばならないし,まじめな態度を保ち,思いやり深くしなければならない.また,こっけいな,あるいは不公平な態度や極度の貧困生活は避け,…」「面接に際しては厳粛で,しかも飾り気無しに鋭敏に対処し,解答は速やかに為し,反論は確信をもって行ない,機知がよく働き,愛想う良くすべての人に気嫌良く対応し,困難に直面しても沈着に行動し…」等々内容は細部にまでわたっており,彼らが,いかに治療を効果的に行なうために,患者から信頼されることをつねに心がけていたかがよくわかる.
近年においては,医師の専門分化,技術優先の医療への反省,慢性疾患の増加,QOL思考の広まりなどから,患者と治療者との人間関係の重要性の認識が高まり,これに関する文献も数多く出版され,患者と治療者との人間関係が科学的に分析され,臨床の場に応用されつつある.しかし,理学療法士の教育機関のカリキュラムには,臨床心理学の科目はあるものの,基礎的知識の講義に留まることが多く,臨床場面において必要な,患者および治療者の心理,さらには患者と治療者とのコミュニケーションの取りかた・技術まで教授している所は少ないようである.これらについてはもっぱら自己の体験を通して学び,徐々に修得せざるをえないのが実情である.これは,患者の立場からみれば,不満要素の一つであろう.しかし,われわれは,このような現状に甘え,患者との成熟した人間関係の修得を怠ってはならない.
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