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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル27巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

特集 高次脳機能の最近の話題

大脳側性化と脳梁離断症候群

著者: 河村満

ページ範囲:P.586 - P.590

 1初めに

 左右大脳半球の機能分化を大脳側性化(Cerebral lateralization)と言う.言語機能は,右利きでも左利きでもおおむね左大脳半球に偏在していることが失語症の研究から知られている.失行の病巣検討から高次の行為に関する左右大脳半球の機能分化があることも同様に一般的な事実として認められ,右利きでは言語同様左大脳半球に優位性がある.このような古くから知られている大脳の側性化に加えて,最近では視覚性注意機能や視覚構成機能についても機能分化があり,それらの機能が右利きでは右大脳半球に偏在していることが明らかにされつつある.

 脳梁をはじめとする左右対側の大脳半球皮質間を結ぶ交連線維や,一側の大脳半球内の異なる皮質領域間を連絡する連合線維の障害によって生ずる高次大脳機能障害をまとめて離断症候群(Disconnexion syndrome)と呼ぶ.交連線維の障害で起こる症候の機序は言語,行為,視覚性注意・構成機能の大脳側性化を前提に置くことによって初めて理解することができ,逆に交連線維病変例の検討から左右大脳半球の機能分化が確認されることもある.

 ここでは,まず,最大の交連線維である脳梁の病変によって生ずる既知の症候(脳梁症候群)を,脳梁内病変部位別に整理し,それぞれの症候内容を示し,発現機序について述べ,次に大脳側性化に関する新しい話題についてふれる.

半側空間無視の機序

著者: 柏木あさ子

ページ範囲:P.591 - P.597

 1初めに

 半側空間無視(unilateral spatial neglect,Hemispatial neglect;USN)は,損傷された大脳半球の反対側の空間に出現する反応の低下で,感覚障害や運動障害では説明されない.例えば右半球損傷患者に観察される左側に気付かないという現象は,左同名性半盲の患者にもある.しかし半盲の無い患者にもこの現象は起こる.また半盲患者であれば,半盲でない側に刺激が与えられれば問題は解決するのに対し,左USNの患者では,右視野に刺激が与えられてもやはりその右側のほうに反応が偏ってしまう.USNは半盲とは別の現象である.またこのような一側の空間に対する反応の低下は,視覚刺激のみでなく触覚刺激や聴覚刺激などに対してもみられることが知られている.

 USNにおける一側の空間に対する反応の低下には,反応が弱いだけでなく,それに気付きにくいという特徴がある.軽度であれば,気付いていないことを指摘されてすぐに修正できる患者もあるが,重篤な場合は,左側に気付いていないことを認識するのはかなり難しい.

 また一般にUSNとして目だつのは右半球損傷患者にみられる左USNであるが,左半球損傷患者において右USNが出現することも知られている.重篤な失語症患者においてしばしば検出される1).しかし,右半球損傷患者における左USNのほうが,左半球損傷患者における右USNより高頻度に出現し,しかも重篤な場合が多い.空間の一側に気付かないのはどういう水準の現象であるのかという問題とともに,左右半球損傷患者の間に何故こうした非対称性が存在するのかという問題もUSNを理解する上で重要である.

記憶と記憶障害

著者: 数井裕光 ,   田辺敬貴 ,   池田学 ,   小森憲治郎 ,   吉田文

ページ範囲:P.598 - P.605

 1初めに

 近年の記憶研究の隆盛はHM1)というイニシャルで知られている,てんかんの治療のため側頭葉の内側部を面側性に切除された症例の詳細な研究に始まる.彼は新しい記憶を形成できない重篤な健忘症状を呈するが,運動技能の学習はよくでき,保たれている記憶が存在することが示唆された.その後の飛躍的な画像診断法の進歩やヒトとの対比が可能な霊長類の破壊実験の成果などと相俟って,今日,記憶研究は一大トピックとなっている2).ここでは,まず最近の記憶分類ならびに検査方法を概観し,これを純粋健忘症例を通して実践し,最後に痴呆疾患をも対象とした記憶のリハビリテーションの可能性について考えてみる.

前頭葉損傷における運動障害

著者: 森悦朗

ページ範囲:P.606 - P.611

 1前頭葉損傷

 前頭葉は中心溝より前の大脳部分を言い,ヒトでは最も大きな頭葉である.頭葉前頭皮質は細胞構築から通常次の三つの部分,すなわち,1)運動-運動前野(Broadmannの4野,補足運動野を含む6野,および44野),2)後方基底内側部(傍辺縁領域,すなわち前部帯状回24野,嗅覚野25野,および眼窩脳後方部12野),3)前頭前野(9,10,11,12,45,46,47野)に分けられる(図1)1)

 前頭葉,特に運動-運動前野は運動機能と関連深く,その損傷では低次から高次の運動障害が生じる(表1).例えば,運動野の損傷では運動麻痺が生じ,運動前野を含む損傷では高次の運動障害が生じてくる.前頭前野や基底部だけの損傷では目だった運動や行為障害は観察されないが,情動,判断を要する行動など精神面での変化が現れてくることがある.行為,すなわち意味をもった運動あるいは意志が制御している運動はもちろん高次の運動に属するが,これが崩壊している状態である失行は行為障害の中核であり,また行為の遂行の抑制に異常を来していると考えられる障害も近年注目されている2).運動の開始・維持・抑制の障害も高次の運動障害に含まれ,これらは要素的な感覚運動障害あるいは精神症状や他の神経心理症伏によって説明できない.

運動の認知的制御とその可塑性

著者: 嶋啓節 ,   丹治順

ページ範囲:P.612 - P.617

 1初めに

 随意運動が脳の中でどのように形成されるかを説明するため,これまでなされてきた研究を総合すると図1のような単純化された概念図にまとめられる.内的欲求あるいは外界からの刺激に基づく抽象的な運動のアイディアは大脳皮質連合野の広汎な領域に起こると考えられ,それが運動の実行系である運動領野に到達し,最終的に脊髄に運動指令が送られる.

 われわれが行なっている運動はきわめて多彩であり,外界あるいは生体内部の多様な変化に適切に対応して運動の仕方を変えている.この過程は複雑であり,外界と体内からの情報を統合し,記憶情報を組み入れて,それらを運動の企画や構成へとつないでいくプロセスを含んでいる.実はこのプロセスに大脳高次運動野および一次運動野(MI)が閥与しているのである.

とびら

心が動くと,身体が動く

著者: 川面幸男

ページ範囲:P.585 - P.585

 古い本で恐縮ですが,CW Hufelandの「医戒」を読んだときの,ある種の新鮮さは忘れられません.私のようにこの分野の教育を,まともに受けていない理学療法士としては至極当然のことですが,その中に貫かれている「他ノ為ニ生ジテ己レノ為ニセズ」という医療者の姿勢や,患者の人権を上下関係でみるのではなく平等対等の関係とし,患者の権利を主張している点は,現在にも充分通用する内容です.リハビリテーションとは「権利」を守ることだとすれば,今また,「医戒」を振り返る価値があると思うわけです.

入門講座 診療記録・3

報告書の書き方

著者: 西村敦

ページ範囲:P.619 - P.624

 Ⅰ初めに

 理学療法士の臨床業務は,医師の処方をはじめとする多くの専門家の情報を収集することと,多くの専門家へ理学療法の情報を提供することから成り立っている.関連職が一同に会して行なわれるカンファレンスなどは,その情報交換の典型である.その他,処方箋とそれに対する返答である初期(評価)報告,治療途中での経過報告,理学療法終了時の最終報告,そしてまた緊急時の口頭でのやり取りなど,理学療法過程のそれぞれの時期に実に多くの情報交換(図1)が行なわれている.情報交換の形式はさまざまあるが,口頭でのやり取りに終わらせずに文書のやり取りとしてその記録が残ることが肝要である.

 理学療法診療記録が患者中心の理学療法を展開する上で不可欠なように,さまざまな情報交換が他の医療サービスと調和の取れた理学療法サービスを提供する上で欠かすことができない.その情報交換の記録が種々の報告書類であり,報告書の内容を見れば実施した理学療法の概略がわかる.さらに忘れてはならないことは,書いたものは他の専門家の目にいつでもふれ,文書そのものの良し悪しが理学療法に対する評価につながる可能性が少なからずあることである.一般企業の組織人同様に,日常の報告文書により他から評価されていることを考えると,理学療法士の仕事を適正に評価してもらうためにも日常の報告文書はおろそかには扱えない.

 本稿では,理学療法の日常業務の中より,理学療法の過程に関わる報告書について,その種類,それぞれに記すべき内容,そして書くことの意義,書く上での留意点などの解説を行ない,報告書の書き方への参考に供したい.

講座 物理療法・3

超音波療法

著者: 木村貞治

ページ範囲:P.625 - P.631

 Ⅰ初めに

 理学療法の基本的な治療体系は,運動療法,物理療法,水治療法の三要素から構成される.しかし,現在の我が国の理学療法の治療体系は,運動療法がそのほとんどを占め,物理療法や水治療法の比率はきわめて低い傾向にあるのが実情である.そして,このことは例年の日本理学療法士学会における物理療法,水治療法に関する演題数の少なさからも容易に判断できる.

 このような現象の要因としては,①物理療法,水治療法を実施する時間が無い,②物理療法,水治療法を実施する場所・予算が無い,③保険点数上,理学療法士ができるだけ多く「複雑」の治療に当たり,物理療法や水治療法などの「簡単」は,理学療法助手が実施する傾向が強い,④物理療法,水治療法の臨床効果に関する科学的な研究が少ない,⑤疼痛や筋スパズムの客観的な評価が困難である,などの理由が挙げられよう.

 しかし,理学療法の対象患者の大多数がかかえる主要な問題点の中に,疼痛や筋スパズムが存在する現状から考えると,運動療法だけを単独に実施するよりも,症状に応じて,適宜,物理療法や水治療法を組み合わせた包括的な理学療法アプローチを実施したほうがより効果的な相乗効果が得られるものと思われる.そして,そのためには,物理療法で用いられる刺激が生体に及ほす生理学的な影響を科学的に分析するとともに,臨床場面における効果判定を系統的に実施し,症状の原因,部位,発症からの経過期間,心理的特性などの条件に応じた特理療法や水治療法の具体的な意志決定フローチャートを整理していくことが重要な課題となる.

 本稿では,超音波療法の基礎および臨床応用につい

1ページ講座 リハビリテーション機器の紹介・9

環境制御機器

著者: 神沢信行

ページ範囲:P.632 - P.632

 1.初めに

 近年の救急救命医療の進歩により,生命の危機は脱することができても,重度四肢麻痺の後遺症を残す障害者も少なくない.このような障害者では,移動のみならず日常の身の回り動作のほとんどに介助を要するため,本人ばかりでなくその介護に当たる家族の精神的,身体的な負担は,量り知れないものがある.このような双方の負担を少しでも軽減する目的で,残存するわずかな能力を有効に利用して日常の身の回り動作を行なえるようにするために環境制御装置(Environmental Control System;ECS)は開発された.最初に開発されたのは1960年代初めの英国で,日本では清瀬に最初のリハビリテーション学院が開設されたころである.日本で環境制御装置の本格的な研究が始まったのは,1977年の「リハビリテーションUSA」が開催された後である.その後,環境制御装置研究連絡協議会を中心に検討が重ねられ,その実用化・普及を目指し,現在では数種類の環境制御装置が市販されている.

学会印象記 第30回日本リハビリテーション医学会学術集会

最新の動向・知識をキャッチ―これをどう教えるか

著者: 久家直巳

ページ範囲:P.633 - P.634

 第30回日本リハビリテーション医学会学術集会は,「障害発生予防と機能回復医学」というテーマで,1993年5月20日から22日まで仙台国際センターで行なわれた.初日から初夏を思わせるような陽気に恵まれ,青葉山の新緑や広瀬川の流れが眩しいほどであった.

 今回の学術集会は第30回という節目に当たり,記念行事を含めた盛大な会であった.全体の構成は,30回記念式典,記念講演,会長講演に加え,特別講演2題,シンポジウム2題,パネルディスカッション3題,ポスターセッション85題ビデオセッション6題,一般演題455題,研修セミナー8題から成っていた.

プログレス

脊髄疾患のmicrosurgeryの進歩

著者: 岩崎喜信

ページ範囲:P.635 - P.635

 1.初めに

 microsurgeryとは手術顕微鏡下に,細かい操作をより安全に行なうことを目的としている.したがって拡大した術野での操作を円滑に行なうためには,種々のマイクロサージカルテクニック(以下,単にマイクロと略.)を修得できるように,外科医としての研修中から十分に訓練しておかなくてはならない.

 周知のごとく脊髄は直径9~10mm程度の細長い組織にもかかわらず,脳と同じく中枢神経系に属するため,再生能力が無く,一度損傷を受けると,損傷により発現した神経症状の改善は非常に困難である.このため脊髄自体はもとより脊髄神経根の手術操作を肉眼的に行なうことは非常に危険であり,手術顕微鏡の使用は手術を成功させるためには必須の条件と言える.

我が地域

知っとお?福岡/三重って知っとる?

著者: 橋元隆 ,   大橋直安

ページ範囲:P.636 - P.637

 ちょっと不思議なことから紹介しましょう.JRを利用して福岡に来たことのある方はお気付きになったと思いますが,実はJRの在来線,新幹線とも北九州市と福岡市には市名の付いた駅がありません.新幹線で北九州は小倉駅,福岡は博多駅です(在来線で南福岡駅はある.)これには幾つかの理由がありますが,要は土地柄,地元のこだわりのあらわれです.“山笠があるけん博多たい”.決して福岡ラーメンとは言いませんし,博多ラーメンです.きのうまで西鉄だ,西武だと熱狂していたプロ野球ファンが“せっかくダイエーホークスが福岡(博多ではない)にフランチャイズをおいとるとやけ,応援しちゃろや”となってしまう.ここらに理屈抜きでちょっと物事にこだわり,義理人情にあつく,のぼせで,必要以上に面倒見のいい県民性が理解できるのでは.それが博多山笠の勇壮さであり,小倉祇園太鼓の小気味良さであり,豚骨ラーメンのコクであり,辛しメンタイの味深さなのです.福岡に来て魚を食べてみんね,魚が活きとうと!ふぐ最高!水炊き(鳥)結構!もつ鍋,今や全国区,食べたことあると?

あんてな

第28回全国研修会の企画

著者: 髙橋寛

ページ範囲:P.638 - P.638

 1.初めに

 第28回全国研修会のテーマは「理学療法の課題と展望」です.理学療法の各分野において,その理論・技術に多様性が求められている現在,われわれ理学療法士がさまざまな課題に対し,明確な展望をもつことが必要です.その展望について多角的に考えていける場にしたいと考えています.

特別インタビュウ

世界理学療法連盟会長AJ Fernando教授に聞く

著者: ,   奈良勲

ページ範囲:P.639 - P.643

 奈良 Fernando会長,ようこそ日本にいらっしゃいました.日本訪問は初めてとのことですが,心から歓迎します.

 今回の訪日の第一の目的は,様浜で世界理学療法連盟(World Confederation of Physical Therapy;WCPT)の理事会が開催されること,そして第二の目的として,その機会を利用して,第28回日本理学療法士学会で講演されることですね.

雑誌レビュー

“Physiotherapy”(1992年版)まとめ

著者: 山崎俊明

ページ範囲:P.644 - P.647

 Ⅰ.初めに

 専門雑誌“Physiotherapy”は,英国理学療法士協会が発行する月刊誌で,1992年度版(Vol 78)の総論文数は,Professional Articlesおよび特集論文を合わせて69編であった.その内訳を,雑誌記載の論文分類に従いまとめたものが表1である.2号には特集として,呼吸ケアに関する論文が8編掲載されていた.

 分野別では、物理療法10編,呼吸理学療法10編運動学習・理学療法10編,スポーツ・整形関連9編,測定・評価7編,業務・管理8編,教育6編,装具・用具考案5編,その他4編であった.分野は多岐にわたっており,重複する内容もあるため明確な分類は難しいが,ここでは便宜上前記の分野別分類に従い,論文の要旨をなるべく多く紹介する.

 なお,文中の[( ) ]内数字は,( )内が掲載号数,それに続く数字がページ数を示す.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1993年度) 模範解答と解説・Ⅲ―理学療法(3)

著者: 古米幸好 ,   仁熊弘恵 ,   渡辺進 ,   秋田一郎 ,   国安勝司 ,   西本千奈美 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.648 - P.650

ひろば

一人の人間として……

著者: 工藤一郎

ページ範囲:P.651 - P.651

 よく晴れた寒い土曜日の午後,メンタル訓練として,近くの神社まで散歩に出掛けた.神社の中では子どもたちが遊び,子犬が吠(ほ)え,そして患者さんたちは歌った.空は抜けるように青い.珍しい風景ではないかもしれないが,日々訓練室の中で訓練に追われている自分にとっては,新鮮な,何か懐かしい感じがした.

 初め不平不満を言っていた患者も,ニコニコしている.

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文献抄録

ページ範囲:P.652 - P.653

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.656 - P.656

 この数年間で世界は大きく変化しました.金権政治,腐敗政治と評価された日本の政治にも変化を求める声が高まる中で,与党の自滅という形で総選挙を迎えました.今後の社会を占う歴史的な7月18日であったはずなのに,最低の投票率であったところに国民の無責任さを感じたりもしましたが,結果,連立新政権が誕生することになりました.基本政策は保守基盤であり,東欧諸国のように大きな変化ではありませんが,日本国民も“変化”を求めたのは事実のようです.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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