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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル28巻7号

1994年07月発行

雑誌目次

特集 臨床実習教育

臨床実習教育の変遷と展望―臨床実習指導者の立場から

著者: 西村敦

ページ範囲:P.438 - P.442

 Ⅰ.初めに

 我が国で理学療法士の養成が始まって31年になる.蘭学事始めと呼ぶにふさわしいような外人教師による英語での授業から始まり,日本人教師による日本語での授業に至るのにほぼ10年を要した.そのころより理学療法士養成校の数も増し,16年目には短期大学の開校があった.そして,29年目にして初めて大学教育の開設になった.

 その間,社会の変動は大きく,医療需要の量と質にも変化があった.理学療法士は医療技術の専門家として,医療に対する社会要請に応えてきたが,社会構造の変化により,保健,医療そして福祉の構造が変化しつつあり,理学療法士にも新たな要請が生まれている.

 この養成課程の高等教育化と社会の超高齢化とを背景に,理学療法教育はどう在らねばならないか,中でもその臨床実習教育の在り様について,教育の変遷を概観しながら一臨床実習指導者として考案したので報告する.

今後の臨床実習の在り方―特に実習の研究方法について

著者: 清水和彦

ページ範囲:P.443 - P.449

 Ⅰ.初めに

 理学療法士の教育課程において臨床実習は,「学生が知識を統合し完成することを学習するように設定された臨床の場であり,理学療法の中で最も重要な過程」と位置付けられている1),学生は,臨床実習指導者の指導・管理の下に,基礎・専門科目の知識・技術を臨床実習の中で統合し,さらに専門職として求められる態度の獲得と,自らの資質を伸ばすことを求められる.

 臨床実習には幾つかの問題が指摘され2~5),臨床実習の指導目標(致達目標),指導内容,指導方法は,より明確化されることが望まれている.

21世紀の臨床実習;展望と杞憂

著者: 高木昭輝

ページ範囲:P.450 - P.455

 Ⅰ.初めに

 このようなテーマについては,筆者の私見や視点を通じて過去と現在との関わりをみ,その上に近未来的な予測を展開して,さらにその後のさまざまな可能性を指摘することに努力することで許していただけることと思う.その筆者の私見の中に,何か必然的なものがあれば幸いと願うものである.

 21世紀の臨床実習を考えるためには,これまでの臨床実習を顧みることも必要である.まずは,これまでに筆者が見聞きしてきたこと,述べてきたことから21世紀の臨床実習を展望してみたい.

〈座談会〉21世紀の臨床実習の在り方

著者: 上田陽之 ,   菊地延子 ,   坂本年将 ,   永冨史子 ,   奈良勲

ページ範囲:P.456 - P.466

ゴールドプランを推進するため,医療職種のマンパワー確保が進められている.理学療法士についてもその例外ではない.しかし,十分に教育環境が整備されていない現況で性急に養成すれば,理学療法の教育水準を低下させる虞がある.物理的教育環境は金を注げばすぐ整うが,教官や臨床実習指導者の養成には時間を要する.また,理学療法の対象領域が拡大してきた今日,医療機関内の業務に対応する理学療法士のみを養成していては多様化する社会のニーズには応えられないだろう.本号の座談会ではそれらの課題を念頭におき,21世紀の臨床実習の在り方をベテラン,中堅,若手の理学療法士に論じていただく.

とびら

夜郎自大

著者: 神沢信行

ページ範囲:P.437 - P.437

 「<夜郎自大>という言葉がある.自分の力量も知らずにいばることだ.昔,中国西南部の夜郎という民族が漢の強大さを知らずに勢力を誇ったことからいう.」(1993年10月26日,読売新聞夕刊より)この言葉と同名のタイトルの著書を,週刊朝日の元編集長であった扇谷正造氏が著している.

 大部分の理学療法士は,患者さんや入所者の方に接することが多い職場に勤務しているが,そのほとんどは「○○先生」と呼ばれていると思われる.私自身も病院ではかくの如く呼ばれている.学会や研修会に行けば,周囲は皆「先生」である.広辞苑によれば先生の意味は,「①先に生まれた人,②学徳のすぐれた人.自分が師事する人.また,その人に対する敬称.③学校の教師.④医師・弁護士など,指導的立場にある人に対する敬称.⑤他人を親しみ,またはからかって呼ぶ称.」と定義されている.このうちのどの意味で呼ばれているかを考える必要がある.とにかく,私の反省から「先生」という呼び名に驕ってはならないということは断言できる.

入門講座 器具を用いた運動療法・1

器具を用いた筋力増強訓練

著者: 沖田一彦 ,   山田義久 ,   辻下守弘 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.467 - P.472

 Ⅰ.初めに

 筋力増強訓練を行なうに当たっては,筋収縮の強度,種類,収縮および休止時間,頻度といった基本的な要素を考慮する必要がある1~3).さらに,障害を有した患者が対象となるとき,これらに,運動によって起こる生体の力学的な変化や訓練肢位の制約といった因子を加味した上で,具体的な方法を決定していかなければならない2,3)

 では,こういった筋力増強訓練で,われわれ理学療法士は,どのような“器具”を活用すべきなのであろうか?単に筋の収縮強度に着目するのであれば,重量の異なる重錘を幾つも用意すればいいし,筋収縮の種類を厳密に規定したいのであれば,収縮モードの切り替え可能な機器を購入すれば事は足りるはずである.

 そこで本稿では,著者らが日常の臨床で工夫したり,欧米の理学療法現場で垣間見たことのある,“器具”を用いた筋力増強訓練の方法について解説するとともに,筋力増強訓練にそれらを用いることの意義と展望について考察を加えたい.

講座 行動科学・1

行動科学とは

著者: 堀忠雄

ページ範囲:P.473 - P.478

 Ⅰ.行動科学の誕生

 「行動科学」は第二次世界大戦後のアメリカで生まれた新しいタイプの科学である.1953年にアメリカ・Ford財団が支援して,スタンフォード大学に「行動科学高等研究所」が創立され,「行動科学研究計画」に数百万ドルの研究費が支給され始めてから,急速にその名称が普及していった.当時のアメリカでは科学の大型化が進み,プロジェクト型の大型科学(big sciences)が次々と作り出され,さまざまな財団や政府機関から厖大な研究費が注ぎまれていた.原子核科学・宇宙科学・情報科学・コンピューター科学はこうして誕生した大型科学であり,行動科学もその一つである.これらの大型科学は,①達成すべき具体的で明確な目標をもち,②その目標を達成するために必要な科学的知識と技術とをもった専門領域が等しく参加し,③学際的(interdisciplirary)協力体制を組んで進められるところに特色がある.ところが既存の科学にはそれぞれ独自の言語(用語)と方法(研究モデル)とがあり,意識の上でも相互の垣根は高く,そのことが学際研究の進展をはばんできた.こうした異分野科学間の共同研究を可能にしたのは,第二次世界大戦前から進められてきた新しい研究方法が一定の完成度に達し,諸科学に共通の研究方法として広く導入されたことにある.

 行動科学は「人間行動の一般法則性の探究」という目標を,自然科学と社会科学に広範にまたがる専門領域から,多角的に研究する科学として出発した.これに参加する専門領域は,心理学・医学・生物学のように実験を重視する領域から,社会学,経済学,政治学,法律学など,もともと実験の伝統が無いか,あってもその占める割合が非常に小さい領域にわたっていた.

1ページ講座 生理学的診断・7

心電図・3 Holter心電図

著者: 吉村浩

ページ範囲:P.479 - P.479

 携帯型テープレコーダーで24時間の心電図を記録するもので,患者さんの訴え,目まい,動悸,胸痛などの診断,薬物の治療効果判定に役だつ.主な異常心電図について,その背景,対策について述べる.

クリニカル・ヒント

ホカホカシャワーの紹介

著者: 松本規男

ページ範囲:P.480 - P.481

 1.初めに

 温泉好きな日本人にとって,お湯につかるということは,単に清潔を保つというだけでなく,たいへん楽しみな生活動作と言えます.しかし,重度な在宅障害者にとって,浴槽への出入り動作は,介護の負担が大きいため,シャワー浴のみになっている者が多く,快適な入浴感が得られにくいのが現状です.そこで当院では,シャワー浴だけでも十分体が温まり,快適な入浴感が得られるよう“ホカホカシャワー”なるものを作製し,すでに数例の在宅障害者が実用的に使用しているので,その作製方法と使用状況について紹介します.

プログレス

痴呆老年者の睡眠リズム異常とその新しい治療・2

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.483 - P.483

 (前号より続き)

 例えば,リハビリテーションを行なう際に毎日時間を一定にすること,また,治療中,患者との関わりのもち方,治療環境の照明を工夫し,高照度光の下で実施することなどである.このようにさまざまな方法を組み合わせて行なった成績についての詳細な報告は無い.

 老年者の睡眠障害に対する生体リズムからの治療法はまだ始まったばかりであり,その適応などについては十分な検討が行なわれていない.したがって,今後は多くの施設や病院における症例の積み重ねが必要であり,またこれらの症例についての発表を期待したい.

理学療法草創期の証言

視覚障害者の理学療法士養成課程創設の経緯

著者: 鈴木達司

ページ範囲:P.484 - P.484

 視覚障害者である盲学校理療科卒業生の相当数(1961年,約80名)が毎年,病院,診療所に勤務し,マッサージを主体とする物理療法に従事し,病院理学療法を戦前(遡れば1891年)から支えてきたと言える.

 医学的リハビリテーション要員の需要が高まってきた状況の中で,病院マッサージ師としての供給源であった盲学校には,これまで以上の求人があり,マッサージのほかに,運動療法を主体とする理学療法を担当させるケースがしだいに増加してきた.

師あり朋ありて

著者: 田口順子

ページ範囲:P.485 - P.485

 来年は日本理学療法士協会設立30周年というこの時期に『PTジャーナル』では1月から草創期の記録を連載していて,機を得た企画だと強い関心と懐かしさをもって読ませていただいている.協会の設立に多少なりとも関わってきた者の一人として,寄稿されている方々を知らぬはずはない.1月号に稿を寄せられた池田政隆先生は法律の専門家でもあって協会設立当時の定款文案の作成にはなくてはならない存在であったし,2月号の田中國則先生はリハビリテーション学院のできる以前に米軍病院のセラピスト室に見学へ連れていってくださった.その後の特例経過措置期間の延長をめぐって対立する仲になるなどとは知る由もなかった.関川博先生は先生御自身が書かれているようにほんとうに苦難の道であったろうとお察しする.協会の基盤を質実ともに築かれた方である.高橋良,下畑博正両先生とは九州のリハビリテーション黎明期当時から存じあげていた.

 すっかり風化しつつある草創期の記録は協会あたりで,30周年を機に設立小史としてまとめるべきだろう.

 日本理学療法士協会の育ての親は多勢いるが,生みの親はTali A Conineである.我が国で初めて設立された国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院の初代理学療法部長として就任し,教え子の第一期生が3年になって,今では到底想像もできないことだが「職場管理と運営」の授業は理学療法士協会をどのように発足させるかが講義の内容であった.放課後もConine先生を中心に,協会設立のための打ち合わせが続いた.

あんてな

ペシャワールに理学療法センター

著者: 前田文夫

ページ範囲:P.486 - P.486

 国際機関の一つにIOM(国際移住機構)というのがある.国際レベルでの人の移動を援助する機関だが,昨今耳にする難民の援助が中心である.このIOMの活動に日本の幾つかの病院が,現地ではできない手術や治療の受け入れ先として協力している.私が勤める病院も財団を別に作り協力しているが,1991年にはさらに積極的な活動に入った.多くの難民の受け入れ国となっているパキスタン北西部の町ペシャワールに「理学療法センター」を設立したのである.

 目的は,援助国で手術,治療を受けた患者を早期に帰国させ理学療法的フォローアップを現地で行なうこと,また,現地ペシャワール市内や郊外難民キャンプの人々への理学療法サービスの提供,さらに現地医療従事者への協力,教育などである.

印象に残った症例

患側下肢屈曲優位を呈した脳卒中患者の理学療法

著者: 小枝英輝 ,   松井幾夫

ページ範囲:P.487 - P.490

 Ⅰ.初めに

 脳卒中片麻痺の理学療法において,日常生活動作能力を拡大し円滑な社会復帰を可能とするには,移動手段である歩行機能を早期に獲得することが重要である.歩行に影響を及ぼす要因は,運動麻痺,感覚障害,バランス障害,関節拘縮,疼痛,高次脳機能障害などが大きな因子である.脳卒中患者の運動麻痺は,遷延性弛緩性麻痺を示すほんの一部の者を除き,多かれ少なかれ筋の痙性を伴うのが普通である.そして,この痙性が機能予後に影響を与える大きな因子である.

 多くは下肢伸筋痙性が優位に出現することで伸展パターンを呈し,立脚期の支持性を得ることで歩行へと結び付いていく.しかし,稀に屈曲が優位に出現し,立位時に患側股関節,膝関節が屈曲し足部が床につかなかったり,また,接地したとしても踏ん張ることができずバランスが悪く歩行に結び付かない場合がある.過去にも数例このような下肢屈曲優位を呈する症例を経験してきたので,それらの経験を基に今回新たな症例について考えてみたい.

資料

第29回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1994年度) 模範解答と解説・Ⅰ―理学療法(1)

著者: 坂江清弘 ,   森本典夫 ,   吉田義弘 ,   前田哲男 ,   吉元洋一 ,   大重匡 ,   佐々木順一 ,   高江玲子 ,   山口尚美

ページ範囲:P.491 - P.496

実習レポート

印象に残った症例;脳梗塞による右片麻痺,外傷による左下腿切断/Comment

著者: 薬師寺高明 ,   山下隆昭

ページ範囲:P.497 - P.500

 1.初めに

 今回,右片麻痺と左下腿切断の重複障害の症例を担当させていただいた.片麻痺と切断の重複障害についての報告は幾つかある.今回こういった複雑な症例を初めて担当するに当たり,それらの報告を参考にして訓練を進めていった経過を報告する.

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文献抄録

ページ範囲:P.502 - P.503

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.506 - P.506

 「障害予防と理学療法」をテーマに,青森市で開催された第29回日本理学療法士学会は,我が国の理学療法の在り方に新たなチャプターを加えた.それが今後,どのような形で国民に提示されるかは,われわれの認識水準とそれを具現化する教育内容とで定まるであろう.

 ところで,6月号の特集は学会のテーマと同じ「障害予防」であった.この分野に資することができると期待したい.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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