icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻6号

1993年06月発行

雑誌目次

特集 小児の理学療法

我が国における小児のリハビリテーションの現状と課題

著者: 児玉和夫

ページ範囲:P.366 - P.372

 1初めに

 小児のリハビリテーションで対象とする子どもたちのほとんどは,いわゆる障害児である.この子どもたちのために理学療法士,作業療法士,言語治療士などが活躍し始めてからかなりの年月が経つ.最初の総合的な肢体不自由児施設(整肢療護園)が造られたのは1942年であり,あるいは日本のリハビリテーションはこうした子どもたちへの療育努力から始まったとも言えよう.ではその実態は現在質量ともに充分と言えるのであろうか?今後どのような面に発展していく必要があるのか? この稿では現在の小児リハビリテーションの状況を概括しながら,こうした今後の課題についても考えていくことにする.

 最初に日本で障害児療育の場である,施設などの状況を紹介し,続いてそれらの施設での訓練スタッフの配置状態をみていく.その上で小児のリハビリテーションに従事する訓練スタッフに求められる条件を検討していくことにしたい.

脳性麻痺児に対する理学療法技術の進歩と課題

著者: 今川忠男

ページ範囲:P.373 - P.378

 1初めに

 脳性麻痺児に対する治療技術についての関心や研究は,どのような刺激を加えるか,つまり理学療法士が何をするかということが中心課題となっていて,それをどのように行ない,子どもにどのように適応させていくかという視点が不足していると,最近の「運動科学」研究者は指摘している.

 治療技術というものは,理学療法士が最初に加える刺激の種類を指すというよりは,その刺激に対する子どもの反応によって修正,決定していくものである.子どもに何かをしてその反応を引き出すというだけでなく,子どもがこのようにしたので,理学療法士がどう反応したかという相互作用の観点で,治療技術を捉える必要がある.

 このようなことから,治療技術を科学的,客観的,普遍的なものにしていくには,理学療法士の運動の巧緻性だけではなく,子どもの反応を敏感に察する感受性が必要となってくる.

 今回,治療技術実施に必要な理学療法士の微細な運動の巧緻性と鋭敏な感覚の感受性を向上させるための具体的な提言を幾つか取り上げて解説していく.

重度重複障害児の訪問指導における理学療法士の役割と課題

著者: 山本和儀 ,   伊藤晴人 ,   野村典子 ,   林伸子 ,   山本純子 ,   森山雅志 ,   吉岡善隆 ,   山本正弘

ページ範囲:P.379 - P.386

 1初めに

 重度重複障害児の訪問指導においては,その対象となる子どものもつ「障害」の捉え方とアプローチの方法が施設や病院でのそれと大きく異なるということを,われわれは次のように整理している.

 いろいろな意味で用いられていた「障害」ということばの意味を明らかにするために,インペアメント(機能・形態障害),ディスアビリティー(能力障害),ハンディキャツプ(社会的不利)とWHOが分類したことは,よく知られている.このハンディキャップ,ディスアビリティー,インペアメントの三者は密接に関連し合っており,ハンディキャップの解消のために食事などのADL障害など(ディスアビリティー)の維持・改善や廃用性症候群予防〔(二次障害を機能障害として捉え予防する)(インペアメント)〕へのアプローチを行なうことである.

 訪問指導は,上に述べた三つの分類の中で図1に示したようにその基本とするものが,ハンディキャップを解消していくことであるという捉え方をしている.ハンディキャップを解消していくということはディスアビリティーが有ったとしてもそれをハンディキャップにさせないということである.つまり障害児が自分の望む生活(人生)を選びとっていくことであり(決定できない場合は家族が),周囲はそのことを尊重し障害児のディスアビリティーをあらゆる方法で軽滅しハンディキャップを消去していくことである.言い換えればノーマライゼーションの考え方を具現化することである.具体的には障害児とその家族が自由に外出し,人と交流できる地域環境づくりや,障害児の生活を地域社会全体で支援していくという住民意識を育てていくようなアプローチをリハビリテーションチームの一員としてわれわれも担っていくことである.

通所センターにおける小児のグループ活動―理学療法士の立場から

著者: 芝田利生

ページ範囲:P.387 - P.392

 1初めに

 本稿では当センター通園部門の取り組みの紹介を通し,通園センターでの小児グループ活動における理学療法士の役割を検討する.

 近年,全国的な出生率の低下により子どもが減少し,都心部では小学校の統廃合まで行なわれる状況である.しかし,脳性麻痺の発生率は増加傾向にあり1),障害の程度は軽度と重度の“二分極化現象”が生じている.一方,一般幼稚園・保育園での障害児の受け入れも増加し,肢体不自由児通園施設では対象児の重度化が進んでいる.このため通園施設での保育場面では,対応の変更を迫られており,保育場面に理学療法士・作業療法士をはじめとする多職種の参加が求められている.ところが,理学療法は多くの場合個別的指導であるため,理学療法士にとってグループ活動での効果的な活動に対する大きな課題がある.

 当センターにおいてグループ活動としては,入所重症心身障害児・者の作業療法グループや理学療法士のプール活動,病棟職員による入所児・者のグループワークなどがある.また,特に通園部門での保育活動では多職種によるグループ活動を行なつている.今回,この通園部門での取り組みについて理学療法士の立場から紹介する.

重症児に対する日常姿勢管理

著者: 安藤了

ページ範囲:P.393 - P.397

 1初めに

 重い運動機能障害を有する子どもの日常をどのように管理していくかは,われわれ理学療法士が最も頭を悩ませるところである.ここでは,看護婦など他職種の指導を考慮し,可能な限り実際面に即した形で考えてゆく.

とびら

医療行為

著者: 浅山章

ページ範囲:P.365 - P.365

 医療機関以外での理学療法が身近で見られるようになってきた.特に最近,高齢化社会の到来に厚生行政はいっそうの力を入れ老健・在宅関連事業などは目白押しであり,理学療法士の雇用分野も着実に広がりを見せている.医療としてではなくサービスとして営みを開設する者も見聞きし始めた.

 しかし,大方の理学療法士はまだ当分の間理学療法を医療行為として日々携わるはずである.患者(診断のついた)がいて理学療法士がいるのであって,客がいて理学療法免許を有する者がいるという関係とはまったく異なるのである.医療には「診断」という根本があり,それゆえに理学療法が医療行為として確立されているのである.診断を行なうには評価が不可欠であり,診断がつくと予後がおのずと決まるのである.すなわち,評価・診断・予後この三つがあって初めて治療が行なわれるのである.ここでいう理学療法は医療類似行為でもなければサービスでもなく,相手が求めるから行なうという行為とはまったく異なるのである.

入門講座 筋力増強訓練・6

小児における筋力増強訓練

著者: 新田通子

ページ範囲:P.399 - P.402

 Ⅰ初めに

 当センターは,小児専門病院,肢体不自由児施設,重症心身障害児施設,周産期医療部などを併せもっている.理学療法の対象児の年齢は,0歳から20歳前後に及ぶ.

 疾患としては,整形外科疾患,神経内科疾患,遺伝科疾患,内分泌科疾患,精神科疾患,血液科疾患,循環器科疾患,脳外科疾患,新生児科疾患等々多岐にわたり,合併症を有する児も多い.

 かなり以前のことになるが,1年間の外転装具装着後のペルテス病患児において,歩行開始前の筋力増強訓練では,股関節周囲筋筋力“5”と評価し,歩行に大きな異常は出ないとの予想に反し,明らかなTrendelenburg歩行が見られ,当惑した経験がある.

 この苦い経験は,以後の筋力増強訓練の考え方を大きく転換した下地となっている.

 そしてもう一つの経験は,「筋ジストロフィーの患児たちは,筋力がかなり低下してきても,それが全体的にバランスのとれた筋力低下なら,ある程度の筋力までは歩行が可能である」ということである.これらの経験は「筋力と歩行能力」との関係を再認識させるものであった.

講座 地域リハビリテーション・6

地域リハビリテーション活動におけるケースマネージメントおよびケアコーディネーション

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.403 - P.408

 Ⅰケースマネージメントとは

 障害者や寝たきり老人を抱え,家庭崩壊寸前に追い込まれてから初めて行政の窓口に駆け込む人は徐々に少なくなってきているとはいえ,未だ後を絶たない現状がある.緊急対応をしても手遅れとなるほどのケースが少なくなってきているとすれば,それは啓蒙教育や行政対応の成果とも言えようが,実態把握や訪問サービスの開始により孤立化・閉じ籠もりの悪循環に風穴を開けられただけでも意味は大きいと感じている.

 寿命が延び,高齢者のいる世帯,老人世帯,独居老人がふえるということは,多かれ少なかれ何らかのケアを必要とする家族が増えることを意味している.しかも,そのケアは一過性のものではなく長期に継続する可能性もあり,求められるケアの量・質はふえる一方で,雪だるま式に膨れ上がる虞を孕んでいるという性質のものである.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・6

車いす・2

著者: 望月彬也

ページ範囲:P.409 - P.409

 4)長時間座っているとおしりが痛くなる

 一般的に同じ姿勢をとり続けていると,いつも同じ部位に力がかかっているために,そこが圧迫され痛みがでやすい.幅もきっちり決まっているため,体を横にずらすことや体位交換がやりにくいこともある.

 5)使用できる家具が少ない

 普通の車いすには肘かけが付いており,テーブルに向かうとき,横木にひっかかり十分前方に出られないために,食事などのとき姿勢が悪くなりやすい.

Topics

理学療法・作業療法専攻に係る修得単位の審査

著者: 濱健男

ページ範囲:P.410 - P.410

 1991年7月1日,学校教育法などの一部改正により,新しい学位制度がスタートし,短期大学卒業者などが,大学の科目等履修生としての単位などを一定数修得し,学位授与機構の実施する審査に合格した場合,学士の学位が授与されることとなった.この制度については本誌第5月号でその概略を紹介したところであり,今回は特に修得単位のうち,専攻に係る単位の審査を行なう際の基準などについての概略を述べる.

 機構では学士の学位授与に係る申請を受けた場合,修得単位と学修成果の審査および試験を行ない,これらを基に総合的に合否の判定を行なうこととなる.

プログレス

慢性期多発性硬化症の治療

著者: 三好甫

ページ範囲:P.411 - P.411

 多発性硬化症(以下,MS)は時間的,空間的に多発性に起こる中枢神経の脱髄疾患であり,多彩な神経症状を呈する.慢性に経過して再発寛解を繰り返したり,徐々に進行性の経過をとり,慢性期にはしばしば重篤な機能障害をもたらす.未だ原因は明らかでないが,その病態発症機序として免疫系の関与があることは認められている.慢性期MSの治療は,第一は再発あるいは進行増悪を防ぐことであり,第二には,機能障害に対する対症療法およびリハビリテーションが重要である.本稿では,最近の主な薬物療法について述べる.

我が地域

あんたら奈良知ってるやろ?/石川えーがに知っとっかぁー?

著者: 仲川安弘 ,   山本千登勢 ,   中村綾子

ページ範囲:P.412 - P.413

 私たちは大和民族?

 筆者がかつて若かりしころ(今も若いつもりですが…),ある競技会で奈良県チームのメンバーとしてプレーしたときに,他県チームから「大和民族(ヤマトミンゾク)頑張れ!」と声援を受けたことがあります.

 冒頭から私事で恐縮ですが,奈良県すなわち“やまと”は,“大和”あるいは“日本”と表現されるように,歴史的には我が国の中心であり,現在でも我が国のふるさとと言えるでしょう.それを象徴するかのように,今日,奈良を訪れる観光客は年間3900万人にも及びます.

あんてな

理学療法教育四年制大学化の動向

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.414 - P.414

 1.初めに

 1963年我が国最初の理学療法士養成専修学校(国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院)が開設,1979年最初の理学療法士養成短期大学(金沢大学医療技術短期大学部)が開設,そして1992年最初の理学療法士教育四年制大学(広島大学医学部保健学科)が開設された.この間の時間的推移は,16年,13年となり,創設から29年して大学化が実現した訳である.創世期にすでに出現していた四年制大学化を標榜した運動は,ここに至り陽の目をみたことになり,長い道程であったがたいへん喜ばしい現象である.しかしながら今後この大学化の動きが,短期大学(部)化および専修学校化の潮流とどのようにリンクしてゆくのか,また乖離してゆくのか,たいへん関心のある重要な問題である.以下に幾つかの問題についてふれてみる.

特別インタビュウ

Williams女史に聞く―米国の開業・徒手療法事情

著者: ,   奈良勲

ページ範囲:P.415 - P.420

 奈良 Williamsさん,ようこそ日本にいらっしゃいました.初めての来日ということですが,今日は来日早々,時差ボケも抜けない間に,このジャーナルの特別インタビュウに応じていただき有り難うございます.

 最初に,今回の来日の目的を教えてください.

印象に残った症例

Weaningに難渋した急性期C4頸髄損傷者へのアプローチ

著者: 川村博文 ,   鶴見隆正 ,   辻下守弘 ,   山本博司 ,   谷俊一 ,   上村寛

ページ範囲:P.421 - P.424

 Ⅰ.初めに

 高位頸髄損傷者にはC2-C3レベルの胸鎖乳突筋や僧帽筋の機能が残存するRespiratory quadriplegia1)とC1レベルの広頸筋の機能が残存するPentaplegiaとがある.これらはいずれも四肢と体幹以下とが完全麻痺であるために最重度のImpairment,Disability,Handicapの障害がある.さらに,両タイプは横隔膜の麻痺を伴うだけに,早期からの呼吸管理および呼吸の理学療法を行なうことが重要である.

 今回,われわれは受傷後の3か月目まではRespiratory quadriplegiaの状態を呈していたC4完全麻痺患者の理学療法を通して,難渋したWeaning,コミュニケーションのアプローチ,高位頸髄損傷独特の合併症(特に自律神経系異常)対策などを経験したので,その経緯について報告する.

報告

富山県下における理学療法士推定必要数について

著者: 寺田一郎 ,   福江明 ,   山崎真由美 ,   河合直樹 ,   柴田浩之

ページ範囲:P.425 - P.428

 Ⅰ.初めに

 21世紀に空前の高齢化社会を迎えようとしている我が国では,厚生省により保健・医療・福祉にわたる一環したサービス体系が検討され,「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略(ゴールドプラン)」が推進されている.

 本県でもすでに,「富山県地域医療計画」が策定されており,その中では,医療・福祉施設と地域とを結ぶリハビリテーション体制の確立が謳われている.今後は,マンパワーの主力として,理学療法士は医療のみならず,保健・福祉分野でもその必要性が高まってくると予想される.

 このような状況を踏まえ,本県理学療法士会では,理学療法士推定必要数を算定することとなり,われわれがその任に当たった.

 今回,その結果に若干の考察を加え,ここに報告する.

短報

糖尿病患者の運動教育;Home Exercise継続のための提言―アンケートによる実態調査から

著者: 奥壽郎 ,   大森豊 ,   西澤利広 ,   牧田光代

ページ範囲:P.429 - P.430

 Ⅰ.初めに

 糖尿病の治療において患者教育は重要な位置を占めており1~3),運動療法でもそれは例外ではない.しかし,長期的な観点よりみれば運動指導を行なってもその継続が困難になるという問題が生じ,フォローアップの必要性が感じられる.

 そこで,われわれは運動継続のためのフォローアップの意義を探る目的で,社会生活において運動教育が生活環境,心理面にどのような影響をもたらしているのかを知るため,運動指導後の糖尿病患者に対しアンケート調査を実施したので報告する.

クリニカル・ヒント

理学療法を楽しむコツ

著者: 伊藤恭子

ページ範囲:P.431 - P.431

 1.初めに

 脳卒中後遺症の機能回復は発症後6か月くらいまでと言われており,リハビリテーション医療の早期開始の重要性は周知のとおりである.

 筆者は理学療法士になって10年間,大学病院に勤務し種々の疾患の早期からの理学療法を経験した.しかし,脳卒中患者の場合,発症後数か月間の自然回復の経過の中で理学療法がはたしてどれくらい関与しているのかとつねに疑問をもち,理学療法の効果が実感できなかった.理学療法士になって数年の読者は当時の筆者と同じ疑問をもちながら,日々の忙しさに流されていないだろうか.臨床経験15年目にして,やっと理学療法の効果と楽しさが実感でき始めた今,経験から理学療法を楽しむ「コツ」を少し述べてみたい.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.432 - P.433

編集後記

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.436 - P.436

 リハビリテーションニーズは高齢障害者におけるもののみならず,小児においても変遷がみられる昨今である.中でも最も重要な課題と考えられる第一点は対象の変遷で,重度重複障害児に対する理学療法ニーズの増大であり,第二点は障害児の在宅生活に関わる地域リハビリテーションニーズであろう.本号の小児の理学療法特集は,この二点の課題への対応を意識して企画させていただいた.

 児玉氏の「我が国における小児のリハビリテーションの現状と課題」からは,われわれ理学療法士を取り巻く状況を広い視点から再確認していただきたい.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?