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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル25巻7号

1991年07月発行

雑誌目次

特集 Ⅰ.理学療法カリキュラムの在りかたを探る

新理学療法カリキュラムの施行上の問題点と解決方法

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.452 - P.462

 Ⅰ.初めに

 新理学療法カリキュラムに移行して早くも1年が経過し,2年目に入り少しずつその問題点と改善点とが明らかになりつつあるのではないかと推察している.新しいカリキュラムの良い点が生かされ,さらに問題点も創意工夫により改善の方向に向かって歩み始めているのかどうか,あるいは問題点が多すぎて良い点の影も薄くなってきているのか,いずれにしても問題解決に向けて行政の関係者および教育関係者の英知と努力に負うところが大きく,敬意を表したい.

 21世紀に向かって社会経済は,大きく動いている.保健・医療・福祉の分野も変動・変革の時代へ動きつつある.この分野における変化については,すでに言われていることであるが,第一に,急速な人口の高齢化で,平均寿命は1985年には男74.8歳,女80.5歳となる.65歳以上の比率は,1945年の5.1%,2000年の16.3%,2021年で23.6%とピークを迎えると推計されている.しかも,後期老年人口(75歳以上)は,2000年の6.4%,2025年の12.9%と推計され,有病率,寝たきり率,痴呆性老人出現率は高齢になるほど上昇するので病気・各種合併症を有した高齢者が増加することである.

 第二は,疾病構造の変化で,悪性新生物,心疾患,脳血管障害などの順に約7割を占めることである.

 第三は,科学技術の進歩を基礎にした医学医術薬学の著しい進歩による医療の高度化,専門化が,ある一面で保健医療の高水準化をもたらすが,他面で資源の適正配分化の問題,生命倫理にかかわる遺伝子操作,脳死・臓器移植などの人間の生死観にまで波及することである.

 第四に,国民の健康に対する意識の高まりと,それに対する保健医療福祉に対するニーズの多様化と質量の高まりである.

 第五に,保健医療福祉の供給システムの効率化,合理化および経済問題についての論議の高まりである.チーム医療の在りかたもその一つである.

 第六に,家族・家庭の機能の変化により,介護機能の低下傾向などにどのように対処するかである.

 第七に,国際化社会にどのように対応してゆくのかが,問われている.

 そうした社会経済,保健医療福祉などをめぐる環境変化の中で理学療法教育のカリキュラムの政正が実施された.

四年制大学のカリキュラムの在りかた

著者: 武富由雄

ページ範囲:P.463 - P.469

 Ⅰ.初めに

 文部省は1990年11月2日「我が国の文教施策」第Ⅰ部「高等教育の課題と展望」を公表した1).大学を中心とする開かれた高等教育が経済発展や国民生活向上に伴い発展の一途をたどり,専修学校を含めると約341万人が在学し,同一年齢層の二人に一人が高等教育を受け,なかでも大学は高等教育の中核的な機関として我が国の発展に寄与してきたことを述べていた.看護教育が四年制大学で行なわれてから38年を経た現在,その数は11校である2).高等教育の高度化が施策に盛られている現在,未だ理学療法士教育制度では四年制大学が設けられていない.

 そこで,四年制大学を目指しての理学療法士教育のあゆみ,四年制大学教育の理念を基に,カリキュラムの在りかたについて述べる.

Ⅱ.糖尿病と理学療法

糖尿病患者における運動習慣の有用性

著者: 木村朗

ページ範囲:P.470 - P.477

 Ⅰ.初めに

 諸姉兄は,脳卒中後片麻痺の患者を治療しているときに,しばし再発作の危険性を忘れてはいないだろうか.私たちは脳卒中片麻痺者の発症の原因となった以前の基礎疾患を,どこへ隠してしまうのだろうか.リハビリテーション医学と内科学とは処方目的が違うので,「これでいいのだ」と私たちが指示の順守を徹底したことが,患者に役だってきたこともあるかもしれないが.しかし,脳血管障害患者では,高率で糖尿病を病前に有していることを知れば,糖尿病患者の運動習慣に理学療法士が取り組まなくてはならないという気持ちがよりはっきり芽生えてくると私は考える.

 この分野は,保健学もしくは公衆衛生学では,一度発症してしまった疾病の重症化を防ぐこと,すなわち三次予防と言う.脳血管障害自体が日本人を死に至らす病の第一位だったのは,すでに過去のことであり,現在は第三位である.私たち,理学療法士の需要をもたらしてくれたのは,三次予防の効果,すなわち,この死亡率の低下,言い換えれば障害者の増加と言っても過言ではない.しかし,これもすでに過去のものである.

 現在のところ,私たち理学療法士は高齢化社会の生み出す,高齢者が新たな需要を求めてくれるおかげで活況をみることができる.今後,日本の理学療法士が,患者に役だつ理学療法サービスを展開するためには,さらに将来の需要の見通しを立てないといけないだろう.そこで障害の基になる疾病の発生状況をみると,我が国では,かの糖尿病が着実に増加していることがわかる1)

 ここからが本題であるが,糖尿病に対する運動療法は,国際的にも,近頃研究者の関心を集めており,しだいに理論の構築がなされ,古いパラダイムの転換を余儀無くされつつある.刻一刻と変化する,いささか「密林の宝さがし」にも似た興奮さえ覚える.しかし,それだけに手持ちの道具(知識)と即戦力(実践能力)の開発につねに旺盛でなければ,宝物は見失ってしまうだろう.

 三次予防に取り組まなければならない,という気持ちができたなら,地図を拡げて,まず私たちの位置を確かめながら進んでゆこう2).ともかく糖尿病患者の運動の効果と意義を冷静に評価することがたいせつである.それに加えて,運動を習慣化させる意義と方法を知ることが求められるだろう.この稿では,筆者の乏しい経験と現在までの研究の成績を基に,諸姉兄とともに運動習慣の有用性について考えていきたい.

糖尿病教室における運動指導

著者: 岸田智晴 ,   武田秀和 ,   黒沢保壽 ,   小松みゆき ,   前田秀博 ,   染谷光一 ,   石川雅 ,   辻野大二郎

ページ範囲:P.478 - P.483

 Ⅰ.初めに

 糖尿病治療の目標は,血糖をコントロールし合併症の発症と進行を予防し,Quality of Lifeを高めることである.その目標を達成するため患者の自己管理が重要な部分を占めている.それに加えて,糖尿病ほど患者教育が重要視される疾患は他に無く,発症から早期にどの程度糖尿病に関する教育を受け,自己管理を徹底したか否かによって,患者の予後が変わる可能性を有している.

 糖尿病の教育入院制度はこの初期教育の効果を高めるために考案されたシステムで,すでに多くの医療機関で導入されている.しかしそのなかでの運動指導の分野は,食事療法に比べると十分に実践されていないのが現状である.

 当院では糖尿病患者の短期教育入院システムをとり,そのうちの運動指導を理学療法士が担当している.

 そこで,当院の教育入院システムを紹介し,個別指導をして1年間フォローアップを行なった患者につき,その効果と糖尿病教室での理学療法の有用性について検討するとともに,今後の方向性について考察を加えたので以下に述べることにする.

とびら

思うこと!!

著者: 内匠正武

ページ範囲:P.451 - P.451

 最近,医療技術短期大学(部)などの養成校が乱立気味に増設され,多くの若い理学療法士が誕生しています.このような状況の一方で,授業の単位科目数や臨床実習時間などの短縮というカリキュラムの再編が行なわれています.それが,はたして医療従事者としての資質を問われたとき,こたえうる十分な内容であろうかと非常に疑問を感じています.

 社会的需要の増大など理由は有るにしても,日本理学療法士協会が四年制大学の必要性を唱えながら,段階的に実現するよう活動してきたこととは,つまり資質を磨くこととは逆行しているのではないでしょうか.社会的要請が有るから,質より量となるのでは…….

入門講座 ADL訓練の実際・1

四肢麻痺の起居・移乗動作訓練

著者: 水上昌文

ページ範囲:P.485 - P.491

 Ⅰ.初めに

 頸髄損傷四肢麻痺のリハビリテーションにおける理学療法の最大の目的は,言うまでも無くADLを自立させることに有る.脊髄損傷対麻痺においても同様だが,四肢麻痺のADL自立の過程では起居・移乗動作がもっとも基礎的な部分でありかつ重要である.本論では日ごろわれわれが臨床の場で多くの四肢麻痺者に指導してきた起居・移乗動作の方法を述べるとともに,動作の遂行に必要な要素,および動作訓練の方法についてより具体的にふれてゆきたい.四肢麻痺の起居・移乗動作の方法についてはFord1)らによってもかなり詳細にわたって紹介されているので,併せて参照していただくと効果的であろう.なお,本文中の損傷レベルの表記はすべてZancolliの分類である.

講座 老年医学・1

老年医学概論―特に老年者の生理的特徴について

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.493 - P.498

 Ⅰ.初めに

 老年者の生理的特徴を理解するためには,より基本的な老化の特徴を理解しておく必要がある.したがって,ここではまず老化の一般的特徴を述べた後に,老化に伴うヒトの形態的,機能的な変化,つまり正常老化についてふれ,最後に老化と関係する老年者の疾患と,その特徴について総論的に述べることにしたい.

クリニカル・ヒント

頸髄における高位診断について

著者: 浅山章 ,   山岡賢兒 ,   清家隆介

ページ範囲:P.499 - P.500

 1.初めに

 日ごろ頸髄損傷患者の運動療法,退院後のフォローに携わっていると,あまり疑問も興味もわいてこない.少なくとも筆者はそうである.それどころか浮かんでくるのは,長期化,おしっこ,褥瘡,車いす,お金,等々やっかいなことばかりである.(仕事に対する姿勢は抜きにして.)

 ところが,まれに来る中心性損傷や完全麻痺に至っていない頸椎症性脊髄症だと興味がわいてくる.腱反射は?筋力は?知覚は?最初どこがしびれましたか?いったいどこが真の責任高位なのか?

 つい最近のC5/C6前方固定術後の患者は,発症時四肢麻痺,まったく動かずの症状が,主に手指が使えない症状(C7,C8髄節)へ改善.下肢にも痙性麻痺が残るものの立ち上がり,階段,独歩ももちろん可能である.一はたしてC7,8の髄節は第5,第6頸椎間にあると言えるのか?

 神経学的高位診断を複雑にする因子はもちろんたくさん有るであろうし,理論上区別し難い神経学的所見もあろう.しかし高齢者頸椎症性脊髄症の場合においても,仮に脊髄造影像で多椎間病変が認められても真の責任高位はすべての椎間であるとは言えず,発症の引き金となった椎間は1椎間の可能性が高いわけであり,いかに責任高位決定をするか興味のわくところである.

プログレス

運動療法

著者: 村山正博

ページ範囲:P.501 - P.501

 虚血性心疾患,高血圧,高脂血症,糖尿病,肥満といったいわゆる成人病を対象とした運動療法が広く行なわれるようになった.しかし,その基礎にある治療原理については必ずしも明確でないものが多く,科学的根拠に乏しく情緒的に施行されている場合も少なくない.ここに運動療法のプログレスとしてその学問的背景を明確に述べるだけの研究の発展は未だ十分でない.臨床医学的アプローチの方法は基礎学問で得られた明確な理論をそのまま実際に応用していく手法と少々あいまいな点があっても実地に応用し,その結果を判断しながら逆にその理論を組み立てていく手法とがあるが,本法は後者の立場と考えてよい.しかも,運動療法の効果はかなり長期にわたる予後調査から判定されなければならないが,未だそのデータの集積の段階である.その意味で,ここでは臨床的立場から,特に成人病の代表である虚血性心疾患を中心とした運動療法の考えかたの現状を述べることとする.

PT最前線

人間,あきらめることが肝腎だ―日本人の日本人らしさを考えた 半田一登氏/<証言>無私無欲の潔き九州男児

著者: 本誌編集室 ,   高橋寛

ページ範囲:P.502 - P.503

 九州労災病院では整形外科患者に超早期と言える理学療法を実施している.「後療法という名の,一種屈辱的な用語の整形外科の後始末の治療ではなく積極的な意識の治療をしているんです.筋力低下や変形を生じさせないということです.まだ骨も癒合していない,傷も生々しい時期に始めますから緊張感も高いんですが,その効果は一日をおろそかにできないくらいですね.」そんな臨床に在って,人間を追及し続けた.そして,あきらめることだと….

あんてな

Americans with Disabilities Act

著者: 久保耕造

ページ範囲:P.504 - P.504

 米国で1990年7月26日に制定された法律Americans with Disabilities Act of 1990(公法101-336)はその頭文字をとってADAと略称されている.直訳すれば「障害をもつアメリカ人法」あるいは「障害をもつアメリカ国民法」というところであるが,その内容を意訳して「障害者差別禁止法」あるいは「障害者差別撤廃法」などと訳されることもある.

資料

第26回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1991年度) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 橋元隆 ,   中山彰一 ,   高橋精一郎 ,   堤文生 ,   高柳清美

ページ範囲:P.505 - P.510

1ページ講座 くすりの知識・7

循環器系に作用する薬・2 心疾患に用いるくすり(心臓に作用するくすり)

著者: 峯尾喜好

ページ範囲:P.511 - P.511

 近年,心臓病患者数の増加とリハビリテーション治療の改善により,心疾患を有する患者の理学療法を行なう機会がふえている.このような状況下では,循環器系の基本的な病態生理や運動生理学に関する知識のみならず,循環器系に作用する薬剤に関する基本的な知識も要求されつつある.今回は心臓に作用する薬物のうち,特に理学療法とかかわりがある狭心症,不整脈,心不全に対する薬物を,経口剤を中心に紹介する.

 狭心症は心臓に酸素と栄養を供給する冠動脈の血流量が心筋の需要量に較べて低下して虚血状態になることで発現するが,冠動脈の器質的狭窄によるものとスパズム(攣縮)や緊張異常によるものとがある.さらに運動負荷量の増加に伴って発現する労作時狭心症と運動と関係無く発現する安静時狭心症に分類される.

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文献抄録

ページ範囲:P.512 - P.513

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.516 - P.516

 去る6月23~27日,ボストンで開催された第66回米国理学療法協会主催の学術集会に出席した.当該協会創立70周年記念大会とあって,その企画は多彩,かつ盛大であった.最近の理学療法士の活動領域,学術水準などを知る良い機会であった.特に,学術集会自体の企画・運営などについてはその規模の大さきにただ驚くばかりであり,経済大国日本の理学療法士協会学術集会の世知辛さを感じさせられたしだいである.

 さて,今月号の特集は「理学療法カリキュラムの在りかたを探る/糖尿病」の二本立である.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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