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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻5号

1993年05月発行

雑誌目次

特集 教育

高等教育機関における理学療法士養成の現状と問題点

著者: 小山五朗

ページ範囲:P.292 - P.297

1 医療関係従事者の制度化

 昭和30年代中盤から経済の高度成長を背景に,1961年国民皆保険実現を契機として,国民の医療需要は急激に増大し,医師をはじめとして,医療関係従事者の不足が社会問題となり,要員養成の増員とともに病院などにおいて従事していた医療関係従事者の法制化が取り進められた.主な法制化は,次のとおり.

・1965年 理学療法士及び作業療法士法制定

・1968年 診療放射線技師法(1951年制定の診療エックス線技師法の一部改正)

・1970年 臨床検査技師法(1958年制定の衛生検査技師法の一部改正)

・1970年 柔道整復師法制定

・1971年 視能訓練士法制定

・1987年 臨床工学技士法制定

・1987年 義肢装具士法制定

・1991年 救急救命士法制定

神戸大学における改革―大学設置基準の改正に伴って

著者: 前田盛

ページ範囲:P.298 - P.301

 本原稿依頼を受けた段階では,他に適当な人が学内外にいるとの想定でとりあえず引き受けた.しかし,原稿締切が迫り,適当な人を探す中で,それぞれ立場が微妙であり,まったくの部外者に近く,かつ,従来の事情をまったくと言っていいほど知らない存在ということで,まったく私的な立場から思いつくままに気楽に書かざるをえなくなった.見当外れも多いだろうが,時期が時期だけにフリーな部外者がどんな目で見ているか参考になればと思います.

広島大学医学部保健学科理学療法学専攻のカリキュラム編成

著者: 梶原博毅

ページ範囲:P.302 - P.308

 1初めに

 我が国の医療技術教育は,第二次世界大戦後各種学校に位置づけられ,長い間質的な向上がなされないままであった.歴史の古い看護教育では,1952年に高知女子大学家政学部に衛生看護学科が,また,翌1953年には東京大学医学部に衛生看護学科が設置され,学士課程の教育が始まってしいるが,本格的に医療技術教育の質的向上がなされ始めたのは,1967年,大阪大学医療技術短期大学部の発足に始まる.

 理学療法教育も,1963年各種学校として国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院の発足に始まり,その後,徐々にその数を増していったが,短期大学教育が始まるのは,1979年,金沢大学医療技術短期大学部理学療法学科の発足からである.

 一方,近年の医学,医療の発展と,急速な高齢化社会の到来を迎え,ヘルスマンパワーの充実が急務となり,医療技術者の質的向上がさけばれるようになってきた.このような社会的背景の下に,1992年4月,広島大学医学部に保健学科が誕生した.この保健学科において我が国最初の理学療法および作業療法の四年制大学教育(学士課程)が発足したことは,すでに関係者のよく知るところである.この理学療法教育の四年制大学教育化は,我が国の社会的背景の変化もさることながら,日本理学療法協会をはじめとする多くの関係者の長い間の並々ならぬ努力の賜と言える.

 偶然にも,広島大学が理学療法および作業療法の学士課程教育に先鞭をつけたことになったが,その動向が後続の大学に大きく影響を与えるであろうと予測されたため,その構築と内容についておおいに苦慮したところでもある.したがって,広島大学の保健学科の成立過程を振り返りながら,学士課程教育のカリキュラム編成と今後の問題点を考えてみたい.

札幌医科大学保健医療学部理学療法学科の発足まで

著者: 宮本重範

ページ範囲:P.309 - P.315

 1初めに

 1983年4月に札幌医科大学衛生短期大学部は開学したが,その10年前の1973年に設立準備委員会が設けられた時点では,設置者である北海道は我が国の理学療法士,作業療法士の教育機関としては初めての学士課程をもった「衛生大学」構想として,その実現のための準備を押し進めてきていた.しかし,当時は(今もそうであるが)大学教員の資格を有する理学療法士が充足していなかったことと,国の関係省庁の中に理学療法士,作業療法士の教育を四年制大学(学士課程)で行なうという考えが乏しかったことも学士教育が実現できなかった一因ではないだろうか.とにかく,札幌医科大学衛生短期大学部が開学して10年目に大学の四年制学部へ移行できたことは,文部省における医療技術学を大学教育の中で実施しようという機運の高まりと,本学の設置者である北海道の英断とスタッフの目的達成のための迅速な作業能力によるものと言える.

 本稿では本学の四年制学部発足までの経過と,教員組織,教育カリキュラム,教育・研究設備などについてその特徴を,短期大学部と比較しつつ記述する.

米国における理学療法教育の歴史的考察

著者: ,   高橋正明

ページ範囲:P.316 - P.319

 〔要約〕米国の理学療法は,軍医総監室宛ての一通の報告書がきっかけとなり始まった.その報告書は,当時の米国が,世界大戦によって負傷する兵士や一般市民をリハビリテーションさせるだけの受け入れ能力に不足していることを指摘するものであった.これを契機に,軍部内に特殊病院と機能再建に関する部局が設立された.そして驚くことに,1917年当時に理学療法士養成のために準備された教育的内容は,現在の教育プログラムとかなりの類似点が存在しているのである.本論文では,米国における理学療法教育について歴史的に概観し考察を加えたい.

座談会/我が国における理学療法教育の将来展望

著者: 奈良勲 ,   中屋久長 ,   高橋正明 ,   黒川幸雄 ,   松村秩

ページ範囲:P.321 - P.329

 広島大学に学士教育が発足し,新たな展望が開けたが,我が国の理学療法教育は混沌とした状態にある.米国の教育改革を視野に入れながら,我が国の理学療法教育の将来展望について縦横無尽に語っていただく.

とびら

思惟の大海を排徊する……

著者: 竹谷春逸

ページ範囲:P.291 - P.291

 今春,われわれの念願であった四年制大学教育コースが国立広島大学保健学科に設立された.これを契機に各地に四年制大学設立の情報が流れている.この状況は喜ばしいことである.反面,教授陣の人材確保を杞憂するものである.

 21世紀に向けて大学制度も確立されたが,教授陣の人材確保などに協会自体がどれだけ協力しているのだろうか.とにかく,後続の大学が計画倒れにならないことを祈る.

Topics

学位授与機構

著者: 濱健男

ページ範囲:P.320 - P.320

 1.学位授与機構の創設

 1991年7月1日,「国立学校設置法及び学校教育法の一部を改正する法律」(1991年法律第23号)の施行により,学位授与機構が創設され,また,同日,「学位規則の一部を改正する省令」(1991年文部省令第27号)も施行され,新しい学位制度がスタートした.

 この改革の趣旨について,上記改正法および改正省令の施行についての文部事務次官通知では,「従来称号として位置付けられていた学士を学位として位置付けるとともに,生涯学習体系への移行及び高等教育機関の多様な発展の観点から,学位授与機構を新設し,同機構が高等教育段階の様々な学習の成果を評価して学位の授与を行うこととした…」と説明している.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・5

車いす・1

著者: 望月彬也

ページ範囲:P.330 - P.330

 1.日本家屋と車いす

 4人に1人が65歳以上という超高齢社会が目前に迫まっている.在宅療養者も80歳を超える後期高齢者が増加しており,生活意欲は低下していることが多く,ADLの自立範囲も限られている.特に下肢の機能低下から家庭内で車いすを使う例も増加している.しかし,日本建築は桂離宮などに代表されるように屋内には数多くの段差があり,床も畳,板の間などいろいろである.それらは建物のアクセントになっており,日本独自の文化様式を創出してきた.しかし,車いすを屋内で使う場合,それらが大きな障壁となり建物内を自由に移動することが不可能なことが多い.また,建築は人の寸法を基準に作られていて,車いすの利用は普通考えられてはいないので廊下などが直角に曲がっていると,そこを通過するのは困難である.しかし,家庭での車いすの利用は高齢化とともに,ますます増加してくるものと思われる.

 現在,屋内で主として使われているものは屋外でのそれと同じものがほとんどである.しかし,屋内,外では使用環境,使用パターンなどがまったく異なるので形状や性能は本来別ものであるべきであろう.屋内を段差や畳の少ない平坦な板の間に変えるのもよいが,現状に適した車いすの開発も必要であろう.

入門講座 筋力増強訓練・5

健常高齢者に対する筋力増強訓練

著者: 中川法一 ,   池田聖児 ,   森實徹

ページ範囲:P.331 - P.336

 Ⅰ初めに

 日本は現在,欧米諸国をはじめいかなる国々も民族も経験したことの無い猛烈な早さで超高齢化社会を迎えようとしている.約30年先には4人に1人が老人である社会が現実のものになると言われ,その対応がマスコミに先導されるように各界から叫ばれるようになった.

 われわれ理学療法士も身体運動機能のエキスパートとして,これら高齢者に対する健康問題に取り組む時期であると言えよう.

 Shephard1)はその著者の中で「きわめて適度のトレーニングを続ければ,生理学的運動機能の退行を平均して8~9年阻止できることは確かである.このようなトレーニングは,死亡率にはわずかな影響しか与えないにしても,老齢の末期を重度廃疾者として過ごさなければならない人の数を,2/3程度まで減ずることができる.」と高齢者に対する運動の重要性を述べており,QOLの観点からもいつまで,いかに動けるかが大きなポイントであることは言うまでもない.したがって筋力を向上させるということは,筋そのものが運動の効果器であるがゆえに非常に意義深いものである.本論文では高齢者の筋について,生理学的解釈,増強訓練リスク,増強方法について最近の知見を交え概説する.

講座 地域リハビリテーション・5

離島におけるリハビリテーション活動―壱岐島リハビリテーション研究会の活動を中心に

著者: 小金丸敬仁 ,   冨崎忠雄

ページ範囲:P.337 - P.343

 Ⅰ初めに

 地域リハビリテーションを進めるに当たって,保健・医療・福祉など各職種間の連携の重要性は言うまでもない.しかし,指摘されつつも現状では,立て割の行政組織をはじめ多くの諸問題があり,連携が満足ゆくものになっているとはいい難い.離島においては,さらに物的・人的資源の乏しい等,限られた条件下で地域リハビリテーションを進めていかねばならない.壱岐は離島のハンディを抱えつつ,ユニークなチームアプローチを試みている所である.ここではまず今までの地域リハビリテーションの経過と現在の活動内容を報告し,今後の課題について提起してみたい.

プログレス

睡眠時の呼吸管理

著者: 髙﨑雄司 ,   太田保世

ページ範囲:P.345 - P.345

 Ⅰ.初めに

 覚醒から睡眠に移行すると,呼吸(分時換気量)は低下傾向を示すものの,健常人の動脈血酸素飽和度は,ほとんど変化を示さない.一方,肺や胸郭障害に基づくガス交換障害を有する患者では,覚醒時から低酸素血症を認めるので,睡眠時の動脈血酸素飽和度は,ヘモグロビン酸素解離曲線の特性から,著しく低下することになる(図1).この現象は肺気量が低下するほど著明なため,肺気腫症に比べ,胸郭の変形(脊柱彎曲症など)や呼吸筋障害に起因した拘束性換気障害(筋ジストロフィーなど)患者で著しい.

 近年,重症な拘束性換気障害患者に夜間の換気補助を試みた報告が多数発表され,良好な成績を示している.本項では,睡眠時の呼吸管理に関し,概説する.

我が地域

岐阜を知っとんさるか?/宮城を知ってっちゃね?

著者: 山崎節子 ,   三浦幸一 ,   藤野隆喜

ページ範囲:P.346 - P.347

 知っとんさるかNo.1

 岐阜はTV番組信長の舞台であり,信長ゆかりの土地でもあります.

 昨年は鵜飼や,高山市,下呂温泉の観光に加えて,信長ツアーで賑わいました.

あんてな

第28回日本理学療法士学会企画の目玉

著者: 田口順子

ページ範囲:P.348 - P.348

 日時が迫まるにつれ準備も気ぜわしいが,“学会のための学会”ではなく来訪されるすべての方々にまこごろをもって接する「金は無くともホスピタリティー」をコンセプトに手づくり学会の準備を進めている.

印象に残った症例

糖尿病壊疽による下腿切断―断端部に頻繁に傷が生じる症例

著者: 磯崎弘司

ページ範囲:P.349 - P.351

 Ⅰ.血管原性切断について

 欧米では血管原性による切断が全切断者の70%1)あるいは80%2)を越えているという報告がある.我が国においては欧米ほどではないが,人口の高齢化・食生活の欧米化に伴い閉塞性動脈硬化症など3)の血管原性による切断が増加している.当院における1950~1990年の調査4)では全切断者の24%が血管原性切断であったのに対し,1985~1990年の近年では43%と高い値を示し今後の増加傾向を示唆している.また水落5)・大川ら6)によれば血管原性の切断症例において65歳以上の老年群では閉塞性動脈硬化症が多く,それ以下の若中年群では糖尿病性壊疽・急性動脈閉塞・慢性動脈不全においてほぼ同率であったと報告しており,当院の調査でも同様な傾向がみられた.

 血管原性による切断では,発症から切断という外科的処置に至るまでの経過が外傷・腫瘍によるものと比較して長く,健肢・患肢ともに機能障害を生じている症例が多い.したがってこれらの症例は全身状態のチェックも重要である.また,循環状態の悪さから傷を生じやすく,傷の治癒も遅れがちである.今回,血管原性切断で断端部に頻繁に傷を生じた症例の断端管理とソケットについて報告する(表1,2).

症例報告

痙性尖足歩行に対する荷重バイオフィードバック治療

著者: 武政誠一 ,   嶋田智明 ,   武部恭一 ,   宮本真美 ,   平山敦子 ,   西村知子

ページ範囲:P.353 - P.355

Ⅰ.初めに

 近年,理学療法の分野において筋電図や関節位置,筋力,力量などの種々の生体情報を利用したバイオフィードバック訓練が行なわれるようになってきた.しかし,本邦においては力量,すなわち荷重量をコントロールするのにフィードバック訓練を利用した報告はあまり無い.

 今回われわれは,成人脳性麻痺患者にみられる痙性尖足歩行が原因で歩行困難を来した症例に対し,患側下肢への荷重コントロールおよび的確な歩行訓練を目的として,荷重量を聴覚へフィードバックさせる(以下,WBFという.)装置を用いての訓練を行なった.その結果,歩行が可能となり歩容も改善されたので,その訓練方法および問題点について文献考察を加え報告する.

クリニカル・ヒント

腰痛症をふりかえって

著者: 谷口典行

ページ範囲:P.356 - P.357

 腰痛症発現の原因や病態についてはすでに各方面からの研究や報告も多く,ここでは理学療法の臨床上の場面と,いわゆる急性腰痛症が発現する姿勢や労作(動作)についての注意点,ならびに,現在広く処方されている軟性コルセットについても若干の私見を述べてゆきたい.

 腰痛症患者の訴えの主体は何といっても,その「痛み」である.また,痛みには至らないまでもしびれ感,筋肉の伸張感,知覚異常,筋力低下なども程度によっては出現している.出現部位は個人さまざまで,痛む箇所を指先で押さえて表現できる者もあれば,「だいたいこのあたり一帯です」とおおまかな表現の者も少なくない.明らかな根症状があればより具体的な訴えになるが,それ以外の痛みとなると本人自身もどのように表現をしたらよいのかとまどっている場合がある.

追悼

故古川良三君を偲ぶ

著者: 松村秩

ページ範囲:P.344 - P.344

 あなたと会って別れた翌朝,あなたのあまりにも急な訃報に接し,信ずることもできず,深い悲しみに沈んだのは1月の晦日でした.久し振りに会ったあなたはとても冗舌で,仕事,家族,将来のことなどをいつになく多く話題にして語り,楽しく過ごした半日でした.そのときのあなたの姿が最後で,あまりにも慌しくあなたは逝ってしまいました.

 人生50年という時代がありましたが,あなたは享年50歳にしてあまりにも多くのことをやり遂げるとともに,あまりにも多くのことをし残して逝ってしまい

 ました.

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文献抄録

ページ範囲:P.358 - P.359

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.362 - P.362

 すでに制度疲労をきたしている我が国の大学教育の改革は,大学設置基準の大綱化,弾力化を中心にして現在進められている.

 文部省の立場から小山五朗氏に「高等教育機関における理学療法士養成の現状と問題点」を執筆いただいたが,たいへん内容の深い論文で,読者にとって参考になるものとなった.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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