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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

特集 障害者と生活指導

生活指導論

著者: 菊地頌子

ページ範囲:P.146 - P.150

 1初めに

 「生活指導」という言葉は,従来学校教育の分野で使われることが多く,指導の理論も教育関係者の間での研究が活発である.私たち保健婦の場合は,「保健指導を業とする……」と保助看法で定められているとおり,業務上では保健指導という言葉を使用しているが,疾病構造が変化し,生活病と言われる成人病の時代に入つたことや,障害者や高齢者,難病患者への援助,特にデイケア事業の実践の中で,「健康」や「保健」という言葉を超えての支援,生活をまるごととらえた指導の心要性が最近強調されるようになった.

 公衆衛生は本来,単なる疾病予防に止まらず,「健康で文化的な生活……」を保障する行政であると思われるが,生活に対する捉え方はまだまだ不十分で,私たちが生活指導を論ずるまでには至っていない.しかし,保健婦が行なう指導を「保健」から「生活」という考え方に切り替えることによつて,これまで保健婦に見えなかつた地域の生活実態が見え始め,問題もより具体的に把握できるようになつた.実践は手さぐりの状況であるが,私たちが経験を通して考えられる生活指導の心要性,在り方などについて以下述べてみたい.

ホームエバリュエーションと退院時生活指導

著者: 永原久栄

ページ範囲:P.151 - P.157

 1初めに

 在宅障害者の生活環境整備への援助は,近年,制度上からも福祉機器の上からも選択肢が増し利用しやすくなった.工務店の中には,手すりを簡単に取り付けてくれる店も出てきたし大都市のデパートの介護福祉ゴーナーでは介護用品が手軽に手に入るようになつた.費用や規模のみならず洋風和風といつた好みに応じた情報も加えて,改造案を多数から選べるようになった.

 住宅改造や福祉機器導入がどんどん進められることは非常に良いことであるが,こうした取り組みの背景に,使用する在宅生活者の生活がしっかり見据えられているかどうかが重要である.この在宅生活者の真のニーズを探り応えるものの一つとして,ホームエバリュエーションがある.

 ホームエバリュエーションの語は広く使われているが,内容の一部を取って家屋改造とか家庭訪問とまったく同義と使われて,必ずしもホームエバリュエーションの本質に迫っていないこともある.ホームエバリュエーションは,より良い生活のための生活指導の一環であり入院患者の場合は退院時生活指導の一つと言える.ここではホームエバリュエーションの定義方法について述べ,また病院勤務の理学療法士として退院時生活指導との関連について述べてみる.

在宅障害者の生活評価と生活指導の進め方

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.158 - P.164

 1初めに

 生活とは「生存して活動すること,世の中で暮らしていくこと」(広辞苑,広辞林)を意味し,生活評価,生活指導の語も人間の生存に関わるすべての活動を含むものであろうが,ここでは障害者のリハビリテーション援助として必要な日常生活にかかわるニーズの評価を意味し,理学療法士が生活指導するに当たって必要な生活評価,指導の意で用いることとする.

 生活評価は生活指導に当たり必要なものであり,かつ,その効果判定のためにも活用される.生活評価により生活実態を把握し,リハビリテーションニーズを見いだした上でリハビリテーション目標の設定,生活指導プログラムの作成,生活指導の実践を経てリハビリテーションに導くことになる.

Parkinson病患者の生活指導

著者: 森三佐子

ページ範囲:P.165 - P.168

 1初めに

 Parkinson病は慢性進行性の神経変性疾患で,罹病期間は平均10年以上と長期にわたりその症状は,振戦のみの軽症から寝たきりに至る重症例までさまざまである.治療は薬物療法が中心であるが,その効果は徐々に減退して副作用も加わり起居動作,身の回り動作,生活関連動作が困難となり,職業,家庭生活上の問題が生じてくる.このような状態を改善するために理学療法の効果的アプローチが待たれている.患者の多くは,入院加療よりも自宅療養か通院治療をしながら不自由な生活を強いられている.そのため障害程度に適した生活指導が病院,在宅訪問,患者会活動などそれぞれの場で適切に行なわれる必要がある.

 これまで筆者はParkinson病友の会を通じて,また在宅訪問での生活指導を行なっており,その経験を基に生活指導について述べてみたい.

筋萎縮性側索硬化症患者に対する生活指導

著者: 岡十代香 ,   千葉美恵子 ,   笠原良雄 ,   岡田公男

ページ範囲:P.169 - P.173

 1初めに

 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;以下ALS)は,運動神経系が選択的に冒される進行性変性疾患であり,他の変性疾患に比べて進行が早く,未だその病因や根本的な治療法が確立していない神経難病である.

 ALSに対する生活指導は,つねに,進行性であるという本疾患の特徴を正確に把握した上で行なわれなければならず,的確で迅速な対応が要求される.また,病型により,病像とその後の経過が異なるため,生活指導はそれぞれのケースに対して,症状に即応した具体的で個別的な指導であることがたいせつである.また,どの進行時期にあっても,患者の心身の残存機能を最大限に活かした生活が維持されていくような指導を行なうことがポイントとなる.

脳性麻痺児の生活指導―食事と排便を中心に

著者: 長谷川弘一

ページ範囲:P.174 - P.176

 1初めに

 脳性麻痺児の日常生活上の問題点は,非常に多くまた複雑である.障害の程度,部位,年齢など脳性麻痺児個人の要因だけではなく,家族の関わりや社会環境などによっても左右されることが多い.数多い問題の中でも,家族の訴えの多いものは食事と排便に関することである.どちらも子どもの全身的管理の上で必要なものであると同時に,生命維持の役目を有する重要な要素でもある.またこの二つは一方の問題が他方へも影響を与えやすく,セラピストが対応する場合には切り離して考えられない項目でもある.これらを改善することにより,脳性麻痺児が日常生活において経験できる快感は多くなり,ストレスの軽減による精神的安定化も図られると思われる.

 本稿ではこの密接な関係にある二点について脳性麻痺児の有する問題点とその改善方法とを述べ,実際に指導を行なった一症例について併せて報告し,脳性麻痺児の生活指導をまとめてみる.

脊髄小脳変性症患者の生活指導

著者: 小林量作 ,   松井佳子 ,   金子功一 ,   石川厚

ページ範囲:P.177 - P.182

 1初めに

 生活指導という語は,まだ,曖昧に使われており,明確に一致した定義は無いように考える.福屋1)は在宅身体障害者の生活指導の特性を,「既存の生活を変革するため」・「リハビリテーションの目標達成のための土台,自己実現の基盤作り」とし,生活構成要素の8項目と環境要素の4項目の評価を挙げている.さらに,生活指導を広義にとらえれば,障害者が自立生活を送るために必要な生活技術のすべてが含まれると考えてもよいだろう2).リハビリテーションにおける生活指導の概念は総括的なものであり,在宅生活のQOL(Quality of life)の向上を目的に指導がなされるものと考える.

 この小論では,脊髄小脳変性症(以下,SCDと略.)の生活指導の目標について述べた後,当院への入院,通院を通じて家庭訪問による生活指導を実施できた2例を紹介し,SCDの生活指導上の特性および留意点について理学療法士の視点からまとめてみたい.

とびら

技術修得について考える

著者: 若山佐一

ページ範囲:P.145 - P.145

 16年間の毎日の臨床現場から理学療法士養成教育の場に移り,それまでの対象であった患者さんとの接触が間遠くなった.そんな折,臨床実習地訪問で学生の担当する症例の検討会で,その患者さんを評価治療する機会があり動作誘導や介助を行なった.しかし,どうも感触が違うことに気が付き,何が違うのか後でよく考えてみた.

 結論としては,患者さんが動いているときの筋活動や重心の移動,不安を感じたときの表情変化や呼吸の乱れなどこれまであまり意識すること無く感知し対処していたことのなかで,一つは感知する能力が鈍くなつたのではないか,いま一つは感知したことへの反応が鈍くなっているのではないかということであつた.特に前者が鈍れば後者も影響を受けることになる.しばらくぶりのスポーツなども頭ではわかっていても身体が反応してくれず,勘を取り戻すのにしばらくその動きを繰り返す必要があることはよく経験することである.理学療法技術においても,毎日繰り返していたことを中断し間隔を空けると,技術も低下することを痛感することになつた.

プログレス

保健・医療の行動科学

著者: 中川米造

ページ範囲:P.183 - P.183

 医療の範囲がひろがり,保健の場面にまでかかわるようになってくると,これまでのように,医療とはただ医療者がすることがすべてであるというわけにはいかなくなる.リハビリテイションについても,セラピストが命令し,患者がそれに従うという単純な図式では対応できないであろう.まして予防だとか,健康な習慣をつけさせるためには,講演会をひらいて,難しい医学用語を混えて,病気の怖い結末を強調することでは,うまくいくことは少ない.たとえ,うまくいったとしても,人間の行動を統御することは倫理上問題が生ずるおそれがある.事実,行動科学についても,アメリカでは医療におけると同様に倫理規定がつくられている.

我が地域

あんたぁ広島知っとるんね?/ふぐすまってすってっぺが?

著者: 森近正隆 ,   山口和之 ,   木村誠子 ,   鈴木賢治 ,   佐藤孝年

ページ範囲:P.184 - P.185

1 広島,この文章をいまお読みの方々は,広島というとどういうイメージをもたれるだろうか?まず思い浮かぶのは「平和都市」だろうか?それとも日本三景の一つである宮島の厳島神社だろうか?食通の方々は「カキ」だろうか?いろいろなことを考えながら,しみじみと思ったこと,それは「自分の生まれた国を紹介するのは難しい」ということであった.

あんてな

リハビリテーション研修病院の規定

著者: 藤原誠

ページ範囲:P.186 - P.186

 標題のもと,社団法人日本リハビリテーション(以下,リハと略.)医学会での研修施設認定状況と「基準」について説明する.

入門講座 筋力増強訓練・3

筋力弱化の著しい場合の筋力増強訓練

著者: 林義孝 ,   井上悟 ,   淵岡聡 ,   米田稔彦 ,   河村廣幸 ,   木村朗

ページ範囲:P.187 - P.192

 Ⅰ.初めに

 理学療法士が用いる種々な治療技術の中でも運動療法における筋力増強訓練は,身体を動かすための最もたいせつな機能である骨格筋組織に対する訓練法として,きわめて重要なものである.この分野の基礎的技術に関しては,1948年にDelormeにより提唱された漸増抵抗運動法(PRE)や1953年Hettingerらによる等尺性運動の応用などが知られている.

 これら筋力増強の基本的理論を踏まえ,われわれは日々の訓練の実際においてその疾患に最も適すると思われる訓練プログラムを作成し,患者の日常生活動作能力の向上を目的に訓練を実施している.なかでも,徒手筋力検査で言う筋力0~3レベルの筋力弱化が著しい症例ではその訓練方法の選択肢は比較的少ない.加えて,訓練の実際において疾患の病態に起因する種々の身体的制約が伴うので,訓練効果の獲得に苦労することが多い.

 本稿では,これら筋力弱化の著しい場合の筋力増強法について,臨床における実際面を中心にその実施方法について述べる.

講座 地域リハビリテーション・3

大東市における地域リハビリテーションシステム

著者: 山本和儀 ,   吉岡善隆 ,   伊藤晴人 ,   野村典子 ,   山本純子 ,   林伸子 ,   森山雅志 ,   山本正弘

ページ範囲:P.193 - P.200

 Ⅰ大東市の歴史

 1.地域の特性

 本市は,大阪府の東部を占める河内平野のほぼ中央に位置し,東西7.5km,南北4.1kmで総面積は18.27km2である.大阪市と奈良県に隣接し,商業および交通の要所として古くから発展してきた近郊都市である.市域の約3分の2を占める平野部は全般に人口の高密度地域が連続しており,東部は住宅,中央部は商業,西部は工業を中心として発達してきた.また,市の中央部では一級河川寝屋川および恩智川が合流しており,長年にわたって水との闘いを繰り返してきた.1956年の市政施行時の人口3万人から現在では約12万7千人を擁し,かつては田園であった地域は近年ほとんどが住宅となっている.また,市内三つの駅を中心とする商店街も急速に発展し12万市民の暮らしに必要な利便や機能を提供できるようになった.本市の65歳以上の人口は10,485人で,高齢化率8.21%となっている.

 今後,高齢化社会を迎え高齢者も障害者も住みよいまちづくりを目指し,住民のニーズに対するサービスの質,量の充実とともに柔軟性のある行政対応が重要と考えている.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・3

トイレ・1

著者: 稲坂恵

ページ範囲:P.201 - P.201

 排泄は生命維持機能として重要なだけでなく,他者の手を借りたくないと願う生活行為の筆頭であり,障害者にとって排泄の自立いかんが生活の質に大きな影響を及ぼす.障害者は移動の制限,姿勢変換の不安定さにより,既製のトイレの使用には困難が生じることが多い.したがって,手すりの設置や便器の補高などの環境調整が必要となったり,トイレまで行かれない者には,ポータブルトイレなどの機器の利用が考慮されなければならない.最近では温水洗浄装置の利用が一般化し,後始末動作が困難な者では,これにより問題の解決が図られる.また,簡便で使用者の多いポータブルトイレで問題となっている汚物処理や匂いに対しても,水洗化や消臭剤の研究開発が進んでいる.

印象に残った症例

押す人症候群を呈した3症例

著者: 嶋田誠一郎 ,   井村慎一

ページ範囲:P.203 - P.205

 1.初めに

 脳卒中片麻痺の急性期患者を担当する際,リハビリテーション専門病棟をもたない当院のような大学病院では,入院期間は短期となりがちである.長期的なリハビリテーションを必要とするような症例では,リハビリテーション専門病院に転院し,治療を継続することになる.急性期のリハビリテーションが患者の予後や入院期間その後の社会生活に与える影響を考えると,期間は短期であっても初期治療の適切性が問われることとなる.

 近年,脳卒中片麻痺患者の健側機能の重要性が指摘され,著者もその重要性を常日頃感じている一人である.しかし今回報告する3症例は,患者が健側を用いようとすればするほど重心は支持基底面を離れ患側方向へと自ら倒れていってしまう,いわゆる“押す人症候群”を呈した症例である(表1).特に症例1を担当したころは,Daviesの著書も翻訳されておらず,症例に対しどうしてこんな簡単なことができないのかと逆に過剰な努力を強いさせることで悪影響を与えてきたと思われ,自らの浅学を後になって思い知らされた症例である.

 理学療法を施行する上で,効果の挙がりにくいとされるこれらの症例に対する初期理学療法を転院後の経過や自らの反省を含め報告したい.

実習レポート

重度障害が予測される脳卒中片麻痺に対する急性期・回復期の理学療法/Comment

著者: 井ノ上修一 ,   半田健壽

ページ範囲:P.206 - P.209

 1.初めに

 脳卒中リハビリテーション(以下,リハと略.)において早期より障害の予後を予測し,理学療法を施行していくことは当然のことであるが1),ADL自立が難しく将来も介助無しでは日常生活が不可能であろうと予測される重症例に対しては,坐位から立位,寝返りから起き上がり,さらに歩行といった順序で起居移動動作自立を目差す従来の理学療法2)では対応が困難なのではないだろうか.最終学年時の臨床実習において重度の障害が予測される症例を数例受け持たせていただき,その急性期・回復期の理学療法を体験した.以下にその中の1症例について報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.210 - P.211

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.214 - P.214

 障害をもった新しい生活をどのように組み立てていったらよいのか?この生活メニューを習慣化できるものとして援助していくためにはどうしたらよいだろうか?これはすべてのリハビリテーション関係者の課題であり,かつ在宅リハビリテーションに関わる理学療法士の戸惑うところでもある.

 にもかかわらず,生活指導に関するテーマは学会でも,本誌でも今まで少なかったように思う.本号の特集「障害者と生活指導」は生活指導技術としての専門領域の足がかりとなればうれしい.はからずもプログレス欄の中川氏は“保健・医療の行動科学”の中で,生活を変えるための防御的な構えを緩めさせる条件についてふれておられる.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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