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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル28巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

特集 障害予防

リハビリテーション医学における障害予防の視点

著者: 佐藤徳太郎 ,   渡辺裕志 ,   保嶋実

ページ範囲:P.366 - P.371

 Ⅰ.初めに

 障害の多様化,重複化およびその増加は近年著しく,障害予防が重要となっている.アメリカ政府は障害予防に関する委員会を設置し,1991年に報告書を発行している1).本邦でも,「障害発生予防」が第30回日本リハビリテーション医学会学術集会のメインテーマの中に取り上げられ,シンポジウムのタイトルとしても採用された2)

 本稿においては,障害の発生過程やその予防方策について概説する.

「障害予防」と理学療法士の課題

著者: 伊藤日出男

ページ範囲:P.372 - P.377

 Ⅰ.初めに

 1994年5月27,28日,青森市において第29回日本理学療法士学会が「障害予防と理学療法」というテーマで開催される.プログラムには一般演題のほか,弘前大学医学部福田道隆教授による特別講演と二つのシンポジウムが予定されている.初日のシンポジウムⅠにおいては,「理学療法と障害予防」というテーマで,6人の理学療法士による報告を基に討議が行なわれる.2日目のシンポジウムⅡでは,高齢者問題に焦点を合わせて「地域社会と障害予防」というテーマで,厚生省,町行政,医療機関,一般住民の立場から4人の講師による発表が行なわれる.このシンポジウムⅡは,学会長の基調報告を含めて一般公開とし,幅広く討議するように企画されている.

 この「障害予防」というテーマの提案者であった筆者は,諸外国における地域基盤リハビリテーション(Community Based Rehabilitation;CBR)は,障害予防(disability prevention)の概念と深い関連があり,両者が不可分な関係として論じられていることに注目していた.また第29回日本リハビリテーション医学会学術集会(1992年,神戸)における外国人講師の特別講演,それに昨年横浜で行なわれた第28回日本理学療法士学会における発展途上国の理学療法士と青年海外協力隊員によるシンポジウムを聴講し,大きな感動を覚えるとともにこのテーマの重要性がますます強く認識されるようになった.

 言うまでもなく,障害予防は理学療法士にとっては重要な業務の一つである.しかしながら日本においては何故かこれまで正面きって論じられたことが無く,廃用症候群の予防という限られた意味合いでしか取り上げられてこなかったように思われる.筆者の調べた範囲では,過去の日本理学療法士学会や全国研修会においてこれまで「障害予防」についてシンポジウムなどで取り上げられたことは無く,また一般演題の中で障害予防という語を含むテーマの発表はわずか1題しかなかった1)

 このような実情をふまえて,本論ではまず「障害」の概念を明らかにし,次いで1981年に世界保健機関(WHO)の専門委員会から刊行されている報告書2)を中心に,「障害予防」の用語の定義と概念について紹介する.さらに日本の現状から高齢者問題に的を絞り,「寝たきり予防」対策として理学療法士の果たすべき役割について私見を述べる.

 前もって本論で使用する言葉の意味を規定しておきたい.ここで言う「障害」とは,主として身体機能障害を対象とし精神障害についてはふれない.また「予防」については,プライマリーヘルスケアの領域で使用される「予防」(第一次予防,第二次予防など)との混乱を避けるため,第一段階,第二段階の予防という語を使用する.

理学療法と体力低下予防―その低下機序と対処方策の考え方

著者: 山田純生

ページ範囲:P.378 - P.382

 Ⅰ.初めに

 従来,理学療法は神経・筋・骨格系の疾患の病後の回復に適応されてきた.そこでは,疾患により生じる障害を如何に軽減するかが最大の関心事であり,体力(注:本稿では体力を有酸素運動能力として捉える.)に関する問題は疾患により直接引き起こされる障害ではないだけに,これまでは重要視されてこなかった感がある.

 しかしながら,われわれがサービスを提供する疾患は多くの場合慢性疾患であり,その意味では急性期から慢性期までの種々の時相における障害に対処することが必要となる.体力に関する障害は慢性期における理学療法の主要な問題として取り上げられるべきと思うが,現在のところ,理学療法を提供する場所が病院に偏りがちであることもあり,十分な研究が進んでいるとは言い難い.

 このような現状を踏まえ,本稿では体力維持・増進を目的とする運動療法の意義ならびにその方策の基本的考え方について論じ,今後のこの分野の具体的運動療法プログラムの基礎的知識を提供したい.

理学療法と運動器系の障害予防―脳卒中片麻痺患者の筋萎縮に焦点を絞って

著者: 山田道廣

ページ範囲:P.383 - P.390

 Ⅰ.初めに

 1993年に仙台で行なわれた第30回日本リハビリテーション医学会シンポジウムで,障害発生予防とリハビリテーションと題する学術集会が行なわれた.中村隆一学会長の会長講演の中で,今後のリハビリテーション医療は健康増進・疾病予防・障害予防の三つの目的を達成するための手段となるべきであると述べられている.そして現在のリハビリテーション医療で用いられている種々の技術と手技が,健康増進・疾病および障害の予防・そしてリハビリテーションに利用できると言われている1)

 このような観点から筆者に与えられたテーマは「理学療法と運動器系の障害予防」であるが,あまりにも難題なテーマである.まず障害予防には健常者と障害者の障害予防が考えられるが,今回は障害者の廃用による障害予防を考え,運動器系の中でも効果器としての筋肉そのもの(筋断面積)に焦点を絞り,述べてみたい.そこでわれわれがこれまで研究した脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の筋萎縮について,その日常活動性維持の重要性や,さらに筋萎縮を予防するため急性期より当院で実施している終日訓練法の概要についてふれ,脳卒中片麻痺患者の筋萎縮からみた障害予防について考えてみたい.

デイケアにおける高齢者の心身機能低下の予防

著者: 奈良勲 ,   高橋勲 ,   高橋真弓 ,   吉原道代 ,   清水順市 ,   藤村昌彦 ,   永冨史子

ページ範囲:P.391 - P.395

 Ⅰ.初めに

 在宅高齢者の生活は,その心身の機能水準にもよるが,ややもすれば社会参加の機会が少なくなり,種々の廃用症候群の起因となり,その結果,いわゆる「寝たきり老人」となってしまうことが想定される.

 そのような意味から,高齢者がデイケアにおいて医学的管理を定期的に受けながら種々の活動に参加することは,高齢者のより健全な生活水準の維持・改善に役だつものと思われ,きわめて意義深い.しかし,デイケアにおけるプログラムが単に参加者の時間潰し的内容であるとすればその意味は薄れる.よって,デイケアにおけるプログラムが高齢者の心身機能をはじめ,社会性の活性化に役だっているか否かの検証を欠けば,その存在価値は稀薄になる.

 高橋内科小児科医院では1992年10月デイケアを開設したが,このような理由からわれわれは可能な限り,参加者の心身機能に関する種々のデータ収集に務め,その健全な在り方を模索してきた.

 この論文ではこれまで収集したデータを基に,デイケアにおけるプログラムが高齢者の心身機能の急速な低下の予防に寄与しているか否かに焦点を合わせて論述する.

とびら

職域拡大と専門性

著者: 西村敦

ページ範囲:P.365 - P.365

 最近,理学療法士が病院以外のいろいろなところで活躍する機会が増している.これもわれわれを指導してくださった医師の尽力や先輩たちの努力によるところであろうが,救命医療の発達と慢性疾患の増加,高齢化社会への不安に関するマスコミ報道,そして何より高度経済成長を背景とした豊かさの追求など,言わば時代の流れが大きな要因と言える.活躍の場が広がることは,病院診療部門にいる理学療法士としても,大きな期待を寄せているが,この時代の要求,社会の要請に,理学療法士がはたして応えていけるのだろうか,との不安が少なからずあるのも正直な気持ちである.

 我が国に理学療法士資格制度ができて28年,時代の要請により生まれた理学療法士は,そのときどきのニーズに応えることに努力し,社会の要望に引っ張られるようにして歩んできた.しかし,来るべき21世紀を迎える社会のニーズは,今までのものとは根本的に異質なものではないだろうか.今までに求められてきたことは,脊髄性小児麻痺,慢性関節リウマチ,脳性小児麻痺,脳血管障害,そして,慢性呼吸器疾患や心疾患など,理学療法の対象疾患の広がりに対応することであった.

入門講座 介護方法論・6

清潔

著者: 古井透

ページ範囲:P.397 - P.401

 Ⅰ.いわゆる「清潔」を考える

 「風呂などに入らなくても,命に別状がないのだから…….」とは,在宅のお年寄りや障害者の人たちと関わっていると,本人や介護者やその周辺でよく耳にするフレーズである.「湯ざめでもして,風邪でもひいて,それが原因で肺炎にでもなったらたいへんだから…….」とも.

 確かに,全身状態や,浴室や脱衣場の温度や設備,充分なスペースの有無などのさまざまな条件が,安全で快適な入浴に必要なことは事実だが,これらをめぐる「困難」と「不可能」とは少し違うような気がする.障害者やお年寄りの場合,「困難」が即「不可能」と短絡的にされすぎることが,あまりにも多すぎるのではなかろうか.こういった問いかけの意味も含めて,筆者はあえて「風呂に入らなかったから,死ぬということだってある」と言いたい.それは,「社会的死」である.

講座 動作分析・6

介助動作分析―ボディーメカニクスを考慮して

著者: 大塚彰 ,   後藤昌弘 ,   上野隆司 ,   植田昌治 ,   高畑進一 ,   山内正雄

ページ範囲:P.403 - P.408

 Ⅰ.初めに

 理学療法士の業務として,障害を有する患者の治療のみならず,治療の過程での患者の介助がある.さらに,治療場面および研究などにおいて機械・器具を活用することも少なくない.これらの業務を通じて,自己の身体に対して過負荷の障害を受ける危険性も持ち合わせている.

 理学療法士は,治療に先立ち,または治療の効果判定として,患者の動作分析を患者評価・分析の大きな位置付けと考えている.加えて,患者の動作分析に関する研究も多くなされている.

 しかし,前述した理学療法士の業務の中での自身の動作分析に関して考察されることが少ないように思われる.すなわち,自身の身体に負担を生じさせること無く,むだな動作を無くし安全に,最小の労力で最大の効率を得ることができる動作を知る必要がある.換言すればボディーメカニクスからみた自己の動作分析である.

 そこで,今回,理学療法士業務の中での患者介助に関する動作分析をボディーメカニクスの観点から述べていく.

1ページ講座 生理学的診断・6

心電図・2 異常心電図

著者: 吉村浩

ページ範囲:P.409 - P.409

 リハビリテーション病院で,しばしば遭遇する異常心電図の特徴を述べ,その背景,対策につき述べることとする.

Topics

診療報酬改定の内容

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.410 - P.410

 今回の診療報酬改定は平均4.8%の引き上げになった.薬価などの引き下げ分を差し引くと実質2.7%の引き上げである.この中には10月に予定されている医療保険制度改正に合わせた付添看護・介護の解消,基準看護の見直し,基準給食の見直し,在宅医療の評価などによる引き上げ1.5%分も含まれており,4月の引き上げは実質1.2%である.しかし,10月に予定されている改正はあくまでも厚生省の見切り発車であり,入院給食費を自己負担にする健康保険法などの改正案はまだ国会で審議さえされておらず,国会を形骸化した改定である.また,近年,診療報酬改定がなされても,その引き上げ分の多くが製薬会社などに流れており,医療機関の実質的な増収はあまり望めないというシステムは残されたままである.

プログレス

痴呆老年者の睡眠リズム異常とその新しい治療・1

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.411 - P.411

 1.初めに

 ヒトは加齢とともに睡眠障害が強くなる.特に脳に梗塞性病変やAltzheimer型病変をもつ痴呆患者では夜間の不眠,昼夜が逆転したような睡眠,不規則な睡眠などが目だつようになる.またこのような睡眠障害に,俳徊,不穏,興奮,常同行為,せん妄など異常行動を伴うことが多くみられ,家族や介護に当たる人々に大きな負担を与えることになる.筆者らはこのような睡眠障害は睡眠・覚醒リズムの障害であり同時に体温などの自律神経系リズム,メラトニン分泌など内分泌系リズムの障害を伴うことを明らかにした.このことから痴呆老年者の睡眠障害と異常行動の背景に生体リズム障害があると推定した.このような生体リズムを調節する機構は時計機構(clock mechanism,circadian timekeeping system)と呼ばれ,次の三つの部分から成り立っている(図1).一つは昼夜を区別する時間的手がかり(time cue,zeitgeber同調因子)を感覚器を通して時計に伝える伝達系,二つ目は振り子やクォーツなどに当たるoscillator(biological clock),三つ目はリズムを表現する表現系(overt rhythm)である.健康なリズムが表現されるためにはこの三つが十分に機能していることが必要である.

 痴呆老年者にみられる睡眠リズムの障害の原因としては第一の同調因子の減弱であり,第二に脳にあるoscillator(振動体部)の機能的あるいは器質的障害が挙げられる.さまざまな同調因子の中で24時間を周期とする昼夜の明暗(light zeitgeber,光同調因子),他人と交わる,会話をするなどの社会的活動性(social zeitgeber,社会的同調因子),身体的運動,食事などが重要であることが知られている.老年者,特に痴呆老年者は外出や他人との接触,運動などの機会が少なくなり,また高照度光への暴露時間が減少することになる.このような状態は規則的な睡眠・覚醒リズムを維持する上で不都合な状況である.そこで不規則な睡眠・覚醒リズムを示す老人に対して睡眠薬に頼らないで生体リズムを整える方法,すなわち減弱した同調因子を強化する方法が開発されつつある.ここではその代表的な高照度光療法(bright light therapy,phototherapy)と社会的接触の強化(enforcement of social interaction)を紹介する.

理学療法草創期の証言

リハビリテーションの夜明け

著者: 綿貫吉一

ページ範囲:P.412 - P.412

 1950年,私は大阪物療学校物療科に引き続きレントゲン放射線科を卒業,大阪大学医学部附属病院放射線科での研修を卒えて郷里の公立豊岡病院放射線科に奉職しました.当時の理学療法は物療と言い放射線科の副業でリウマチ,神経痛,骨折の後療法としての電気治療(赤外線・紫外線照射,超短波感電)が主でした.患者の付き添いさんは買ってきた蒟蒻や,沼から採ってきた河骨を釜で炊いて温め,それを患部に当てて布で包み温湿布をしている,そんな時代でした.そして骨折にギプス固定がされても,除去した後ずれていることが多く,患者も施療者も神経質になるけれどそのうち拘縮が進み,可動域が改善されず,困ったものでした.さらに,ずれに対しては矯正と言ってマニプュレーションが行なわれましたが,これは再骨折の虞がありました.現在のような改良された手術は行なわれず,後療法としても関節可動域と筋力増強とを並行して施すことは無かったので,拘縮に悩む患者がほとんどでした.また脳卒中患者に対しては患側にマッサージが施されるくらいで,自分で立ち上がれない場合は寝たきりで,ただ死を待つのみでした.

理学療法士免許証第弐弐弐號を手にするまで

著者: 宮澤映

ページ範囲:P.413 - P.413

 私は,1959年9月,整肢療護園(東京都板橋区,厚生省委託肢体不自由児協会経営)に整肢理療師として就職しました.早速先輩が酒を飲ませてくれ,療育のこと,高木憲次園長,小池文英副園長,五味重春医務部長のこと,療育事業との関わりやリハビリテーション推進の話から始まって,1957年から整形外科学会と肢体不自由児協会の後援で研修会が行なわれ,日本理療師会はテキストまで出しているが,なかなか「マッセル」の枠から抜け出せない,等々深夜まで話してくれました.しかし,「療育」「リハビリテーション」などは初めて聞く言葉でしたし,また上肢,下肢,日常生活動作などの機能訓練が実際に実施されているようすを目の当たりにして,当然ながら私は何もかも試行錯誤の状熊でした.

 1960年,日本理療師会に入会しましたが,会員の資格はさまざまで生活苦の時代の中で身分法対策の模索が始まりました.1961年には,厚生省内でもリハビリステーション推進機運が高まり,整形外科学会リハビリステーション委員会が設置され,高木憲次氏他4氏が報告した「機能療法及び職能療法に関する研究(厚生省科学研究会委託)」は,機能療法,職能療法の確立と技術者養成に関するものですが,「現在肢体不自由児施設で働く整肢理療師が最も近い事を行っている」の一節に流れの渦中にいることを再認識したものです.

あんてな

東京都理学療法士会の法人化

著者: 高橋輝雄

ページ範囲:P.414 - P.414

 東京都理学療法士会は,1993年1月18日に長年の課題であった社団法人が東京都より許可された.

 近年世界に類をみない未曽有の高齢者社会の到来や障害者の生活の質的向上など,ますます理学療法の普及,振興に関する活動のニーズは高まるとともに大きな期待が寄せられている.当士会は,士会独自に研究会や研修会などを開催し,学術研鑚を重ね,会員のよりいっそうの質的向上を図り,このことによって,都民の医療,福祉などの各分野に寄与してきた.このような活動は社団法人として決して恥ずかしくない活動をしてきた.しかし今までは,あくまで「権利なき社団」であり,社会に認められる団体「社団法人」としての活動には制約があった.

 当士会は法人許可申請するに当たり,東京都は,われわれの今までの社会的活動はおおむね認めてはいるものの,法人規模として会員1000名,予算2000万円以上,専用の事務所の設置,専従の職員の配置など多くの要求が,また社団法人日本理学療法士協会との関わり合いなどについて問題提起された.

紹介

パーソナリティーテストと運動日課表を取り入れた運動療法教育の紹介―糖尿病教室の実践から

著者: 西澤利広 ,   奥壽郎 ,   牧田光代 ,   三好邦達 ,   西川真人 ,   斎藤宣彦

ページ範囲:P.415 - P.417

 Ⅰ.初めに

 年々増加傾向にある糖尿病疾患に対する治療の中で,運動療法の果たす役割は大きくなっている1).中でも初期の糖尿病患者の治療においては,厳密な血糖コントロールと同時に,合併症予防のための糖尿病教育が重要であることは周知の事実である2).そのため多くの病院では,医師を中心としたコメディカルスタッフによる「糖尿病教室」が運営されている.しかし,運動療法のセクションを理学療法士が担当している病院はまだ少なく,糖尿病患者に対する運動療法の教育方法についても検討課題として残っている3,4)

 当院では「糖尿病教室」での運動療法教育をリハビリテーション部が担当しており,その際エゴグラム5)を用いたパーソナリティーテストによる運動療法の個別指導を行なっている6).今回,糖尿病患者に対する運動療法教育について,当院の教育入院システムの紹介も兼ねて,エゴグラムと運動日課表を利用した経験を紹介する.

報告

機能訓練事業における心理的アプローチの試み

著者: 佐々木和人 ,   渡辺彰 ,   水井尚子 ,   中村恵 ,   米田光宏 ,   横尾一晃 ,   鹿島由樹 ,   鈴木英二

ページ範囲:P.419 - P.422

 Ⅰ.初めに

 理学療法士は,1983年に老人保健法が施行されて以来,機能訓練事業において,障害者に関わることが多くなった1).しかし,理学療法士の教育過程に,地域リハビリテーションに関する教育が少ないこともあり,法施行以来の年月は「試行錯誤の数年」と言える2).われわれも,埼玉県の二十余の機能訓練事業の調査を行なったが,身体的なアプローチが中心の事業が多かった.身体的なアプローチは,病院の理学療法的なものとも考えられ,保健婦などの他職種から「理学療法士は,機能訓練事業で病院理学療法的なことを行ない,困る」という非難の声を耳にすることもある.一方,機能訓練事業に通所するケース(以下,通所ケースと略.)は,事業の名称から受ける印象から,身体的なアプローチを期待して通所することが多く,理学療法士が,両者の板挟みに苦しむことも多い.

 われわれは,第25回日本理学療法士学会において,通所ケースが,七里病院に通院する患者に比べ,「この手を動くようにして欲しい」とか「もっと歩けるようになりたい」などの身体的欲求に固執しているケースが多いことを発表し,機能訓練事業では,「通ってきている人たちと一緒にいるのが楽しい」「いろいろな経験ができて役にたつ」などの単なる身体的な欲求よりも,Maslowの言う高い欲求に転換させるプログラムの必要性を提唱した3)

 そこで今回このような転換をさせるプログラムとして,身体的なアプローチを避け,心理的アプローチを中心に2年間行ない,良い結果を得たので報告する.

 心理的アプローチとは,最近,神経心理学的アプローチ,認知リハビリテーション4~9)として,多く発表がされている.

 今回われわれは,社会適応に重点を置いたグループでの認知訓練を中心に行なった.

実習レポート

脳梗塞により,左片麻痺を呈した症例―初めて高次脳機能障害に接して/Comment

著者: 高須治 ,   網本和

ページ範囲:P.423 - P.426

 Ⅰ.初めに

 今回,脳梗塞により左片麻痺となり,著明な高次脳機能障害を呈した症例を臨床実習中に経験したので報告する.

クリニカル・ヒント

「訓練嫌い」と付き合う

著者: 久保洋子

ページ範囲:P.427 - P.427

 1.初めに

 小児施設に勤務していると,セラピストと子どもとの関係がうまく作れずに苦労するケースがしばしばあります.例えば,体に触れられるのを拒んだり,次々と玩具を変えて遊び回る子や,落ち着きが無くじっとしていられないなど,子ども特有のさまざまな理由で,プログラムの実施がうまくいかない場合があるのです.小児を対象とした施設や病院に就職して,まだ日が浅い方々も,同じような経験をされているのではないでしょうか.

 そこで今回,訓練嫌いな子どもたちへの対応について手がかりになると思われることを幾つか述べてみたいと思います.

学会印象記

第16回総合リハビリテーション研究大会

著者: 松本栄子

ページ範囲:P.429 - P.429

 御存じのように本大会は,我が国の医療・保健・福祉・教育・職業などさまざまな分野のリハビリテーション(以下,リハと略.)関係者が集まる大会であり,日本のリハの現状を知ることができます.今年は日本作業療法士協会会長の寺山久美子氏が実行委員長となり,11月13日~14日,霞ケ関の全社協ホールで,「リハビリテーションの質を問う」をメインテーマに開催されました.約300名の多種多様な参加者の中で理学療法士・作業療法士が合わせて20名程度であったことは,少し寂しい気がします.

ひろば

学としての仕事/第5回アジア理学療法学会に参加して

著者: 伊藤清仁 ,   沼田秀人

ページ範囲:P.418 - P.418

 高橋英夫の「偉大なる暗闇」を読んだ.一高のドイツ語教師,岩本禎の人物評であるが,この本は批評の在り方,学問の姿勢の何たるかを極めた本のようで,感心した.

 人間の闇の部分に目を向け,人間の真実の姿を追求する姿勢は学問の姿ではないのか.柳田國男が「山の人生」で奇怪な歴史の中で,山に住む人物や,子どもの神隠しの現象を資料を駆使して論じた姿勢も学問の本来の在り方ではなかったか.闇の暗い部分に知性の光を当て,不思議な驚きの中に学問の目を入れていくことは,私たちの勉学の筋道に一筋の方法を示してはいないか.

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文献抄録

ページ範囲:P.430 - P.431

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.434 - P.434

 連立政権の初代総理の立ち上がりは新鮮に映った.かっての与党が野党になり,種々の懸案について攻防が繰り返された.そして,国民生活に重要な予算決定を宙吊りにしたまま,金銭絡みの物語は,総理の辞任で幕が閉じた.改治が世直しなら,その党派もよかろう.だが,党派間の権力闘争に終始するものなら,国民生活の障害になる.それを予防するのはいったい誰か.裏切られっぱなしに諦めることはない,さあ目覚めよう.

 本号の特集は「障害予防」である.理学療法士も障害予防に寄与すべく重要な立場に置かれている.だが,もし上記の如く,われわれが狭義の主義主張に終始すれば,むしろその対象者となろう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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