icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻8号

1993年08月発行

雑誌目次

特集 整形外科疾患と理学療法

人工股関節再置換術後の理学療法

著者: 神先秀人 ,   入江清五 ,   河野一郎 ,   山野津幸 ,   笠井隆一 ,   飯田寛和

ページ範囲:P.512 - P.518

 1初めに

 人工股関節置換術(以下,THRと略.)が本邦に導入されて20年以上が経過し,優れた臨床成績を残しているが,長期的にみた場合,生体と人工関節との間に生じるゆるみやソケットの磨耗などといった問題は依然克服されてはいない1~5).京都大学病院においても1970年よりCharnley型THRが施行されてきたが,累積再手術は10年で5%,15年で20%4)と,10年を越えると再手術を要する割合が急激に上昇している.理学療法対象患者においても,人工股関節再置換術,あるいは再々置換術(本稿では,両者をまとめてRevisionと呼ぶ.)患者の割合が,今後増加してくると予想される.そこで,今回,当院でRevisionを受けた症例の術前,術後の経過を追跡調査することにより,理学療法上の問題点,ADL指導上の留意点について検討した.

大腿骨顆部および顆上骨折の臨床成績とその理学療法

著者: 松永義博 ,   木村啓介 ,   高井一志 ,   金山浩基

ページ範囲:P.519 - P.524

 1初めに

 関節周辺骨折の治療において重要なことはまず関節形態を解剖学的に整え,強固に固定することであり,それが後の良好な関節機能を獲得するために第一義的であることは言うまでもない.しかし粉砕骨折では整復に限界があり,また開放骨折などでは創部の状態により一次的に整復固定ができず,皮膚,筋肉などの軟部組織の治療が優先され,長期の創外固定が余儀無くされる場合がある.われわれ理学療法士の使命は可能な限り良好な関節機能を獲得させることであり,そのためには充分に関節構成体の損傷内容を把握すべきであり,かつまたX線写真などの形態学的状態を理解する必要がある.今回は当院にて治療を受けた大腿骨顆部および顆上骨折の症例について関節機能予後を明らかにし,本骨折に対する理学療法の在り方について筆者なりの方え方について述べることにする.

脚長差に対する理学療法

著者: 田中聡

ページ範囲:P.525 - P.530

 1初めに

 近年,脚長差に対する調整法として脚延長術1,2)や装具療法3,4)などが行なわれているが,一般には明らかな脚長差が認められる以外は放置されているようである.これらの治療法は脊椎での側彎による,代償機能では補いきれない跛行による歩容の改善をねらったものから,変形性股関節症に対して除痛や関節修復などを目的としたものまで,その適用範囲は広い.臨床上どの程度の脚長差が歩行に影響を及ぼすかについては,脚長差を代償しうる他の機能がどれだけ残存しているかにかかっており,どの程度の脚長差を治療対象とするかについても一様ではない.そこで,本稿では正常者において脚長差のみが歩行に及ぼす影響,治療法について自験例を交え解説する.

下肢延長術の理学療法―下腿延長を中心に

著者: 髙橋雅人 ,   望月圭一 ,   尾﨑心正 ,   村島隆太郎 ,   草場郁夫 ,   黒川髙秀

ページ範囲:P.531 - P.537

 1初めに

 創外固定は今までの骨接合術の基本を根底から一新し,内固定の限界を大きく飛び越えるものである.Ilizarov1)によって提唱されたDistraction osteogenesisの概念は骨形成を待つのではなく,外部からの働きかけにより積極的に骨形成を促し管理するものである.

 骨折治療から発展したこの創外固定法は,社会的不利を有する軟骨無形成症など小人症の低身長者や,脚長不等者などに脚延長術として応用され,現在では20cm以上の延長までも可能になっている(図1).

 この脚延長術の成否は合併症対策にかかっていると言っても過言ではない.

 延長術の主な合併症は

 ①ピン刺入部の感染

 ②隣接関節拘縮・可動域制限

 ③隣接関節の脱臼・亜脱臼

 ④神経・血管損傷

 ⑤コンパートメント症候群

 ⑥延長中の仮骨早期癒合

 ⑦延長中の変形

 ⑧延長部の癒合不全・骨折

 ⑨ピン・創外固定器の破損

 ⑩ピンのルースニング

 ⑪非荷重による骨萎縮などである2)

 中でも延長量を最終的に制限する因子は仮骨形成能ではなく,軟部組織の過緊張である3)とも言われ,術後の理学療法の可能性が注目されている.

 下腿延長では,膝関節伸展制限,足関節内反尖足,足部凹足変形,大腿延長では膝関節屈曲制限,股関節伸展制限が起こりやすく,延長量が多い場合はそれらの程度も重度である.

 今回,脚延長術の基礎と,延長量が多いため軟部組織の相対的短縮が強く,関節可動域(以下,ROMと略.)制限の出現しやすい四肢短縮型小人症に対する下腿延長術の理学療法を中心に,理学療法プログラムとそれを進める上での留意点とについて述べる.

手の外傷に伴う反射性交感神経性ジストロフィーに対する理学療法

著者: 伊藤義広

ページ範囲:P.538 - P.544

 1初めに

 反射性交感神経性ジストロフィー(以下RSD;Reflex Sympathetic Dystrophy)は1864年にMitchellがアメリカ独立戦争で銃創を受けた兵士を調査した報告の中で“カウザルギア(灼けつくような痛み)”という用語を用いたとされており1),以来同様の症候はいろいろな病名で報告されている1~5)

 RSDは外傷や手術などをきっかけに受傷部以外にまで及ぶ“灼けつくような痛み”を主訴とし,その激烈な疼痛は“ペンチでねじられている”,“万力でグジャッと潰される”などさまざまに表現される.さらに腫脹,発赤,皮膚温の上昇と運動障害などの特徴的症状を合併する.症状が進行するといわゆる肩手症候群の第三期6)のごとく皮膚,軟部組織,骨の萎縮が著明となり硬直した状態になる.本稿では手の外傷や術後に発生したRSDについて症例を供覧しながら,その理学療法についてまとめる.

とびら

実践・行動へ

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.511 - P.511

 土佐の宇佐の一角に,砂浜ならぬ小石だけの浜がある.さして大きな入り江ではないが両側を切り立った崖,背後につづら折りの道を隠した雑木の急斜面に覆われた浜では,波音と小石がぶつかりながら転がる音が,止めどなく響きわたっている.

 「桂浜に龍馬」のように,土佐を象徴する風土もあるのだろう.この箱庭のような風景を思い出す度に幕末から維新にかけて慌ただしく駆け抜けていった人たちの陰影が重なる.

入門講座 診療記録・2

理学療法におけるPOSの構成と実際

著者: 遠藤敏

ページ範囲:P.545 - P.550

 Ⅰ初めに

 POSの診療記録については,今まで大勢の方が述べており,今さら私が述べるまでも無いのであるが,今回筆者にいただいた項目が「理学療法におけるPOSの構成と実際」ということなので,少し重複するところがあるかもしれないがご了承いただきたい.

講座 物理療法・2

物理療法機器の特性と発展性

著者: 吉田正樹

ページ範囲:P.551 - P.554

 Ⅰ初めに

 物理療法は,あらためて言うまでもなく,物理的エネルギーを生体に加えて病気の治療を行なう手段である.人類は古来より熱をはじめとして,電気,音,電磁波など,さまざまな物理的エネルギーを治療のために利用してきた1).しかし,残念ながらその作用機序が明確にされたものは少なく,したがって治療のための最適なエネルギーの選択やエネルギー量の決定には問題点が残っていると言ってよいであろう.

 一方工学技術の発展とともに,物理療法機器は,多くの種類の物理的エネルギーを容易に発生させることができるようになってきている.本稿では,このような技術に支えられている物理療法機器の特徴や特性と,今後の発展性とについて述べる.

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・8

歩行器

著者: 森倉三男

ページ範囲:P.555 - P.555

 歩行器(以下,歩行車も含めてこの呼称を使う.)の形態は種々あり,外国製のものも含めて性能の秀れたものも出てきている.歩行器については,杖のように実用性は無いが,上肢障害が相対的に軽度な,下肢・体幹障害者に対する杖使用前段階の歩行訓練に適応があると言われている.一方歩行器は,広い施設内では有効な歩行補助機器であるが,日本の在宅生活では実用的使用に当たって住環境の問題があり,それほど普及していない現状にある.ここでは在宅高齢障害者が歩行器を活用していくための注意点を述べる.

 在宅で室内移動に使用されることの多いものは①四脚固定型歩行器,②四脚交互型歩行器,③四脚二輪歩行器,④四輪歩行車,⑤三輪歩行車である.基本的な操作として①は持ち上げ操作,②は上肢の交互運動,③④⑤は押す操作が主体となる.

プログレス

MRSを用いた筋代謝・2

著者: 吉川宏起

ページ範囲:P.557 - P.557

 3.ミオパチーのMRS(magnetic resonance spectroscopy)

 解糖系の酵素異常を呈する糖原病やミトコンドリアの呼吸鎖酵素の異常を呈するミトコンドリアミオパチーなどを対象とする31P-MRSの臨床応用が行なわれている.

 図2に糖原病Ⅲ型に分類されるCori病症例の31P-MRSを示す.Cori病はDebrancher酵素すなわちアミロ-1,6-グリコシダーゼ欠損による糖代謝異常が原因で生じる遺伝性疾患(常染色体劣性遺伝)である.エルゴメーターで25W/3分間の下肢運動を負荷した後の31P-MRSでは,健常者においては1,2分後に回復しているPi(無機リン)/PCr(リン酸クレアチン)比の回復が遅延し,健常者と比較しても高値を示している.またPiの左側への偏位が示すPHの低下は健常者と比較して軽度であった.これは酵素欠損のために生じるグリコゲノリシスの解糖系のブロックによるもので,好気性あるいは嫌気性両者の条件下でも運動負荷時に解糖系が十分に働かず,ATP(アデノシン3リン酸)の供給が不十分であることを示している.

我が地域

宮崎を知っちょる?/滋賀県を知っとるけ?

著者: 久保寿子 ,   藤川孝満

ページ範囲:P.558 - P.559

 みなさん,こんにちは!

 今回は,宮崎より県士会の活動状況や観光地の最新情報をお知らせします.

あんてな

障害科学とは

著者: 中村隆一 ,   佐藤徳太郎

ページ範囲:P.560 - P.560

 世界保健機関(WHO)の掲げる「2,000年までにすべての人に健康を」という目標の達成のために「疾病予防と健康増進」というスローガンがあり,また国際障害者年との関連では「障害の発生予防とリハビリテーション」が声高く叫ばれています.加えて国連における「万人のための社会―啓発から行動へ」の実現のためにも,リハビリテーションとノーマライゼーションの理念が重視されています.昨年のわが国の医療法改正では,医療の理念にリハビリテーションが盛り込まれ,乳幼児から高齢者まであらゆる年齢層の人々のリハビリテーションが保健と医療のテーマとなりました.言い換えると,保健と医療,福祉の領域においてリハビリテーションの重要性が改めて認識されているのです.

雑誌レビュー

“Physical Therapy”(1992年版)まとめ

著者: 松田直樹 ,   本川由美子 ,   安藤信一 ,   笹田哲 ,   小池弘子 ,   村永信吾

ページ範囲:P.561 - P.565

 Ⅰ.初めに

 “Physical Therapy”はアメリカ理学療法士協会(APTA)の機関誌であり,1992年で第72巻となり英国理学療法士協会発行の“Physiotherapy”に次いで,理学療法の分野では歴史の深い雑誌である.1992年の構成は学会特別号1冊を含め全13冊で,前年からの継続特集である1号の「小児整形外科Part2」と12号の「Manual Therapy」の二つの特集を掲載している.1992年はこの特集論文を含めて,計77編の論文が掲載されている.特集論文14編以外を筆者の主観に基づき分類すると,運動生理・神経生理関係3編,運動学関係8編,整形外科疾患関係9編,脳血管障害関係2編,呼吸循環器関係4編,義肢装具関係1編,測定評価関係16編,物理療法関係13編,調査関係2編,教育管理関係4編,その他1編となっている.

 “Physical Therapy”の特色は,幾つかの論文の後にはその論文に対する“Commentary”と,さらにそれに対する“Author Response”とが掲載されており,論文に対する客観的な学術的評価を行なっていることである.

 本稿では各分野で筆者が興味をもった文献を幾つか紹介するが,紙面の都合上内容を詳細に掲載することはできないので興味のある文献に関しては原著を読まれたい.

 なお[ ]内は( )が号,その後の数字はページである.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1993年度) 模範解答と解説・Ⅱ―理学療法(2)

著者: 古米幸好 ,   仁熊弘恵 ,   渡辺進 ,   秋田一郎 ,   国安勝司 ,   西本千奈美 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.566 - P.569

学会印象記 第28回日本理学療法士学会

国際性と専門性の意味の深さを痛感

著者: 岡西哲夫

ページ範囲:P.570 - P.571

 第28回日本理学療法学会は神奈川県理学療法士会担当で,5月20日,5月21日の2日間にわたって横浜港に新しく開発された港みらい21地区にある「パシフィコ横浜」で開催された.今回は学会に合わせて世界理学療法連盟(WCPT)理事会が我が国で初めて開催されたこともあり,港の見えるゆったりとした会場は終始,国際感覚豊かで和やかな雰囲気にあふれていた.学会のテーマも「国際的視野に立った理学療法」であり,学会長田口順子先生は基調講演で,これから日本の理学療法士は日本という枠を越え,国際的視野に立って行動し他の国の理学療法士とともに学び地球的規模で技術を提供していく時代に入ったと,その精神的開港を横浜学会を契機として開きたいと述べられた.この言葉は前日のレセプションの場での,奈良協会長から,WCPT学会が1999年日本で開催されることが決まったという報告と重なってとても印象的であった.

発表内容,予想質問への検討は充分に―私の初発表体験記

著者: 真明将

ページ範囲:P.572 - P.573

 国際的な海の玄関として知られる横浜で,第28回日本理学療法士学会が「国際的視野に立った理学療法」というテーマの下,5月20日,21日の2日間にわたって開催されました.

 今学会が開催される国際平和会議場「パシフィコ横浜」は,横浜ベイブリッジや国際港として知られる横浜港が一望でき,今回のテーマにふさわしい壮大なメージを強く感じました.ただでさえ見慣れない風景に浮き足立っている私の前へ,世界理学療法連盟理事8名の姿が見え隠れし,いよいよ始まる初発表への緊張感にいっそう拍車がかかりました.

爽快感・疲労感・寂寥感―私の初発表体験記

著者: 稲村久美子

ページ範囲:P.574 - P.575

 プロローグ

 1992年10月某日,全国学会用の演題抄録原稿用紙を前に思うのでした.<今度の学会は横浜.いいなぁ.横浜.行きたいなあ….>
 演題を出す動機としては,あまりにも不純ではないかと自戒しつつも,“中華街”の誘惑はなかなかに強固なのでした.日頃の自分の不勉強さが身に沁みているならば,おいそれと学会発表などという大胆な行動には結び付かないはずでして…….そんなときに自分の担当患者さんのことが頭に浮かんできたわけです.急性期に非常に重篤な状態で,予後も不良と思われていた患者さんが,一年半かかりながらも目覚ましい回復をみせて,そろそろ自宅退院の準備を進めようか,というところでした.疾患自体今までに経験の無いものでしたし,治療経過の中で私自身,考え悩むことの多かった患者さんであっただけに,自宅への退院は私にとっては感動的ですらありました.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.578 - P.579

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.582 - P.582

 高知では今日で連続5日間雨.今年の梅雨は西日本の広い範囲にわたって集中した雨量を記録しており土砂崩れ,土石流の被害が心配です.本誌が御手元に届くころには真夏の太陽の下,各地で郷土色豊かな夏祭りが行なわれていることでしょう.

 整形外科疾患の理学療法は中枢神経の理学療法に比べて簡単だと軽視する傾向がみられますが,基礎研究に裏打ちされた整形外科の治療技術の進歩は著しく,その治療効果をより高める理学療法が求められていることを認識する必要があります.そこで今月号の特集は,日々の臨床場面で難渋したり慎重な理学療法アプローチを要する整形外科疾患の理学療法を取り上げました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?