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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル26巻1号

1992年01月発行

雑誌目次

特集 脳卒中

脳卒中片麻痺患者の歩行プログラムの再検討

著者: 三和真人 ,   八並光信 ,   遠藤敏

ページ範囲:P.4 - P.7

 Ⅰ.緒言

 近年,脳卒中片麻痺患者の歩行中心とした自立度予測や歩行能力達成などに関して示唆に富む報告1~3)が為されている.

 そこで,脳卒中リハビリテーションにおいて歩行に関する研究報告を分類すると,①発症からの期間,合併症,Brunnstromステージ,感覚障害,関節可動域制限などの質的な諸変数を指標にし歩行の自立度を予測しようとする,②床反力計などによる波形解析や重心加速度計による歩行周期,歩行効率などの総合的・動的データから歩行の機能・能力を予測する,③三次元歩行計測システムなどによる筋・関節から歩行パターンや歩容を,エネルギー消費量の計算から身体状況を把握し歩行を予測する,④歩行スピード,歩行距離などの運動機能能力や酸素摂取量などの呼吸循環系の心肺機能の能力から,片麻痺患者の体力や歩行自立能力の達成を予測する,などに大別されよう.

 この中でも,われわれは①と④の観点から片麻痺の歩行プログラムの検討を行なってみる.

 ただし,基本的には,体系化された片麻痺の歩行プログラムは,確立されていないという前提の下に述べていきたい.

脳卒中片麻痺上肢に対する理学療法

著者: 松田淳子

ページ範囲:P.8 - P.13

 Ⅰ.初めに

 上肢はその役割のほとんどが手の使用を含んだ複雑なものであり,運動麻痺だけでなく感覚障害も有することの多い片麻痺患者にとって,よほど軽症の患者でない限り病前と同じ機能,能力を再獲得することは困難である.このことは,随意運動が不十分でも,装具などの補助で支持ができれば“歩行”という大きな運動機能に結び付く下肢との大きな相違点である.それだけに目的が明確になっていないと,患側の上肢は容易に“使えない”,“忘れられた”身体の一部分に過ぎなくなってしまう.単なる付属物になってしまった上肢は重く,邪魔になり,そのくせ動作のときには忘れられるため疼痛などの問題も引き起こしやすい.

 ヒトの日常生活は本来非常に多様なものであり,上肢の役割もさまざまである.100%の役割が果たせなくても,例えば衣服の着脱時に少し動かすことができることで,患側上肢は役割を果たし“邪魔になる身体の一部分”ではなくなる.

 ところで,上肢において特に自由な随意運動を遂行しようとする場合,その動きを保証するために姿勢の調整は重要な要素になる.上肢を動かそうとする場合にも,ダイナミックな体幹の固定能力は重要であり,取りも直さずその固定能力は体幹,骨盤帯の機能に影響を受ける.

 私たちは最近,片麻痺患者の肩関節可動域に影響を及ぼす因子について調査を行なっている.上肢,とりわけ肩関節の動きと体幹との関係を知りたいためである.

 ここでは,まず調査結果を報告し,体幹と肩関節の関係を考察した上で,片麻痺上肢の理学療法について考える.

(超)高齢者の日常生活動作―85歳以上の脳卒中患者の日常生活動作の特性について

著者: 永原久栄

ページ範囲:P.14 - P.20

 Ⅰ.初めに

 脳卒中患者の日常生活動作(以下,ADLと略.)をみるとき,高齢は,このこと自体が問題点であり,ゴール設定や,ADLを規制する要因とされてきた.高齢者であるほど,脳卒中の病態や障害の程度に加えて,生理的老化による機能低下の要因も大きくなるから,高齢は,確かにマイナスの問題点であろう.

 しかし,高齢脳卒中患者に多く接し,高齢脳卒中のADLに改善要素を経験してみると,高齢をすべてマイナスの問題点とみず,改善要素を含めた,高齢脳卒中のADLの特性を把握するニーズも出てくる.高齢脳卒中の特性を生かした適切なADL援助は,増加傾向にある高齢脳卒中のリハビリテーション目標に積極的意味をもたせる.

 80歳以上の高齢脳卒中患者のADLに関した報告は少ない.少ない中で,渡辺は1)80歳代脳卒中患者の一般的リハビリテーション目標に,屋内ADLの自立,また渡辺2)は90歳以上の場合,ベッド上ADLの確保と述べている.

 筆者は,老人一般病院で,入院患者平均年齢80.5歳を受けて,高齢者の理学療法に携わることが多い.今回,高齢・超高齢脳卒中のADLについて,実践の中から調査し,その特性に迫ってみたので報告する.

独居脳卒中者のための自立生活訓練―一人暮らしへの生活技術援助

著者: 髙田京子 ,   西ケ谷節美

ページ範囲:P.21 - P.26

 Ⅰ.初めに

 近年,障害者の地域在宅生活を促進するノーマライゼーションの考えかたが広まってきており,数年前は住む家の無い単身障害者は施設生活の選択を余儀無くされたが,現在は本人が望めば種々の援助を受けながら,地域社会で一人暮らしをすることが可能になってきている.しかし現実には,重度障害者の一人暮らしの実現は課題が多い.我が国の在宅福祉サービスは地域によりその整備に差が有り,東京都においても区市町村でバラツキが有り,十分整備されてはいない.特に巨大都市東京は人間関係が稀薄で,コミュニティーの崩壊が進んでおり,近隣の援助を期待できないため,公的な支援に頼らざるをえない.また,地価の高騰のため家賃の安いアパートは年々減少する一方,マンションへの立て替えが相次ぎ,年金や生活保護費で借りられる住居の確保が困難になっている.さらに障害者に対する偏見や差別は根強く残っており,単身障害者の一人暮らし援助にはこのような社会の受け入れ状況の中で現実の問題に直面し,その障壁を障害者とともにどこまで乗り越えられるかその困難度の数量化が望まれるが,単純に日常生活動作や家事動作を含むAPDLが自立すれば一人暮らしができるというわけにはいかない.近年,地域福祉,在宅ケアの充実が叫ばれているが,そのシステム作りは難題が多く,まだ一部の地域でしか進んでいない.脳卒中後遺症では片麻痺の他に知的能力の低下,失語症などのコミュニケーション能力の低下や高血圧,糖尿病など合併症をもつ障害者は多く,その一人暮らしには地域における密度の高い在宅支援サービスが要求される.このような単身脳卒中者に対する一人暮らしの援助は東京都心身障害者福祉センターでは理学療法士が他の職種と共同してソーシャルワークを含む援助を行なっている.ここでは一連の援助内容を説明し援助の実際を述べる.

脳卒中患者の外泊訓練について

著者: 沢志津枝 ,   松ケ谷洋子 ,   深水清 ,   大島美生 ,   池田雄三 ,   木塚啓子

ページ範囲:P.27 - P.32

 Ⅰ.初めに

 脳血管障害により障害をもった患者が,退院後の生活を安定して送るためには,①患者の能力,②家族の介護能力,③家屋構造などの互いに関連し合う条件を十分に把握し,退院後の生活の設定を入院中に行なうことが必要である.当院においては,自宅退院へのアプローチの最終的な評価として試験外泊を位置付けて取り組んでいる.

 以下に,当院における試験外泊のシステムを紹介し,その目的と条件について事例を含めて報告したい.

とびら

背中

著者: 小村博

ページ範囲:P.3 - P.3

 ねぶたは,青森の夏祭り.地元の人間としても誇りに思える.社大な武者人形に,太鼓の響き,笛の囃(はや)し.迫力極まる色彩・音・振動の世界に,誰もが陶酔する.短い夏の乱舞.跳人(はねと)は花笠に浴衣,それに襷(たすき)を掛ける.襷はそもそも和服のとき,立ち居振る舞いがしやすいように,袖をくくり上げるものだが,ねぶたの襷は,背中に長く垂れ下がり,後ろ姿を華やかにする.跳人の動きにつられ,襷の裾が生き物のように動く.背中を飾るという意識が根底に有るのかもしれない.着物の帯・ジャンパーの文字・Tシャツの絵柄・背番号・女性の長い髪….背中にはさまざまな表現がある.人は何気なく背中を意識しているようだ.

 妻は背中が痒(かゆ)いと言って,よく私の手を借りる.痒い所になかなか手が届かないのか,それとも甘えている振りをしているのかはしらないが,私はいつも快く掻(か)いてやる.彼女とは,ねぶた祭りで知り合った.もう13年も前のこと.

入門講座 理学療法におけるパーソナルコンピューター活用・1

パーソナルコンピューターの基礎知識

著者: 辻下守弘

ページ範囲:P.33 - P.38

 Ⅰ.初めに

 現代社会は,コンピューターの存在無しでは機能しない,すっかりコンピューターに頼る社会へと早い速度で移り変わってきた,コンピューターが,これほど急速にわれわれの社会に浸透した理由は,社会が複雑化したことと人間の本質的な怠惰性によるところが大きい.つまり,コンピューターは,人間の道具あるいは奴隷として,人間には面倒くさすぎる,時間を費やしすぎる,単調でまちがいやすいといった作業を簡単に,短時間で,正確にこなしてくれる機械なのである.

 そして,このような合理的で便利なコンピューターを,大企業や大学等の一部のユーザーだけのものにしておくのはもったいないから,一般の個人にも使えるようにしていこうという考えかたから,個人用のコンピューター,すなわち「パーソナル・コンピューター」を生んだのである.「パソコン」とは,このパーソナル・コンピューターの略語であり,海外では通用しない日本独自の名称である.

 本論は,パーソナルコンピューター入門講座の第1回目として,パソコンをこれから始めるためにぜひとも知っておきたい基礎知識を,なるべく平易にまとめてみたので,気楽な気持ちで読んでいただきたい.

講座 CTとMRI・1

CTとMRIの原理

著者: 佐々木泰志 ,   白水一郎 ,   町田徹

ページ範囲:P.39 - P.43

 Ⅰ.初めに

 今日のコンピュータ断層撮影(CT)は1972年Hounsfieldにより開発され,わずか10年のうちに急速に臨床検査として普及した.CTは,従来のX線フィルム撮影では検出できないようなわずかな組織間のX線吸収係数の差を断層画像として表し,その後の放射線診断に大きな影響を与えた.また,CTはその後の画像のディジタル化への道を開いたという意味でも重要であるが,ここではその原理の中核を成すCT画像再構成原理を概説する.

 CTとほぼ同時期に開発された磁気共鳴画像(MRI)は臨床応用の開始はCTに遅れたが,現在では技術の進歩も一段落し,その有用性はほぼ完全に確立したと言える.MRIの基本原理となる核磁気共鳴現象はそれまで医療関係者のなじみの薄いものであり,画像の解釈も生体の特殊性,病理学的複雑さが加わり難解な面が多い,ここではその基本原理と画像の一般的な成り立ちについて述べる.

1ページ講座 関連職種の動向・1

作業療法士

著者: 古川昭人

ページ範囲:P.44 - P.44

 我が国における作業療法士養成は,1966年の国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院の開校に始まり,現在33校(うち13校が医療短期大学部),毎年700名の卒業生を送り出せるまでになっている.これには,医療観の変化や社会情勢の変化を基盤にしており,診療報酬の制定と老人保健法の制定などにより,作業療法士のニードと職域は大きく拡大してきている.

 これまで,厚生省では3回にわたる作業療法士需給計画の見直しを行なってきている.第一回目の1983年には1995年までに7100名の需要を見込んでいたが,老人保健法の制定により,1988年には7500名に需要数が増加した.さらに,1999年までに作業療法士数を15800名までに増加するという,「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略(いわゆるゴールドプラン)」に基づいた需給計画の見直しが1991年8月に答申された.この供給計画では,現在700名の養成力を1995年までに2300名に増加させる方向で検討が為されている.

プログレス

未熟児に対する理学療法の進歩

著者: 江連和巳

ページ範囲:P.45 - P.45

 1.初めに

 未熟児,新生児に対する理学療法は,欧米ではすでに1970年代後半から小児理学療法の新しい領域として行なわれてきており,本邦でも1980年代より一般病院や小児専門病院のNICU(Neonatal Intensive Care Unit)などにおいて行なわれるようになってきている.

 このような背景として①近年における周産期医学,新生児医学などの進歩や,小児神経学の確立などに伴い,理学療法士,作業療法士などにも小児の感覚運動発達障害に対する専門的アプローチが要求されるようになり,「発達科学領域」における理学療法や作業療法といった新しい分野が出現してきていること,②発達障害児に対する(超)早期治療に対する関心,要望が高まり,その治療概念および技術が普及してきたこと.などを挙げることができる.ここでは,未熟児の定義とわれわれが取り組んできたNICUでの未熟児理学療法について概説する.

我が地域

兵庫を知っとってですか?/秋田ってなんたどこだが,おべでるべが?

著者: 兵庫県理学療法士会広報部 ,   高橋仁美

ページ範囲:P.46 - P.47

 いま兵庫士会がおもしろい

大阪府に隣接しているため,大阪の一部と思われている読者も多いかもしれないが,工業地帯でなる尼崎(カマガサキではありません),甲子園球場のある西宮,豪邸の多い芦屋,エキゾチックな神戸などは,兵庫県の市であり,この南西部に人口がかなり密集している.したがって,理学療法士もここに約60%が集中している.

兵庫士会は,ここ数年の間に会員数が急増,若い理学療法士がふえ,一人職場も多くなっている.これらの状況の中で,孤立する理学療法士を少なくしていくことが今後の士会の課題である.

あんてな

日本作業療法士協会新協会長の抱負

著者: 寺山久美子

ページ範囲:P.48 - P.48

 1991年6月13日,(社)日本作業療法士協会は25周年総会を祝った.その節目の日に矢谷令子氏から会長を交代した.鈴木明子氏13年,矢谷令子氏12年の超大姐御(失礼!)の後を受けての第三代目である.「『唐様に貸家と書く三代目』にならぬよう頑張ります」とどこかで挨拶したら,「山口組は三代目で基礎が固まった」と意味不明瞭な激励のおことばをいただいた.

 さて,これからの協会活動であるが,すでに協会は「会員5000人時代に対応する業務が十分行なえるように」という目的で,前会長時代から組織の抜本的改革を行なってきた.「友好団体から公益法人への完全脱皮」を目指し,今年度はこの新組織を始動させることが第一の任務であろう.

特別寄稿

イタリアへの旅,そしてPerfetti法との遭遇―『脳卒中片麻痺に対する認知運動療法』の翻訳に当たって

著者: 宮本省三

ページ範囲:P.49 - P.49

 Perfetti(パフェッティ)法とは,イタリア人の神経科医Carlo Perfetti教授が脳卒中片麻痺患者や脳性麻痺児の運動機能回復を目的として開発した画期的な治療法である.この治療法は,イタリアやフランスでは新しい神経生理学的アプローチとして位置付けられPerfetti法という名称で一般化しているが,Perfetti氏自身は認知運動療法とかKnowing approachと呼んでいる.そして,Perfetti法の特徴は,感覚入力刺激に対する認知機能の再構築によって賦活する中枢神経系の運動出力反応を学習させようとする点にある.

 筆者は,1990年の夏にフランスでPerfetti法が話題になっていることを知ったが,そのときにはSensory reeducationの変法であろうと思った.しかし,秋にイタリアの理学療法を視察するためにミラノに入り,偶然にも医学書店でPerfetti氏の著書『La rieducazione motoria dell emiplegico』と『Condotte terapeutiche per la rieducazione motoria dell emiplegico』とに出逢った.この2冊の本はイタリア語で書かれており理解することはできなかったが,参考文献のページを開いて驚いた.そこにはBrain,Journal of Physiology,Journal of Neurophysiology,Psychological Reviewといった雑誌に掲載された新しい神経生理学の知見と認知心理学や運動学習理論に関する研究論文が数多く引用されていたからである.そこで,筆者はすぐにPerfetti氏の住所を調べ,美しいアドリア海に面した水の都ヴェニスに宿泊し,列車で2時間ほどのスキーオ(Schio)というイタリア北部の小さな街を訪れた.

脳卒中片麻痺に対する認知運動療法―学習過程としてのリハビリテーション

著者: ,   宮本省三 ,   沖田一彦

ページ範囲:P.50 - P.54

 Ⅰ.初めに

 脳損傷後の運動回復は病的状態からの学習過程(learning process)とみなすことができる.それゆえ,完全回復を目的とした治療法を実現しようとするならば,リハビリテーションアプローチが患者の認知世界注1)の特徴や意志の変化を徐々に複雑化させてゆくことによって,患者自身の認知状況に適応した運動行動を再学習させようとする治療法であることを理解しなければならない.

印象に残った症例

頸髄損傷者の妊娠・分娩・リハビリテーション

著者: 馬場将夫 ,   黒木健文

ページ範囲:P.55 - P.57

 Ⅰ.初めに

 過去種々の症例を経験してきたが,社会福祉法人農協共済別府リハビリテーションセンター在職当時,もっとも深く印象に残っている症例で,現在においてもなお報告例の少ない頸髄損傷者の妊娠・分娩・リハビリテーションに携わったので若干の考察を加え報告する.頸髄損傷者は重度の四肢麻痺にとどまらず膀胱直腸障害・褥創・痙性・心肺機能・精神面などが関連し,日常生活上きわめて問題が多岐にわたり重複,複雑化することが多い.

 リハビリテーションのチームワークの成功が,リハビリテーションの重要目標の一つである残存機能の最大発揮が可能になると言っても過言ではない.

原著

上肢協調性運動の定量的評価の試み・第2報

著者: 浅賀忠義 ,   中田正司 ,   中津川直美 ,   松本昭久

ページ範囲:P.58 - P.62

 Ⅰ.初めに

 上肢における協調運動障害の評価方法として,パーソナルコンピューターおよびその周辺機器を用いた方法が開発され,簡易的な定量的検査方法として発展してきている1-3),筆者らも,ディジタイザーおよびスタイラスペンの利用を思いついて,小脳機能の検査方法として従来から普及している打点テストおよび線引きテストを参考にすることが可能となり,さらに改良を加え新しい評価方法を考案してきた4-7).この結果,瞬時により正確な測定結果を得ることが可能となったことは述べるまでも無く,従来の簡易法では測定困難であった運動遂行過程における位置的誤差や時間的不規則さ,さらにはリズム誤差などの定量化が可能となった5)

 本研究の目的は,本法の有効性および協調運動障害によるさまざまな臨床症状と測定項目との関連性,さらには測定結果とADL重症度との相関について統計的な検討によって明らかにすることである.

クリニカルヒント

視点を変えて,心への配慮

著者: 福江明

ページ範囲:P.63 - P.63

 発症後数年を経た脳卒中後遺症で,重度な片麻痺のAさんは,年齢も70歳を越えており,入院時代は歩行困難とされ,車いすで移動していた.やがて退院となり,家庭の事情で老人保健施設へ入所したが,本人の希望で,立つだけでもと長下肢装具を用い,平行棒内で立位保持訓練を試みた.本人もたいへん喜び,毎日熱心に取り組んでいるうちに,介助が不要になり,立つ時間も延び,遂につかまり歩きができるようになった.今後も杖歩行は困難かもしれないが,表情が明るくなり,生活にも活気が出てきた.

 これは,私の大先輩で,現在は老人保健施設に勤務されているK先生から聞いた話である.実用的には無意味と考えられていた歩行が,視点を変えてみれば,心理面に大きな影響を与え,“受身的な生活を積極的なものに変える”という質の改善につながった.

PTのひろば/学生から

中国における気功治療の見聞録/障害者の気持ちで街を見る

著者: 武田功 ,   加藤幸弘

ページ範囲:P.65 - P.65

 1990年2月10日から4月10日まで,国際協力事業団の海外協力の一環として技術協力に関係した.その際に中国北京市北西の郊外で,天安門から車で約40分の所にある中国伝統医学治療研究所を訪問した.

 そこでは30年来,気功,鍼灸,導引,中国式マッサージで脊髄損傷や片麻痺,脳性麻痺などの患者を治療している.治療・訓練に必要な道具や補装具類はすべて手製で,非常に原始的ではあるが融通性が有り,便利で簡易に作られたものが多く,現在の日本の贅沢さからは考えられない理学療法の創意とくふうの原点を見た.入院患者のうち数例について実際に実技を見せてもらったので紙幅の都合上,その一症例を紹介する.

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文献抄録

ページ範囲:P.66 - P.67

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.70 - P.70

 今年は宿願の四年制大学の理学療法士養成校が誕生するという,たいへん嬉しい新年を迎えることができた.本誌も26巻となり,理学療法士の誕生とともに歩んできた足跡を振り返っているとき,無から生み出した苦しさも今は懐しく思い起こされるほど四半世紀の時が経ったのである.

 理学療法士の大学教育の誕生は,在宅ケアにおいて,長年続いた屋内生活者がやっと屋外の地域社会に出られるようになったのと似ている.つまり,担当の理学療法士としては,廃用症候群の予防のためにつねに気配りをしていなければならなかった状態から,やっと少し開放され一息つけそうになった,という気持ちである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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