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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル24巻9号

1990年09月発行

雑誌目次

特集 診療報酬

医療保険制度の概説

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.580 - P.587

 Ⅰ.初めに

 1990年度の国民医療費はほぼ21兆円になるものと予測されている.最近では,1年に約1兆円増のパターンになっており,このまま高齢社会に突入すると財政は破綻してしまう.そのような状況の中で,合理的な医療保険制度の運営を図り,医療費を抑制することを目的に老人保健法の制定や地域医療計画,支払基金による非常に厳しい減額査定など次々と手が打たれている.そしてこの秋には医療法が改正されようとしている.

 残念ながら理学療法士の教育課程では,医療保険制度について学習する機会は皆無に等しく,臨床実習においても十分な指導がなされるわけでもない.医療保険は自らの健康にも欠かせないものであるが,診療報酬を通して理学療法士の身分上にも重要な役割を担っている.

 ここでは,医療費増大の要因にふれながら,日本の医療保険制度の概要について述べる.

現行の診療報酬の問題点

著者: 古賀康則

ページ範囲:P.588 - P.594

 Ⅰ.初めに

 国民の医療費が20兆円を超えた.GNPの上昇率以内に医療費の増大を抑えるという厚生省の方針に修正が必要となっている.老人人口の増加に伴う老人医療費の増大は目下のところ,医療費抑制対策のターゲットでもあり,そのための方策がいろいろ講じられている.診療報酬においても,早期退院や,在宅ケアの促進に重点の置かれた改正が行なわれ,老人に合った効率的医療への模索がみられる.理学療法士も,このような施策の影響を避けては通れない.理学療法士数の増加とともに,その社会的評価もゆるぎないものになりつつある.治療行為に対する報酬の問題は,日ごろの専門知識や技術の研鑽と異なり,身近かな問題ではあっても,真向から取り組まれることは少ない.ここでは,現行の診療報酬に関して理学療法士の立場からその問題を考えてみる.

一般病院,老人病院における診療報酬の問題点

著者: 本久博一

ページ範囲:P.595 - P.600

 Ⅰ.初めに

 われわれ民間病院で勤務する理学療法士にとって『診療報酬』は,無形の技術を唯一数字に置き換えることのできる指標であるかもしれない.

 ただし,これはわれわれの,臨床上当然必要だと考えられる治療法すらも,時として否定しうるやっかいな存在であることも忘れてはならない事実である.

 そういったやっかいものに一喜一憂された経験をもたれたかたも多いことと思う.

 1.診療報酬の歴史的経緯

 そもそも,我が国の医療界は,経済の高度成長期に伴い,また制限診療の撤廃や診療報酬の相い次ぐ引き上げ,さらに1973年の老人医療無料化なども相俟って“黄金時代”を迎えることとなった.その半面,一部医療機関の乱診乱療を招き,医療に対する批判の声も高まってきた.

 このころより高度成長期も,オイルショックを機に翳(かげ)りが出てきた.

 1978年から3年間も診療報酬改定が無く,1981年6月の改定では実質引き上げ率は,わずか1.7%(医科)というのはその象徴的な出来事だった.

 このころから,薬価の大幅な引き下げ,検査料,注射料のまるめ,入院料の逓減制強化など診療報酬の合理化,適正化の時代に入り,医療にとって冬の到来となった.

 1983年には,老人保健法施行に伴い70歳以上を対象とした老人診療報酬が創設され,一般病院と老人病院というように医療機関の特性に応じた診療報酬体系とする道が開けた.老人の長期入院の是正は,このころから言われ始めた.

 このことは,現在国民所得の6.4%を占める国民医療費は20年後の2010年には低く見積もっても9.4%,高いと11.9%になるという見通しで,その中でも老齢人口の急増に伴う老人医療費の突出は大きく,特に入院料が大半を占めることからも,うなずける内容である.こうした方向がより明確に打ち出されたのが,1987年6月に厚生省が発表した『国民医療総合対策本部中間報告』だった.

 これをバックボーンとして前回の1988年4月改定が行なわれ,具体的に施設類型について「中・長期的に病院の体系を慢性病院・一般病院に区分する方向で検討する」ことを明らかにした.そして,老人医療を中心に医療サービスの「供給管理」を目指した内容となっており,これによって一般(社会保険)および老人診療報酬の格差がさらに施設類型化が加速度的に拡がることとなった.

小児施設における理学療法の実態と採算

著者: 安藤了

ページ範囲:P.601 - P.608

 Ⅰ.小児施設の中の重症心身障害児施設

 1.小児施設とは

 小児施設とは児童福祉施設のことであり,20施設に分類される.しかし,児童福祉施設すべてが小児の障害者を扱うわけではない.理学療法士の勤務状況からみると(表11).ただし元の資料には児童福祉施設における理学療法士の総数に助産施設は含まれていない.),助産施設・精神薄弱児施設・精神薄弱児通園施設・肢体不自由児施設・肢体不自由児通園施設・肢体不自由児療護施設・重症心身障害児施設・情緒障害児短期治療施設に理学療法士が勤務しており,この八施設が本編での小児施設に該当すると考えられる.

在宅訪問活動の実態と採算

著者: 稲満雅弘

ページ範囲:P.609 - P.614

 Ⅰ.初めに

 近年,高齢化社会の到来とともに,医療の流れは施設中心から在宅へと変わりつつある.リハビリテーションの分野においても地域リハビリテーションの重要性が叫ばれ,さまざまな取り組みがなされてきている1)

 このような流れは,一つには厚生省が急増する老人医療費を抑制することを目的として,在宅医療を促進する政策を打ち出したことによるところが大きい.しかしながら,この在宅医療を保障する制度は整備されておらず,まだ在宅患者に対して十分なサービスが提供されているとは言い難い.

 在宅リハビリテーションにおいても,病院に勤務するリハビリテーション関係者は以前よりその必要性を感じていたであろうが,法的な制約や診療報酬の問題などから訪問活動を実施できず,その結果,在宅リハビリテーションサービス全体の普及の遅れを招いているものと思われる.在宅リハビリテーションを行なうことによって一定の成果が期待できるにもかかわらず,制度上の問題のために活動が制約されるというのは,それを受ける側の患者や家族にとっても,また提供する医療者側にとっても納得のいかないところであろう.

 当院では,地域に密着した医療を病院の活動方針の中心に据(す)え,その中で在宅医療にも積極的に取り組んできた.もちろん,一民間病院の取り組みとしては限界もあるし,また採算が合わないなど,さまざまな問題がある.この小論では,当院の在宅管理システムを紹介し,訪問理学療法の実態について述べ,さらに現状と法制とのギャップ,採算性などについて論じてみたい.

とびら

“連携”のできる理学療法士になろう

著者: 永原久栄

ページ範囲:P.579 - P.579

 誰もが,地域リハビリテーションにあって専門職同士のチームワークの重要性を挙げ,連携の意義を認めている.最近では“地域”に関した研修会もふえ,マニュアルもでき,本誌をはじめ各誌紙に地域リハビリテーションの論文もふえ,勉強できる機会がふえている.研修会等々で学んだ連携の意義を非常勤なり,ひとり職場なりで,しこしこやっている身にどう実践できるか考えると,まず浮かぶのは,地域対象者(患者)を通して出逢う,地域理学療法士仲間のふえたこと,それぞれに,地域理学療法の概念づくりの重要さに目覚め,自分なりの地域での姿勢を確認,あるいは追求している姿である.しかし,連携の在りかたについて,自分の担当の1ケース1ケースが問われることは少ない.

入門講座 関節の運動学と運動療法・3

足関節・足部

著者: 山口光国 ,   入谷誠 ,   大野範夫 ,   永井聡 ,   山嵜勉

ページ範囲:P.615 - P.622

 Ⅰ.初めに

 人類が立位と二足歩行という特殊な動作を獲得して以来,足関節・足部は重要な役割を果たすようになった.特に地面に接している唯一の部位であり,片側わずか100cm2足らずで全体重を支え,地面および身体のどのような状態に対しても対応しなければならない.

 それゆえに足関節・足部は単純に身体運動の一つの単位,関節としてのみとらえることは不合理であり,つねに荷重位の歩行・走行・階段昇降など下肢機能との関係を考える必要がある.今回本文では簡単に足関節・足部の解剖にふれ,歩行を中心とした機能について述べ,最後に実際の臨床での足部機能障害が下肢機能に及ぼす影響についてふれたい.

講座 人間関係論・3

理学療法部門における人間関係―管理職者の役割

著者: 神内拡行

ページ範囲:P.623 - P.629

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーション医療が患者を全人的にとらえてアプローチすることは,いまやリハビリテーションに携わる人々の常識と言える.そしてアプローチ上,患者および家族の人間関係や心理社会的問題について,容赦無く土足で踏み込んでいることを,「全人的」あるいは「信頼関係」ということばに保護されて,医療者自身,気付いていないのではないだろうか.医療の対象が患者という人間であり治療者もまた人間である以上,当然そこに何らかの人間関係が存在し,治療者側の構造的・心理的状況が,患者の行動に影響を及ぼしていることは容易に想像できる.また,このことは医療の場としての病院やリハビリテーション部門を小さな社会集団と考えれば,その社会集団は構成員でもある患者たちの行動に少なからず影響を与えているものである.このような医療者・患者関係を社会心理学的立場からとらえる考えかたは,1950年前後から病院精神医学の分野で発展してきたが1~4),筆者の知る限り,本邦リハビリテーション分野での発展は残念ながら立ち遅れているといってよいであろう.そこで,才藤ら5,6)が指摘したように,リハビリテーションがチーム(組織・集団)として機能する以上,そこに社会心理学で扱う「集団力動論」や「役割理論」的視点から医療者間関係や医療者・患者関係をとらえることがチームワーク達成(チームの成熟)にとって有益である,という意見が重要になってくるのである.

 1990年度日本理学療法士協会代議員会資料に,日本における理学療法士の所属する施設数と一施設当たりの理学療法士数についての報告が載せられている.この資料によると一人職場は1357施設(人数比18.4%)であり,その他1650施設(人数比81.6%)は複数の職場ということになる.複数の人間が集まったものを集団と呼ぶことができるが,実に8割以上の理学療法士が理学療法部門,すなわち集団の一員として働いていることになる.そこで,本稿では理学療法部門を一集団としてとらえ,その中での人間関係について管理的立場も含めて考えてゆきたいと思う.

本の紹介

「リハビリテーションのための住まいづくり」―相良二郎 他著

著者: 伊東元

ページ範囲:P.629 - P.629

1ページ講座 福祉制度の手引き・9

社会福祉施設と手続き

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.631 - P.631

 社会福祉施設とは,身体障害者や老人,児童などが社会生活を営む上でさまざまな困難のある人を援護し,育成し更生を援助するために,各種の訓練を行なったり必要に応じて治療を行なうなど,対象児者の福祉の増進を図ることを目的とした施設の総称で,大別して老人福祉施設,身体障害者福祉施設,精神薄弱者福祉施設,児童福祉施設,母子福祉施設,母子保健施設,保護施設(生活保護),婦人保健施設があります.

 施設に入所する場合,第1種社会福祉施設は福祉事務所が窓口になっています.ただし児童の場合児童相談所が窓口になっています.第2種社会福祉施設(主に通所)は福祉事務所が窓口になっている場合と,施設に直接申し込む場合があります.

クリニカル・ヒント

車いすの処方について

著者: 伊藤清明

ページ範囲:P.632 - P.632

 1.初めに

 われわれセラピストは,障害者が使用する義肢,装具,介助用具などを処方,チェックすることも日常的に行なっている.

 特に車いすは,脊髄損傷者,頸髄損傷者にとってはなくてはならない必需品であり,それだけにさまざまなタイプがあり,種々の改良もなされている.そして,トランスファーのためのパッドやボードなどもいろいろ考案されている.

 そこで,車いすの処方について,私自身くふうした経験が有ったので,症例を通して紹介したい.

プログレス

脳出血に対する定位的穿頭血腫吸引術

著者: 遠藤昌孝

ページ範囲:P.633 - P.633

 1.初めに

 高血圧性脳出血の脳内血腫を穿刺吸引して排除しようという試みは,古くより行なわれていた.しかし,この穿頭血腫吸引術の成績は開頭手術より悪く,手術顕微鏡の導入以後はもっぱら開頭血腫除去術が行なわれてきた.しかしCTの登場によって血腫の正確な部位と大きさが容易に診断されるようになり,これと並行して,従来より不随運動や各種の痛みの治療,てんかんの外科で行なわれてきた定位脳手術についても,CT誘導定位脳手術装置が開発された.この装置を用いてBacklundら(1978年)は,脳内血腫の中心部にCT誘導下に穿刺針を定位的に挿入し,血腫の亜全摘を行なった.その後血腫腔にドレーンを留置して,ウロキナーゼを血腫腔に入れ残存血腫を溶解する方法が報告された.この方法は開頭手術と比べて侵襲が少ないために,高齢者の脳出血例にも広く用いられるようになり,今日までに急速に広まった.しかし,適応や手術時期など数々の問題点がある.

PT最前線

患者の,学生の,本音をつかみたい―理学療法と医学との橋渡しも 藤原孝之氏/<証言>太公望

著者: 本誌編集室 ,   木村貞治

ページ範囲:P.634 - P.635

 信州大学医療技術短期大学部は,前回登場の伊藤直榮先生が中心で設立準備をされた.教官室の面積を削ってでも実習室を,実習機器をと企画された.理学療法士の卵が,ひよこになってから早く育ってゆける学生を育てようとの親心だ,篠原氏もそんな“親”の一人.

あんてな

寝たきり老人ゼロ作戦

著者: 遠藤明

ページ範囲:P.636 - P.636

 1.問題の背景

 ‘寝たきり’は,高齢者にとってやむをえないことなのだろうか.これまでにも寝たきり老人を収容する施設と考えられる特別養護老人ホームを中心に,‘寝たきり’を起こしていこうとする試みが報告されてきた.おむつを外し,ベッドの高さを下げて,寝たきりでホームに入ってきた人を起こしていったのである.

 しかし,‘寝たきり’は起こせるという声は,寝たきりにしたままで行なうのが介護,寝たきりになったままが楽という「常識」にはばまれて,小さな声にとどまっていた.

雑誌レビュー

“The Australian Journal of Physio-therapy”(1989年版)まとめ

著者: 篠原英記 ,   市橋則明 ,   伊藤浩充 ,   有村恵子

ページ範囲:P.637 - P.641

 Ⅰ.初めに

 オーストラリア理学療法協会が発行している“The Australian Journal of Physio-therapy”は,1989年に第35巻となり,年間4回発行される季刊誌である.

 本ジャーナルは,Articles,Books,Abstracts,Product Notes,Research NotesそしてClinical Notesで構成されているが,このレビューには,すべてのArticlesと論文形式をとっているClinical Noteの計27編を掲載する.Articlesには論説的・紹介的な論文9編と調査研究2編,そして基礎研究および臨床研究が11論文である.Clinical Notesには症例報告2編,レビュー1編,そして紹介的なもの2編が掲載されている.今回,著者らが興味を抱いた論文を重点的に紹介する.

 なお,文中の[( ) ]の数字は,論文の掲載号とページを示す.

資料

第25回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1990年度) 模範解答と解説・Ⅲ―理学療法(3)

著者: 大橋ゆかり ,   薄葉眞理子 ,   谷浩明 ,   藤井菜穂子 ,   竹井仁

ページ範囲:P.642 - P.645

学会印象記 〈第27回日本リハビリテーション医学会〉

三つの柱をおおいに勉強―得るところの多かった福岡学会

著者: 宇都宮学

ページ範囲:P.646 - P.647

 「リハビリテーション(以下,リハと略.)医学と科学性」をメインテーマとして,第27回日本リハ医学会学術集会が,緒方甫会長(産業医科大リハ医学教授)の下,6月28日から3日間の日程で福岡サンパレスにおいて開催された.

 開会式当日は,断続的に降り続くあいにくの雨ではあったが,開会前より参加者が続々詰めかけ,会場内は早くも梅雨空を払拭するような熱気を感じさせていた.

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あなたのイラスト

著者: 胡桃みるく

ページ範囲:P.622 - P.622

文献抄録

ページ範囲:P.648 - P.649

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.652 - P.652

 猛暑の夏も終わり,涼風を感じる季節になった.秋はロマンチックではあるが,物悲しい想いのする季節でもある.「涼風」と言うと,いかにも涼しげで心地良い雰囲気が漂っているが,「秋風」となると必ずしもそうとは限らない.例えば,病院に秋風が吹き始めるとたいへんなことである.そうならないように,本号では病院経営の基盤である診療報酬について,特に理学療法を中心に取り上げてみた.

 編集子自身が日本理学療法士協会の一席を汚している関係上,医療保険制度について簡単に解説させていただいた.理学療法士は医療従事者でありながら,この制度について不案内なことが多く,多少でも参考になれば幸いである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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