icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル25巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

特集 日常生活動作(ADL)

理学療法における日常生活動作と生活関連動作

著者: 天満和人

ページ範囲:P.376 - P.381

 Ⅰ.初めに

 ニューヨークのInstitute for the Crippled and Disabledにおいて,医師Deaverと理学療法士BrownとによってADLの概念が生み出されて以来,やがて半世紀を迎えようとしている.この間,諸外国同様日本でもADLに関する種々の事項(範囲など)についての統一見解が無く,いささか混乱をきたしていたのが実情である.このような情況の中,日本リハビリテーション医学会評価基準委員会では1973年末より7回にわたる審議,アンケート調査などにより一応の統一見解が出た.

 このように歴史的には紆余曲折があったADLは,リハビリテーション医学の発展に伴いますますその重要性を高めており,またQOL向上という視点からもADLの意義は大である.

 このようにきわめて重要なADLの評価および指導にかかわっている職種として,理学療法士,作業療法士,看護婦,医師などがあるが,本稿では,院内,在宅,施設などでつねにADLについて考えることを要求される職種の一つである理学療法士の視点からADLおよびAPDLをとらえ,現在および将来展望も含め望ましいADL評価とADLおよびAPDL指導について論じてみたい.

退院を受けての日常生活動作の指導・訓練―脳卒中片麻痺患者の日常生活動作について理学療法士の立場から

著者: 吉原裕美子 ,   川島康子 ,   高取利子 ,   永原久栄

ページ範囲:P.382 - P.390

 Ⅰ.初めに

 一般的に,病院は“医療の場”,家庭・地域は“生活の場”であると,そしてそれは異なるものであるように言われている.しかし,地域理学療法マニュアル1)に述べられている「“生活”を忘れた指導訓練は無意味になるかもしれない」ということばは,家庭復帰を中核目標におく入院理学療法にも,当然当てはまるものである.日常生活動作(activities of daily living;ADL)指導訓練は,この「生活」を念頭に入れた,入院理学療法の要と言える.われわれは入院理学療法開始時からつねに,今後帰っていくはずの実生活でのADLを予測し,実生活を想定したADL訓練を,治療と並行して,日々変化する入院生活上のADLを融合し実践していかなければならない.

 地域・在宅障害老人と,その人の家で出会うとき「家に帰ったらやれませんねえ」とか「病院ではやりましたよ」と言うことばをよく聞くことがある.この表現の意味するところには,退院に向けてのADL指導訓練を十分受けたが意欲・活動性低下のためやらない場合,入院中のADL訓練のみが行なわれ,退院後の生活指導がされていない場合,ADLは能力が改善したらできるとして“機能訓練”のみ重視された場合,介護者への指導が無く病院ではできたが家庭ではできない等々,指導側に問題が有りそうな様相がみえる.何よりも,退院後の生活を想定したか否かが気になる.総じて,在宅で展開されている障害者の生活をみると,入院中のリハビリテーション援助が十分あったからこそできている点と,援助が十分あったにもかかわらず,入院中には及びもつかないためにできていない点とが往々にしてみられる.

 われわれは,いわゆる第一線病院のリハビリテーションスタッフとして,急性期治療から,家庭復帰,在宅リハビリテーションまで,一貫した援助に取り組んでいるが,他方で,地域担当者として,病院から離れた在宅障害者の生活援助に携わる経験をもっている.この経験を基に,当院脳卒中退院患者91名の調査結果から,退院に向けてのADL指導訓練をまとめたので本特集の一助としたい.

在宅における日本的ADLを考える―屋内移動を中心に

著者: 藤林英樹

ページ範囲:P.391 - P.396

 Ⅰ.初めに

 最近,地域リハビリテーションへの指向は著しいものがある.これは高齢化社会を背景とし,医療面では成人病の増加に加え,その疾病の慢性化,重複化,重度化の傾向が社会的課題として押し寄せてきているからであろう.また,これに伴う医療事情の厳しさから,将来の社会保障制度も種々模索されつつある.リハビリテーション医療の分野においては,患者の入院治療,施設収容の方向から在宅療養へのうねりが急速に高まりつつある.

 疾病や障害を有しつつ,在宅でいかに円満な生活を構築していくかはリハビリテーション医療にかかわる理学療法士の領域でも大きな課題である.われわれ理学療法士にとって,“在宅での生活,すなわちADL”をいかに考えるかということが,差し迫ったテーマである.われわれ理学療法士が主として活動してきたところは“病院”という治療の場であったため,“家庭”という生活の場における理学療法のノウハウに欠けている点は否めない.そこで,将来に向けて障害者の在宅生活を支えるためには,日本の家庭や生活に根ざした実践的な方法論を積み上げていく必要がある1~4)

 ADLの背景には気候,風土,生活習慣,文化などといったものがあり,地域,人種,国などによってさまざまである.そういった中で日本的なADLは障害者にとって困難なものが多く,障害者の在宅生活において洋風化が随所に見受けられるようになってきた.

 これが障害者にとっておおいに有効であることは言うまでも無い.しかし,“家族の生活環境”をともに考えた上での“障害者の生活行為”でなければ,障害者には円満な在宅生活は望みにくい.障害者のための生活環境と既存の環境との融和が重要である5)

 われわれの周囲には生活様式の洋風化が普及してはいるが,厳然として和風の家屋構造があることも確かである.この和洋折衷の生活環境の中で,障害者と家族とが円満に共存できる方策を提供することがわれわれの今日的課題の一つと考える.

在宅片麻痺者のADLとそのアプローチ

著者: 中石睦

ページ範囲:P.397 - P.402

 1.初めに

 片麻痺者に限らず在宅を余儀無くされた障害者のADLは,彼らを取り巻く個々の環境因子に大きく左右されるため,本人のADL能力だけでなく,家族や住環境などをふまえた多面的な評価が重要である.そして,それらの評価に基づくリハビリテーション・ニーズの把握と,ニーズに則したリハビリテーション・サービスの提供が必要である.

 しかし,在宅という条件下では,リハビリテーション・サービス自体の選択権が障害者本人あるいはその家族にあるため,たとえわれわれが必要だと判断しても,本人・家族に受け入れられなければサービスとして成立しない.

 そこで,この小論では,多くの在宅片麻痺者に共通したADL上のニーズに対し,どのようにアプローチすれば有効なサービスになりうるか,より現実的な視点で考えてみたい.

Parkinson病患者の在宅ADLとそのくふう

著者: 金沢成志 ,   堀川進

ページ範囲:P.403 - P.407

 1.初めに

 Parkison病は50~60代に多発する原因不明の進行性の神経変性疾患で,我が国では人口10万人当たり約50人の有病率と言われている.

 私たちは1985年以来,杉並区上井草保健相談所を拠点にさまざまな地域リハビリテーション活動を行なっているが,その中でParkinson病患者と出会うことも少なくない.

 今回私たちは杉並パーキンソン病友の会の会員を中心にParkinson病患者のADLについてのアンケート調査を行なったので,その結果を交えながらParkinson病患者の在宅ADLなどについて考察する.

慢性関節リウマチ患者の在宅におけるADLとそのくふう

著者: 庄子美和 ,   岡本五十男 ,   田村裕昭

ページ範囲:P.408 - P.412

 1.初めに

 慢性関節リウマチ(以下,RAと略.)は,慢性進行性の疾患であり,多くが増悪,寛解を繰り返しながら関節の変形や破壊などにより運動機能が低下し,それによってADLに制限をきたす.このように,RAは「疾患と障害が共存し,進行性の経過をたどる典型的な例」1)の一つであり,それゆえに,疾患としてのRAそれ自体の治療と管理と,障害としてのRAに対するリハビリテーションアプローチとが並行して行なわれなければならない.また,RAにおいてもリハビリテーションアプローチは機能訓練のみならず,ADL・QOLの向上を目指したものでなければならない.われわれもこうした立場でRA患者にアプローチしているが,本稿ではRA患者の在宅におけるADLに焦点を合わせ,その特徴と留意点,ADL上のくふうについて述べる.

筋萎縮性側索硬化症患者のAD

著者: 千葉美恵子 ,   笠原良雄

ページ範囲:P.413 - P.418

 1.初めに

 今回われわれに与えられたテーマが進行性の神経筋疾患のADLということなので,ここでは代表的な疾患の一つである,筋萎縮性側索硬化症(ALS)を取り上げることにする.

 ALSは比較的進行が早く,1~数年で歩行自立から寝たきりへと機能低下していく病気である.進行性で,常に症状が変化していくため,それに合わせて生活パターンの変更を余儀無くされる.そのためその時々で本人の機能を最大限に引き出すようにすることがポイントとなる.また,将来の機能低下を見越した指導がたいせつとなる.そのためには,患者さんが今どの時期にあるのかを知ることが必要である.患者・家族に将来の症状の進行についての情報を与えておくことも,心理的アプローチとしてたいせつである.しかし,どこまで先を伝えるかということに関しては,各人により進行の度合が違うのと,患者・家族の障害に対する理解度が違うので一概には言えない.

脳性麻痺者の在宅ADLとそのくふう

著者: 野村典子 ,   伊藤晴人 ,   山本純子 ,   逢坂伸子 ,   吉岡善隆 ,   山本和儀

ページ範囲:P.419 - P.424

 Ⅰ.初めに

 脳性麻痺者の在宅ADLを考える場合,必要な条件として

 1.ADLの介助者(家族およびその他)

 2.ADLの自立を助ける家屋構造

 3.社会的公的サービス

 4.継続的なケア

 5.地域社会とのつながり

 6.入所・通所施設の利用(ショートステイ,デイケア)など

 がある.在宅ADLを支えるのは,これらを基盤として暮らしを楽しみ,「ひと」として十分な活動ができるということだと思う.そのためには,住み良い町づくりをすることも必要である.ここでは行政の中で他の関係機関と連携しながら地域リハビリテーションを推進している理学療法士,作業療法士の立場から脳性麻痺者の在宅ADLの現状を紹介し,われわれ専門家だけでは支えられない部分と,ではどのようにすれば地域で生活する障害者を支えていくことができるかとを考えてみたいと思う.

とびら

夢を実現しよう

著者: 二重作勲

ページ範囲:P.375 - P.375

 1966年に,我が国で初めて183名の理学療法士が誕生し,それ以来,今日に至るまで,(1990年度末)養成校は49校まで増設され,約1万名の理学療法士が,全国の職場で活躍している.なかんずく,多くの若き理学療法士が,患者のため献身的な努力をされている姿に,医療や福祉の分野のみにとどまらず,社会一般の中でその価値を認められつつあり,日本の理学療法士は一歩一歩着実に前進していると思う.誠に喜ばしい限りである.

 あと9年もすれば,21世紀を迎える.我が国では,急速な高齢化社会に突入する.これに伴い理学療法士の重要性が高まり,その果たすべき役割も大きくなってくる.

プログレス

Reflex Sympathetic Dystrophyの治療

著者: 塩谷正弘

ページ範囲:P.425 - P.425

 1.初めに

 反射性交感神経性萎縮症は外傷または神経損傷を残す疾患後に生じる状態であり,交感神経の機能亢進とallodynia,hyperpathia,を示す難治性の疼痛疾患である.1986年international association of the study of painでまとめられた疼痛の分類法では従来の考えかたを見直し,カウザルギーは灼熱痛が有りallodyniaとhyperpathiaが有るもので神経またはその枝の部分的な損傷後に生じるものとし,反射性交感神経性萎縮症を持続痛が有り,骨折などの外傷後に生じるもので神経には損傷を認めないものとした1,2)

PT最前線

少年の思いを貫いて,‘太陽’へ―地域リハビリテーションの魁の地へ 高橋寛氏/<証言>唯一無二のパイオニア

著者: 本誌編集室 ,   森永敏博

ページ範囲:P.426 - P.427

 「医師が軸になり,理学療法士が,看護婦が,ケースワーカーがしゃべり,最後に患者さんが呼ばれて指示を受ける.何か本末転倒しているように思った.業者の人は,これこれ作りなさいと言われる.物を作ることの大変さを無視されているな,と.病院では先生が通って,後に私たちも付いて行って,患者さんがそれをよけて歩く.そういうのがあんまり気に入らなかったんです.」高橋少年の目は,障害者の目が生きている,そういう所を探していた.

あんてな

医療法改正のねらい

著者: 岩崎榮

ページ範囲:P.428 - P.428

 現行の医療法は1948年に制定されたものであり,別名,医療施設法とも称され,医療提供のための施設の計画的な整備,医療施設の人的構成,構造設備,管理体制などの規制,医療法人の規制などを盛り込んだ法律である.この法の主たる目的は,医療を提供する体制の確保を図ることにより,国民の健康の保持に寄与することであるとしている.

 このように,医療法は,医療施設に関する基本法規であるところから,医療法が改正されると,医療施設の在りかたが変わるということになる.

入門講座 歩行・6

骨・関節疾患の歩行

著者: 宇都宮学 ,   田中聡 ,   高橋謙一

ページ範囲:P.429 - P.435

 Ⅰ.初めに

 窪田1)は,歩行障害とは,歩行が何らかの因子により,障害された状態を指すものであり,しばしば同義語的に用いられている異常歩行(または病的歩行)は,機能・形態障害の一つとして,歩行障害の原因となるものであるので,この意味で両者は明確に区別して用いられるべきであると述べている.つまり異常歩行とは,さまざまな疾患によって引き起こされた運動障害に基づき,歩行の観察における異常所見としてとらえられた状態を意味しているのであって,歩行障害は,何らかの疾病(外傷も含む.)によって引き起こされるさまざまな不都合な状態を包括した概念であり,具体的には,運動障害という機能障害により引き起こされた,歩行という運動に関する能力障害を意味すると解釈できる.

 今回のテーマ「骨・関節疾患の歩行」は,こういった意味からして,下肢の三大関節の機能・形態障害に起因する異常歩行という運動障害について主に述べる.なお,多関節にわたり機能・形態障害を呈する慢性関節リウマチや,スポーツ障害などの靭帯損傷は今回は省き,単一の関節障害を中心に解説する.

講座 姿勢・6

姿勢調節と足

著者: 浅井仁 ,   奈良勲

ページ範囲:P.437 - P.442

 Ⅰ.初めに

 ヒトは,二足移動(bipedal locomotion)を行なうことから,四足動物と比べ下肢,特に足部は姿勢調節において特異な機能を有すると思われる.これは,類人猿を含めた四足動物の足部の骨格とヒトのそれとが異なることからも推察される.

 ヒトの立位姿勢保持,あるいは歩行における足部の機能的役割は,主として効果器,受容器としての働きがあると考えられる.効果器としての大きな役割は,身体を支え,転倒しないように体重心の位置を調節することである.また,受容器としての大きな役割は,足底皮膚や足部の筋・腱等を介して情報収集を行なうことである.これらの情報により効果器としての働きが円滑になり効率的な姿勢調節が可能になると言える.

 今回は,「姿勢調節と足」というテーマで,筋・骨格系の役割については文献的考察に基づいて述べ,足部からの感覚情報の役割については,主に足底の皮膚感覚情報の役割という点から言及したい.

1ページ講座 くすりの知識・6

循環器系に作用する薬・1 降圧剤

著者: 正門由久

ページ範囲:P.443 - P.443

 高血圧は,原因不明の本態性高血圧と原因の明らかな二次性高血圧とに分けられるが,本態性高血圧がその90%を占める.収縮期圧が160mmHg以上か拡張期圧が95mmHg以上の場合が高血圧とされ,140/90mmHg以下が正常域で,その程度によって治療は次のようになる.

 降圧療法として,まず血圧の評価(つまり治療が必要か,二次性高血圧の可能性など)の後,一般療法の開始(肥満の解消,減塩療法,運動療法,禁煙など)を経て,薬物治療の開始となることを忘れてはならない.薬物の選択についての基本は,緩徐に作用するもの,副作用の少ないものを選ぶことで,患者に投薬の意義,長期投与となることなども十分に指導しなければならない.降圧剤にはCa拮抗剤,交感神経抑制剤(α,β遮断剤など),利尿剤,ACE(Angiotensin converting enzyme)阻害剤などがあるが,患者の年齢,重症度,合併症の有無などによりいずれかのものを選択し,また併用することとなる.その使用順序はさまざまであるが,一般的には老年者に多い低レニン性の高血圧はCa拮抗剤や利尿剤がよく反応し,若年者では,高レニン性の高血圧や交感神経機能が亢進しており,ACE阻害剤やβ遮断剤によく反応するとされている.以下個々の薬剤について簡単に述べることとする.

--------------------

文献抄録

著者: 松村秩

ページ範囲:P.444 - P.445

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.448 - P.448

 本号は日常生活動作(ADL)を特集した.ADLはリハビリテーション医学をもっとも特徴づけるものとして,古くて新しい課題をつねに包含している.

 ADLは病院・施設で生まれたが,障害者の生活の場が多様化し,リハビリテーションの場も施設から地域へと大きく拡がってきた.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?