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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻7号

1993年07月発行

雑誌目次

特集 精神障害と理学療法

精神障害を有する切断者の理学療法

著者: 滝野勝昭 ,   長屋崇 ,   菊池詞 ,   石川朗 ,   三上真弘

ページ範囲:P.440 - P.444

 1初めに

 人が病気や外傷などに遭遇したとき,自らの身体運動機能の制約により行動の狭小化を余儀無くされる.これらと相関して受傷衝撃,現況衝撃,社会的不履行による自責衝撃などによって心理的機能も停滞することは,日ごろ,理学療法を施行していく上で容易に感じとることができる.

 切断者は損失した体肢が再生しない事実を既知しているので,いわゆる「障害の受容」から「適応」まで至るには複雑な心の葛藤を経なければならないであろう.ここには当然,切断するに至った原疾患も大きな影響力をもって関与している.その中でも精神障害を伴っている切断者が社会復帰するまでには,他の症例には無い特異性を秘めているのできわめて難渋する症例が多い1).今回,これまでに経験した精神障害を合併した下肢切断例に,理学療法を通して臨床的見地から検討を加えた2,3)

自殺企図による手関節部損傷の理学療法―理学療法施行時の注意点

著者: 田中隆司 ,   永田昌美

ページ範囲:P.445 - P.449

 1初めに

 理学療法を行なう際,自殺企図という特殊な受傷過程から機能障害に陥った症例に接することは決して稀ではない.

 自殺企図の中にはいわゆる狂言自殺から精神分裂病の病的体験に支配されたものもあり,その判断および患者への対応は容易ではない.自殺企図の手段としては飛び降り,薬物中毒などさまざまあるが自らの手関節部を切るwrist cuttingは,1960年代から1970年代の欧米で多発して注目されるようになり,我が国でも西園ら1)により本症の増加が指摘されている.われわれは自刃行為による手関節部損傷の症例と事故による症例との理学療法に携わることにより,患者に対する心理面での対応の重要性を認識した.まず手関節部損傷の一般的理学療法とわれわれが行なっている実際のプログラムについて述べ,症例数は少ないが,過去の報告と比較検討し理学療法時の注意点について述べる.

精神障害を有する脊髄損傷患者の理学療法

著者: 古田晴朗

ページ範囲:P.450 - P.455

 1初めに

 突然の大きな身体的変化をもたらす外傷性脊髄損傷患者の受ける心理的打撃は,私たちの想像以上に大きいと思われる.リハビリテーションにおいてこのような患者と接するとき,しばしば経験することは心理的問題(抑鬱,退行,攻撃など)に加えさまざまな身体症状(頑固な背部痛,腹痛,胸痛,頭痛,しびれ感,両下肢有痛性痙攣など1))を訴えることである.その他,訓練プログラムを受け入れない,訓練拒否,病棟でのトラブル,言語的反抗さらには自殺企図など行動面の問題も挙げられ,リハビリテーションの進行を妨げることになる1,2,5).これらの症状や問題は患者が新しい状態に適応する過程の心理的葛藤の現れと考えられ1,2,5~7),程度の差はあるが,ある時期ほとんどの脊髄損傷患者にみられる,ここでは抑鬱などの心理的問題や身体症状を呈しリハビリテーションの進行を妨げるような患者を「精神障害を有する脊髄損傷患者」と広義に捉えて稿を進めることにする.また,明らかな精神病を有する脊髄損傷患者には専門病院での加療が不可欠3,5,7)であるため,そのような患者は対象外とした.

 精神障害を有する脊髄損傷患者の理学療法として,特に特別な理学療法の手技を用いることはまったく無い.結局のところ心理的なアプローチを試みるだけであり,そのためには脊髄損傷患者の陥る心理的状態をまず知る必要がある.

 Guttmann7)は脊髄損傷後の患者の心理的変化をショック期と認識期とに分けた.ショック期には,突然の圧倒される現実に対して,外界との関係を断ち切って自我(表1)を防衛するための無意識な防御反応が働く.認識期はさまざまな不安から「退行」および「否認」の機制が働く時期である.Fink9)は脊髄損傷後の心理的変化を四期に分けて分析した.最初のショック期には完全な医学的治療が必要とされ,心理的にはパニック,極度の不安および無力感に陥り適切な状況判断ができない時期である.第二期は防衛的退行期で現実を「回避」あるいは「否認」する.希望的考えにふけり,価値観および目的は変えようとしない時期である.第三期は自認期であり,以前の自分ではない現実を自覚する.抑鬱はこの時期に著しくなり自殺あるいは自殺企図もありうる.第四期は適応期で,今までとは違う価値観で人生を再構築できると考え自分自身を試し始め,不安と抑鬱を減少させる時期である.

 実際の臨床場面では通常,患者の身体状況により治療およびリハビリテーションが進められるため患者の心理的反応はつねに治療過程の後に現れると考えてよい.なぜなら,心理的反応は刺激あるいは変化などが無ければ起こらないからである.したがって,ここでは前述のような段階理論を参考にしつつ受傷後の治療過程にどのような心理状態が生じるか少しでも理解することを目的とし,さらに患者に対する対応の仕方などについても検討した.

精神障害を有する脳卒中患者の理学療法

著者: 髙橋文夫 ,   河津琴美 ,   星田和久

ページ範囲:P.456 - P.461

 1初めに

 精神科医療施設における理学療法の役割は,精神障害に直接働きかけその改善を図ることではなく,合併症としての身体障害に対して治療を行なうことである.したがって,理学療法の対象となる身体障害の種類は,精神障害の無い場合のそれとほとんど変わりは無い.また,理学療法の内容についても基本的には同じだが,対応の仕方や運動療法などの実施に当たりそれなりの工夫が必要とされる.ここでは,まず精神科医療施設である松沢病院における理学療法の対象疾患について,その統計の一部を紹介し,次に精神障害に脳卒中を合併した症例を取り上げて,その特徴や問題を考察する.

ヒステリー性運動障害の理学療法

著者: 古米幸好 ,   渡辺進 ,   日比野慶子 ,   永冨史子

ページ範囲:P.462 - P.467

 1初めに

 精神科疾患のリハビリテーションは,心身を病む人たちに関わる精神科医をはじめ多くの専門家たちのアプローチによって行なわれている.その専門家のグループに理学療法士が入っていないことを,筆者は常々不思議に思っていた.Wing JKとMorris Bによれば,理学療法士の精神科領域における活動は遅々として発達しなかったが,理学療法は身体的健康を回復(維持)するために欠かせないものであり,身体的健康は精神保健に対して多大の寄与をなしうるものであると述べ,精神科リハビリテーションのチームの一員として参加を呼びかけている.

 精神科リハビリテーションでの理学療法の役割を考察すると図1のように対象を三分野に分類することができ,それぞれの分野での役割も図に示したように担うことが考えられる.一つは,精神科疾患に罹患していて,さらにその精神科疾患とは関係の無い独立した身体的障害を有している患者の身体障害に対する理学療法と,もう一つは,精神科疾患に起因して身体障害が発生している患者の心身両面の治療を考慮した理学療法と,残る一つは,精神科疾患そのものを治療対象とした理学療法である.そしてもう一分野加えると,高齢精神障害者の低活動状態からくる老衰加速現象の対策としての理学療法という課題がクローズアップされてくるであろう.超高齢化社会の到来が目前になっている今日,この分野は理学療法の重要な課題になると予測される.一番目の理学療法はすでに日本でも行なわれており,荒木らや佐々木らは“意欲の欠如している精神障害者の場合でも,チームアプローチの一環として理学療法を行なうことにより,理学療法の効果が確認される”ことを発表している.二番目の心身症に対する理学療法は,前田が発表している.それによると心理的な原因による身体障害に対しての対応は,まだわれわれ(理学療法士)には未知の分野であると認めながらも,ヒステリーによる運動障害の患者に,立位で一歩足を前に出し元に戻す,次に反対の足を一歩前に出し元に戻すという動作を行なう運動や,ボールを使ってバレーボールの行動を行なう運動を通して効果を得たとしている,佐々木らは精神神経症としての書痙に対する理学療法の効果を発表している.三番目の理学療法については,今日行なわれている精神療法や生活療法そのものであり,発表は今日の時点では皆無である.身体運動による精神力動理論から治療効果を得たという研究はなされていないようである.

 左に示した役割の内容では,A・B・Cについては数が少ないまでも身体障害に対して行なうもので,法的にも合法で同意を得やすい役割である.しかし,D・Eについては反対される可能性が高いかもしれない.そのことを踏まえてあえて付け加えたものであり,「?」もそのために付している.精神科疾患には,薬物療法と精神療法と生活療法が個々の疾患に合わせて比重を変えながら行なわれている.その中に運動療法による効果が,精神療法的手法や生活療法的手法として成立するかもしれない,運動療法そのものが独立して存在するかもしれないということを仮定して書いたものである.

 今回,当院で行なわれたヒステリー性運動障害(疑いも含む.)の理学療法を紹介するに当たって,精神科リハビリテーションチームの一員としての理学療法の基本的な面にもふれ,チームの一員になりうるかも併せて模索したいと思っている.なお,今回はあくまで従来の身体障害に対する理学療法として行なっている報告であることを了承していただきたい.

とびら

「あきらめない事,それが大事!」

著者: 山田道廣

ページ範囲:P.439 - P.439

 負けない事 投げ出さない事

 逃げ出さない事 信じぬく事

 だめになりそうな時それが一番大事!


 これは御存じの方もおられると思いますが,昨年流行した“大事MANブラザーズバンド”の『それが大事』という歌の歌詞です.御多聞にもれず我が家の子どもたちも,テレビにかじり付いて大合唱していたのを思い出します.一時期歌謡番組を見る機会が無く,また興味も無かったので,最近の流行している歌を知りませんでした.しかしこの歌だけは一度聞いただけで,歌詞をすらすらと覚えていたような気がします.

入門講座 診療記録・1

理学療法診療記録

著者: 半田健壽

ページ範囲:P.469 - P.475

 Ⅰ初めに

 理学療法士が社会的に責務を果たしている証として,自らの活動を記録することはたいせつである.その記録には出版物を通じた学術活動や協会活動の記録もあるが,絶対量からして診療記録が筆頭に挙げられる.しかし,診療記録は記録者にとって「めんどくさい」,「こんなものいらない」,「読んでもらえない」1)存在にもなりかねないのは,何もコ・メディカルの先輩に当たる看護の世界だけの問題ではない.理学療法白書2)では記録などの実態を報告しているが,1週間に20回以上の診療記録を行なったものはわずか26.4%に過ぎず,これは,仮りに10名の症例を担当している理学療法士の多くが1週間に1症例に付き2回以上は記録していないことを示す.また,記録・報告書作成時間も1週間に3時間以上費やすのは4分の1にすぎない.

 専門職の水準を示す理学療法教育のカリキュラムにも,診療記録について明白な取り上げられ方はされていない2,3)

 絶対的な供給不足のため「金の卵」的存在であった理学療法士も,これからは社会的に直価が問われる.その証明書たる診療記録を,この際根本から考えてみることも必要ではないだろうか.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・7

著者: 牧田光代

ページ範囲:P.476 - P.476

 杖は歩行介助具として最も一般的であり,歩行訓練の手段としてまた生活の場においても頻繁に使われる.しかし杖そのものの作用や握り,支柱の太さ,先端ゴムの働きなどに関する理学療法士側からの報告は少ない.ここでは,歩行介助具としての杖についてT字杖,松葉杖,Lofstland杖を中心に臨床の場で感じたことをふまえて述べてみたい.

講座 物理療法・1

物理療法における評価

著者: 中山彰一

ページ範囲:P.477 - P.482

 Ⅰ初めに

 今日の理学療法の進歩を歴史的に振り返れば,物理療法の存在を決して忘れることはできない.しかし,最近の理学療法においては,運動療法ばかりが注目されすぎるため,物理療法を軽視する風潮があるのは残念でもある.欧米では物理療法は非常に重要視され,論文報告も多い.本邦での物理療法への見直しが急がれる時期であろうと思われる.

 さて各種の物理療法が,生体にどのような反応を与えているのかについては,従来からも各種の評価方法が行なわれてきた.しかし,その効果の機序については未解明の部分も多く,しかも科学の進歩とともに,物理療法機器の改良や新開発の機器の出現もあり生体反応と効果との判定を再検討すべき時期である.

 そして,その生体反応と効果の評価法については,従来と大差無いと思われるが,現在は測定・評価機器も進歩し科学的データ採取がより可能となってきており,今後の解明が望まれよう.しかし,物理療法の評価を語るには,基本的に生体反応を客観的・科学的に捉えることが非常に難しく,再現性・信頼性に問題も多いため,明確にできない点が根本にあるとも言えよう.しかも,われわれ理学療法士には,生体に評価の目的で組織侵襲を与えることが許されないための制限も多いと思われる.故に未熟なる筆者が読者の期待に添うことはできまいが,本稿では,現在の物理療法の評価法についての基本的なまとめとして整理するとともに,下記の評価分類で記することとし,非侵襲的で理学療法士の範疇で測定可能な評価法中心についてのみ言及することとしたことをお許し願いたい.

クリニカル・ヒント

“外へ出る”―H氏への手紙

著者: 石田卓司

ページ範囲:P.483 - P.484

 私はこの間あなたから受け取った手紙の,「一般病院の理学療法士はいま危機にあります」という件が,ずっと気になっています.危機の具体的なありようや,なぜそれが危機的状態とみなされるかを,あなたは十分語っておられませんので,私はその言葉の意味するところを,自分の側に引き付けて考えてみました.そして思いついたことの幾つかを,あなたへの返事としてここへ認めることにします.

 あなたはこの秋の研修会で言っておられたように,病院を職場とする理学療法士として,退院後地域へ帰った大勢の障害者との間に,新しい関係を築かれたのでした.その模様は,のびやかで闊達な地域のサークル活動であるらしいと窺い知れました.その独自な活動を始める際のあなたの構想と,それを維持していく上でのサークルの中のあなたのスタンスが決定的な意味をもったことは疑いえません.ともかく,そうした実りある地域活動体験をもつあなたが発した「理学療法士の危機」説ですから,私としてもそれに対応する理由を真剣に探らなくてはなりませんが,ひとまずここでは「理学療法士の自閉性」という言葉で括っておくことにしましょう.

プログレス

MRSを用いた筋代謝・1

著者: 吉川宏起

ページ範囲:P.485 - P.485

 1.初めに

 NMR(nuclear magnetic resonance)現象を用いた非侵襲的な計測が行なえる技術としてMRI(magnetic resonance imaging)とMRS(magnetic resonance spectroscory)とがある.

 すでに我が国においても約1600台以上のMR装置が稼動していると言われているが,医療施設においてルーチン検査として普及しているのは前者のMRIであって,それも主として中枢神経系疾患を対象とした形態的診断が行なわれている.

 後者のMRSによる機能的診断が臨床の場で広く行なわれていないのが現状であるが,この原因の一つとしてMR装置数やその稼働率が検査の需要に追いつかないことがある.またもう一つの原因は,評価できる説得力のあるMRSのデータを得る技術操作が簡素化されていないことである.すなわち,検査する者によって再現性のあるデータが容易かつ繰り返して得られるまでには至っていないのである.

 本稿ではMRSの測定技術が臨床の場でルーチン検査となるためにぜひとも必要となる技術について,われわれの経験した31Pを対象としたMRSの具体例を挙げながら,今回と次回の2回に分けて述べていくことにする.

我が地域

岡山って知っとるじゃろなぁー?/愛知ってどんなとこか知っとる?

著者: 岡田明人 ,   森本和宏

ページ範囲:P.486 - P.487

 もーも太郎さん桃太郎さん,お腰につけたきび団子…の桃太郎話(桃太郎侍とは違います.)で有名な我が地域“岡山”,まずは郷土自慢から聞いてください.

あんてな

QOLからQOAへ;英国における住宅改造の動き

著者: 野村みどり

ページ範囲:P.488 - P.488

 英国における住宅改造House Adaptationは,住環境によるハンディキャップを緩和するための治療的関わりと捉えられており,そのハンディキャップには,独り暮らしの孤独や不安,福祉施設での自律的でない生活,ストレスフルな病院での透析治療も含まれるなどきわめて広範なものであり,参考になる1)

 筆者は,1992年1~2月,北ロンドン工科大学を拠点に,英国における住宅改造に関する調査研究を実施した.同大学のWillcocks D教授たちは,1980年代初期までは,QOLに注目して老人ホームの研究を行なってきたが,現在では,QOA(Quality of Assurance),すなわち,住宅の質に注目した研究を展開している.また,自治体は,民間住宅や公的住宅の両者を対象に,管理運営部門と検査部門を設けるようになってきていると言われる.QOLという曖昧になりがちな概念から,QOAという具体的内容に基づく住宅整備の動きが始まっている.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1993年度) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 古米幸好 ,   仁熊弘恵 ,   渡辺進 ,   秋田一郎 ,   国安勝司 ,   西本千奈美 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.489 - P.493

印象に残った症例

先天性多発性関節拘縮症児の理学療法の経験

著者: 宮前信彦

ページ範囲:P.495 - P.498

 Ⅰ.初めに

 筆者は脳性麻痺児を主とする小児中枢性疾患を対象に理学療法アプローチを行なってきた.同時に多くの印象に残る整形外科疾患などを経験する機会を得た.

 今回,特に脳性麻痺児との発達の差異という点で印象深かった一症例を経験したので報告する.

 先天性多発性関節拘縮症(Arthrogryposis multiplex congenita.以下,AMCと略.)は1841年Ottoによって報告された.出生時より原因不明の多発性関節拘縮を呈する症候群である.病理学的所見に基づき①神経原性と②筋原性との二つの病型に区別される.治療は,高度な拘縮に対して可動域の拡大を図るのみでなく,早期から家族を含めた専門家とのチームワークの中で移動能力,ADL動作の獲得,そして就学準備など,長期的な展望に立ち社会への自立に向けて,disability,handicappedへの総合的ハビリテーション・アプローチを,行なっていくことがたいせつである.

 君塚は,「本症は機能的予後について悲観的になりやすいが,早期よりの積極的な治療により徐々にではあるが向上が得られ,多くは独歩し普通学級に就学し社会的にも自立してゆける.それだけに長期にわたっての総合的な対応が欠かせられない.」と述べている.新田らは理学療法について「歩行を獲得するためには,体幹の安定と運動性を得るとともに,適切な時期に手術を含め,下肢のアラインメントを整えることが大切である.」と述べている.

 筆者が経験した症例は,上肢,下肢の障害によって,体幹の安定がありながらも,立位歩行という座位レベル以上の機能獲得に至らなかった.

原著

理学療法学科学生の臨床実習成績に関する研究―特に教育評価の妥当性と信頼性について

著者: 宮本省三 ,   阿部敏彦 ,   沖田一彦 ,   板場英行

ページ範囲:P.499 - P.503

 Ⅰ.初めに

 理学療法教育課程における臨床実習は,一定の適性や能力をもった学生に臨床実践を経験させ,それによって学生の行動変容を図るという教育的成果を目指す活動である.したがって,その教育評価は,学生の行動変容の結果である臨床実践能力の向上を提示するものでなければならない.なぜなら,学生の臨床実践能力の向上は臨床実習における教育目標そのものであり,教育評価とは教育目標が達成されているかどうかを確認する営みにほかならないからである1)

 しかし,ここで問われている教育評価や臨床実践能力に関する問題を臨床教育の中心課題として位置づけ,その相互関係を抽象的な概念論でなく具体的で実証性のあるデータ分析によって明らかにしようとした試みはきわめて少ない.

 そこで,今回は,臨床実習指導者から提出された臨床実習報告書の評定点に統計処理を加え,教育評価の妥当性と信頼性を分析するとともに,臨床実習前後の学業成績との関連性を検索し,今後の臨床教育において考慮すべき幾つかの知見を得たので報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.504 - P.505

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.508 - P.508

 初夏の季節になって,緑陰が恋しい頃となりました.本号は,今まであまり取り上げていなかった「精神障害と理学療法」を特集テーマとしました.

 滝野氏,他の「精神障害を有する切断者の理学療法」では,大学病院における20年間のリハビリテーション対象患者のなかから精神障害を合併した下肢切断者13名について,調査と考察が行なわれている.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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