報告
機能訓練事業における心理的アプローチの試み
著者:
佐々木和人
,
渡辺彰
,
水井尚子
,
中村恵
,
米田光宏
,
横尾一晃
,
鹿島由樹
,
鈴木英二
ページ範囲:P.419 - P.422
Ⅰ.初めに
理学療法士は,1983年に老人保健法が施行されて以来,機能訓練事業において,障害者に関わることが多くなった1).しかし,理学療法士の教育過程に,地域リハビリテーションに関する教育が少ないこともあり,法施行以来の年月は「試行錯誤の数年」と言える2).われわれも,埼玉県の二十余の機能訓練事業の調査を行なったが,身体的なアプローチが中心の事業が多かった.身体的なアプローチは,病院の理学療法的なものとも考えられ,保健婦などの他職種から「理学療法士は,機能訓練事業で病院理学療法的なことを行ない,困る」という非難の声を耳にすることもある.一方,機能訓練事業に通所するケース(以下,通所ケースと略.)は,事業の名称から受ける印象から,身体的なアプローチを期待して通所することが多く,理学療法士が,両者の板挟みに苦しむことも多い.
われわれは,第25回日本理学療法士学会において,通所ケースが,七里病院に通院する患者に比べ,「この手を動くようにして欲しい」とか「もっと歩けるようになりたい」などの身体的欲求に固執しているケースが多いことを発表し,機能訓練事業では,「通ってきている人たちと一緒にいるのが楽しい」「いろいろな経験ができて役にたつ」などの単なる身体的な欲求よりも,Maslowの言う高い欲求に転換させるプログラムの必要性を提唱した3).
そこで今回このような転換をさせるプログラムとして,身体的なアプローチを避け,心理的アプローチを中心に2年間行ない,良い結果を得たので報告する.
心理的アプローチとは,最近,神経心理学的アプローチ,認知リハビリテーション4~9)として,多く発表がされている.
今回われわれは,社会適応に重点を置いたグループでの認知訓練を中心に行なった.