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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻2号

1993年02月発行

雑誌目次

特集 脳卒中における廃用・過用・誤用と理学療法

廃用・過用・誤用症候の基礎と臨床

著者: 上田敏

ページ範囲:P.76 - P.86

 1初めに

 廃用症候群の予防の重要性はリハビリテーション医学の創始期から強調されていたところであるが,最近通常のリハビリテーションプログラムを行なっていても必ずしも十分に予防しきれていない場合が多いことが認識され,改めて注目を集めるようになった.それと同時に,廃用とは逆方向の過用の危険についても十分な注意を払う必要があることが強調されるようになったが,これは1910年代にポリオに関連して指摘されながらその後忘れられていたものの復活であった.一方理学療法や作業療法その他の技術が正しくなかった場合に種々の害を及ぼしうることが,リハビリテーション医学の比較的初期から指摘されており,誤用症候と呼ばれてきた.すなわち現在リハビリテーション医学の世界では,過用や誤用(これはいずれも医療によって作り出される医原性<iatrogenic>の症候である.)を避けつつ,同時に顕在的・潜在的な廃用症候群を予防・治療するという複雑な課題が提起されているのであり,これに正しく応えることなしには高齢化,重度重症化,重複化の著しい高齢化時代の要請に対応できないのである.

拘縮と関節可動域訓練

著者: 神沢信行

ページ範囲:P.87 - P.92

 1初めに

 拘縮は理学療法士にとって日常の臨床で遭遇するほとんどすべての疾患に存在する症状であり,それに対する関節可動域訓練は筋力増強訓練および日常生活動作訓練とともに最も使用頻度の高い手技の一つである.この関節可動域訓練を行なうに当たって,理学療法士として具体的にどの程度の可動域の改善(または維持)を目標とするかは重要なことである.それは,いわゆる正常可動域である生理的な可動域を求めるか,または日常生活動作に必要な可動域を求めるかにより訓練の方法や強度も異なってくる.例えば,慢性関節リウマチで膝に高度の変形が見られる患者と野球の捕手で膝に何らかの損傷がある場合とに求められる膝の可動域や,変形性股関節症の患者の股関節と頸髄損傷患者の股関節とに求められる可動域には当然のことながら違いが有る.そのために,患者の関節や周囲の組織の状態を知り,そして正常の関節の構造や円滑に関節運動が行なわれるための因子を知っておく必要がある.この因子としては中屋1)は,①関節を構成する軟部組織に拘縮が無いこと,②関節の構築学的な欠陥が無いこと,③疼痛が無いこと,④主動作筋の筋力と拮抗筋の伸展性が十分有ること,⑤関節運動を阻害する周囲筋の痙性が無いこと,⑥協同筋が十分な機能を果たすことを挙げている.

 本稿では片麻痺の関節可動域訓練を行なうときに防がなくてはならない誤用症候や過用症候2)について,特に肩関節,股関節,足関節と足を中心に述べる.

重回帰分析による慢性期脳卒中患者の歩行能力に影響する諸因子の検討―廃用症候群に伴う健側下肢筋力の重要性

著者: 佐藤秀一 ,   岡本五十雄

ページ範囲:P.93 - P.99

 1初めに

 筆者らは,脳卒中患者の歩行能力に影響する諸因子について,重回帰分析を用いて検討し,歩行能力を規定する因子の順位は麻痺側下肢Brunnstrom stage,健側下肢筋力(大腿四頭筋力),痴呆,失調症,下肢関節障害(下肢痛,下肢関節痛),半側視空間失認,年齢であり,麻痺側下肢Brunnstrom stageと健側下肢筋力で歩行能力の50%以上を,また,7因子で64%を説明できたと報告した1).しかし,この調査では,発症後の期間と年代別との二因子による区分が無かった.

 また,現在まで,歩行能力に健側下肢筋力が影響するということは強調されてきている2-5)が,どの年代からどの程度影響しているのかを詳細に検討した報告は少ない6).筆者らは発症後半年未満・以上の群と年齢別とで層別化して歩行能力に影響する因子について検討し,歩行能力は,高齢になるに従い麻痺の影響力が少なくなり,健側の下肢筋力の影響を受けるということを明らかにしたので報告する.

脳血管障害による起立性低血圧と理学療法

著者: 宇都宮学

ページ範囲:P.100 - P.108

 1初めに

 起立性低血圧(orthostatic hypotension)は,さまざまな原因によって生じるもので,リハビリテーション医学の領域においては,リハビリテーション開始時において最も考慮しなければならないものの一つである.一般的には長期臥床を強いられた患者や自律神経系の障害を有する患者において高率に発症することから,循環調節の障害による重力に基づく物理的現象として捉えられているが,その発生機序は複雑であり,未だ十分な解明は為されていない.

 筆者らは,リハビリテーション開始時の阻害因子の一つである起立性低血圧の存在に注目し,1985年から疾患別に,その発現機序の解明と,理学療法効果とについて,多方面より検索を行なってきた15,16,18,20,32,34,57~59).その中で脳卒中急性期の起立性低血圧は,重度化している症例ほど著明であり,また,血圧の変動にもかかわらず脳血流量を一定に保とうとする脳の自動調節能(autoregulation)も障害されていることが多い.したがって,脳卒中の早期リハビリテーションを実施する上で,この起立性低血圧は,脳循環機能に大きな影響を与える因子として捉えるべきであり,その改善には慎重な配慮が求められる.

 本稿では,起立性低血圧の発生機序,ならびに起立時の循環動態を中心に考察し,併せて臨床的見地から理学療法の実際について論述する.

脳卒中患者の廃用性体力低下と理学療法

著者: 木村美子 ,   大川裕行

ページ範囲:P.109 - P.116

 1初めに

 近年リハビリテーション医学における廃用症候群の概念は,いわゆる不動が原因とされるものから,日常の活動性の低下による二次的障害という概念へと拡大されてきた.つまり,動かさないあるいは動けないことだけでなく,動かないことに起因する廃用症候群の存在がクローズアップされてきたのである.

 脳卒中患者の急性期における安静の必要性に関しては,その期間や程度について種々の意見がある.その内容に関してはここではふれない.しかし,リハビリテーション医学の概念そのものの普及により,以前のような無為な過度の安静が徐々に減少してきつつあることは,喜ばしい限りである.池田1)は脳卒中患者の廃用症候群は,急性期,回復期,機能維持期に分けて検討していくべきであるとしているが,著者らもその意見には賛成である.これまではどちらかというと,急性期の患者の管理にばかり目が向けられる傾向があったが,むしろ生活の在り方の主体が患者の自主性へとウェイトが移っていくにつれて,廃用の予防に関しては多くの問題が生じてくると思われるからである.その意味で,今回は急性期に関しては敢えてふれず,回復期(入院中の訓練期)と慢性期(退院後の機能維持期)とにおける廃用症候群に関して,体力的(全身持久力)な面からの考察を加えみた.

とびら

IDからPTへ

著者: 望月彬也

ページ範囲:P.75 - P.75

 IDは工業デザイン(Industrial Design)の略称で,私が理学療法士になる以前の専門である.一言で言うと,量産される商品のデザインマネジメントということになろう.

 かつて私はスキーに狂ったことがある.明けても暮れても夢にまでもスキーのことを考え,とうとうスキー学校の教師になってしまった.しかし,夏は雪が無く,生活できない.そこでスキー用品メーカーに就職すれば夏は用具の開発,冬はスキー学校と虫のよいことを考えた.当時は私のような職種には理解が無かったが,幸い東京のあるメーカーが応じてくれた.

プログレス

抗てんかん薬最近の進歩

著者: 君島健次郎 ,   田辺恭子

ページ範囲:P.117 - P.117

 てんかんは古くから知られた病気であるが,1912年にフェノバルビタールの優れた有効性が初めて報告され,現在なお最も重要な抗てんかん薬として臨床使用されている.その後1938年に発見されたフェニトインは,動物実験から理論的に導入された最初の抗てんかん薬であり,その後の新しい抗てんかん薬開発のための重要な基礎となった.

 このような抗てんかん薬発見の歴史を受けて,その後次々と新しい化学構造や作用機序をもつ薬物が開発されたが,バルビツール化合物,ヒダントイン誘導体,サクシミド誘導体や直鎖系のアセチルウレア誘導体などはすべて共通の化学構造をもつものであり,これらを基本としてさらに合成,開発が続けられてきたが,1963年に作られたバルプロ酸は上記の化学構造とまったく異なる低級脂肪酸であり,その後の新しい化学構造をもつ抗てんかん薬の出現の嚆矢となった.

我が地域

山口を知っておいでなされますか?/富山県を知っとっけ?

著者: 砥上恵幸 ,   寺田一郎

ページ範囲:P.118 - P.119

 東には何かしら近い将来ビッグになるとの噂しきりの広島県士会,西には古豪福岡県士会,南には「理学療法王国」四国をひかえ,北東にはまた,少数精鋭島根県士会と鳥取県士会とを臨む我が社団法人山口県理学療法士会は,彼らに負けじと今なお百数十年前の”維新”の心意気色濃く残す士会である.

あんてな

日本呼吸管理学会

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.120 - P.120

 1.学会設立の趣旨

 1978年第75回日本内科学会が福岡で行なわれ,このときパネルディスカッション“呼吸管理”がもたれた.これには2人の司会者と内科だけでなく胸部外科,麻酔科を含む9人の演者が参加した.司会の一人には長野準先生が,演者の一人に私が加わった.この会の直後このまま終わらせるのはもったいないのではないか,何とか研究会として残したいという気運が起こり,1年間の準備の後「第1回呼吸管理研究会」を1980年,このことに関心のある30施設の参加を得て発足した.こうして1989年の第10回まで毎年呼吸管理に関する各方面の問題につき研究会を続けた.

入門講座 筋力増強訓練・2

疼痛を伴う場合の筋力増強訓練

著者: 入谷誠 ,   山嵜勉 ,   大野範夫 ,   福井勉 ,   内田俊彦 ,   黒木良克 ,   森雄二郎

ページ範囲:P.121 - P.127

 Ⅰ初めに

 われわれ理学療法士は,取り扱う種々の疾患で疼痛症状を伴った症例に接する機会は多い.特に身体機能の再建に携わる理学療法士にとって,疼痛はその理学療法を進める上で大きな阻害因子となっていることは周知の事実である.また身体機能を再建するための筋力強化は必要条件であり,疼痛症状を伴った症例に対してどのように理学療法を進め,どのように対処すべきかについて考える必要がある.

 そこで今回は下肢の障害に焦点を絞り,筋力強化法の考え方,疼痛を伴った場合の訓練の進め方,特に機とも能的見地から疼痛を捉え,その対処の方法について述べる.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・2

ベッド・2

著者: 金沢成志

ページ範囲:P.128 - P.128

 4.ベッドの種類

 1)据置型ベッド

 いわゆる「普通のベッド」であり,特別の機能を持たない.従ってベッドからの起居動作に介助を要する場合は不適である.

 2) 背上げベッド

 背上げ機能をもつベッドで,駆動方式には手動式(クランク型またはレバー操作のシリンダー型)と電動式とがある.クランク型には介護者が操作するためにフットボード側にスペースが必要であるという欠点があり,手動式にはケース本人が操作できないという欠点がある.電動式はそれらの欠点をカバーできるが,手動式に比べ高価である.先に述べたように,臥位~ベッド端座位に介助を要する場合に有効である.

講座 地域リハビリテーション・2

在宅高齢者における地域リハビリテーションニーズ―茨城県古河市における実態調査より

著者: 江口清 ,   土屋滋 ,   大貫稔 ,   宇川康二

ページ範囲:P.129 - P.134

 Ⅰ初めに

 社会の急速な高齢化を背景に,茨城県古河市では,「福祉の森」計画との名称で,保健・医療・福祉を一体化させた地域システムを構築する構想を進めている.同市と筆者らは協力して計画の策定に当たっており,これまでにリハビリテーションに関わる内容をも含む幾つかの基礎調査を実施してきた.在宅高齢者のリハビリテーション・ニーズについては,寝たきり老人対策が中心となってしまうのが現状であるが,以下ではこれらの調査結果を紹介しながら,浮かび上がってきた問題点について概説する.

 古河市は,関東平野のほぼ中央に位置し,人口約58,000人の一地方都市で,65歳以上の高齢者の比率は約11%である.市内には,通所施設である心身障害者福祉センター(以下,福祉センターと略)があるが,入院を必要とするリハビリテーションについては,現状では,整形外科で扱える一部を除き,多くを市外の病院に依存している.その他,老人保健施設は一施設あるが,特別養護老人ホームは市内に無く,保健センターは計画の段階である.リハビリテーション医療に携わる人員はきわめて不足しており,現在のところ日常の活動としてセラピストが訪問事業を行なっている施設は無い.

クリニカル・ヒント

反復誘発筋電図―H反射;頻度抑制の利用法

著者: 居村茂幸 ,   岸川典明

ページ範囲:P.136 - P.137

 われわれ理学療法士は,ヒトのさまざまな動きやそれの原動力の一つとなる筋肉の状態を知るのに,いろいろな手段を用いて評価を行なっている.最近の理学療法士学会の発表では,結果ができるだけ客観的であるよう,電気的手法を用いてデータの抽出・解析を行なった論文が散見でき,その中に,数は少ないがH反射を利用したものをみることができる.

 御存じのように,この反射はヒトの脛骨神経の電気刺激により,下腿三頭筋に誘発される短潜時の反射性筋電図反応として,ドイツの生理学者Hoffmann PA(1884~1962)により初めて報告されたものである.H反射は,脊髄における単シナプス性反射として筋固有反射を誘発筋電図的に捉えたものと一般に受け入れられており,運動ニューロンプールの興奮性を表す指標として広く利用されている.手法が比較的容易で,さらに被検者に対し無麻酔,つまり意識を清明に保ったままで試験でき,その上,表面電極を選べば無侵襲の条件で行なえる.これらの条件は,理学療法士にとってさまざまな運動負荷やその制御,運動療法手技や物理療法などが,ヒトの脊髄運動ニューロンプールにどのような影響を及ぼすかを知るための方法として優れた方法であると筆者は考えている.

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文献抄録

ページ範囲:P.138 - P.139

編集後記

著者: 上田敏

ページ範囲:P.142 - P.142

 この後記を書いている1月初めの時点では今年の冬は暖冬で,東京ではまだ初雪もない.とは言え,時によっては冷い木枯しが吹きつける日もあり,インフルエンザが大流行のきざしがあるとのことである.しかし筆者の住む市(清瀬)の市の花である山茶花は寒土の中で見事に花を開いているし,あちこちに寒椿も咲いている.自然は冬の間も生命活動を絶やさないのである.読者諸兄姉も元気にこの冬を乗り切っていただきたい.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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