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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻12号

1993年12月発行

雑誌目次

特集 脳性麻痺児の生活指導

脳性麻痺児の食事指導

著者: 長谷川弘一

ページ範囲:P.808 - P.814

 1初めに

 脳性麻痺児が発達し成熟していく上で,日常生活上欠くことのできないものの一つに食事がある.同時に,多くの子どもたちやその家族たちに問題を投げかけるのも,食事やその環境に関してであることが多い.理学療法士として脳性麻痺児の発達の後押しをするとき,運動機能の改善と同様に食事場面での問題についても対処していくことが必要になってくる.人間にとって食事とは栄養補給による生活エネルギーの獲得だけではなく,生理的欲求の満足感や充足感からくる精神的安定にも役に立っている1)

 本稿においては,介助方法の機能的側面だけではなく,心理的な影響も考慮した環境設定や,家族の実践しやすい食事指導プログラムについて考えていきたい.

脳性麻痺児の排便指導

著者: 山川友康 ,   新井睦美 ,   馬場先俊仁 ,   森知子

ページ範囲:P.815 - P.821

 1初めに

 日常生活勤作の中で,排泄動作に多様な問題を抱える脳性麻痺児は多い.しかし排便の問題を考えるとき,便秘に関する文献は多いが,脳性麻痺児の生活の視点から排便指導を位置付けた報告は少ない.

 今回,排便の問題を乳幼児期からの発達学と,排便の生理学的メカニズムの両面から捉えるとともに,療育サービスにおける生活指導の重要な部分として,排便の評価と指導プログラムを整理した.また,重度から軽度まで障害レベルの違う脳性麻痺児の,さまざまなケースの排便の自立についても考えてみたい.

脳性麻痺児の衣服着脱指導

著者: 寺澤健

ページ範囲:P.822 - P.826

 1初めに

 われわれ理学療法士が脳性麻痺児の治療を行なう場合,移動手段や呼吸,食事,排泄といった生命維持機能の問題にアプローチするとともに,社会的,人間的生活を営む上で衣服着脱を含む整容動作は生活指導の項目として重要な位置を占めることをまず認識しなくてはならない.

 歩いてほしい,坐ってほしいという運動機能面での親の願いとともに,少しでも身の回りのことを自分でしてほしいという親の願いに,われわれは理学療法という手段を用いて応じていかなければならない.

 しかし現実には衣服着脱という動作は,正常児でも5歳くらいにならないとすべて自立しないほど非常に多様でかつ高度な運動機能を要求される.脳性麻痺児は制限された異常な運動機能でしか動作を遂行できないのが特徴であり,整容動作,特に衣服着脱の自立には相当な困難が予想される.

 正常児の場合,衣服着脱動作自立は子ども自身の社会性自立の主張によって年齢相応の成長を遂げる.子どもの社会性発達とともに複雑な着脱動作の基本的能力は自律的に学習されていく.しかし脳性麻痺児は自律的学習が期待できず,社会性自立には必ず大人の援助を必要としている.

 個別の理学療法プログラムに社会性自立の援助の視点が必要であることは言うまでもない.そし

 てその一環として衣服着脱動作への援助があり,両親指導が関連付けられなければならない.Finny RNは脳性麻痺児の家庭療育の中で「両親と療法士がひとつのチームとして協力しあって,初めて子供の能力を伸ばす最良の機会が与えられる」「家庭でのとり扱い方が子供の発達を助けたり,逆に障害となる」と述べている.子どもに接する機会のいちばん多い親に対していかに家庭での取り扱い方の指導を行なうかが,療法士にとって治療を成功させる重要な鍵になる.

 この論文では脳性麻痺児の生活指導の中で整容動作,特に衣服着脱にポイントを置き①衣服着脱に要求される運勤機能,②正常発達からみた衣服着脱,③脳性麻痺児の問題点とタイプ別に具体的対処の方法,④両親指導,について述べてみたい.

重度脳性麻痺児のコミュニケーション手段の指導

著者: 石川正幸 ,   図子明三 ,   井内奈緒美 ,   澤田善之 ,   十川秀樹 ,   新井隆俊

ページ範囲:P.827 - P.831

 1初めに

 脳性麻痺児でコミュニケーションの問題をもつ子どもは多い.この子どもたちのコミュニケーション手段を考えるとき,対象となる子どもは,快・不快の表現しかできない子どもから,言語理解はあるが言葉が不明瞭で聞き取りにくい子どもまで幅広い.そういう子どもたちと接するとき,われわれが日常基本としていることは,子どもの意思表示を読み取るということである.(ここで言う意思表示とは,泣くことなども含めたものと解釈していただきたい.)それは,子どもの訴えを聞き,子どもを人として扱うためである.しかし,子どもの機能上の制限や,受け取る側の限界などにより,子どもの意思を正確に把握できない場合がある.そのため,子どものストレスが増大し,運動発達と精神発達の相互作用が妨げられ発達が阻害される.このような場合,工学技術の利用が有効である.

 最近,日本でもリハビリテーション工学エンジニアを中心に障害児・者が利用できる機器・ソフトウェアが開発されてきている.これらを利用することで,一つの動きで多くの物をコントロールしたり,自分の意思を確実に伝えたり,人の介助を必要としないで何かを実行したりすることができる.このことが子どもの自発性を促し,将来の身体的・精神的自立につながる.

 しかし,これらの手段を提供するとき,注意すべきことは,異常発達というリスクである.セラピストは,姿勢動作を分析できる特性を活用し,異常パターンを抑制し,体を楽に動かすことができ,発達を促す姿勢を設定すべきである.そうすることが,二次障害の予防や老化に対応することにつながる.

 二症例を以下に紹介し,コミュニケーション手段の提供について考えをまとめる.症例1は具体的にコミュニケーション手段を提供した例として,症例2は今回紹介する内容を発展させて,コミニュケーション手段を考えている例として呈示する.

無限の可能性を信じ家族とともに歩む

著者: 伊藤和枝

ページ範囲:P.832 - P.832

 1984年10月15日,私たちに三人目の子が生まれた.長男9歳長女6歳のときである.私の兄の突然の死がこの子を生む決心をさせ,苦しくても一歩一歩歩いていこうという思いを込めて歩美と名付けた.年の離れた兄姉・家族みんなで歩美を育てていく運命だったのかもしれない.

 歩美はミルクののみが悪く,首すわり,注視が無く,やわらかい体でいつもうつろな目をして,まわりに全然興味を示さない子だった.検査をしてもどこも異常は無く,その結果に喜びながら,じゃあ歩美はどうしてこうなの?と思っていたとき「脳性麻痺ですね.」と医師から告げられた.私は歩美を抱きかかえ泣きながら白いカーテンをくぐった….歩美6か月のときである.それから訓練の日々が始まった.

成長を待ち可能性を引き出す日々

著者: 谷岡わか子

ページ範囲:P.833 - P.833

 私の長女陽子(9歳4か月)は,出産後羊水吸引症候群から敗血症,髄膜炎になり高知医科大学附属病院のNICUに転送されたときはもう自力呼吸も止まり,瞳孔に反応も無い状態だったそうです.担当医から「99%ダメだろう.もし助かっても重い障害が残るでしょう.」と宣告されましたが,奇跡的に回復しました.

 3週間目に保育器から出られて,初めて我が子を抱いたその日から,リハビリと療育の毎日が始まりました.

とびら

声(ことば)

著者: 前田真一

ページ範囲:P.807 - P.807

 われわれ医療従事者は患者(家族も含む.)の真の声を聞いているのだろうか?ともすると押し付け的な医療をして患者の真の声を見失っているのではないだろうか.患者は良くなりたい一心で,医療従事者から言われることを信頼しきっているきらいがある.もっと患者の真の声が前面に出ても良いのでないかとも思われる.

 最近ではインフォームドコンセント(十分な説明と患者本人による同意)が重要視されてきているが,はたしてどれだけ実施されているだろうか.特に理学療法士の分野においてはほとんど皆無に等しいのではないかと思われる.これは,医療の本質が医療従事者主体型であることによるためと思われる.したがってインフォームドコンセントを医療スタッフでもっと検討し,一貫した方針をもって接していかなければ患者の声が反映されないのではないだろうか.

Topics

福祉船“夢ウエル丸”

著者: 柚木義和

ページ範囲:P.834 - P.834

 1.離島の在宅福祉のために福祉船を

 岡山県笠岡市は人口6万人.うち1割弱の約5千人が,瀬戸内海に浮かぶ七つの島で暮らしています.市全体の高齢化率は20%ですが,離島だけの高齢化率は30%ときわめて高く,中でも真鍋島では40%という超高齢化,過疎の地域となっています.

 離島という,のどかだけど不便というハンディの中で暮らす方々の行政に対する要望は①救急医療体制,②港湾整備,③在宅福祉保健サービス,の三点に集約されています.

入門講座 診療記録・6

診療記録のパーソナルコンピューター処理

著者: 小田邦彦

ページ範囲:P.835 - P.840

 Ⅰ初めに

 入門講座のシリーズで診療記録を取り上げてきたわけですが,記録の有効な活用のためにパーソナルコンピューター(以下,パソコン)をどのように使用すればよいのかについてお話したいと思います.パソコンの活用に関しては,1992年の『PTジャーナル』の入門講座で取り上げられおり,重複する部分もありますが,パソコンの動作原理などの基本的な部分はそのシリーズを参照してください.

 さて,最近のパソコンの普及は目を見張るものがあります.すでに,パソコンやワードプロセッサー(以下,ワープロ)を事務処理に導入したり,導入を考えている施設も多いと思います.しかし,パソコンを導入したものの十分に活用するためにはかなりの手間と時間を要しているようです.

 私たちの施設でも,個人的にデータ処理などでパソコンを有効に利用している例はありますが,部門単位でのパソコン導入には多くの問題があります.

 今回の入門講座では,診療記録をパソコンを使って処理するための基本的な留意点などを紹介します.

講座 物理療法・6

電気療法機器の問題点と今後の展望―表面電気刺激による筋力強化を中心に

著者: 江﨑重昭 ,   川村次郎 ,   本多知行

ページ範囲:P.841 - P.846

 Ⅰ初めに

 現在,臨床で使用されている電気療法機器(表面電極を使用した電気刺激装置)は,物理療法機器の中でも重要な位置を占めている.

 今回,私に与えられたテーマは,電気療法機器全般の問題点と治療効果を向上させるための今後の在り方についてであるが,本稿では筋力強化を目的とする電気療法の最近の進歩と今後の課題について述べる.

 電気療法全般の問題に関しては共著者の治療的電気刺激(TES:Therapeutic Electrical Stimulation)の問題点と未来についての解説1),電気療法と関係の深い機能的電気刺激(FES:Functional Electrical Stimulation)の現状と将来像については星宮の解説2)を参照していただきたい.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・12

マットレス

著者: 佐藤美紀

ページ範囲:P.847 - P.847

 “褥瘡予防はまず離床から”と言われているが,日本の狭い生活空間の中では,ベッド上が生活の場となっているのも事実である.このため,老人や障害者に要求されるマットレスの機能は,単に寝るためだけでなく,①.褥瘡予防(長時間の臥床で褥瘡の危険性が無いもの),②.動きやすさ(離床可能にするために動きを妨げないもの),③.介助のしやすさ,が求められる.これらの観点より,マットレスについて考える.

印象に残った症例

Myotherapyと上田法とが有効であった背部痛の2例

著者: 高橋洋 ,   井上和宏

ページ範囲:P.849 - P.852

 Ⅰ.初めに

 運動器疾患における疼痛を主体とする自覚症状は,通常の薬物療法あるいは物理療法に抵抗する例が少なくない.今回,背部に痛みを訴え他院・他科を何か所も廻って来科したケースで,myotherapyと上田法とが効を奏したと思われ,また症状と原因との因果関係が,非常に印象深く,臨床のおもしろさを感じた二例を紹介する.

プログレス

インテリジェント大腿義足・2

著者: 中川昭夫

ページ範囲:P.853 - P.853

 インテリジェント大腿義足では空気圧シリンダーを用いるが,しばしば油圧シリンダーと空気圧シリンダーとの動作の違いについての質問を受ける.

 油圧シリンダーでは,油が絞り弁を通過するときの流動抵抗を主たる屈曲抵抗発生源とし,また伸展補助には金属スプリングを用いるのがほとんどである.内部の圧力は高くなり,しっかりしたシールが必要で,この部分の摩擦抵抗も大きい.ゆっくりした歩行では,この摩擦とスプリングの作用とが膝の屈曲伸展の妨げになる場合が多いが,大きな抵抗力を発生できるので,走行などの速い運動まで対応できるものが多い.

我が地域

東京を知ってっかよ?/日本の理学療法士の現状

著者: 髙島耕 ,   中屋久長

ページ範囲:P.854 - P.855

 「東京を知っていますか?」を東京下町では,「東京を知ってっかよ?」となるそうです.一言で表現するなら,「よーよー息子とねーねー姉ちゃん.」なんて言われています.

あんてな

第二次医療法改正と理学療法士の今後・2

著者: 紀伊克昌

ページ範囲:P.856 - P.856

 3.理学療法士との関わり

 こうした理念の規定により医療法は,医療職である理学療法士にとっても,業務上の憲法のような位置付となったので,法137号の運用もこれに準拠することになる.さらに医療というのが単に治療のみならず,有酸素運動療法を含む健康増進から,リハビリテーションおよび老人保健事業にまで概念が拡がったこと,さらに医療の担い手として医師,歯科医師のみならずチーム医療の理念が明記されたことから,これからの医療において理学療法士の責務は従来よりもはるかに重くなった.にもかかわらず医療の担い手に理学療法士が明記されなかったのは,医療法改正に際して理学療法士業界内外における世論の盛り上がりが不足していたことによる.参議院厚生委員会の附帯決議の二項には理学療法士,作業療法士の配置が明記されているので,これを足がかりに今後は政令通知および次の改正法律文に「その他の医療の担い手」の前句に理学療法士の語句が挿入されるように,新しい医療理念の実践現場で必須職種であることを実証していくことが業界の最優先課題であろう.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1993年度) 模範解答と解説・Ⅵ―共通問題(3)

著者: 古米幸好 ,   仁熊弘恵 ,   渡辺進 ,   秋田一郎 ,   国安勝司 ,   西本千奈美 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.857 - P.860

実習レポート

症例報告;橋出血により片麻痺と失調症を呈した1症例/Comment

著者: 中川朋子 ,   伊藤日出男

ページ範囲:P.861 - P.864

 1.初めに

 今回,2週間の短期実習において高血圧性脳出血(橋出血)により左片麻痺と失調症を呈した症例について評価し,治療プログラムを立てたので報告する.

報告

第三次救命救急センターにおける医学的リハビリテーションの役割について―理学療法の実施状況とリハビリテーションシステムについて

著者: 荒井紀子 ,   今吉晃 ,   松葉好子 ,   渡邊由佳 ,   伊良波知子 ,   工藤敦子 ,   米沢幸子

ページ範囲:P.865 - P.869

 Ⅰ.初めに

 近年,都市における救命救急医療システムの整備が進み,第三次救命医療施設の役割がますます重要となっている.理学療法士がこのような現場で救命直後から医学的リハビリテーションを必要とされる患者に接する機会が増加しつつあるが,患者の生命リスクが高いこと,救命目的を達した場合,早期に後方医療施設へ転院となることなどの制約からその対応には,苦慮する場合も少なくない.そこで今回われわれは,本学救命救急センターにおけるリハビリテーションシステムと理学療法の実施内容を紹介し,若干の考察を行ない,さらに,救命救急医療の現場における医学的リハビリテーションの役割について検討したので報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.870 - P.871

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.874 - P.874

 近年,脳性麻痺児の施設入所が減少し,外来通園で理学療法を受ける児が増加しています.このため理学療法士が児の日常生活に直接ふれる機会が少なくなっており,ともすれば脳性麻痺児の理学療法は筋緊張のコントロール,随意運動の促通といった運動機能獲得のテクニックに重きを置く傾向にあります.しかし,児の成長に伴い当然身につけなければならない食事,排泄,更衣動作の生活指導は児の社会生活を保障することに繋がってくるだけに,療育の理念を基本にした取り組みが必要となります.そこで第27巻の最終号の特集は「脳性麻痺児の生活指導」としました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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