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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル25巻12号

1991年12月発行

雑誌目次

特集 地域・在宅の理学療法

外来通院による在宅生活者の理学療法

著者: 高取利子 ,   川島康子 ,   吉原裕美子 ,   永原久栄

ページ範囲:P.806 - P.812

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーションにおける病院機能を入院・外来・訪問の一貫した見地からみると,外来通院による理学療法(以下,外来理学療法と略.)は,入院中に得た能力の実生活実践の場での継続的指導あるいは,退院時指導の確認から始まる.退院時指導および家庭復帰の条件1),地域理学療法の役割2)から引用すると,外来理学療法の役割・機能には,1.定期的理学療法の継続したかかわりで得られる能力改善,2.獲得した能力を実生活で実践し,維持を図る,3.地域社会適応への援助,4.生活環境の整備と指導,5.介護力の整備と介護指導,6.生活方法・生活管理・生活指導,7.本人および介護者の健康管理,8.理学療法上の相談機能,9.レクリエーション・グループワーク機能,を挙げることができる.退院指導が徹底すれば,この中の幾つかは,まさに確認のみで,長期的外来理学療法の役割としなくてもよいものもある.また,通所・訪問事業との共有の役割も多い.そこで,これらの役割に沿った調査を行ない,実践的立場から,もっとも外来理学療法の特徴と言えるものを考察してみたので報告する.

 なお,われわれは最近,当院における日常生活動作訓練・指導3)について報告する機会を得ていて,その中でも外来理学療法の中心課題に,日常生活動作の維持を挙げた.外来理学療法の特徴を述べるに当たり,当院の日常生活動作訓練・指導については,その小文を参考にしていただければ幸いである.

在宅訪問における理学療法士の役割とその専門性

著者: 成田友紀

ページ範囲:P.813 - P.818

 Ⅰ.初めに

 理学療法士が病院職員としてでなく,保健サービス提供者(行政職)として在宅療養中のケース(以下“ケース”と略.)とその家族の生活にかかわるとき,医療スタッスとして培ってきた理学療法専門家としての知識,技術,経験がどのように活用,展開できるのか?これが7年間の病院勤務をやめて習志野市健康増進課に勤務して以来の,私の継続課題であった.

 今回《行政の立場で在宅訪問を実施している理学療法士の役割と専門性》というテーマをいただいたとき,①病院医療職の立場で在宅訪問を実施する際と②病院医療職の立場で病院で治療,訓練をする際,③行政の立場で在宅訪問を実施する際,“この三つのそれぞれの場面で理学療法士の役割,専門性に違いがあったのか?”と一瞬考えてしまった.

 ここでは『理学療法士』を①理学療法専門家,②リハビリテーション専門家,③ひとりの人間,という三つの役割をもった専門職と定義し,『在宅訪問における理学療法士の役割と専門性』についての私見を述べてみたい.

福祉保健センターにおける理学療法の役割とその効果

著者: 宮下八重子 ,   小林力 ,   竹野留美 ,   岡田真紀 ,   太田康代

ページ範囲:P.819 - P.825

 Ⅰ.初めに

 墨田区は東京都の東部に位置し,面積13.75km2,人口23万人弱で人口密集地域である.当センターの建物は区のほぼ中央にある.

 すみだ福祉保健センターは区が設立し,社会福祉法人墨田区社会福祉事業団に委託され1989年4月より事業が開始された.ここでは福祉・保健の両分野にわたるサービスを障害児から高齢者を含む区住民に対し総合的一体的に提供する施設である.当センターで実施する事業は機能訓練事業の他に精神薄弱者通所更生施設(はばたき福祉園),高齢者在宅サービスセンター(デイサービス),心身障害児療育施設(療育事業),身体障害者福祉センター(B型),老人福祉センター(A型),健康増進室,と広く,この他に区などが行なう癌検診,休日応急診療所,障害児(者)歯科相談なども行なわれている.

 当センターの機能訓練は「老健法でいう機能訓練」のほかに区独自の事業として年齢制限を設けずに幾つかの事業要項の中に「機能訓練」を示し,機能訓練事業の位置付けを広くとっている.

 理学療法士はこの機能訓練事業と療育事業を中心にその役割を担っているが,本稿では,幅広い役割をもった機能訓練事業での理学療法についてその経験を報告する.療育事業について述べるにはまだ経過が短く検討が難しいので,今後の課題としたい.

保健所における理学療法とその効果

著者: 森倉三男

ページ範囲:P.826 - P.832

 Ⅰ.初めに

 人間の生涯にわたる健康増進の必要性が気付かれ,その中にしっかりとリハビリテーションの思想と技術が根づきつつある中で理学療法士に求められている守備範囲も自ずと拡がりと深みを加えつつあるようにみえる.保健活動の中で心身の障害や高齢といった健康上の不利をもつものにおいても,健康で文化的な生活を営んでいく可能性を示していく上で,理学療法士の果たしていく役割はますます大きなものとなっていくと思われる.保健分野においてリハビリテーションを明確に位置付けるようになった契機として老人保健法機能訓練事業の実施による影響は大きく,それぞれの持ち場で営々と積み重ねられてきた実践は在宅障害老人の福祉と健康に寄与してきた.

 地域や家庭の中でさまざまな障害をもちながらも普通にその人らしい生活を実現していくための全人的援助の考えかたは,広くこの仕事に携わるものの基盤的認識となり,人間性の回復を促進するという普遍的課題を意識させるものとなっている.社会的不利を軽減し生活の質の向上を目指すリハビリテーション本来の理念に立った実践活動は種々の形で行なわれている直接的援助活動をつなぎ合わせ,有効に作用するための在宅ケアシステムの構築も志向させていっている.こうした中で機能訓練事業は社会参加,交流の一つの形態として,障害をもった在宅生活者の生活再建に効果が認められ,福祉保健の各種施設で実施されており,保健所もその一つの実践舞台である.保健所で実施される機能訓練事業は保健活動の一環としての特徴をもってくるとともに,保健所という活動体がもっている特性や歴史性に影響を受けていくことになる.

 ここでは保健所における理学療法の実践のテーマについて,保健所をめぐる動向,千代田区の状況および特別区での常勤理学療法士として老人保健法機能訓練事業に携わる中で学び,気付いた点を述べていくことにする.

老人保健施設における理学療法の役割とその効果

著者: 柴田ゆかり ,   酒向俊治

ページ範囲:P.833 - P.838

 Ⅰ.初めに

 当松波総合病院附属老人保健施設(以下,当施設と略.)は,1988年8月に岐阜県で最初の施設として開設されて以来,要介護老人の自立,家庭復帰を目指しその支援体制の充実に努めてきた.しかし入所の長期化や家庭復帰困難,マンパワーの不足など様々な問題を抱え,その目的は十分に果たされていない.

 筆者に与えられたテーマは「老人保健施設における理学療法の役割とその効果」である.しかし当施設においては効果と呼べる程の理学療法は確立されておらず,未だその可能性を探っている段階であり,効果については十分検討できていない.したがって今回は,当施設における理学療法の現状と問題点を検討し報告することで,与えられた課題消化の一助としたい.

とびら

3C

著者: 赤松満

ページ範囲:P.805 - P.805

 日本経済が成長時代に突入した昭和40年代の初めに,3Cということばで象徴される耐久消費財があった.その3Cとは,car,cooler,color televisionの3種で,頭文字にいずれもCが付くところに由来する.そのころ,これらの商品は庶民には非常な高嶺の花で,誰もが持てるものではなかった.今のように物が氾濫していなかったし,値段も安くはなかった.人が給料をもらうようになってまず欲しいと思う中には,未だにこの3Cの内の一つや二つがあると思われる.

 ところで医療の3Cとしてcure,care,compassionの3Cが挙げられる.cureは治療,治療することで患者の疾病を治すことである.

入門講座 ADL訓練の実際・6

脳性麻痺の起居・移乗動作訓練

著者: 北野嘉孝

ページ範囲:P.839 - P.846

 Ⅰ.初めに

 脳性麻痺児の治療,ことに早期治療の段階では,異常運動発達を抑制しつつ,より正常な感覚―運動学習を通じて,正常な姿勢や運動発達を獲得させてゆく治療を行なう1).脳性麻痺児にとっての起居・移乗動作の自立が問題となってくるのは,幼児期以降である.このころより杖,装具,車いすなどを用いての移動・移乗動作に加えて,基本的な日常生活動作の訓練が加わる.

 今日,小児の施設では入所児の重度化とともに,自ら移乗動作の困難な児が,電動車いすの使用により本人の意志で移動可能となった.そのことによって,日常生活の一要素として移乗動作の獲得が本人の自立,および介護する側にとって,非常に重要な因子となってきている2).脳性麻痺児の移乗動作訓練はこの場合,異常姿勢,異常動作を利用しての行動と,いかに異常発達を抑制し実用的な機能を獲得させるかの矛盾を含む課題をもつと言える.

 本稿では最初に当園重度棟での実際を述べ,次に起居・移乗動作訓練について述べる.

講座 老年医学・6

老年者の保健・医療・福祉と理学療法士

著者: 上田敏 ,   林泰史 ,   隅田俊子 ,   岩田敏郎 ,   太田隆 ,   藤本欽也 ,   小滝治美

ページ範囲:P.848 - P.856

 高齢化社会を迎えて,病院でも地域でも老年患者の比重が高まり,理学療法士の役割はますます重要になっている.特別養護老人ホームの機能は多様化し,デイセンターなどの形で地域に開かれたものになってきており,「生活」に焦点を合わせた理学療法プログラムが必要となってきている.老人保健施設も未確定要素をはらみながらも,今後理学療法士の働く場としての意義を高めていくであろう.本講座の締めくくりとして,各種の施設での在りかたについて話し合っていただいた.

1ページ講座 くすりの知識・12

その他・2―抗血小板薬・抗凝血薬・抗痙縮薬

著者: 花山耕三

ページ範囲:P.857 - P.857

 ここでは,各種血栓性,塞栓性疾患に用いられる抗血小板薬,抗凝血薬について述べた後,神経・筋に作用する薬のひとつである抗痙縮薬について述べる.

TOPICS

福祉オンブズマン制度とその現況

著者: 塩沢克人

ページ範囲:P.858 - P.858

 1.初めに

 東京都中野区は,昨年(1990年)10月1日から全国初の試みである福祉オンブズマン(福祉サービス苦情調整委員)制度を発足しました.

 この制度は,区民が,福祉サービスの利用について不満が生じたとき,公平な第三者機関である福祉オンブズマンに申し立てをして救済を受けることができるしくみです.

プログレス

癌患者の痛みの治療

著者: 武田文和

ページ範囲:P.859 - P.859

 1.癌患者の痛み

 癌は無症状のことがあるが,進行するといろいろな症状を現す.なかでも痛みの多くは,いったん起こると治療しない限りいつまでも続く強い痛みである.末期では70%の患者に発生し,患者を眠らせず,食べさせず,死の恐怖を実感させ,患者の日々の生活を破壊してしまう.この痛みへの治療対策が不足しているため,救いようが無いと諦めていることが多いが,今では高率に除去できる治療法が用意されている.痛みを除去しても癌の進行状況の判定に支障は起こらない.患者は,よく眠れ,よく食べられ,よく考えられるようになり,明るい表情を取り戻す.適切な痛み治療無くして末期患者に対する医療は成立しない.

PT最前線

光の塊に詫びた青春―光と二人の師との出逢いが人生を変えた 名嘉淳氏/<証言>隠してもすぐにわかります

著者: 本誌編集室 ,   名嘉悦子

ページ範囲:P.860 - P.861

 高校時代の挫折が無ければ,啓示も無く,野口晴哉との出逢いが無ければ,行動家の氏は無い.そしてオリブ山病院での間医師との出逢いが無ければ,今のクリスチャンとしての氏は無い.人は,人と出逢う中で,その人の何かを吸収して自分の一部とし,進歩,成長してゆく.矛盾に満ちた生きかたを強いられている現在の世の中に,信仰の中に,人の生を越えたところに絶対の希望を見いだして生きている治療者と患者とがある.

あんてな

我が国のがんの現状と「対がん10カ年総合戦略」・3

著者: 烏帽子田彰

ページ範囲:P.862 - P.862

 3.予算

 「対がん1カヵ年総合戦略」については,政府は初年度の1984年度には約45億円,1985年には約53億円1986年度には約61億円,1987年度には約76億円,1988年度には約88億円の予算を計上し,現下の厳しい財政事情の中にあって最大限の措置を講じている.また,これらの事業は官・学・民をあげて取り組む必要があるため,財団法人がん研究振興財団は10年間で80億円を目標に公益事業や,財界を始め広く民間から募金活動を行なっている.

資料

第26回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1991年度) 模範解答と解説・Ⅵ―共通問題(3)

著者: 橋元隆 ,   中山彰一 ,   高橋精一郎 ,   堤文生 ,   高柳清美 ,   山口鞆音 ,   近藤敏 ,   佐藤裕司 ,   高橋智宏

ページ範囲:P.863 - P.865

第11回世界理学療法連盟国際会議に参加して

国際化社会と日本の理学療法―この会議を通して考えたこと

著者: 藤原孝之

ページ範囲:P.866 - P.867

 1.初めに

 21世紀まであと9年足らずになり,日本における理学療法の歴史も四半世紀を折り返した.医学関連の学際領域の歴史に比べればまだまだ浅い分野であるが,最近の科学技術の発展の速度を考えると,この間の理学療法技術の革新は目覚ましいものがある.日常の理学療法業務の中でも治療技術の体系化が進み,少なくとも卒前教育で何を教援すべきか,基礎実習・臨床実習はどのような内容が含まれることが望ましいか,などについて具体的に検討される機会が多くなった.したがって,当然のことながら次の課題としては,理学療法として行なう評価・治療の基礎的,背景的研究の推進が注目されてきた.

 1991年7月28日から8月2日の期間に英国ロンドンで行なわれた.第11回世界理学療法連盟(WCPT)の国際会議に出席する機会を得たので,その発表を通して日本における理学療法が直面する今後の課題を検討してみる.

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文献抄録

ページ範囲:P.868 - P.869

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.872 - P.872

 1991年は世界史的に激動の年でした.20世紀初頭に,人間開放のイデオロギーとして,登場した社会主義思想の下につくられたソビエト社会主義連邦共和国が消滅し,独立国家共同体が出現した.人類の歴史は,人類の希求する理想に向かって,進歩の道を歩むことだと思うのは,一つの信仰にすぎないと思われます.

 政治は最高の道徳だと言いますが,政治,経済の行為だけでなく,人びとの行動,行為が道徳的に低下し,人間らしさと,暖かみに欠けているようです.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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