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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル28巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

特集 脊髄損傷者の社会参加とQOLの向上

脊髄損傷者の社会参加と理学療法―イギリスの場合

著者: 新藤信子

ページ範囲:P.656 - P.660

 Ⅰ.障害者と意識されていない脊髄損傷者

 私が初めてイギリスの脊髄損傷者に接したのは1966年の7月,厚生省から派遣され,Stoke Mandeville病院で脊髄損傷患者のスペシャリストの資格を得るための講習を受けに留学したときだった.1967年11月,講習会終了後帰国し,日本の国立箱根療養所で1年半日本の脊髄損傷患者のリハビリテーションに携わった後,再度渡英し,それからかれこれ4分の1世紀にわたって彼らの理学療法士として,あるいは友だち,同僚,隣人として,また彼らを私の師として接してきた.したがって,私は彼らを“障害者”として意識しなくなってから久しくなる.

 今回,表題のような原稿の依頼で「イギリスの脊髄損傷者の社会参加,就労状況」についての資料は無いものかといろいろ調べてみたが,どこにもそれに関する統計も,研究も無いことがわかった.やっと得た情報は,“10年ほど前にどこかの国のドクターが作った統計があったが,それはホステルにいる患者をも就労していることにしているでたらめなものだった.”ということだった.

脊髄損傷者の社会参加と理学療法―我が国の場合

著者: 髙橋寛 ,   大川裕行 ,   指宿立

ページ範囲:P.661 - P.666

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーションの定義は「リハビリテーションとは,障害を受けた者を彼のなしうる最大の身体的,精神的,社会的,職業的,経済的な能力を有するまでに回復させることである.」と,全人格的な復権を謳い上げている.

 1981年に始まった国際障害者の10年は,障害者自身の意識の変化と,社会の障害者に対する態度に大きな変化とを与えたことは確かである.障害者の社会参加に対する行政の施策も整いつつある.このような時機に,その国のリハビリテーションのレベルを表わすと言われる脊髄損傷者・頸髄損傷者の就労や社会参加の状況を改めて見直す本企画は,時節を得たものと考える.

 まず,「社会参加」の「社会」を広辞苑で引いてみると「①相よって生活する一群の人民,②世の中,世間,③societyの訳としてさまざまな多くの集団の相互作用と総和からなる全体的社会」とある.ここで言う「社会参加」とは「societyの中での脊髄損傷者・頸髄損傷者の社会関係の在り方」を考えている.

脊髄損傷者のADL訓練と社会参加

著者: 平上二九三

ページ範囲:P.667 - P.673

 Ⅰ.初めに

 第4頸髄損傷者(以下,C4)の金子氏は,チンコントロールのリクライニング式電動車いすで渡米し,その体験から「欧米の脊髄損傷者は,日本のようにアクセス(交通機関,建物,街の構造)の問題を心配することなく,自由に出掛けることができる.」と述べている1)

 ところが我が国の公共交通は,ほんの一部の都市で車いすリフト付きバスが走っている程度で,電車もプラットホームまで階段の障壁がある.したがって,これらを性急に利用することはできない.一方,日本式家屋の生活様式は,洋式構造に比べて車いす生活に向いていないのは明らかである.玄関,廊下,トイレ,浴室,敷居,畳,襖など段差や仕切りが多く,狭い.このため生活動作は,必然的に垂直な移動を強いられ,特にトイレや浴室の改造を余儀無くされる.

 本稿はこのような生活環境を十分考慮し,慢性期の脊髄損傷者におけるADL評価と訓練の工夫や在り方について述べる.また社会的自立や社会参加に視点を置いた脊髄損傷者の理学療法について,臨床現場に通じた基本的な考えを模索してみる.

脊髄損傷者におけるQOL向上のためのアプローチ

著者: 酒井ひとみ

ページ範囲:P.674 - P.679

 Ⅰ.初めに

 ここ数年の間(特に我が国において)に,リハビリテーション医学界でもQOLという言葉が有形無形に飛び交っている.

 しかし,そもそもリハビリテーションという概念は,QOLの落とし子とも言えるものであり1),いまさら,何故QOLなのかと疑問をもってしまうのは私だけだろうか.

 QOLという言葉の起源は明確ではないが,1964年,当時のアメリカの大統領であったLyndon B Johnsonが演説の中で用いたのを受けて,社会的な政策や保健医療でも多用されるようになった.しかし,各分野で,QOLの定義や指針・評価法などの研究はされているが,研究者間でのQOL概念の正確でコンセンサスの得られる定義および意味内容は未だみられていない2).これらの原因として考えられるのは,QOLを総括的に観ていないこと3),同じ疾患であってもQOLは相対的・個別的なものであること4),がQOLの規定を困難にしていると言えよう.

 借越ながら私なりのQOLの概念を整理すると,少なくとも保健医療の分野においては,さまざまなQOLの考え方を包括するものとして,上田3)のQOLの構造は理解しやすい.全体としてのQOLは,大きく主観的QOLと客観的QOLとに分けられ,客観的QOLはさらに①生物レベルのQOL(生命の質),②個人レベルのQOL(生活の質),③社会レベルのQOL(人生の質)の三つに分けられる.この①,②,③は相互に規定し合っている.次に,QOLの概念に当たるものとして,砂原1)は,自立生活(IL)の理念と結び付けている.この特徴は,重度障害者に焦点を合わせること,障害者のself determinationを重んじること,self careより社会における役割行動を重んじること,精神的依存からの脱却を図ること,個別的・相対的であることである.さらに,障害者のQOLを量的に健常者の何十%として捉えるだけではなく,自ら進んで健常者の場合とは質的に異なったQOLを発見するための努力がリハビリテーション過程であると述べており,既成概念の枠に無理に当てはめない考え方に共感できる.

 本稿では,先に挙げたQOLの構造と概念に照らし合わせながら実践してきた脊髄損傷者のQOL向上に対するアプローチを整理してみる.

頸髄損傷者の社会参加の現状と課題

著者: 今西正義

ページ範囲:P.680 - P.681

 1.初めに

 頸髄損傷者の発生はここ十数年の間に急増し,障害も重度化してきている.その背景としては産業構造の変化と余暇の求め方が多様になり事故の可能性が高くなってきたこと,それとともに医療技術の進歩に伴い,今まで助かることの難しいとされてきた高い障害部位の人たちの救命が進んだことなどが理由であろう.厚生省では1991年に「障害者実態調査」を行なった.そのなかで頸髄損傷者(脊髄損傷で四肢麻痺)が全国に約2.9万人いることが初めて明かにされた.しかし頸髄損傷者の多くがどのような状況の中で,どのような生活をしているのか,その生活実態は明かではない.ちょうど,同じ時期に全国頸髄損傷者連絡会が「頸髄損傷者の生活実態調査」を行なった.今回,「頸髄損傷者の社会参加の現状と課題」を書くに当たり,この調査結果と私自身の体験を交え検証を行なうこととした.

 私自身,28年前に海で飛び込みをしていて海面下の岩に頭を打ち,頸髄の5・6番を損傷した.現在,電動車いすを使用して(社)東京コロニー・トーコロ情報処理センターに13年間勤務している.

社会参加とQOL

著者: 吉岡俊幸

ページ範囲:P.682 - P.683

 毎朝,父親が起床介護のため部屋に入って来る足音を,醒めきらない頭の片隅で聴きながら,「また一日が始まるんだ.」と感じるようになったのは最近のことではない.

 三十代半ばを越え,顕著に疲労回復の困難さを感じるようになり,今後,何年くらい今の生活を続けていけるのだろうか,との不安も時折頭を過ぎる.かといって体力作りのために何をするわけでもなく,なるべく先のことは考えないようにして,漠然と毎日を送ることだけで精一杯の生活に,満足とも言い難いが,大きな不満も感じてはいない.

「やりたいことはいっぱいあるんです.」

著者: 坂本留吉

ページ範囲:P.684 - P.685

 「突然,動けなくなった」

 夕食後,トイレに行ったんですが急に腰から下の力が抜けてしまって,しゃがんだまま立ち上がれなくなった.痛くって声も出せないから,あんまり遅いのでどうしたのかと家内が見に来るまでそのままじっとしていた.見付けてくれて,引っ張ってもらって出ようとしても腰が抜けたというのか力が入らないし,背中の,鳩尾の裏側の所が痛いばかりだった.1993年の4月3日のできごとで,入院は4月5日.診断は胸椎10番の圧迫骨折と,7,8,9番の骨髄腫の疑い,すぐ手術ですよ.

とびら

臨床雑感

著者: 大城壽雄

ページ範囲:P.655 - P.655

 1994年,診療報酬改定が行なわれたが,老人リハビリテーション関係では,(超)早期リハビリテーション,退院時指導料と在宅リハビリテーションの点数が伸びている.点数の伸びは小幅であっても,確実に伸びてはいるし在宅訪問の回数制限が緩和されている(2回から3回).早期リハビリテーションと介護・在宅重視ということに関して,理学療法士の立場から私見を述べたい.

1ページ講座 生理学的診断・10

肺機能検査・2 肺胞機能検査

著者: 渡邉修 ,   大橋正洋

ページ範囲:P.686 - P.686

 肺胞から酸素を摂取し,組織で産生した二酸化炭素を排出するという呼吸の本質的機能は,前回述べたように,①換気,②肺循環,③換気血流比,④拡散の四つの過程から成り立っている.この一連の生理的機構は,動脈血ガス組成を正常に保つための仕組みということができる.したがって動脈血ガス分析は,呼吸状態を評価する直接的な検査と言える.

 肺胞機能とは,上記四つの過程のうちに,主に③換気血流比(VA/Q)と④拡散をさす.肺胞領域におけるガス交換は,その場の換気と血流との比率が適合することによって初めて正常に行ないえる.何らかの原因で肺胞毛細血管の血流が停止するとその肺胞はガス交換に与らなくなり死腔となる.また肺胞領域でのガス交換は,肺胞壁,毛細管膜を通じての単なる拡散によって行なわれる.拡散障害があると,肺胞気と終末肺毛細血管血の酸素分圧が平衡に達成しないことを意味する,したがって,以上の③,④の過程は,肺胞の実質,間質を冒す疾患(肺炎,肺気腫,無気肺,間質性肺炎,肺水腫,悪性腫瘍など)で傷害されることになる.それでは以上の病態が,動脈血ガス分析の中で,どのように評価されるのかみていく.

入門講座 器具を用いた運動療法・4

慢性閉塞性肺疾患患者の器具を使用した呼吸訓練と呼吸筋訓練

著者: 山田拓実 ,   中山孝 ,   額谷一夫 ,   黒川幸雄 ,   小松優子

ページ範囲:P.687 - P.694

 Ⅰ.初めに

 呼吸訓練や呼吸筋訓練を行なう際,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の肺および呼吸筋の病態生理をよく理解した上で,より有効な訓練方法を考えていく必要がある.呼吸筋は換気運動のジェネレーターであり,呼吸仕事量は圧量曲線(P-V曲線)の面積で表される.ゆえに呼吸訓練には圧力と流のコントロールが必要であり,そのための訓練器具もいろいろ市販されている.

 本稿ではCOPD患者の呼吸訓練や呼吸筋訓練と,それらに使用されている器具の特徴について述べる.

講座 行動科学・4

行動科学の学際領域

著者: 筒井和義 ,   臼井真理子 ,   坂田省吾

ページ範囲:P.695 - P.698

 Ⅰ.初めに

 「行動や精神活動の基本原理の理解」の解明こそ,現代の行動科学に与えられた最重要課題である.

 前回の講座では,脳研究の最近の進歩を紹介し,「行動や精神活動の基本原理の理解」には,巧妙な情報処理装置として働く脳の機能を具体化する必要性を述べた.脳の高度な情報処理機能は神経細胞が構築するネットワーク,すなわち神経回路網の働きで営まれるが,同時にこの神経回略網は脳や末梢内分泌器官の細胞が生み出す物質的環境下に存在している.したがって,「行動や精神活動の基本原理の理解」には,個体レベルの反応である行動の観察のほかに,神経細胞の集合体である神経回路網のシステム的解析や神経細胞の機能の物質的解析が必要であり,既成学問との境界領域を含めた総合的探求が要求される(図1).本講座では,行動を研究する分野が科学として開拓されてから,どのような学際領域を包含して発展を遂げ,将来如何なる方向へ進もうとしているのかを紹介する.

クリニカル・ヒント

高齢頸髄損傷患者の損傷レベル別ADL能力―若年頸髄損傷患者との比較から

著者: 谷内幸喜

ページ範囲:P.699 - P.700

 1.初めに

 頸髄損傷患者のADL能力は損傷レベルによって大きく変化し,それによって将来のADL能力もほぼ推測される.つまり,運動機能レベルがADL能力を大きく左右しているようにみえるが,実際には自律神経機能障害や痙性の程度が個々に違い,関節拘縮・褥瘡の有無,また,年齢的な因子も将来のADL能力に大きく影響していると思われる.当院における頸髄損傷者もほとんどが高齢者(60歳以上)であり,運動機能レベルに合ったADL獲得が困難な場合も少なくない.そこで今回は,高齢頸髄損傷者の運動機能レベルにおける一般的なADL能力を調べてみた.

 運動機能レベルは,Zancolliの分類を用いた.また,ADL能力は,身のまわりの動作能力として,食事動作・更衣動作・排泄動作の三項目,床上動作能力として寝返り動作・起き上がり動作・床上移動動作の三項目,移乗動作能力として,車いす→ベッド・ベッド→車いすの二項目,車いす駆動能力として,スピード性・操作性の2項目の計10項目を,2点・1点・0点の三段階の得点方式にして20点満点での得点で表わした(表1).

プログレス

難聴に対する人工内耳・1

著者: 舩坂宗太郎

ページ範囲:P.701 - P.701

 1.初めに

 補聴器を使っても音声による会話ができない聾者や高度難聴者の苦痛は予想以上に大きく,多くの患者は一度は自殺を考えたと述べている.人工内耳はこのような聴覚障害の補助装置で,100dB以上の高度難聴者や聾者が対象である.ただし,人工内耳は内耳の機能を十分には代行できないので,人工内耳装用者は正常聴力ではない.じかし実用会話は可能となる.この点をふまえて,まず言語の認識について述べる.

理学療法草創期の証言

頸髄損傷者小田急線でデパートへ買い物に

著者: 新藤信子

ページ範囲:P.702 - P.702

 1967年11月,私が1年4か月の英国留学から帰国したころの国立箱根療養所の頸髄損傷の患者はベッドに寝たきりで,辛うじて呼吸をすることと口に入れられた柔らかい食物を飲み下すのが精一杯であった.胸・腰髄損傷の下半身麻痺者でも,褥瘡があって何年も寝たきりの患者や,20年以上も入院を続けている患者も多く,車いすに起きている患者は数えるほどだった.(当時,英国の頸髄損傷者は,自分で車いすを移動し,自動車を運転して職場に行き,健康人と同じ職場で働いている時代だというのに…….)

 理学療法士としての私は,医局員を除いた他の職員と患者から,“アメリカ帰りの女”・“イギリスかぶれの女”と冷たい目でみられ,ことごとく反発され,圧迫された.けれども決してくじけはしなかった.療養所で一人の目の不自由な理学療法助手と私とでまずやったことは,頸髄損傷者をベッドから起こすことだった.それをみた療養所の職員は,看護婦も含めて,私が患者を殺すだろうと期待していたほどだった.

盲の欠格条項撤廃運動

著者: 松澤正

ページ範囲:P.703 - P.703

 昭和30年代欧米においては医学的リハビリテーションがきわめて普遍的かつ総合的に行なわれ,人間尊重と社会開発という面で大きな成果を上げていた.

 我が国の厚生省では1960年に医療制度調査会を発足させ,3年間の審議を経て,1963年に「医療制度全般についての改善の基本方策」を答申した.その中で特に注目すべきこととして「現在制度化されていない医療関係者」の項において,リハビリテーションに関する医療関係者について次のような提案がされた.「医療の目的は,単に疾病を治療するだけでなく,患者の機能回復訓練,職能訓練等社会復帰に至るまでの指導をも包含するものであり,リハビリテーションの重要性がとみに高まっている」として,「リハビリテーションに従事する専門職種として,職能療法士,理学療法士,言語療法士,難聴訓練士,弱視訓練士等があるが,これらの者については,教育,業務内容の確立等その制度化を早急に図る必要がある.」としていた.

あんてな

大阪府福祉のまちづくり条例

著者: 高橋恒夫

ページ範囲:P.704 - P.704

 1.はじめに

 大阪府では,昭和57年に「福祉の街づくり整備指針」を策定し,府有施設の整備改善を図るほか,府内の市町村や民間事業者に対する指導を行ない,福祉のまちづくりを進めてきました.

 しかし,法的拘束力のない指導基準であることと,財政的支援の裏付けを欠いていたことから,今ひとつ実効が上がってこなかったのが実情でした.

雑誌レビュー

“Physiotherapy Canada”(1993年版)まとめ

著者: 八並光信 ,   遠藤敏 ,   上迫道代 ,   寺門早苗 ,   大木修子

ページ範囲:P.705 - P.709

 Ⅰ.初めに

 われわれは,さまざまなメディアから流れる情報を日々取捨選択している.理学療法に関する情報量も,10年前と比べると飛躍的に多くなっている.

 ジャーナルの出版量も増して,『理学療法と作業療法』・『総合リハビリテーション』・『リハビリテーション医学』・“Archives of Physical Medicine and Rehabilitation”などを読んでいた学生時代と異なり,現在は『理学療法ジャーナル』・『理学療法』・『臨床リハビリテーション』・『地域リハビリテーション』その他,各学会誌などがある.また,それぞれ紙面構成に工夫がなされており,欧米のジャーナルと比べても,質的に遜色の無いレベルまで到達しているものと考える.

 今回,われわれは“Physiotherapy Canada”を読む機会を与えられ,読者の立場からジャーナルについて考えた後,“Physiotherapy Canada”,の紹介を行ないたい.

資料

第28回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1994年度) 模範解答と解説・Ⅳ―理学療法・作業療法共通問題(1)

著者: 坂江清弘 ,   森本典夫 ,   吉田義弘 ,   前田哲男 ,   吉元洋一 ,   大重匡 ,   佐々木順一 ,   高江玲子 ,   山口尚美

ページ範囲:P.710 - P.712

印象に残った症例

weaningに難渋した慢性呼吸不全患者への呼吸理学療法

著者: 垣内秀雅

ページ範囲:P.713 - P.716

 Ⅰ.初めに

 近年,呼吸理学療法(Chest Physical Therapy;以下,CPTと略.)は慢性呼吸不全患者の増加に伴い,その必要性が叫ばれてきた.そして内科的にも外科的にも,さまざまな呼吸理学療法の適応と限界についてまとめられている1,2).CPTが適応とみなされた患者の中には重症であり,人工呼吸器の装着を余儀無くされるものも多くみられる.「呼吸」はヒトが生きていくために必要不可欠なことであり,これを損なうことは恐怖である.そして呼吸のできない患者の精神的な不安は量り知れないものがある.

 今回われわれは,長期間の人工呼吸器装着となった患者のweaningにCPTを行ない,自発呼吸を回復することの困難さと,その症例を通して筆者なりにCPTの方向性を見いだすことができたので報告する.

学会印象記 第31回日本リハビリテーション医学会学術集会

科学的理論に裏付けされたリハビリテーション医療の展開へ

著者: 星文彦

ページ範囲:P.718 - P.719

 第31回日本リハビリテーション医学会学術集会は,1994年6月28日から30日まで3日間千葉市の幕張メッセ(日本コンベンションセンター)で開催された.会長は千野直一先生(慶応義塾大学医学部リハビリテーション科)で,テーマは「リハビリテーション医学;その輝ける未来」と題し,21世紀の高齢化社会に向けて,科学的なリハビリテーション医学の模索が試みられた.企画内容は,一般演題のほか,特別講演2題,会長講演,シンポジウム2題,パネルディスカッション4題,ワークショップ2題,研修セミナー,IRMAレクチャー,ポストコンブレスと盛り沢山の内容であった.ここでは,次の2点に絞って印象を述べ,さらにわれわれ理学療法士にとって今後考えていかなければならない事柄について,今学会で受けた印象から述べたいと思う.一つは,リハビリテーション医学の研究の動向についてと,今学会で主眼が置かれていると思われる脳卒中患者の機能評価についてである.

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文献抄録

ページ範囲:P.720 - P.721

編集後記

著者: 松村秩

ページ範囲:P.724 - P.724

 脊髄損傷者の社会参加とQOLの向上について特集した.イギリスの場合を新藤氏にお願いした.幾つかの相違点と日本の後進性が明らかにされた.

 まず第一に,イギリス社会では,もはや脊髄損傷者を特に障害者としてカテゴリ化しなくなり,脊髄損傷者の統計は社会的には無意味になった点である.そして彼らの社会参加はその意志に従って,原則自由となった.それだけリハビリテーションにおける実効性そのものが,セラピストと障害者にとって重要になっている.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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