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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル28巻1号

1994年01月発行

文献概要

特集 理学療法研究の取り組み

基礎理学療法学研究の現況と展望

著者: 藤原孝之1

所属機関: 1信州大学医療技術短期大学部理学療法学科

ページ範囲:P.10 - P.14

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 Ⅰ.初めに

 理学療法の基礎研究に言及するためには,理学療法自体の歴史的背景を考察しておかなければならない.

 幾多の戦争・産業革命の後遺症に対する社会的必要性から治療技術が優先して発展してきたこの分野は,最近になってその理論的背景の乏しさに理学療法士自身が気付き始めた.

 例えば,いわゆる「ファシリテーションテクニック」と呼ばれているものの中で,患者に与える治療の強度,期間,方法,評価法,適応などが整理され,その効果が科学的に実証されているものがあるだろうか.医師が臨床で患者に処方する薬物は,その開発のために気の遠くなるような年月と莫大な開発費とを費やして基礎・臨床試験を繰り返し,成分分析,薬効,適応,禁忌,副作用,注意事項などについて検討された後に初めて使用されるのである.それでも事故が起こり,そのたびに社会問題として取り上げられていることは周知の事実である.

 理学療法士が日常の臨床で使用している多くの手技の中には,過去の研究結果を理論的根拠にして,治療の妥当性を説明するものがある.しかしここで注意しなくてはならないことが幾つか挙げられる.

 その一つは,根拠となっている研究がどんな目的で計画・実施されたかである.研究の目的や意図は,その研究者がそれを実証することによって主張したい内容に独創性を有するものになる.したがって,研究が発表された以後にその結果を引用しようとする者は,結果の一部,換言すれば自分に都合のいい部分だけを切り取って,治療法の原理に言及するようなことは,厳に慎まなければならない.先行研究はあくまでも補則的説明の一つに過ぎないのである.

 二つ目は結果の信憑性についてである.自然科学を志すものであればだれしも,基本的に守らなければならない態度と立場もいうものがある.それは事実に対する謙虚さと厳格さである.結果を歪曲して公表する者はいないと信じているが,研究者自身の意図とは別な次元で,図らずも事実が正確に表現されていなかったり,一部が公表されていなかったために重大な誤解を招く結果になってしまった研究を少なからず見かけてきた.

 研究方法の発達により,過去には実証できなかった部分が明らかになり,結果として結論を翻すことを余儀無くされる場合も多々ある.後の追試によって訂正される機会のあった研究はまだ幸いである.

 したがって,われわれが先行研究に対して守らなければならない態度は,

 ①その結論が容易に追試できる正確な方法によって為されたものであるか否か(再現性),

 ②研究の状況から判断して関連研究の結果と大きな矛盾が無いか(普遍性),

 ③仮説を説明する上で結果と考察との間に飛躍が無いか(妥当性),

 などである.

 理学療法の基礎研究は,以上の条件を満たし,なおかつ先駆性,独創性が求められるものであり,広く学際領域に跨がる理解と協力が必要となってくる.さらに,臨床技術の背景的研究と今後の展望を予測する方向性も要求される.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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