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特集 内部疾患と理学療法
慢性血液透析患者のリハビリテーション
著者: 遠藤文雄1 浅川康吉2 安藤義孝3 亀田実3
所属機関: 1群馬大学医療技術短期大学部 2京都大学医療技術短期大学部 3日高病院リハビリテーションセンター
ページ範囲:P.85 - P.90
文献購入ページに移動リハビリテーションの定義を繙(ひもと)くまでも無くリハビリテーションの目的は,現状よりも相対的に良い状態になることであると言える.したがって,患者という立場の者にはその質や状態を問わずに全員にリハビリテーションという考えかたを当てはめることができる.我が国における現在のリハビリテーションは発展期として位置付けられているが,内部障害者として対象となっているのは呼吸器疾患と循環器疾患が中心であり1),こと透析医療に関するリハビリテーション思想の普及は近年に至るまで大きく出遅れたと言わざるをえない.
この背景にはその歴史が整形外科領域の機能訓練重視から始まったことも影響していると考えられるが,おそらく主たる原因は透析患者におけるリハビリテーションの必要性がほとんど無かった―というより必要性は有ったが機能訓練にイメージされるリハビリテーションということばを導入するほどの余裕が無かった―せいであろう.なぜなら,1912年の人工腎臓誕生以来,今日までの多くの歳月は生命維持そのものにかかわる技術との戦いに費やされ,患者側からみればお金との戦いすなわち治療費が払えないことは死を意味しているような状況にあったからである.
我が国の透析患者のリハビリテーションの歴史は健康保険適用が初めて認可された1967年から更生医療の公費負担制度が適用される1972年の5年間がまさに新時代と旧時代の過渡期として位置付けられるものと思われる.すなわち,現在もまだ問題は抱えているものの,透析医療に対し,金銭的な保障が為されたこの時期を境に各地に透析施設が増設され全国的規模で透析医療が普及していったのである.正確に歴史をたどることはできないが,このころから透析医療のスタッフにも患者にも最終目標としての社会復帰という概念が生まれ,近年になり,延命治療に加えて経験的に行なってきた種類の社会復帰のための方法論を帰納的に集約しリハビリテーションということばでその具体的方法論の体系化の道が模索され始めたのではないかと思われる.
近年の透析技術の進歩は延命効果を著しく増加させたばかりでなく,時間や頻度の短縮をもたらし,加えて夜間透析の充実は透析を受けながら仕事をもつことを可能にした.そして,こうしたことは多くの患者の社会復帰を実現させたが,同時に,透析患者に対して死に直面する恐怖心をやや薄くさせ,社会復帰の可能性を高めた分だけ社会復帰ラインのボーダーに立つ人たちにとって「いかに生きるべきか」という問題を課すことになったのである.
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