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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル26巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

特集 ゴール設定

ゴール設定をどう考えるか―目標指向的アプローチを中心に

著者: 上田敏

ページ範囲:P.432 - P.435

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーション(以下,リハと略.)医学においてはその発足の当初から目標設定(goal setting)ということが強調されていた.筆者が1963年に行なった紹介をそのまま引用すると,次のようである.

 「目標の設定とは個々の患者の回復能力rehabilitation potentialを判定し,妥当な目標を設定し,それに適した治療プログラムを組むことであり,正確な能力評価,予後の知識,臨床経験を必要とする.あまりに高度な目標を設定することは無益な努力を重ねることにもなり,患者の心理的負担をも大きくする.」1)

 約30年後の今これを読み返すと,目標設定の中に治療プログラムを組むことまで含めている点でやや不正確であるが,大筋においては現在も妥当するように思われる.だいじなのは目標は現実的に到達可能なものでなければならず,それを正しく設定するためには現状の正確な把握,予後の知識,そして経験に基づいて将来をできる限り正確に予測することが必要だということである.

 このように重要な目標設定であるが,古くから重要性が強調されてきた割には一人一人の,疾患・障害の種類も程度も異なり,社会的・家族的条件も違い,さらに個性や人生観・価値観まで異なっている患者について,どう目標を立てればよいのかという議論や具体的な手引きは一部を除いて2)ほとんど見られなかったと言ってよい.しかしその間にリハ医学をめぐる議論は種々の展開をみせ,目標設定とこれらの議論との関連をどう理解するかが大きな問題になってきている.例えば障害の構造の問題であり,QOLであり,リハ医療におけるチームワークの問題である.また従来習慣的に広く行なわれてきた長期ゴールと短期ゴールとの区別についても,振り返って考えることが必要になってきているように思われる.ここではこれらの問題について限られた誌面の中でできるだけ広く考え,特集への導入としたい.

脳卒中早期リハビリテーションにおけるゴール設定

著者: 木藤素子 ,   小林康雄 ,   戸倉直実

ページ範囲:P.436 - P.442

 Ⅰ.初めに

 近年,一般病院での脳卒中患者に対する発症後早期からのリハビリテーションは着実に広まってきている.こうした中で,脳卒中患者のゴールを早期より予測,設定することは積極的かつ適切な理学療法を行なうために欠かせない.また,このことは二木の述べるように,リハビリテーション施設・スタッフがともに限られている現状では,理学療法を効果的・効率的に行なう上でも重要である.

 当院は,救急指定を受けた中規模一般病院であり,理学療法施行患者の大半は発症後早期の脳卒中患者である.今回,当院における脳卒中患者のゴール設定についてまとめたので報告する.

脊髄損傷者のゴールについて

著者: 田口順子 ,   猿渡政美

ページ範囲:P.443 - P.447

 Ⅰ.初めに

 神奈川リハビリテーション病院では1973年8月開設以来,18年が経過し建築物の老朽化に伴う増改築の検討が進められている中,リハビリテーション高度医療の充実とこれからの新しいリハビリテーション・サービスの重点をどこに置くべきかも検討が為されている.

 その一つとして,われわれがこれまでに行なってきた脊髄損傷に対する理学療法科のゴール目標についてふれ,今後への手がかりとしたい.過去18年間に理学療法科で取り扱った患者総数は1991年8月25日現在で20,867名であり,うち頸髄損傷は1,020名,胸髄損傷・腰髄損傷は925名,計1945名で全体の10.7%となっている.しかし,この数字は施設,外来も含めた取り扱い件数であり,入院に限ってみれば頸髄損傷574名,胸髄・腰髄損傷563名で入院患者総数の10.1%となっている.

 頸髄損傷の平均入院日数は84.4日,胸髄・腰髄損傷では57.7日で,長期化する疾患の割には入院期間が短い.これは発症,受傷直後からの入院対応の少ないこと,褥創,泌尿器科管理などの二次的障害,合併症による転入院,再入院の多いことが挙げられよう.

ゴール設定についてのアンケート

著者: 「理学療法ジャーナル」編集委員会

ページ範囲:P.448 - P.455

 今回の特集「ゴール設定」に向けて,その実態を探るべく日本全国の100人の理学療法士の方々にアンケートをお願いしました.その結果,73人の方から貴重な御意見が寄せられましたので,以下に結果を報告します.ただし,1通については集計に間に合わなかったので72通を基数としてあります.

座談会/ゴール設定についてのアンケート結果を読んで

著者: 上田敏 ,   安藤徳彦 ,   奈良勲 ,   鶴見隆正 ,   松村秩 ,   吉尾雅春 ,   福屋靖子

ページ範囲:P.456 - P.468

 このアンケートのねらい

 司会(上田) 最初に,このゴール設定についてのアンケートのねらいについてお話ししたいと思います.

 リハビリテーション(以下,リハと略.)ではゴールを設定しなければならないということは,昔から言い古されてきて,常識になっていると言えます.しかし,ゴール設定に関する考えかたは,細かいところまでいくと実ははっきりしていません.特にチームワークの面から考えた場合,医師や理学療法士や作業療法士のゴールは共通のものだという考えかたと,一つ一つ独自性をもっていて相当違うという考えかたとがあるように思います.そして,それを何時,どういう場で,どうやって決めるのかもそれぞれ各施設ごとに違っているようです.

とびら

再会

著者: 北目茂

ページ範囲:P.431 - P.431

 「先生,お久し振り.元気?」と,後ろから声を掛けられた私は,覚えのある顔ではあるがとっさにその女性の名前を思い出せなかった.笑顔で対応しようと,頭の中で過去を呼び戻していた私に,相手のほうから「Kちゃんのお母さんよ.」と私の頭の回路を繋(つな)いでくれた.

 17年前に現在の病院に勤務し始め,2年目に故江原先生から「明日から小児を担当しなさい.」と言われ,暗黒の世界に落とされたような思いになった記憶が,私には有る.当時,養成校での授業は外国人講師による横文字で行なわれ,愚鈍の私にとって内容の把握は困難を極め,実習先の養護学校においても何をしていいのか,わからずに過ごしてしまっていた.小児訓練は経験も知識も少ない私にとって恐怖そのものであった.そのころ担当したのがK君であった.

プログレス

癌免疫療法の進歩・1 癌に対する特異的免疫療法の開発

著者: 藤本重義

ページ範囲:P.469 - P.469

 癌に対する治療は,現在に至るまで第一義的には外科療法である.そして再発癌に対しては,化学療法や放射線療法がその主流を成してきた.一方,癌に対する免疫療法の概念は20世紀初頭にはすでに存在し,種々の免疫療法が試みられてきたにもかかわらず,依然として前述の治療法の脇役に甘んじてきた.癌に対する免疫療法が癌治療の主流になっていないのは,癌に対する免疫の仕組の解析が十分にされていなかったことにある.

 ヒトの癌は,動物の実験腫瘍と異なり,その多くは原因不明の自然発生腫瘍であると考えられ,長い年月を経て腫瘍を形成してくることと,種々の免疫療法の施行の結果が思わしくなかったことなどから,欧米の学者の多くは,ヒトの癌は,免疫の標的となる癌抗原が表現されていないと考えるに至り,自己由来の癌に対する免疫応答の解析を十分に行なわなかったことにもよると考えられる.これらの歴史的経過から,癌の免疫療法が現在に至るまで癌の治療の主流にはなりえなかったと言ってもよい.したがって,現在なお主に癌の免疫療法と称して行なわれているものの多くは,いわゆる非特異的免疫療法と言われる生物反応修飾剤(biological response modifier:BRM)を用いた療法である.この療法の背後にある思想は,BRMを担癌患者に投与することによって生体の免疫系全般を活性化することで,化学療法や放射線療法による重篤な副作用である免疫機構の深刻な障害を少しでも軽減させるためのものと考えられているのである.

我が地域

かごんまを知っちょんな?/おめえだぢ岩手っておべえだが?

著者: 井﨑弥生 ,   小笠原健治

ページ範囲:P.470 - P.471

 皆さんこんにちは.今回は南国鹿児島からレポートさせていただきます.イメージ的には「西郷どん」「桜島」ですか?新しいところで「池田湖のイッシー」?地図的には,北は鶴の飛来地で有名な出水市から,南は沖縄本島が見える与論島まで600km,バリエーションに富んでいます.観光名所は,シンボルの桜島を見るなら磯庭園,錦江湾に浮かぶ雄大さを満喫するでしょう.大隅半島には本土最南端,熱帯植物の佐多岬,薩摩半島には別名“薩摩富士”開聞岳がそびえています.疲れを癒すなら,指宿の砂蒸し温泉.自然ばかりではありません.宇宙への窓口のロケット基地が種ケ島と内之浦にあります.食べ物も有名なさつまあげなどおいしいものがいっぱい.焼酎でも飲みながら語り合うのもおつなものです.

 “いっど,かごんまにおじゃったもんせ!”

あんてな

世界理学療法連盟香港国際会議;開業理学療法士専門分科会

著者: 田口順子

ページ範囲:P.472 - P.472

 1.世界理学療法連盟専門分科会の開催

 世界理学療法連盟(以下,WCPTと略.)では4年に1度,世界大会を行なっており,1995年には米国ワシントンにおいて開催され,さらに1999年の開催誘致国として日本が立候補する方向で検討が進められている.しかし,WCPTでは大会開催の間の期間があきすぎること,各国とも専門分野が発展してきたことなどを考慮し,分科会をもちより高度な専門技術を中心とした各国の討議を行なう計画がある.

 例として小児治療分科会,徒手療法分科会,国際理学療法針炙分科会など専門的な学会開催が検討されているが,その第一弾として各国で開業をしている理学療法士の専門分科会が香港で開催されることとなった.

入門講座 関節可動域訓練・1

関節運動の基礎と関節可動域運動

著者: 中林健一

ページ範囲:P.473 - P.479

 I.初めに

 関節可動域運動は,理学療法士の治療技術としてもっともよく使用される技術の一つである.しかし関節可動域運動を含む運動療法の基本的な治療技術は,慣習的に使用されているからであろうか,治療として適応,頻度,期間などを明確にして使用されているとは言い難い状況である.さらに技術的な習熟はあまり注目されていていない.また治療中の痛みについては,反射性交感神経性ジストロフィーや関節拘縮などを二次的に引き起こして痛みを誘発するなど,有害であることは知られていた.しかし技術的に無痛で治療する手段も無く,患者に苦痛を強いることも多かったのではないだろうか.

 これらを解決する手段として,近年ようやく本邦においても一般的になりつつある関節運動学を,従来の関節可動域運動に組み合わせた技術の一部をここに紹介する.関節運動学は1970年代以降,欧米で出版されている解剖学,運動学の成書には必ず含まれており,運動療法に関する出版物の中でもその理論的基礎としては10年以上も前から取り入れられてきた.しかし,技術的には欧米においても十分に組み入れられてはいないようである.

 本稿では関節可動域運動の中でも特に関節拘縮などに対する伸張運動を中心に,関節運動の基礎と治療技術について述べる.

 関節拘縮の治療については後述の関節機能異常に対する治療が不可欠であるが,本稿の範囲を越えるので成書3)に譲りたい.

講座 障害者・高齢者のための住宅・1

住宅設計の基本

著者: 野村みどり

ページ範囲:P.480 - P.485

 I.住宅改造システム整備と建築言語(図面)の理解

 高齢者・障害者の自立を促し,その多様なニーズに合った住宅改造を円滑かつ効果的に実施するためには,高齢者・障害者のリハビリテーションを援助する理学療法士,作業療法士,医師,保健婦,看護婦,ソーシャル・ワーカー,ホーム・ヘルパーなど医療・保健・福祉職が,建築分野の専門家と連携協力して,住宅改造にかかわる問題発見,生活環境調査の実施,補助制度の活用,改造内容の検討・決定・実施・評価・修正,フォロー・アップを行なうためのシステムを整備・構築することが重要課題と思われる注1.住宅改造に関する取り組みの中で,各職種の役割を明確にし,その協力・連携を促し,職種を越えた役割の補完をも可能にすることが求められる.このためには,養成教育機関における教育・研究体制,関連する補助制度,補助器具センターの整備など多方面からの取り組みが求められている1,2)

1ページ講座 関連職種の動向・7

義肢装具士

著者: 田沢英二

ページ範囲:P.486 - P.486

 1.初めに

 理学療法士,作業療法士の国家試験が施行されてから20年以上も遅れて,永年の悲願であった義肢装具士の国家試験制度がようやく1987年の第108回通常国会で制度化され,翌1988年に第1回の国家試験が実施された.現在までの義肢装具士国家試験のデータは,以下である.(総有資格者数1685名)

資料

第27回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1992年度) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 和島英明 ,   山田拓実 ,   高木昭輝 ,   黒川幸雄

ページ範囲:P.487 - P.493

クリニカルヒント

訪問活動に行こう

著者: 菅原巳代治

ページ範囲:P.494 - P.495

 脳卒中後遺症に対するリハビリテーションや,理学療法については,急性期から慢性期さらには,地域におけるアプローチまで,数多くの成書・文献が有り,臨床に忙殺されている理学療法士にとって貴重な参考書である反面,とてもすべてを読み切ることなど不可能であることも事実です.そして,おのおののアプローチを現場で,すぐに役だてることもまた必ずしも容易ではなく,予測に対し最良の結果を得ることが決して多くはないというのが実状ではないでしょうか.

 このことは,理学療法が学問化において,不十分であるとか,科学的分析の不足とかに由来するというよりも,むしろ脳卒中後遺症の複雑さや,個々の症例における症状の多様さによってその整理,対処が困難であることを,物語っていると思われます.その上,老齢化の進行という社会状況も含めると,単なる疾病・障害へのアプローチという感覚では,もはやリハビリテーションの到達目標へ近づくことさえ困難であるということを実感するのは筆者だけでしょうか.

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文献抄録

ページ範囲:P.498 - P.499

編集後記

著者: 上田敏

ページ範囲:P.502 - P.502

 今日の梅雨は長く,この後記を書いている段階でも涼しい日が続いている.しかしカッと暑い日射しが照りつける夏の到来も間近かであろう.夏はやはり暑いのが自然で,十分休暇をとって海へ山へと足を伸ばし,日頃の働き過ぎの心と体の疲れを癒したいものである.

 さて今号の特集は「ゴール設定」である.リハビリテーション医療の実際においてゴール設定の重要さは早くから叫ばれていたが,具体的なゴール設定の在りかたについての明確な指針はなく,それぞれの経験の中で半ば習慣的に行なわれてきた場合が多かったのではあるまいか.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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