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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル28巻5号

1994年05月発行

雑誌目次

特集 治療を目的とした装具と運動療法

治療を目的とした装具の現状と課題

著者: 高岡徹 ,   佐鹿博信

ページ範囲:P.294 - P.299

 Ⅰ.初めに

 リハビリテーション医療において装具療法は,理学療法や作業療法などと並んで必要かつ有力な治療の一つである.したがって表1に示したような装具の目的1~3)や適応,実際の訓練過程での調整法などは,リハビリテーション医療に携わる者にとって必須の知識である.しかし,治療を目的とした装具の利用は,担当する治療者によってさまざまで,意見が異なる場合も少なくない4)

 装具は支給区分により治療用装具と更生用装具とに分けられる.治療用装具は各種医療保険(短期給付)による支給で,医学的治療の完了する前に使用するもの,または純粋に治療手段の一つとして使用するもので,疾患の発生に引き続く病院での早期治療において使用するものと考えられる.一方,更生用装具は身体障害者福祉法を中心とした社会福祉(長期給付)による支給で,概念上は医学的治療が終わり,変形または機能障害が固定した後に(つまり障害者であるという認定条件が必要)ADLなどの向上のために,日常的に使用するものである.装具作製に当たっては,これら法制度の基本的理解が不可欠である.(現行の法制度の問題点も指摘されているが,今回はふれない5).)しかし実際にはこの二つを厳密に分けることは困難であり,むしろ治療目的の無い装具はほとんど無い.今回は治療用装具の種類と目的を中心にして,リハビリテーションにおける「治療用」装具を考えていきたい.

片麻痺に対する「治療用」装具と運動療法

著者: 大竹朗 ,   佐竹将宏 ,   石神重信

ページ範囲:P.300 - P.305

 Ⅰ.初めに

 脳卒中片麻痺患者の治療の中に装具療法の占める割合は大きいが,リハビリテーション医療の中で装具療法に対する考え方は未だ統一されていないのが現状である.装具の目的や適応を理解していても処方時期に関しては,「運動療法で身体機能が改善できるのでは」という期待や「最終的に必要となる装具が見付からない」などの理由から明確になっていない.しかし,片麻痺の早期リハビリテーションでは,患者の障害は変化するものである.治療期間に制限のある現医療の中で,障害に適した装具を利用し運動療法を行なうことにより,治療効果を早く引き出せるならば,処方の決断の意義も大きくなると言える.

 われわれは,脳卒中片麻痺患者の早期理学療法に移動・移乗能力を改善させトータルケアの向上を目標に,装具を積極的に利用してきた.

 特に長下肢装具は,患者の身体機能の変化に合わせて膝継手や足継手などを積極的に調節してアライメント調整を行なうことで「治療用」装具として用いてきた経験から,装具療法と運動療法について考えてみたい.

変形性関節症に対する「治療用」装具と運動療法―変形性膝関節症を中心に

著者: 入谷誠 ,   山嵜勉 ,   内田俊彦 ,   黒木良克 ,   森雄二郎

ページ範囲:P.306 - P.311

 Ⅰ.初めに

 変形性関節症は非炎症性で,進行性に可動関節,特に荷重関節を侵す疾患で,病理学的に関節軟骨の変性,摩耗による荒廃と軟骨および関節縁の骨新生,つまり摩耗相と増殖相とが混在しているところに特徴がある.本疾患は,原疾患の無い一次性関節症と軟骨変性を起こす何らかの原疾患があって発症する二次性関節症とに分類される.一次性関節症は関節軟骨の老化に内在している退行変性を主因として発症する関節の変化であり,長年にわたる機械的損傷の蓄積と相まって,関節の破壊変形が生じて臨床症状を呈するようになるもので,荷重位での力学的またはバイオメカニカルな影響を受けていることは察することができる.

 一次性関節症を認められる関節は50~60歳代では膝(80%),肘(70%),第一中足趾節関節(60%),股(50%),肩(10%),胸鎖関節(10%)の順で,そのほか母指の手根中手関節,手指の遠位指節関節なども発生しやすい.そこで本稿では変形性関節症の中でも最も頻度の高い変形性膝関節症に着目し,その変形および疼痛の発生・増悪機序について述べ,またその機序を基に1987年以来変形性膝関節症の保存療法として臨床応用しているわれわれの足底挿板を紹介し,装具と運動療法の考え方,その作用機序について述べることとする.

膝前十字靱帯再建術後の訓練プロトコールと膝装具

著者: 畠中拓哉

ページ範囲:P.312 - P.318

 Ⅰ.初めに

 競技復帰をゴールとするアスレチックリハビリテーションの目的は,関節可動域,筋力,持久力,敏捷性などの個々の身体機能を十分に改善させ,スポーツパフォーマンスを向上させることである.

 この章では,膝前十字靱帯(以下,ACLと略.)再建術後のリハビリテーションプロトコールにおける膝装具の課題について解説する.

拘縮に対する「治療用」装具と運動療法

著者: 岡西哲夫

ページ範囲:P.319 - P.324

 Ⅰ.初めに

 関節拘縮は常日ごろ理学療法の対象として,経験する頻度の高い病態である.古くから関節可動域(以下,ROMと略.)訓練が行なわれ,一般に自動運動,他動運動,および他動的伸張運動などの方法を有効,かっ適切に行なうことが重要であると言われている.しかし,症例によってはその治療に難渋するものもあり,適切な治療を行なわなければ,新たな拘縮を作ってしまうことになる.「拘縮に対する効果的な治療」,それは古くて新しいテーマと言える.

 さて,理学療法においてはその成因,病態,治療1)などをよく把握し,まず拘縮を作らないことが目的にある.一つに筋のリラクセーションが重要であるが,筆者はこれまでに,術後早期に行なわれるCPM(Continuous Passive Motion)が最も目的にかなった方法であることを筋電図学的に分析した2).一方,拘縮移行期および拘縮期においては拘縮に陥った筋や結合組織に対して疼痛を引き起こすこと無く伸張を加え,ROMを改善する目的がある.しかるに,従来行なってきた徒手や砂袋などによる他動的伸張運動はつねに疼痛を伴う.患者は恐怖感を抱いたり,一方では「苦痛を我慢すれば良くなるだろう.」と思い違いする場合もある.いずれにしても,翌日にはせっかく獲得したROMが元に戻ってしまう症例が多く,中には拘縮を助長してしまう症例もある.したがって治療効果がなかなかあがらないことを経験する.この時期においては獲得したROMが戻らないように,もっと治療内容を検討して,例えば訓練時間を長くしたり,訓練の頻度を多くするべきではなかろうか,この点では運動療法のみでは限界がある.ここに装具を治療用として使用する意義があるものと考える.

 そこで今回は関節拘縮に対する「治療用」装具の意義と効果や,運動療法との関連について,筆者が経験した肘関節拘縮に対する装具治療3)を例にして検討する.さらにその基礎となる結合組織に関して,文献的考察を加えて解説する.

とびら

姿勢保持

著者: 大津慶子

ページ範囲:P.293 - P.293

 「最近は,左の股関節がカクッカクッと音がするんですよね.背骨も曲がってきて,くねくねっとしてきてるんです.」筋萎縮性側索硬化症と10か月ほど前に診断されたSさんの奥さんは,手すりとダイニングテーブルを伝いながら,いちばん奥のいつもの定席に腰を下ろした.

 脳卒中の後遺症の右片麻痺と着衣失行など高次脳機能障害をもつSさんの自宅を訪問したときのことである.Sさんの半年間のグループ指導を終えて今後のことを相談するための訪問だが,進行性の疾患の奥さんの話が中心になりがちとなった.TH大学病院に週1回通院しながら,先のことは考えずに,今を精一杯生きるように言われていると話す奥さんは,夫の代わりに自営業のやりくりを続けているが,それもいつまで続けられるかわからない.高校を卒業した息子さんも,両親の介護などで,仕事ももてない状態である.深刻な状況になるのは必至である.

入門講座 介護方法論・5

排泄―動作から行為,そして意志ある活動へ理学療法士だからできること

著者: 高口光子

ページ範囲:P.325 - P.329

 Ⅰ.初めに

 自分の担当として関わっている老人に“おもらし”がある場合,「排泄の自立」か「排泄介護の確立」を目標とする理学療法士は多いと考える.

 “失禁”を運動機能障害改善による社会復帰の阻害因子として位置付け,その患者を簡単に対象外とすることなど現場ではありえない.むしろ,“失禁”そのものに前向きに取り組む理学療法士のほうが今は妥当性が高いと言える.

 すでに多くの文献・事例検討により“おもらし”“失禁”への対応策は網罹された感じがあるものの,好まざるおむつを付けられた寝たきり老人は相変わらず各施設・病院で見受けられる.

 自分が担当理学療法士として“排泄障害”の場面に登場するときは,以下の事柄を整理し仕事として参加している.

 ①排泄障害の背景にある疾患について

 ②排泄障害と失禁のタイプについて

 ③排泄動作の確認

 ④物的環境の整備

 ⑤人的環境の整備

 ⑥日常生活動作(似下,ADLと略.)と排泄障害との関連

 今回はこれらのポイントを知識・情報として紹介するのではなく,どのように読み取り実践していくかということをまとめてみたい.

学会印象記

第28回全国研修会/第52回日本公衆衛生学会

著者: 永富史子 ,   小嶋裕

ページ範囲:P.330 - P.330

 第28回全国研修会は,1993年10月7,8日,大分市において,国内外の多彩な講師を招き開催されました.

 第一日目,特別講演1は,「世界の徒手療法の課題と展望」のテーマで,Hippocratesに始まるマニュアルセラピーの歴史と現況が語られました.これを受け,特別講演Ⅱは,「従手療法の実際」のテーマで,マニュアルセラピーの理論と実際が示されました.シンポジウム「アジアの理学療法の課題と展望」では,台湾・韓国・タイ・マレーシア・インドネシアからそれぞれの国の教育,理学療法士を取り巻く社会的な問題が提示されました.中には任意団体であるために,日本以上に名称・業務独占が確立していない国もあり,同じアジアの国でありながら,知らないことばかりで興味深く聴きました.

第1回物理療法研究会/第9回日本義肢装具学会学術集会総会

著者: 北目茂 ,   大峯三郎

ページ範囲:P.350 - P.350

 1993年10月30日(土),31日(日),東京都立医療技術短期大学講堂にて,第1回物理療法研究会と物理療法セミナーが開催された.初日の物理療法研究会開催日はあいにくの雨模様の中,約150名近くの北は青森,西は長崎・熊本からの参加者が見受けられ,この会に対する期待と向学心が感じられた.

 まず柳沢健会長より,物理療法を再考する必要性と現状で行なわれている経験的な物理療法を科学的側面とで捉えるべく本研究会を開催された経過が述べられ,時間を惜しむ如く特別講演の東海大学医学部助教授石田暉先生による「疼痛に対する物理療法」が始まった.痛みに対しPhysical Medicine & Rehabilitationでは,Physical Medicine=PMまたはMedical Rehabilitation=MRで対応する二つの方法があったこと,痛みの病態を十分理解し(物理療法を)使い分けなければならないことを指摘され,講議は進む.痛みの定義から原因・種類・治療へとわかりやすく講義されて,学生時代に戻ったような,むしろ学生時代より真剣に取り組もうとする態度が私の中に生じていた.

講座 動作分析・5

在宅生活における高齢者の動作分析

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.331 - P.336

 Ⅰ.初めに

 高齢化社会の急速な進展で,高齢者人口や高齢化率の急増といった人口学的な問題とともに,人生80年時代の新しいライフスタイルの構築が求められている.世論調査結果1)から高齢期の生活でたいせつなことの第一位に「健康であること」が挙げられている.また高齢期の生活における不安については「自分や配偶者が寝たきりなどになること」を同じく第一位としており,健康維持に対する希求と不安とが表裏一体として示されている.

 しかしながら,今後,後期高齢者が増加することが予想されているなか,病弱・虚弱な高齢者が多くなることを考えると,一病息災の考えの下,障害をもった高齢者が在宅でより健康な生活が送れるための支援体制や地域リハビリテーション活動の取り組みが進められなければならない.

 こうした考えの下,本講では在宅高齢者の生活を視野に入れ,ADLを中心に在宅生活における高齢者の動作分析の基本的な考え方を述べてみたい.

1ページ講座 生理学的診断・5

心電図・1 基本的事項:正常心電図

著者: 吉村浩

ページ範囲:P.337 - P.337

 心電図とは,体表面より心臓の電気現象を記録したものである.正常の心臓の電気的興奮は,図1の如く,自動能をもつ洞結節①の興奮(1分間60~100回)が心房②に伝わり,心房興奮となり,(心電図上のP波)房室結節③(ヨーロッパでは“田原の結節”と記載され,病理学者田原淳(1873~1952)の業績である.)を通り,His束④を経て,右心室に向かう右脚⑤,左心室に向かう左脚⑥(左脚は,臨床的に,左脚前枝,後枝に分けられる.)に分かれ,Purkinje線維⑦(心室内面を網のように覆う.)を通り,心室⑧に伝わる.心室の電気的興奮が,心電図上のQRS波である.上記③~⑦は,心電図上では興奮として記録されず,基線のままである.

 心電図記録は,ことわりが無ければ,1秒間25mmの速度で記録され,各棘波の高さ(電位)は1cmが1mVである.図2に正常心電図を示す.各棘波は,順にP,Q,R,S,T波と呼ばれる.Q,R,S波は,まとめてQRS波と言い(Qは下向き,Rは上向き,Sは下向きの興奮),心室興奮(右心室と左心室の興奮の始まりから終わり)を表し,その幅(心室興奮時間)は,0.06~0.08秒である.PQ時間(P波の始まりからQ波の始まりまで)は,前述の如く,房室伝導時間を表し,0.16~0.20秒である.T波は心臓の再分極過程を表し,QRS波の向きと,通常一致する.

Topics

スウェーデンにおける自立生活運動STILの取り組み

著者: 野村みどり

ページ範囲:P.338 - P.338

 福祉サービスを障害者主体のものに変革することは,今後,日本においても重要課題である.ここでは,スウェーデン王立工科大学(筆者は,1992年2~3月短期研究で在籍)に籍をおく研究者で,STIL(ストックホルム自立生活協同組合)の議長でもあるAdolf D Ratzka,Ph D氏にうかがったSTILの取り組みを紹介する.

プログレス

慢性疲労症候群の診断基準と治療

著者: 松本美富士

ページ範囲:P.339 - P.339

 慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome;CFS)は激しい疲労を主徴とする疾患で,本邦でも多数の症例が報告されてきている.CFSの扱いが本邦ではマスコミ先行の経過をとったため,医療側,患者側ともに少なからず混乱がみられている.CFSを医療スタッフの一員として,正しく認識することは重要である.

 CFSは新たに発生した疾患でなく,18世紀中ごろにすでに激しい疲労を主徴とする病態の記載があり,現在のCFSに一致する病態である.その後,同様の病態に対しさまざまな病名で呼ばれてきたが,再び注目されるようになったのは1984年米国ネバダ州にて激しい疲労を主徴とする患者の集団発生があり,ウイルス感染との関連で調査されたことによる.1987年米国防疫センター(CDC)はこのような病態の定義設定を行ない,CFSという名称,診断基準案が提出された.本邦厚生省調査研究班も診断基準を設定している(表1).

理学療法草創期の証言

ポリオ大発生後の理学療法士誕生

著者: 大場武

ページ範囲:P.340 - P.340

 1965年理学療法士及び作業療法士法が制定され,この身分法確立の初期から関わった年代の1人として,私は地域性,小児施設の分野から当時のさまざまを思い起こしてみたい.

 ・ポリオ後遺症を通して

 北海道では1949年の500人を最高に,毎年100人前後のポリオが発生していた.しかし1960年,患者総数1602人,死亡者127人(北海道衛生部調べ)と爆発的なポリオの発生があった.御存じのようにポリオは弛緩性の麻痺を後遺症として残す.したがってその回復期の適切な治療訓練のたいせつさは申すまでも無い.

理学療法草創期の想い出―主として国家試験について

著者: 杉本一夫

ページ範囲:P.341 - P.341

 昭和30年代後半から40年代前半は日本の理学療法にとっては“明治維新”であったとも言える.我が国の理学療法は明治20年代から病院勤務のマッサージ師により支えられ,整形外科後療法として発展してきたが,1965年「理学療法士及び作業療法士法」が施行されたので,全国の理学療法従事者の混乱が起こった.理学療法士になるためには高校卒業後,3年間の養成課程を経て国家試験に合格にしなければならないが,経過措置として現に理学療法業務に従事している人は法施行後5年間は国家試験を受験できる道が講じられた.当時正規の養成機関は清瀬のリハビリテーション学院しかなく,公の受験資格取得講習会は整肢療護園と国立身体障害者リハビリテーションセンターで行なわれるだけだったが,病院理学療法従事者の全国組織である全国病院理学療法協会(以下,病理協と略.)の猛烈な政治運動で受験対策は活発になり,各都道府県単位に受益者負担による厚生大臣指定講習会が相次いで行なわれた.当時の理学療法従事者の知識レベルは格差が大きく,労災病院,厚生年金病院,整肢療護園,東京大学病院,大阪大学病院,鹿教湯病院などに勤務する人々は,良き指導者に恵まれ,臨床経験も深くレベルが高いので,国家試験の合格率も一般病院勤務者より高かった.

あんてな

第31回日本リハビリテーション医学会学術集会の企画

著者: 千野直一

ページ範囲:P.342 - P.342

 学術集会開催に当たって

 第31回日本リハビリテーション医学会学術集会は,私どもの教室でお世話させていただくことになりました.1994年6月28日~30日の3日間の会期で,幕張メッセ(日本コンベンションセンター)にて開催の予定です.

 本学会は発足より30年を経て,会員数も8500名を越えました.医師のほか学術的経験の豊富な理学療法士・作業療法士の諸氏にも会員となっていただいております.本学術集会では,会員以外のコメディカルの方々にも多勢御参加くださることを期待し,研修の価値の高い内容を企画致しました.臨床電気生理学的評価や高次脳機能評価,神経筋の基礎医学などのより専門的な分野の討論から,地域医療システムや障害者住宅,介護機器などの実践的内容までを幅広く包括したプログラムとなっています.

 本学術集会のテーマは“リハビリテーション医学―その輝ける未来”と題し,21世紀の高齢化社会に向けて,科学的なリハビリテーション医学を目指す予定です.

印象に残った症例

モヤモヤ病による両側片麻痺陳旧例の理学療法

著者: 藤田智香子 ,   吉村茂和

ページ範囲:P.343 - P.346

 Ⅰ.初めに

 Willis動脈輪閉塞症(モヤモヤ病)は特有の脳血管撮影像を呈す脳血管疾患の一つである.筆者はモヤモヤ病と診断された後,結婚・出産し,その後の血行再建術後に両側の片麻痺を併発して約2年間の入院生活後,3年半ほぼ寝たきり状態で在宅生活を送っていた症例の理学療法を担当した.この症例は,両側の片麻痺を併発後6年以上経過し,そのうち3年半ほぼ寝たきり状態の期間があったにもかかわらず,集中的なリハビリテーションの結果,起き上がり・介助歩行が可能となり,立ち上がりの介助量が軽減した.

 発症後期間が経っていたり,重度な障害をもつ症例の理学療法効果に関してはつい否定的になり,セラピスト自身で症例の能力の限界を作ってしまう場合があるが,この症例はそんなセラピストの先入観を払拭する貴重な経験を与えてくれたので紹介する.

症例報告

SRCウォーカーにより自発移動が活発になった重度脳性麻痺児の一例

著者: 坂上昇 ,   相良研 ,   千代丸信一 ,   繁成剛

ページ範囲:P.347 - P.349

 Ⅰ.初めに

 近年,脳性麻痺児は障害の重度化,または重症化傾向を示すということは広く認識されている.彼らは長期間にわたって臥位レベルにとどまり,自発的運動は乏しく,座位の獲得さえ困難な場合が多い.まして,立位レベルの運動機能の獲得はほぼ不可能である.そのため変形や拘縮,心身の不活性などさまざまな二次的な問題を招来する危険も高い.

 そこで当センターでは,臥位レベルの重度脳性麻痺児に対して,立位での自発的な移動を引き出し,精神活動を高める目的で移動補助具を開発し,SRC(Sogo Ryoiku Centerの略)ウォーカーと呼称し活用している.今回,このSRCウォーカーを適用することで,移動可能となり運動機能面にも変化が認められた重度アテトーゼ型脳性麻痺児の1例を報告する.

短報

股関節外転筋力低下に及ぼす加齢と股関節症の影響に対する一考察

著者: 坂本年将 ,   三枝康宏

ページ範囲:P.351 - P.352

 Ⅰ.初めに

 変形性股関節症患者における股関節外転筋力の低下が,患者の機能障害を引き起こすことはよく知られており,変形性股関節症患者の股関節外転筋力に関する報告は数多い1~4),しかし,加齢とともに進行する変形性股関節症において,股関節外転筋力低下に及ぼす加齢と股関節症のおのおのの影響については,包括的な検討がなされていない.そのため,年齢,股関節症の進行度を考慮した股関節外転筋力の評価や,股関節外転筋力低下の予後を予測した上での治療の実施が困難となる.

 今回われわれは,股関節外転筋力の低下に及ぼす加齢と股関節症の影響について若干の知見を得たので報告する.

論説

海外協力活動の組織的推進を

著者: 久野研二

ページ範囲:P.353 - P.353

 青年海外協力隊の理学療法士としてマレーシアに赴任して以来,多くのことを学び,考えています.その一つは,日本の海外に対する技術協力において現在までに質的な向上がどれだけあったのかということです.医学が,臨床や研究の蓄積と学会などでの検討とにより,広く現場に還元されることを繰り返して進歩してきたように,海外技術協力もこのような形で向上されていくのではないでしょうか.

 私の任地には諸外国のボランティアがおり,彼らの母国には海外技術協力の現場に対する組織的な情報による積極的援助形態があり,日本より一歩先んじています.例を挙げますと,イギリスにはAHRTAGという途上国への医療協力を目的として1977年に設立された情報センターがあります.AHRTAGはInstitute of child healthという途上国のCBR(Community Based Rehabilitation)ワーカーの養成コースを有するロンドン大学附属機関との協同で「CBR NEWS」の発行などを行なっています.現場の活動,経験,問題そして情報などのさまざまな“枝”が「CBR NEWS」という“幹”によって一つとなり,検討され,現場に還元されています.マレーシアにおいてもMalaysian Careという民間の情報センターがあり,CBRワーカーの養成や「Partner」という情報誌の発行などを行なっています.マレーシアの福祉関係者には周知の団体で,各枝々をつなぐ幹の役割を十分に果たしています.

クリニカル・ヒント

ギプス装着後のシャワー浴の工夫

著者: 神戸晃男 ,   山田俊昭 ,   神戸敏子 ,   佐々木弘之

ページ範囲:P.355 - P.356

 1.初めに

 筆者は昨年の夏,毎年恒例の職員ソフトボール大会に出場したとき右腓腹筋の肉ばなれを起こしてしまい,その治療に右大腿から足部にかけて膝伸展位で1週間ギプスをまく羽目となった.

 最初,肉ばなれは数日で良くなると思っていたが,主治医によると3週間安静が必要で,ギプスを巻いたほうが早く治り,痛みが軽減するとのことなのでギプスを巻いてもらうことにした.歩行時,少し体重をかけて痛かった右足が,ギプスをしてからは,さほど痛みが無く,何とか歩けるので喜んで帰宅した.しかし自宅では,ギプスを巻く前,何不自由無く行なっていたトイレ動作やシャワー浴などの日常生活が何と不自由になってしまうのかとつくづく体験した.

 たまたま,自宅のトイレは洋式であり,食事もいすに腰掛けて行なっていたので何とかできた.しかし,シャワー浴はギプス内側に大腿から水が入るので使用することはできず,夏でむし暑くどうしようかと自分自身思案していたとき,妻が自宅に普段備えてあるごみ袋やサランラップなどを使用して問題無くシャワー浴をできるようにしてくれた.これは,妻がたまたま看護婦であり,それですぐ対応できたのであるが,この方法は,妻のオリジナルであり,私自身,体験を通して次のように,さらに少し工夫してみた.

ひろば

セルフケアの試練/布施と恩

著者: 奈良勲 ,   伊東清仁

ページ範囲:P.354 - P.354

 私は,1993年4月1日付けで広島大学に異動したが,妻はステンドグラスの修行を続けたいとの意向で金沢に残り,予想もしなかった単身赴任の身に陥り1か月あまりが経過した.

 人間が社会生活を営む条件として,衣・食・住がある.しかし,単身赴任となった男の立場で三つの生活条件を体験すると,何よりも食を満たすことがいかにたいへんであるかをしみじみと感じている.

ひろば/学生から

“心の旅”を通してリハビリテーションを考える/韓国理学療法学生との交流を通して

著者: 萩原新八郎 ,   山内茂寛

ページ範囲:P.357 - P.357

 映画の場面に病院や医師・看護婦が出てくることは珍しくない.最近,理学療法士とその活動場面を描写した稀な米映画を観た.邦題は「心の旅」で,原題は‘Regarding Henry’である.物語は,主人公であるHenryの闘病生活から社会復帰までを描いたものであり,ここに筋書きを簡単に紹介する.

 辣腕弁護士の彼はいわゆる“仕事人間”で,家族をほとんどかえりみない.ある日,強盗にピストルで撃たれ,瀕死の重症を負う.主人公は奇蹟的に命をとりとめるが,頭部外傷の後遺症として運動麻痺や記憶喪失が残る.昏睡から目覚めた直後は眼前にいる妻子や同僚の顔さえも思い出せない.やがて容体は徐々に安定し,転院したリハビリテーションセンターで本格的な社会復帰の訓練が始まる.見舞いに訪れた家族は,事故後の主人公が自分の好き嫌いはもとより,人格も温かみのある人間に変わってしまったことに気付く.

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文献抄録

ページ範囲:P.358 - P.359

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.362 - P.362

 昨年の冷夏によるコメの凶作やウルグアイ・ラウンド交渉の部分開放に端を発したコメ騒動をよそに,高知では3月下旬から田植えが始まり,黙々と作業する老人の後ろ姿には豊作と21世紀を見据えた抜本的な農業行政を願う熱いものを感じます.

 さて,今月号の特集は「治療を目的とした装具と運動療法」です.装具は使用目的によって機能代償的なものと治療的なものとに大きく分けられますが,これまで理学療法場面においては「治療用」装具の概念が十分確立しているとは言い難く,装具を治療的視点で再考することになればと企画しました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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