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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻10号

1993年10月発行

雑誌目次

特集 呼吸機能障害の理学療法

NICUにおける小児の呼吸機能障害に対する理学療法

著者: 田代千惠美

ページ範囲:P.660 - P.666

 1初めに

 周産期医療(周産期:正確には妊娠の第29週から出生後1週間までの期間を言う.)や新生児医療(新生児:出生後より1か月までの児のことを言う.)の急激な進歩に伴い,超未熟児(1000g未満の児)や呼吸器系の障害をもつ新生児の救命が可能になっている.しかし,その未熟性などから肺機能障害は避け難い状況にあり,人工呼吸器からの離脱困難になり,長期にわたり呼吸器管理の必要な症例がみられている.

 このため,新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unite:以下,NICUと略.)における理学療法の対象となる新生児や乳児の数は増加する傾向にある.

 理学療法士は,このNICUに入院している時期から,早期に対象児の全身管理に注意を払い対象児の将来的な発達をも加味して,理学療法を進めなければならない.

 NICUでの理学療法の対象となる児は,生命維持のために人工呼吸器管理が施されて,その条件の下に,理学療法が施行されることが多くなっている.その上,脳障害を合併している症例を通して,呼吸管理や理学療法に必要な知識について述べる.

重度重複障害児の呼吸障害に対する理学療法

著者: 宮崎泰

ページ範囲:P.667 - P.673

 1初めに

 重度重複障害児の呼吸障害は,生命に直接的に関わるだけでなく,慢性的には日常生活に多くの制限を来す.今回は,呼吸障害の問題点を整理し,評価ならびに呼吸訓練技法について概略する.

筋萎縮性側索硬化症に対する呼吸訓練

著者: 室地敏雄 ,   水落和也 ,   隆島研吾 ,   稲坂恵 ,   本多虔夫

ページ範囲:P.674 - P.677

 1初めに

 筋萎縮性側索硬化症(以下,ALSと略.)は,1869年Charcotによって初めて報告されて以来現在に及ぶまでその病因や根治的治療法は解明されていない神経難病である.当院は神経内科で多くのALS患者を管理しているため,他の一般総合病院のリハビリテーション科に比べALS患者を扱うことが多くなっている.本稿では当院におけるALSに対するリハビリテーション,呼吸訓練の実際を紹介し文献的考察を加えてALSの呼吸管理について検討を行なう.

呼吸理学療法の新展望

著者: 宮川哲夫 ,   石川朗

ページ範囲:P.678 - P.685

 1初めに

 呼吸理学療法(chest physical therapy)に関する報告はすでに1890年に認められ,決して新しい治療法ではなく,その方法論は「慢性呼吸不全を対象として発展してきた.しかし,急性呼吸不全に対する呼吸理学療法も十分に定着してきている.今まさに,科学的見地に立って呼吸理学療法とは何か,手技,効果,用語などの定義と命名を再検討すべき時期である1).近年,アメリカ呼吸ケア協会において,より適切なアプローチを行なうためにtherapist-driven Protocolsという新しい概念の下にさまざまなガイドラインが示されつつある2).このような現状で呼吸理学療法の領域で新しい知見やアプローチについて概説する.

喘息患者に対する理学療法―運動浴の長期経過観察から

著者: 町田泉 ,   倉林均 ,   白倉卓夫

ページ範囲:P.686 - P.689

 1初めに

 慢性閉塞性呼吸器疾患,そのうち特に気管支喘息はステロイドをはじめとする各種薬物治療の進歩にも拘らず,病態,治療面でなお課題の多い慢性,難治性疾患である.今日,喘息治療における,特にステロイド剤をはじめとする各種薬物の依存性は臨床上つねに問題となるが,そのための補助手段としての転地療法は古くから積極的に試みられてきている.

 ところで小児において運動負荷で起こりやすい運動負荷喘息は,水泳では起こりにくいことが知られており,喘息児の運動療法として水泳の意義が特に小児では注目されている1).谷崎ら2,3)はステロイド依存性重症例を含む成人喘息患者の水泳療法がきわめて有効なことをすでに多数例の検討成績で指摘している.われわれも草津温泉(含硫化水素,明礬緑礬泉.pH2.2)を用いた運動浴を成人喘息患者に長期間にわたり行なって,自覚症状や換気機能の改善をみており,ここでその長期観察成績を報告し,併せて若干の考察を加えてみたい.

ひどら

人間関係

著者: 大重匡

ページ範囲:P.659 - P.659

 病院・施設に就職した卒業生が就職後1年で就職先を変えてしまうケースが数件ある.原因は,スタッフとの人間関係,金銭関係,就職時の条件と実際とのギャップなどさまざまな要因が重なったためであろう.私も,就職先の変更を,就職して間もないころ考えたことのある一人であるので,私のケースを取り上げて私なりの対処法を述べてみたい.

 私は西郷隆盛の誕生の地である鹿児島市の加治屋町で,長男として育った.大学受験では共通一次テストが初めて導入された年に鹿児島大学を受験し,おそらく理学療法士の学校に行かなければ,大学卒業後鹿児島の企業に就職し,地元を離れること無く生活していたであろうが,「就職は200%だ!」という親の勧めによって理学療法士の学校に進学した.卒業後は東京の病院に就職した.

入門講座 診療記録・4

Benesh運動記載法の基礎

著者: 髙浜照

ページ範囲:P.691 - P.696

 Ⅰ初めに

 理学療法士が患者を評価するときに,動作分析は欠かすことのできないものである.日々の診療記録においても,治療の効果判定のために動作分析の記録がなされることが多い.実際,理学療法士の動作分析能力は他の職種の追随を許さないが,それは理学療法士の日常の業務の中で動作分析能力が鍛錬されているからであろう.

 このように頻繁に行なわれる動作分析であるが,その記録方法については未だ確立されたものは無い.動作をそのまま日本語の文章で記述しているのが現状である.しかし文章による記述では動作の表現が難しく,詳細な表現には多くの時間を要する.また,個々人で独自の表現方法があり,読み手となった第三者がその内容を正確にイメージすることが困難な場合も多い.

 そこで本稿では運動記載法の参考として英国やカナダ,オーストラリアなどで使われているBenesh運動記載法(Benesh Movement Notation,以下,BMNと略.)を紹介する.BMNは五線譜上に記号を用いて動作を記載するものであり,文章を用いないため記載速度が速く,読み手にも一目で内容が把握できる利点がある.

講座 物理療法・4

寒冷療法

著者: 濱出茂治

ページ範囲:P.697 - P.700

 Ⅰ初めに

 寒冷療法は外傷やスポーツ損傷における急性期の損傷や炎症の防止,片麻痺患者における痙性の抑制などを目的として広く用いられている物理療法の一手段である.治療材料は氷,冷水などが主体であり,近年,新しく低温人工空気による冷却治療装置が開発され,極低温療法として臨床適用されているが,必ずしも充分に普及するところまでは到っていない.

 寒冷療法の基礎および臨床効果についてはこれまで諸家1~4)により多くの報告が為されてきたが,実際の治療場面ではその成果が充分な指針として役だっているとは必ずしも言えないのが現状であろう.

 そこで,本稿では寒冷療法自体が抱える問題を幾つか提起して,寒冷療法の在り方について検討してみたい.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・10

浴槽一考

著者: 半田一登

ページ範囲:P.701 - P.701

 今回,私が与えられたテーマは「入浴用具」ですが,ここでは「浴槽」について記述します.

 10数年ほど前,私は北九州市内の衛生機器メーカーにおける片麻痺用浴槽の設計に参加し,そのときに私が求めた浴槽機能は以下の点でした.

学会印象記 第27回日本作業療法学会

作業療法,作業療法士への認識を新たにした

著者: 宮前信彦

ページ範囲:P.702 - P.702

 日本中を魅了した皇太子・雅子妃のロイヤル・ウエディングの熱い余韻が残る6月10日は朝から素晴しい晴天に恵まれた.第27回日本作業療法学会(6月10日,11日の2日間の会期にて.なお9日の夜には,教育セミナーが開催された.)は千葉県千葉市幕張新都心ににそびえる海外職業訓練協力センター(OVTA)をメイン会場に行なわれた.私は幸にして初めて本学会に参加する機会を得たので,その内容の一部と印象を簡単に紹介させていただく.

 本学会のメインテーマは作業療法の過去から現在に焦点を当て,特別企画「原点からのメッセージ;私たちが築くべきもの」であった.草創期,過去30年前の原点に立ち戻りそれ以前の作業療法がどのようなものであったか,その後どのように現在の作業療法を確立してきたのが,それぞれの専門の立場からそれぞれの語り口で話された.

チーム医療がこれからの流れ

著者: 大城壽雄

ページ範囲:P.703 - P.703

 1993年6月10日と11日に千葉県幕張で行なわれた第27回日本作業療法学会に参加してきましたので,その印象を宮前先生に引き続き報告致します.

 作業療法学会は初めて参加しましたが,学会全体の印象としては,たまにはよその学会に参加するのもおもしろいものだという感じでした.特に今回は近接領域のものでしたので参考になりました.

Topics

上肢障害児のためのリコーダー

著者: 岩沢信子

ページ範囲:P.704 - P.704

 1.上肢障害児用リコーダー開発の経緯

 リコーダーは縦笛の一種で,裏側に一つ表側に七つの孔があり手指で孔を開閉して吹奏する.

 現在,小中学校の音楽教育の場で広く用いられているが,手指に障害のある児童の多くは市販のリコーダーをそのまま演奏することができない.そこで手指に障害があってもリコーダーの演奏を楽しめるように,さまざまな工夫がされてきた.これらは皆と一緒にリコーダーを吹きたいという児童や保護者の願いに沿って開発・製作されてきたものである.

プログレス

最近の補聴器

著者: 小寺一興

ページ範囲:P.705 - P.705

 Ⅰ.初めに

 補聴器の開発においては,本体が小型であること,電池が低電圧で容量が小さいことなどが技術上の大きな制約となる.それにもかかわらず,最近の補聴器ではディジタル技術を応用する面で進歩が著しい.ここでは,補聴器調整の過程の簡易化を含めて,ディジタル技術を利用した最近の補聴器について解説する.

我が地域

和歌山を知ってるかい?/山梨を知ってるけ?

著者: 木下賢治 ,   吉冨俊行 ,   長沢寿昭 ,   三井伸一

ページ範囲:P.706 - P.707

 きのくに

 和歌山は昔は紀州と称され,紀伊半島の西南に位置し,北部は霊峰高野山,南部は熊野三山に接する歴史と文化の宝庫です.また,古称紀の国は“木の国”であり,県土の80%が林野地で,太平洋に接する500kmはリアス式海岸で黒潮の洗う豪快な景観と,自然美に満ちた地です.

あんてな

すべての病院・入院児に必要なプレイセラピー

著者: 野村みどり

ページ範囲:P.708 - P.708

 1987年,肢体不自由児と精神薄弱児の教育環境に関する博士論文をとりまとめた筆者は,次の研究課題として,病弱児の教育環境に関する調査研究に取り組んでいる.その一貫として,1992年1~3月,イギリスとスウェーデンにおいて,入院児の教育環境について調査した.それらの結果,これらの国では,学齢の入院児の教育は教育委員会から派遺される教師によって実施されている.さらに,イギリスでは学齢前のプレイセラピーの充実が課題であり,スウェーデンでは0歳から15歳までの入院児にプレイセラピーが提供されている状況を把握できた.

 日本では,学齢の入院児の教育は一部の病院でのみ行なわれ,プレイセラピーはまだ十分認知されていない状況と思われる.筆者は,スウェーデンとイギリス,日本における調査結果に基づき,「病院・入院児のためのプレイセラピー・学習環境(仮題)」(共著)を建築技術社から1993年度末に刊行すべく準備中である.このような立場から,以下ここでは,スウェーデンにおけるプレイセラピーについてまとめる.

雑誌レビュー

“Physiotherapy Canada”(1992年版)まとめ

著者: 藤縄理

ページ範囲:P.709 - P.713

 Ⅰ.初めに

 Physiotherapy Canadaはカナダ理学療法協会(Canadian Physiotherapy Association;CPA)の機関誌で年4号発行されており,1992年度版で44巻を数えている.巻頭言(Editorial)によれば,本誌はここ数年CPAの活動方針の変化に応じて紙面の改革を進めてきており,現在は最終段階にきているとのことである.

 構成は論文中心であり,表1に44巻1号から4号に掲載された論文を内容別に示す.各号とも最初にダイアローグ(対話)と称する5~9ページに及ぶ論文が掲載されている.その中では理学療法の理念,将来構想,理学療法士としての仕事や貢献などについての意見と提言,アメリカ合衆国とカナダの理学療法の比較などが論じられている.さらに,3号には学会報告として特別講演の内容が2編掲載されている.これらはいずれも将来構想について述べられている.これらの論文に続いて各号とも4編の論文が掲載されている.その内容は総説が2,運動療法2,物理療法1,測定・評価・研究方法に関するもの4,教育関係が2,そして管理・運営とそれらに関連する調査報告が5編となっている.

 以下にこれらの内容を簡単に紹介し,最後に日加の比較について述べてみたい.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1993年度) 模範解答と解説・Ⅳ―共通問題(1)

著者: 古米幸好 ,   仁熊弘恵 ,   渡辺進 ,   秋田一郎 ,   国安勝司 ,   西本千奈美 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.714 - P.716

印象に残った症例

受傷5か月後から改善のみられた頭部外傷の一症例

著者: 荒木茂 ,   木下昭 ,   谷口由紀子 ,   藪越八重子 ,   村中泉 ,   紺谷悌二

ページ範囲:P.717 - P.719

 Ⅰ.初めに

 頭部外傷では脳血管障害とは異なり,受傷後数か月経過してから突如改善をみせ始める症例をしばしば経験する.今回,われわれは受傷後5か月間重度の四肢麻痺と遷延性の意識障害が続いていたが,立ち直り反応を利用した訓練を行なったところ反応がみられ始め,随意運動が出現し会話も可能となった症例を経験したので報告する.

報告

歩行速度の違いによる筋活動の差の筋電図学的研究

著者: 神戸晃男 ,   山田俊昭 ,   西村誠次 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   山口昌夫 ,   佐々木弘之

ページ範囲:P.721 - P.725

 Ⅰ.初めに

 従来,筋電図(以下,EMGと略.)を用いて歩行分析を行なう方法がとられてきた1).特に表面EMGは運動力学的分析の検査手段の一つであり,積分値を求めて動作時の筋力を推定し,その変化を評価することができる.

 われわれは歩行速度の違いが,下肢のEMGに及ぼす影響をその振幅2),周波数3)などの指標を用いて検索してきた.今回,われわれは,歩行速度を変化させたときのEMG積分値,ピークの位置変化を1歩行周期を各相に分けて検索した.これにより,各下肢筋の役割を考察し,歩行分析における,より客観的な効果判定を目的に検討したので報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.726 - P.727

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.730 - P.730

 異常気象の冷夏に,台風,地震,津波と悪夢のような災害の復旧に心機一転頑張っておられる人々のニュースには励まされる.災禍の第一の犠牲者は病弱・障害・高齢者であったという過去の教訓がどこまで生かされているのか,関係者の一人として自問しては恥じ入っているしだいである.

 今月号の特集は「呼吸機能障害の理学療法」を企画した.運動負荷は体力の指標の一つである呼吸機能の管理無しでは与えられない.運動機能の維持改善に関わり運動負荷を実施している理学療法士にとっての呼吸機能管理は循環機能管理と同様に,専門職の柱としても位置づけられる重要な領域である.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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