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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル25巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

特集 脳卒中;回復期以降の理学療法を中心に

脳卒中後遺症者の長期予後

著者: 伊藤良介

ページ範囲:P.4 - P.8

 Ⅰ.初めに

 脳卒中は複雑な障害をもたらし,生活のあらゆる側面に影響を与え,その長期的な予後は簡単な指標では表現できない.「リハビリテーション訓練」を行なう立場からすれば,身体機能,特に運動機能に関心が向かうのは当然だが,身体機能の向上にはその前提となる生命の維持が必要であり,また機能を生かしてどのような生活を送れるかが重要である.ここでは,脳卒中後遺症者の比較的長期にわたる予後について,これまでの研究報告を基に種々の側面から簡単にまとめてみた.

脳血管障害患者の下肢機能再建術と理学療法

著者: 佐々木健

ページ範囲:P.9 - P.12

 Ⅰ.脳血管障害による片麻痺の下肢変形

 脳血管障害による片麻痺の下肢変形の多くは,伸展パターンに基づくことが多いが,それはさらに以下のようなことで,影響される.

 (1)随意運動の回復段階

 弛緩性麻痺,連合運動レベル,共同運動レベル,分離運動レベルのどの段階か

 (2)痙性の状態

 (3)廃用症候群(筋萎縮,拘縮,浮腫,褥創など)

 (4)誤用症候群(関節炎,膝靱帯の弛緩や延長など)

 (5)治療

脳卒中間歇入院の理学療法―問題点の特徴と理学療法士の役割

著者: 宮下八重子 ,   木藤素子 ,   小林康雄 ,   関根佐知子

ページ範囲:P.13 - P.18

 Ⅰ.初めに

 脳卒中による障害を残し,また他の合併症を有して在宅生活を続ける人々はさまざまなアクシデントを起こす可能性が高い.このため,障害者や家族が安心して在宅生活を続けるためには再発以外でも医学的・家族的状況が悪化したときに即対応してくれる医療機関が求められる.二木は『脳卒中患者が退院後も自宅で安定した生活をするためには症状悪化時の再入院(間歓入院)と「維持的・継続的リハ」が必要である』1)と述べている.

 在宅生活で起こる症状悪化には,入院による内科・外科治療のみですぐ元の状況に戻る場合もある.しかし,機能障害が重くADLレベルの低い人々は,軽い症状でもそのために機能障害やADLレベルがさらに悪化することが少なくなく,また屋内生活にとどまっている人々は比較的運動量が少ないためか明らかな原因・誘因が無くて状態が悪化することもあり,理学療法的アプローチも必要となる.

 今回,脳卒中患者が再発以外の原因で入院し,1985年1月から1989年12月の5年間に代々木病院を退院した「間歇入院2)」(当院では,陳旧期脳卒中患者が,再発作以外の原因で自立度低下・状態悪化した場合,短期間「間歇入院」させ,内科的治療とともに集中的リハビリテーションを行なっている.)患者のうち,理学療法を行なった延べ196人を対象として,入院原因や入院時の患者状況と理学療法士の役割について検討を行なったので報告する.

回復期以降の脳卒中患者の理学療法

著者: 吉尾雅春 ,   松田淳子 ,   祝部美樹子 ,   山野薫

ページ範囲:P.19 - P.24

 Ⅰ.初めに

 脳卒中患者は回復期を過ぎ,維持期とされる時期になっても,有機的な生活を送ることによって,筋力や耐久力が向上し,また精神機能面の好転もみられ,徐々に運動機能の改善が得られることも珍しいことではない.

 逆に,退院時よりしだいに日常生活動作(以下,ADL)能力が低下していく傾向も認められており,年齢や経済状態,家族との人間関係などがその因子として考えられている1~3).寝たきり老人の過半数が脳卒中であることを考え併せてみると,脳卒中患者の急性期,回復期のリハビリテーションサービスはもちろんのこと,それ以降の理学療法の在りかたについても見直しておく必要がある.

 回復期以降の脳卒中患者の理学療法といっても,それ以前の内容の継続であることも多いが,ここでは特に病院や在宅を問わず,その機能維持,改善に重要と思われる事柄について述べる.

回復期も,その後もいつも生活期

著者: 石田卓司

ページ範囲:P.25 - P.26

 日常,私たちと時間を共有する脳卒中の人たちの様態は,千差万別である.発病後直ちに,必要にして十分な治療・看護が施され,続いてリハビリテーション・スタッフがそれぞれの役割を全うするといった,それこそ絵に描いたような治療を受けられる患者はそう多くない.少なくとも私たちが体験する現実は,そうである.脳卒中の初期のケアが重要だとする主張は,そうした実情によってあっけなく無化され,最初の3か月が勝負だ,いや6か月だという議論はしばしば空疎なものになる.

 回復期と呼ばれる時間を無為に過ごすことによる損失は,確かに大きい.この時期のケアの質が,ひとりの患者のその後の生を決定する場合も珍しくない.あだやおろそかにはできない道理である.しかし,そのことを承知で敢えて言うなら,そこに価値を置くあまり,回復期の,身体の機能性の変化だけに関心を注ぐ向きがなくはない.そして,要素的機能の改善が目立たなくなると,プラトーなる不可解なことばを登場させる.“プラトー!”と言えばこれは,セラピストの関心や興味が尽き,役割が終わり,いわゆるその後はもうどうでもよく,無きに等しいという意味であるらしい.したがって,急性期に続いてきたるべき事態について,ほとんど語ることが無いのである.「回復期以降」という奇妙な言いかたが当然のようになされている所以(ゆえん)であろう.

介護と治療のはざまで

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.27 - P.28

 脳卒中に対する理学療法は急性期だけでなく,回復期以降においてもその適応を考慮しなければならないことが少なくない.本特集では,その課題についての検討が加えられた.それによると,回復期以降の脳卒中患者に対する理学療法は広範囲で,かつ大きい役割を果たしているようである.

 そこで,この機会に特別養護老人ホームの現場で,回復期以降の脳卒中患者の理学療法について考えていることを二,三述べてみたい.

脳卒中;回復期以降の理学療法を問う

著者: 白川満朗

ページ範囲:P.29 - P.30

 このタイトルから展開する考えかたは,個々の理学療法士のさまざまな背景ごとに,かなり異なるであろう.しかし,患者さんや家族は,状況に応じた最適の場における最適の内容の援助を望む.個々の理学療法士が自分の価値観を押し付けた援助をするのは良くないと思う.ところが,今回は私自身が自分の価値観を述べるはめになってしまった.

 ことわざを応用するつもりは無かったが,「相手を知り自分も知ればアプローチは進歩する」というのが私の考えかたの展開である.“相手”とは,患者さんのみでなく,共に生活する人々や生活空間などの患者さんを取り巻く環境も含む.“自分”とは,自分の特性のみでなく,自分の環境(主に職場環境)も含む.だから,“相手”と“自分”とはオーバーラップしている.

脳血管障害者の退院後の継続理学療法―一般病院勤務者の立場から

著者: 稲坂恵

ページ範囲:P.31 - P.32

 1.初めに

 脳血管障害者に対するリハビリテーション(以下「リハ」と略.)は,その必要性,重要性が社会的に認識されてきており,これに伴ってその内容,システムも変化発展していると評価できる.具体的には早期リハの充実,入院中の各種アプローチに対する保健点数増加,退院前の在宅訪問や指導の保健点数化,退院後の在宅訪問の制度化などが掲げられる.しかし,このようにリハの内容は確実に発展してはいるものの,急性期,回復期,それ以降を区別した場合,施設間の連携の不十分さなどのために,各時期を通した一貫したシステムは,まだ不備が多いと言える.

 急性期から回復期については,各施設に特殊性が有り,かかわる時期は自ずと規定されているが,回復期以降のかかわりについては,各施設の立場,方針により異なり,さまざまな形で施行されていると思われる.現在までに,回復期以降のリハの在るべき姿や方法論については,十分な議論が為されておらず,今後の課題は大きいのではないかと思える.

 今回,回復期以降の理学療法を論ずるに当り,回復期以降をどうとらえるかという定義が見当たらないことから,この時期を“十分な急性期医療を受け,初期リハ入院を終了し,家庭に戻った後”と定義することにした.したがって,自宅退院した脳血管障害者の継続理学療法が,どのようなもので,どう在るべきかについて,私見を述べることとする.

とびら

息と生

著者: 土田正勝

ページ範囲:P.3 - P.3

 肺理学療法を始めるようになってから,感動的場面に遭遇することが多くなった.

 灼熱の太陽が照りつけるある日の昼下り,人工呼吸器より離脱に成功した終末期にあるALS患者の搬送に主治医,看護婦とともに救急車に乗り込むことになった.路面は悪く,時々大きく揺れる.その度に水様性の痰が気道を塞ぐ.「吸引,吸引!」狭い車の中は正に戦場のような騒ぎである.「お父さん,しっかりして!」妻の必死の叫びの中でうつろな目がうなずく.

入門講座 歩行・1

歩行―臨床での歩行分析のために

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.33 - P.38

 Ⅰ.初めに

 歩くというきわめて基本的な動作能力が奪われたとき,人はいったい何を感じ何を思うのであろうか.日々多くの障害者の訓練に当たっていてもその心境に到達するのは,いささか困難のように思える.ただ,歩けるようになったときの患者の喜びようを見ると,それがいかにたいせつなことであるのかいつも新しい驚きで胸が熱くなる.理学療法士ほど,歩行というものに直接かかわる職業は他に無いであろう.

 歩行の異常を矯正あるいは回復させるためには,まず的確に歩行を分析して,異常の原因を明らかにしなくてはならない.臨床現場ではほとんどの場合,ストップウォッチを片手に観察と触診と模倣によることになるが,これが実習学生や新人の理学療法士が泣かされるいわゆる‘歩行分析’である.

 理学療法士が行なう歩行分析は,対象者が正常歩行からどのようにそしてどれだけ逸脱しているかを診るという目的でなされる.それゆえ,異常を診る前にその基準となる正常歩行を熟知しなければならないということになる.

 人の歩行について,現在の知識の基礎を成す研究は19世紀に始まった.写真技術の発達による動作解析の進歩や各種計測器機の発達により正常歩行に関する多くの研究が為されてきた.その結果,理学療法士が臨床で必要とする正常歩行の知識と解釈はすでに出尽くした感がある.そしてそれらは多くの成書にまとめられている.本誌の前身である『理学療法と作業療法』第20巻(1986)でも講座に歩行が取り上げられ,飯田1)により正常歩行の分析の歴史,方法,歩行時の関節のモーメント,床反力,筋電図など,運動学および運動力学すべてが詳細に網羅されている.ぜひとも一読を勧める.

 今回は入門講座ということなので,新人の理学療法士が臨床の場で歩行分析をする上で役にたつということを念頭にまとめた.

講座 姿勢・1

姿勢反射の基礎

著者: 島村宗夫

ページ範囲:P.39 - P.45

 Ⅰ.初めに

 一つの運動を引き起こすためには,それぞれに適した準備の姿勢が必要である.起立するとか,はう,歩く際にも運動に先行して一定の姿勢がとられている.これらの多くは反射活動による.それは姿勢反射(postural reflex)と呼ばれている.反射を引き起こすには視覚,平衡感覚,力覚,皮膚感覚などの感覚性入力が必要であることは言うまでも無い.

 人が直立姿勢を保つには抗重力筋の筋固有反射系がつねに働いており,また電車など乗り物内でよろけそうになれば,倒れそうになる側の肢を踏みしめるとか,踏み出すなどして調節している.いずれも中枢神経系内の命令によっている.

 姿勢反射は現れる部位によって三つに分けられている.局所に限局されたものはlocal static reactionと呼ばれ,肢とか腕などやや広い範囲であればsegmental static reactionと呼び,よりまとまった現象であればgeneral static reactionと呼んでいる.局所的のものとしては伸展反射,拮抗筋間の相互抑制,皮膚からの屈曲反射などが含まれる.やや広い範囲まで及ぶものとしては,交叉性伸展反射,左右の肢間の踏み直り反射などが挙げられ,全身にわたるものとしては頸とか迷路からの緊張性頸反射,緊張性迷路反射が主なものである.

 姿勢を一定に保つ機構は単一の反射によるものは少なく,幾つかの反射系および随意運動(上位中枢からの調節)などが総合された形で行なわれている.神経機構については,古くSherrington(1906)はreflex standing,reflex stepping,reflex figureということばを用いて末梢神経からの神経活動の重要性を記載している(図1),現在はこれら反射性機構に加えて,中枢プログラムという考えかたに沿った研究が歩行運動を中心に進められ,姿勢,歩行の神経機構の多くが明らかにされている.中枢神経系内には足のパターン化された動きを引き起こすgeneratorが有り,それは末梢からのインパルスによって駆動されて反射性運動が引き起こされる.このgeneratorはより高位の中枢からの調節を受け,足の動きのリズム発生,リズムの速さの調節,大きさ(歩幅)の変化が生ずるものと考えられている(Grillner,1981).

クリニカル・ヒント

筋力増強法の視点

著者: 西村敦

ページ範囲:P.46 - P.47

 1.初めに

 筋力増強法の一大原理は,過重負荷原理であり,今もその重要性は変わらないが,バイオメカニクスの進歩,障害の階層性概念などにより新たな視点が展開しつつある.臨床でのとらえかた,くふうすべき点について述べてみた.

1ページ講座 くすりの知識・1

くすりの基礎知識・1

著者: 岡島康友

ページ範囲:P.48 - P.48

 好むと好まざるとにかかわらず,ほとんどすべての患者は何らかのくすりを服用している.リハビリテーションの関与する患者でもこれは例外ではなく,むしろ高齢者の比率が高いことから服用率も高く,その内容も多彩である.その意味でもリハビリテーションに携わる者として,くすりに関する基礎知識はもっている必要があろう.

プロクレス

中枢自律神経系の神経伝達物質・1

著者: 前田敏博

ページ範囲:P.49 - P.49

 1.中枢自律神経系とは

 教科書的に言えば,自律神経系は平滑筋や腺を支配する“自動的”な運動性末梢神経系であり,交感神経系と副交感神経系とに分かたれる.つまり意識的に動かすことができない臓器支配の末梢神経である.とはいえ,これだけで臓器を動かせる訳ではない.まず臓器の状態に応じるためには知覚入力が必要であり,次いで情報を統合して指令する中枢神経系が関与せざるをえない.かくして本来末梢神経系である自律神経系も中枢による統御,調節を強く受けることになり,これを中枢自律神経系と呼ぶ.

 末梢自律神経系(交感・副交感系)は基本的には2個のニューロンから成り立ち,第一(節前)ニューロンは脳幹・脊髄から外に出る.交感神経系は胸腰髄から,副交感神経系は中脳・橋・延髄・仙髄からである.この出力系は知覚入力と合して反射ループを形成する.この情報処理一出力のユニットが脳幹・脊髄実行系である.これに対してより高度な情報を統合処理して下位実行系を調節しているのが視床下部である.視床下部は直接的・間接的に神経性,体液性の情報を得ると同時に,大脳皮質,辺縁系さらに小脳とも相互に連絡して本能,情動,知覚,運動の総合プログラムの中で下位実行系を統御・調節している(図1).

PT最前線

学生を過小評価していたかも―学院時代のこと,教育のこと 田村美枝子氏/<証言>柔にして剛

著者: 本誌編集室 ,   宮前珠子

ページ範囲:P.50 - P.51

 自分自身が学び,教鞭もとった国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院から初めて,職場を移られた.1990年4月,新任地へ.その秋田大学医療技術短期大学部は取材時,まだ改装中であった.レンタルのプレハブ教室が,ロッカールーム,トイレと併設で一棟のみの仮設.元看護学校の学部本部棟とは,これも仮設然とした渡り廊下で連絡する.小世帯にふさわしく(?)教官も事務職員さんも同居していて,個室の無いことが好評なのだとか.協力が目に見える形である.

あんてな

長寿社会福祉基金について

著者: 山根弘

ページ範囲:P.52 - P.52

 1.初めに

 厚生省は,1989年12月「高齢者保健福祉推進10か年戦略」(ゴールドプラン)を策定した.この施策は,2000年度までの10か年で高齢者の保健福祉をどのように推進していくかをきわめて具体的に示しており,各方面から注目と期待を集めている.

 この施策は,大別すると①在宅福祉推進10か年事業,②寝たきり老人ゼロ作戦,③施設対策推進10か年事業,④高齢者の生きがい対策の推進,⑤長寿科学研究10か年事業,⑥高齢者のための総合的な施設整備の実施とともに,⑦長寿社会福祉基金を社会福祉・医療事業団に設置することから成っている.

報告

食事動作介助機器の開発研究―特に,重度四肢機能障害者に対して

著者: 大塚彰 ,   高橋誠 ,   天野博之 ,   首藤貴

ページ範囲:P.53 - P.57

 Ⅰ.初めに

 上肢障害者における日常生活動作(以下,ADLと略.)の目標のうち,食事動作の自立もまた,重要な項目の一つである.その際,上肢機能にある程度の随意性運動が存在すれば,各種のディバイスのくふうにより,食事動作の遂行が可能な場合が多い.筆者らも,種々の病態に合わせたディバイスをくふうし,その目的を達してきた.

 しかし,重度脳性麻痺者や頸髄高位損傷者などにおいては,上肢機能に食事動作遂行に必要な随意運動が期待できない症例を経験する.このような症例では,やむなく全面的な介助を必要とする.

 そこで,これら全面介助が必要な症例に対し,マニピュレーター的な介助機器の導入も考慮される必要性が生じてくる.このことに関しては,苦労して長時間を食事に費やすよりも,介助者により速やかに食事を終わらせ,有効な時間の利用を考えるほうが良いとする考えもある.しかしながら,自己で食物を選択し口に運ぶ食事の楽しみも必要であるとともに,人の手を煩わせず食事をしたいという障害者の願いにも耳を傾けたい.

 そこで,筆者らは後者の考えの下に,アテトーゼ型脳性麻痺例および頸髄高位損傷例に対して,それぞれ異なった方式の食事動作介助機器をくふうした.機器により食事動作の自立またはその可能性を認めることができたので,以下に機器の概要を含めその実際につき述べる.

原著

脳卒中片麻痺患者に対する手指機能回復訓練の試み―特にPGEを中心とした筋力強化訓練が手指機能に及ぼす影響について

著者: 山根一人 ,   大河俊博 ,   近藤正太 ,   木原啓策 ,   森中義広

ページ範囲:P.59 - P.64

 Ⅰ.初めに

 片麻痺患者の手指を含めた上肢における運動療法は下肢に比較し,①その機能が巧緻性を主体とする,②ADLに関し片側性の使用が多い,③大脳における支配領域が広範囲である,④中枢からの運動ニューロンの錐体交叉での非交叉率が低い,⑤病態の程度にも関係するが,罹患患者の多くが,その急性期に下肢の運動障害に執着し,ニードを歩行第一とすることがたびたび経験される,などの理由により,特に手指に関してはその予後を悲観的に考えざるをえないのが現状であろう.

 従来より,中枢神経障害では筋の質的障害に主眼をおき,多数のセラピストが,何らかの神経生理学的アプローチ(以下,NPA)を用い運動療法を行なってきた.しかし,近年本邦では諸家1~5)をはじめとし,NPAの非有効性が指摘されると同時に,片麻痺に対する運動療法の禁忌内容も減少し,幅広い訓練内容に変化しつつあるように思われる.しかしながら,手指に対する運動療法においては依然としてNPAが主流を占めているのが実状である.手指を含む上肢の運動療法に求められるものは,いわゆる‘質’か‘量’かという質問に対し,①の理由より過半数の理学療法士,作業療法士は迷わず‘質’と答えるであろう.

 しかし,①ADLを主眼においた選択的な関節運動を起こすために,‘量’は見逃すことのできない要素であり,正常筋により近く回復させるためには,‘質’・‘量’の双方が必要である,②‘量’が減退した手指に対し,‘量’を主体に増加させてもADLに影響するほどの‘質’の低下,あるいは共同運動の固定化は起こらない,③したがって,‘量’を増加する訓練に伴い,ADL能力は向上する,という従来とは視点を異にしたわれわれの三つの経験的な仮説の下に,今回運動のコントロール訓練として,Power grip exercise(以下,PGEと略.)を施行し,それが手指機能にいかなる影響を及ぼすかを検討したので報告する.

短報

股関節外転筋筋力と骨盤の安定性に関する―考察

著者: 武富由雄 ,   村木敏明 ,   櫛辺夕子 ,   吉田友紀 ,   満田基温

ページ範囲:P.65 - P.66

 Ⅰ.初めに

 片側股関節外転筋の筋力測定と筋力増強運動に際して,骨盤挙上筋(腰方形筋や広背筋)による骨盤の引き上げの代償運動がしばしば臨床上みられ,的確な股関節外転筋筋力を惹起させることの困難なことが多い.そのため股関節外転筋の張力を両側同時に測定することのできる股関節外転筋力測定装置(張力検出器およびひずみ増幅器)がすでに考察・製作され1),股関節外転筋の筋力測定と筋力増強運動に有用なことが示されている2)

 そこで今回,股関節外転運動の際,骨盤水平位の安定性に影響を及ぼす下肢の固定・非固定の差,そして股関節外転筋筋力の測定と筋力増強運動の関係をより客観的・定量的に明らかにすべく,筋力測定装置「リハメイト」(川崎重工:R-130)を使用し,変形性股関節症患者(以下,OA群.)および対照群として健常者(以下,健常群.)に対して股関節外転筋の筋力を測定し比較,検討した.

プラクティカル・メモ

慢性関節リウマチの母指変形に対するラップドスプリントの試み

著者: 福迫剛

ページ範囲:P.67 - P.67

1.初めに
慢性関節リウマチの母指変形(lPの関節過伸展および側方動揺)は,臨床でよくみられる変形であり,この変形のために把持機能が低下することが多い.この治療手段としてリングタイプスプリントやセフティーピンなどの硬性のスプリントを用いることが多い.しかし,高度のムチランスタイプの症例( 図1)では適合が困難でスプリントも外れやすい場合が多いそこで今回軟性のPE-ライトを用い,IP関節部を全体的に包みこむようにしたラップドスプリント(図2 )を作製したところ,装具の適合が良好で把持機能の改善もみられたので紹介する.

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あなたのイラスト

著者: 松浦聖

ページ範囲:P.28 - P.28

文献抄録

ページ範囲:P.68 - P.69

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.72 - P.72

 1991年新春明けましておめでとうございます.本年も読者の皆様の御健勝御活躍を編集子一同心から祈っています.

 さて,創刊から数えて25年目の新年号の特集は,脳卒中の回復期以降の理学療法です.脳卒中の理学療法は診療報酬においても発症後3か月の早期加算や6か月の期間区分が新設されるなど,運動機能の回復が著しい急性期から回復期に重点が置かれすぎている感があります.しかし,むしろリハビリテーションの理念からすれば,回復期以降が重要で社会生活に向けてのさまさまな理学療法アプローチをしてこそ,理学療法の真髄と言えます.それには回復期以降の身体機能をどのようにとらえ,如何に目標を立て,どのような理学療法を選択するかの判断が求められています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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