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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル26巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

特集 整形外科

慢性関節リウマチの手術療法とリハビリテーション

著者: 勝部定信 ,   境田博之 ,   杉山勝

ページ範囲:P.360 - P.366

 Ⅰ.初めに

 原因療法のない慢性関節リウマチにおける手術療法の立場は過去も現在も変わらない.しかし,人工関節手術や麻酔管理の進歩,内科管理の向上によって,この10年の間に大きく様変わりをした.また,疾患を取り巻く医学環境の改善によって,整形外科医・内科医の連携が行なえるようになった.機能再建手術は十分な管理の下に安定した成績であり,患者の受容も良い.そして,手術前後におけるリハビリテーション・スタッフの機能回復への関与によって,計画的・組織的に治療が行なえるようになったことなどである.

 本稿では疾患の理解を深めるために,まず,今日的なリウマチの原因・薬物治療の考えかたについて要約し,関節破壊過程についてふれ,信頼がおけると考えられる手術法と手術前後のリハビリテーションの問題について述べたい.

足関節・足に対する手術療法とリハビリテーション―先天性内反足の手術療法を中心に

著者: 吉川靖三

ページ範囲:P.367 - P.373

 Ⅰ.初めに

 整形外科領域で足関節・足の手術の対象としては,かつてはポリオが代表的なものであったが,現在では二分脊椎,脳性小児麻痺,先天性内反足などによるものが中心となっている.なかでも先天性内反足は,以前から治療の難しい疾患として知られており,以前にはいわゆる矯正マッサージなどの保存療法が広く行なわれていたが,近年では軟部組織解離術を中心とする手術的治療が行なわれるようになり,その治療成績も著しく向上してきている.先天性内反足の治療の原理は,他の足変形治療の基礎ともなるものであるので,ここでは現在行なわれている手術療法について解説し,術前後の保存療法,理学療法に関する要点について言及することとする.

変形性膝関節症と生活指導

著者: 佐々木鉄人

ページ範囲:P.374 - P.378

 Ⅰ.初めに

 関節の変性疾患である変形性膝関節症の発生頻度は高く,日常診療でしばしば遭遇する疾患の一つである.変形性膝関節症の病態を熟知し,治療法を正しく選択することと同時に日常生活動作の指導が重要である.ここでは,一次性内側型変形性膝関節のリハビリテーションとして,保存療法をふくめた生活指導について述べる.

二分脊椎のリハビリテーションと機能再建術

著者: 陣内一保

ページ範囲:P.379 - P.384

 Ⅰ.初めに:二分脊椎の概念,臨床像,分類

 後正中線上における骨(脊椎骨),神経(脊髄),軟部組織などの先天的癒合不全の状態をspinal dysraphismと総称する.二分脊椎(spina bifida)はこの範疇に属する先天異常である.

 臨床像としては

 ①腫瘤(脊髄髄膜瘤または髄膜瘤)

 ②水頭症

 ③運動麻痺

 ④知覚麻痺

 ⑤膀胱直腸障害

 が挙げられる.このうち②~⑤の4項目を,二分脊椎の四大トラブルと称する.

 脊髄髄膜瘤は,表面が正常な皮膚に覆われたもの(閉鎖性)と表面の皮膚が欠損して髄膜が露出したもの(開放性)との二つに大別される.

 二分脊椎のもっとも典型的なものは,開放性の脊髄髄膜瘤を伴う二分脊椎であり,リハビリテーションなどの領域で「二分脊椎」と言えばこの型を意味することが多い.

 脊髄髄膜瘤内に脱出した脊髄神経は形成不全を伴い,神経機能が低下し,上記の③,④⑤を招く.

とびら

体験から得た教訓

著者: 錦織清

ページ範囲:P.359 - P.359

 家を建てて10年になる.20軒余りの集落が点在する中で三方は田畑に囲まれ,四季折々に野鳥の囀(さえず)りや草花の薫りなど自然の彩りは心を和ませてくれる.海や川もさして遠くはなく,釣きちの私には恰好の場所と言える.

 ここも地域の特性から,より不便さを感じるそのひとつは,緊急時の医療機関の確保ではないだろうか.万一の場合,直ぐに駆けつけてくれる医院が有るか否かが生死の大きな分かれ目となっている.待たされた揚句,遠くの救急病院まで送られ,手遅れになるケースも少なくなく,臨機の応急処置もされないまま,人の“生死”が狭間で右往左往しているように思われてならない.

入門講座 理学療法におけるパーソナルコンピューター活用・6

歩行分析におけるソフトウェア開発の取り組みと今後の発展性

著者: 松木省二

ページ範囲:P.385 - P.390

 Ⅰ.初めに

 1971年,嶋正利は出向先のインテル社(米)でFadilico Fadineとともに世界に先駆け4bit(ビット.ビットはデータ量を表す単位.4bitでは2進数4桁のデータ量,っまり0000から1111までの16まで表せる.)マイクロプロセッサー(1個または数個のLSIに集積した中央演算装置)i4004を開発した.その後も1974年に8bitマイクロプロセッサーi8080,翌1975年にはザイログ社で同じく8bitマイクロプロセッサーZ80をと次々にマイクロプロセッサーの開発を行ない,マイクロコンピュータ―(以下,マイコンと略.),パーソナルコンピュータ―(以下,パソコンと略.)におけるハードウェアの基礎を築いた.マイクロプロセッサーにメモリーと入出力機能を備えたものがマイコンで家電,工業製品などの制御部品として使われている.マイコンにキーボード,ディスプレイ,ディスク装置などを接続し汎用性を高めたものがパーソナルユーズのコンピューターと言ったほどの意味でパソコンと呼ばれている.しかし,厳密な定義は無く,マイコン,ワークステーション,オフィスコンピューターとの境界ははっきりしていない1,2).パソコンの言語には,初期の段階ではBASICが多用された.この言語は1975年ハーバード大学の大学院生だったBill Gatesらが,ダートマス大学(米)で開発されたBASICをパソコン用に変更を加えたものである.これがパソコン用言語のはしりとなった.パソコンが一般に受け入れられるようになったのは,この言語のもつ簡便性によるところも大きい.

 我が国では1976年日本電気社から日本初のマイコントレーニングキットTK-80が発売され,ホビーとしてのマイコンブームのきっかけとなった.続いて同社は1979年Z80を搭載した8bitパソコンPC-8001を発売,当時のパソコンの代表機となった.その後,マイクロプロセッサーは8bitから16bit,さらに32bitへと進化し,大量データの高速処理が可能となった.こうした背景の下に,パソコンの利用形態はホビーからビジネスや科学分野へと拡大していった.この間約10年である3)

 理学療法においてもパソコンはさまざまな用途に用いられ,今日では,パソコンの有用性を否定する者はいない.しかし,ハードウェアもさることながら,理学療法の特殊な分野に活用できるソフトウェアを市販品に求めることは容易ではなく,時にはソフトウェアの開発が必要となる.そこで,本稿ではまず,パソコン処理を行なうためのシステム開発の概要を述べ,次いで歩行分析に関したソフトウェア開発の可能性を例示し,最後にこの分野におけるパソコン活用の発展性を展望する.

講座 CTとMRI・6

脊椎のCT;概説

著者: 白水一郎

ページ範囲:P.391 - P.397

 Ⅰ.初めに

 脊椎および脊髄の画像診断の進歩にCTは大きな貢献をしてきたと言えよう.

 近年,MRIの急速な進歩により,将来,CTは補助的検査になっていく可能性がある.しかしながら,骨構造が明確に描出される点,また解像力でMRIを凌駕している点でCTは今日でも依然としてきわめて重要な画像診断法の一つである.

印象に残った症例

自宅退院ができなかった重度脳血管障害患者の一例―発症当初からの患者―家族のかかわりを通して

著者: 小林浩 ,   芥川知己 ,   杉山信子 ,   大曽根賢一 ,   萩谷俊英

ページ範囲:P.399 - P.403

 Ⅰ.初めに1-4)

 脳血管障害(以下,CVAと略.)患者に対する早期からのリハビリテーションの必要性は,周知のことと思われる.発症後直ちに病院に運ばれ治療が施され,症状安定とともにリスク管理を行ないながら,可及的速やかに,リハビリテーションを開始することは,廃用症候群を最小限に抑えることができ,その後のADLに大きくかかわってくると思われる.しかしながら,CVA患者の病態は多岐に渡り,改善に長期間を要するのが現状である.

 当院は,救命救急センター併設型の救急病院ではあるが,早期リハビリテーション,早期退院を目標に限られたベッド数の中で治療・リハビリテーションを実施している.そのためには日々変化する患者の症状に合わせて,積極的なリハビリテーションアプローチを行ない同時に患者家族や家屋の状況を的確に評価しなければならない.

 本稿では,当院脳神経外科入院患者のリハビリテーションのかかわりかたを紹介し,また症例を通して当院急性期リハビリテーションにおける問題点,反省点について報告する.

1ページ講座 関連職種の動向・6

診療放射線技師

著者: 國井立志

ページ範囲:P.404 - P.404

 1995年は,X線発見100周年に当たる.

 1895年,Rontgen WC博士がX線を発見したその翌年(明治29年)には,日本でもX線の実験が行なわれ,その後,医学医療の分野におけるX線の利用は急速に進歩し普及していった.

プログレス

せん妄時と眼球運動

著者: 一瀬邦弘 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.405 - P.405

 現在,超高齢化社会の到来を目前にひかえていると言われるが,医学医療の進歩によって,単に年齢が高いというだけの理由で十分な医療が受けられないという事態は少なくなっている.ところが入院中の患者が,いったんせん妄を起こし,点滴を外す,安静が守れない,幻覚がある,寝ない,夜中に騒ぐ,興奮し暴れるなどの状態になると,その途端から基礎疾患の治療,検査,看護など医療行為すべてにわたって困難が生じる.時には拘束や隔離,薬物による過鎮静が行なわれたり,十分な検査,診断や治療が行なわれないまま入院の継続不能とされたりする.また,せん妄があるために二次的合併症が起こりやすくなる.転倒による頭部打撲,骨折などの事故である.せん妄治療のための鎮静目的の薬物投与が,肺炎の重症化を招き予後不良となることさえある.こうした点から,せん妄に対する現実的な対処の指針1)をたて,発症の原因を明らかにし,その予防を行うことが急がれる.

 せん妄は軽い意識のくもり(意識混濁)の上に幻覚,錯覚,妄想や不穏,興奮などの精神的な症状(意識変容)が加わった状態2)とされる.脳機能の指標として,広く普及しているものに脳波検査がある.しかし脳波は混濁の程度を測る上では有用だが,意識変容の程度には対応した変化を示さないため,これだけでせん妄の病態をとらえるのは難しい.

我が地域

くまもとばぁ知っとるねぇ?/群馬を知ってるだんべぇ~

著者: 坂崎浩一 ,   浅香満

ページ範囲:P.406 - P.407

 熊本県士会は1971年に発足し,現在小川克巳会長を核に,事務局・運営企画局・学術局・調査資料局・厚生局・福祉局・渉外局・広報局の八つの局によって組織運営されています.会員数は約270名で,これは十余年前のほぼ10倍の数となっています.県内に養成校も2校有り,毎年フレッシュな力を吸収しています.そういう意味では,我が熊本県士会は,前途に洋々たる可能性を秘めた士会であるということができます.

あんてな

理学療法士養成校新設および増員について

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.408 - P.408

 1991年8月の医療関係者審議会理学療法士・作業療法士部会の意見書「理学療法士・作業療法士の需給計画の見直し」に基づく理学療法士の養成数の拡大は,それまでの1125名から2800名へと一気に約2.5倍にもってゆくことになった.この拡大がどの程度のテンポで進められるのかは重要な意味がある.需要と供給のある程度のバランスが必要でいたずらに供給のみが先行して就職状況に多大の困難をきたすようで問題である.したがって,計画の中間帯で必要があれば一部手直しも必要であると,日本理学療法士協会,日本作業療法士協会,あるいはリハビリテーション医学会も似たような見解を明かにしている.しかしながら事態は,次々に進展をしている.

 以下,年度を追って状況をとらえてみる.

報告

医療施設における車いすの整備状況と管理対策

著者: 岩田章史

ページ範囲:P.409 - P.411

 Ⅰ.初めに

 下肢に機能障害を有する人にとって,車いすは重要な移動手段の一つである.数多くのリハビリテーション機器の中で,車いすはもっとも有用性の高い機器とされている1).医療施設においても,多くの患者が車いすを利用しているが,個人所有のものが使用されることは少なく,ほとんどの場合,施設が備品として保有している車いすが使用されている.しかし備品の車いすは,使用者が不特定多数であり,しかも管理体制が不明確になりやすいこともあって,整備不良のまま使用される場合が多いのが実情である.このことが施設の印象を損うだけでなく,医療を進める上で危険な要素になるのは明らかである.一方,車いすに関する報告の大半は適応・処方に関するものであり,管理に関するものは少ない.

 今回,医療施設で保有している備品の車いすの整備の実態を把握する目的で調査を行なったので,その結果を報告し,併せてその管理について検討を加えてみたい.

Step-Lock式膝継手の使用経験

著者: 松永篤彦 ,   神内拡行 ,   石田暉

ページ範囲:P.412 - P.415

 Ⅰ.初めに

 膝継手は,制動の方向およびロック機構の種別などによりその種類も多く1,2),長下肢装具や膝装具を使用する上で重要な役割を果たしていることから,選択の際にはそれらの継手の機能を十分に考慮し,その適応を個々に検討していくことが重要である.

 特に臨床場面では,長下肢装具は膝関節変形拘縮の予防および矯正,さらには立位・歩行獲得を目的とした固定および支持装具として,発症早期から一時的に使用されているが3),重度障害や重複障害を呈すような症例に長下肢装具を適用する場合には,その目的が重複するとともにその使用も長期化することは稀ではない.

 このような理由から,長下肢装具の膝継手の条件は,機能的な回復を予測したものでなくてはならず,また装具装着が患者自身では困難で,介助が必要であることを理由にその使用が見送られるケースも多いことから,日常生活の一部においても実用化が図れるように配慮されなければならない.

 今回われわれは,上記のような目的をもってStep -Lock式膝継手を使用し,長下肢装具の使用がADLの一部に取り入れられ,併せて下肢機能およびADL改善に良好な結果を得たので報告する.

ポータブルトイレ用木枠の紹介とその有効性

著者: 稲坂恵 ,   萩原章由 ,   福田光祐 ,   田辺代志美 ,   水落和也

ページ範囲:P.416 - P.420

 Ⅰ.初めに

 脳血管障害者の高齢化と重症化が指摘されており,最終的に歩行に至らない症例の増加が予想される.歩行を獲得できない症例に対する治療計画は,家人に対する介助指導に終わっている場合が少なくない.しかし理学療法士は,ベッドから離れる機会が少なくなる歩行不可能者に対し,その活動量を確保する具体的方策・指導を打ち出す必要がある.

 生活上頻度が高く,加えて自立へのニーズも高い排泄移乗動作は特に重要な課題である.その移乗動作が安全かつ簡単になれば,自立への道が容易になることは明らかであろう.このような状況下なら,歩行非自立者の到達目標を排泄移乗動作自立とすることができる.

クリニカルヒント

片麻痺患者の自動車運転の可否判断

著者: 佐々木久登

ページ範囲:P.421 - P.422

 1.初めに

 退院後の片麻痺患者から自動車運転の可否について質問されたとき,失行・失認など高次脳機能障害が有れば「否」と言えるが,そうでない場合の判断には苦慮することが多い.そこで運転の可否判断材料の一助になればと考え,片麻痺患者の棒落下反応時間を測定し,人間ドック受診者の棒落下反応時間と比較し,検討してみた.

PTのひろば/学生から

京都発・行政機関から/第27回全国身体障害者スポーツ大会を経験して

著者: 永井豊美 ,   安達美紀

ページ範囲:P.423 - P.423

 行政機関へ入って4年目を迎えます.

 就職したのは1985年だから,臨床を入れるともう7年目,中味は伴わず,年だけとって……とよく感じます.行政へ入って3年間,わけもわからず,よくここまでやってこれたものだと内心,感心するやら,呆(あき)れるやらですが,ふり返ってみると,臨床に比べ,悩むこと,考えることが格段にふえてきたように思います.

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文献抄録

ページ範囲:P.424 - P.425

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.428 - P.428

 最近,理学療法のパターン化ができつつあるのではないかと気になりだした.理学療法士という職種が生まれてこの方,こなしきれないほどの仕事量を抱えてきたという理学療法士数不足にその一因があると思う.如何に多くの患者さんに少しでもかかわれるかに腐心した結果,最小限のポイントに絞ってやらざるをえない状況があったし,今もある.理学療法士養成数の増加に伴い,これからは業務の質の見直しが必須であるのみではなく,医学の進歩に取り残されない対策と同時に,QOLの改善に生かせる理学療法の研究開発の可能性が生じてきた.

 整形外科における機能再建を目的とした手術療法の「リハ」への貢献は万人の認めるところであるが,手術の前後に必要な理学療法にわれわれはどの程度応えているのだろうか?我が国の理学療法士は多くの整形外科医の努力により誕生したのであるが,理学療法はまだまだ整形外科領域に応えきれていない現状

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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