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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル29巻11号

1995年11月発行

雑誌目次

特集 病棟訓練

essence of the issue

ページ範囲:P.745 - P.745

 病棟とは,入院中の患者における「生活」の場であるかつてリハビリテーション医学のアイデンティの確立に際して.「生活」の視点で患者をみることが最も基本的な概念であったしかし残念なことにこの初心が忘れられているのでは? との声をよく耳にする.特に地域リハを積極的に行っている方々(リハ専門職のみならず保健婦さんやボランティアの方も含め)から,病院で行うリハについて,実際の生活を考えてアプローチしているのか,例えば,病院は機能回復訓練のみを行う場であり,病院でのリハ(特に入院リハ)が終了してはじめて生活の場でのリハが始まると誤解しているのではないか,などと反省をうながす声は少なくない.

病棟での評価・訓練の意義と効果

著者: 大川弥生 ,   上田敏

ページ範囲:P.747 - P.755

 Ⅰ.はじめに

 ―「訓練室訓練至上主義」からQOL向上にむけた病棟評価・訓練の重視を

 入院患者にとって,病棟とは実際の生活の場である.したがって本特集のテーマである病棟での訓練・評価とは,実際の生活の場で行う評価・訓練ということである.

 従来は,理学療法も作業療法も本来は設備の整った訓練室で行うべきものであって,病棟での評価・訓練は,脳卒中,脊髄損傷などの急性期か,癌や重症臓器不全などのように全身状態が不良で生命の危険があったり,訓練室・診察室に行く耐久性がなかったりする場合に「やむをえず」行うものだ,という考え方(いわば「訓練室訓練至上主義」)が強かったように思われる.

 しかし,リハ医学は第2次大戦直後の発足にあたって,ADL(日常生活行為)に代表される「生活の視点」をそのアイデンティティ確立に不可欠な基本的概念としたのであり,その原点に立ち返れば,入院生活における生活の場である病棟こそ本来もっともふさわしい評価・訓練の場といわなければならない,これはADLに代わってQOL(「人生の質」)がリハの最終目標となり,「QOL向上のためのADL自立」が重要になった現在1,2),ますますその重要性を増している.

 すなわち病棟での訓練・評価をリハ・プログラム全体のなかにどのように位置づけるかは,現在のリハ医療における最大のテーマともいえる「各患者のQOL向上にむけてのリハ技術の開発と再統合3)の要(かなめ)であり,病棟での評価・訓練のプログラムの更なる緻密化が必要である.

 病棟での評価や訓練は,病棟でのADLが自立すればその後は必要がなくなるというものではなく,まして病棟でのリハ・アプローチは看護婦が主体であり,リハ専門職は訓練室が主体というものではない.

 病棟で行う評価・訓練は,われわれが最近作りあげてきた「積極的リハ・プログラム」4-16)において,極めて本質的な核となる点である.この「積極的リハ・プログラム」とは,脳卒中リハの再検討と,癌患者と臓器不全患者からなる「ハイリスク・体力消耗状態」17-21)患者についての新たなリハ・プログラム作りという,一見全く異なるように思われがちなものを車の両輪のようにして,「QOL向上のための具体的な技術の開発・体系化」という共通の目的のもとに進めてゆき,最終的に両者に,そしてその他の疾患・障害にも共通する原則として確立されたものである.その確立にいたるまでの一連の検討のなかで病棟評価・訓練の必要性・有用性が痛感され,実感されてきた.この経過および具体的なデータについては既論文を参照していただくこととし,本稿では病棟で行われる評価・訓練の意義について,リハの真の目的であるQOL向上にむけての視点から再整理することにする.

 なおここで一言つけ加えておきたいのは,病棟での評価・訓練は入院中の訓練室での訓練との関連のみでなく,外来リハ7,22)も含めたリハ・プログラム全体のなかで位置づけを考えることが不可欠だということである.この点については本誌7)においてもすでに,「入院リハ至上主義」からQOL向上にむけての外来リハ(「外来訓練」ではない)の重視へと視点を転換する必要性について論じており,本稿はその内容が前提となっているので,ぜひご一読いただきたい.

 そこでは入院リハにおける病棟評価・訓練の重要性を特に次の2点について強調した,第1は,入院リハの最大のメリットは,専門的なリハ・アプローチが,診察室・訓練室での診察・訓練の時間帯だけでなく,患者が実際に生活するすべての場所・時間帯で行えることである.この点が生かせなければ,外来で通院して訓練室で訓練時間帯のみ行うアプローチと大差はなく,むしろ入院リハのデメリット,すなわち家庭と地域社会から切り離されるというマイナス面のみが残ることになる.第2に,入院の目的がリハではなく,1日を通しての疾患管理の必要のために入院している場合(「ハイリスク・体力消耗状態」,神経疾患の症状進行中の急性期16)など)で,訓練室には行けないような時期・状態のときに病棟で行う評価・訓練は極めて高度のリハの知識と技術を必要とするが,また極めて効果的なものであるということである.この第2点目は,リハの対象の拡大の面からも重要である.

綿密なリスク管理が必要な患者の病棟訓練

著者: 木村伸也

ページ範囲:P.756 - P.760

 Ⅰ.はじめに

 本稿のテーマである綿密なリスク管理を必要とする患者の病棟訓練とは,急性期脳卒中患者に座位訓練をいつから行うかとか,癌や重症多臓器不全のように極めて重症な患者に行うROM訓練やポジショニングといった限られた特殊な内容のことではない.本稿で述べようとするのは,綿密なリスク管理をしてリハ・アプローチを進めていけば,その行える内容は拡大し,リハ効果も極めて向上するということである1-2).そしてその具体的内容は本来,病棟訓練として行うべきものということである.

 このように病棟訓練を入院リハの中心的なものとする上で,次の3点が重要である.まず第1に,病棟訓練は,病棟でしか行えないような重度な患者にのみ(仕方なく)行う訓練であり,座位が安定すれば訓練室訓練を始めるものだという画一的な捉え方から脱却することである.第2に,病棟訓練とは生活の場における訓練であり,本来,リハの基本であることを再認識することである3-4).第3には,リスク管理は単なる訓練の中止基準ではなく,安全で,かつ最大のリハ効果を上げるにはどのような運動負荷を許可するかを「活動度」として細かく指導することである6)

 この3点に基づいて,生活の場である病棟での評価・訓練をすすめることによって,発症後早期の脳卒中患者や,神経筋疾患の悪化過程や急性期治療中の患者にも,より安全で効果的なリハを行えるようになったのである.そして,その具体的な成果の最も象徴的なものは,生命の危機に瀕している心不全,肝不全や末期癌患者を主とする「ハイリスク・体力消耗」状態患者1-2)という重症・重度な患者へとリハの対象を拡大できたことである.

 ここでは,こういった成果を得られた過程での筆者の経験に基づいて,綿密なリスク管理を必要とする患者の病棟訓練の実際を述べる.

病棟訓練の実際(1)―リハビリテーション病院における脳卒中患者への対応

著者: 関口春美 ,   中村茂美

ページ範囲:P.761 - P.765

 Ⅰ.はじめに

 われわれの病院では1985年以来,脳卒中リハビリテーション・プログラムの再検討と改善を重ねてきたが,そのなかで,病棟での評価・訓練は「生活の視点」を基本とするリハビリテーション(以下リハ)の根幹をなすことを改めて痛感した.この10年間のわれわれの経験は,病棟訓練の内容を深め緻密化することに役立っただけでなく,次の2点にも大きく影響した.第1点は,訓練室での訓練内容を病棟訓練で発見された問題点の解決に向けていっそう緻密化することの必要性であり,第2点は,他職種との「協業」としてのチームワークの重要性であった.

 先にわれわれは本誌で外泊訓練について報告1)し,そのなかで病棟訓練の重要性を含めて,「するADL向上に向けたADL訓練」2)などの基本的な考え方について詳しく述べた.そのため今回は,病棟訓練の実際面に限り時間的な流れに沿って述べることにしたい.

病棟訓練の実際(2)―看護婦との協業を含め

著者: 松木秀行 ,   森本栄 ,   伊藤隆夫 ,   田中正樹 ,   石川誠

ページ範囲:P.766 - P.772

 Ⅰ.はじめに

 上田,大川らは,看護との協業を強調し,「しているADL」と「できるADL」の差をなくすため実際の生活の場に出向き,生活の時間帯に合わせた指導をすることが重要であると指摘し,病棟を基盤として看護婦とセラピストが連携するチームアプローチを確立する必要があると述べている1-3)

 当院でも,「入院におけるリハビリテーション医療の中核は病棟看護にあり」をスローガンに,各部署が看護を支える体制を作ろうと努めている.しかし,病棟内生活からスムーズに自宅生活へ移行させるため,看護と協業してチームアプローチを実践していく上で,勤務体制,業務内容,教育過程などの違いやセラピストの理解不足により様々な問題が発生してくる.そこでセラピストとしては,看護婦と協業するには,具体的に何をどのように行えば良いか日々悩むことになる.われわれが,過去2年間実施してきた病棟訓練の経緯,実施内容,現状での問題点などを示し,今後の看護との協業を円滑にするために何が必要なのかについて述べたい.

とびら

納戸

著者: 門脇明仁

ページ範囲:P.743 - P.743

 奈良県Y村,三重県と隣接する山間の村である.大和茶の産出地として有名で,整然と並んだ茶畑は本当に美しい.村の家々はどれも大きく立派で,離れをいれると平均的広さが400平方メートルと広く,うさぎ小屋に住んでいる私には羨ましい限りである.玄関を入るとまず広い土間がある.上がり框(あがりがまち)を上がると居間があり,その奥には床の間がひかえている.

 私がこの村のたった1人の保健婦さんと同行訪問するようになって,もう2年が過ぎた,明るい保健婦さんで,道で出会う人々のほとんどが知り合いのようである.

学会印象記 第11回日本義肢装具学会学術大会

“ユーザーの限りない夢”に応えるために

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.772 - P.772

 第11回日本義肢装具学会学術大会は,10月13,14の両日,福田道隆教授(弘前大学医学部附属脳神経研究施設長)を大会長として,秋の色どりの美しい青森県弘前市に義肢装具士を始め,理学療法士,作業療法士,整形外科医,リハ医など約450名のリハビリテーション関連職種を集めて盛大に開催された.

 会場の弘前文化センターは,春の桜花をはじめ四季折々の草花で多くの観光客の目を楽しませてくる弘前公園に隣接,ナナカマドの赤い実が窓辺に映える会場では,一般演題,特別講演,教育講演,シンポジウム,パネルディスカッション,ナイトセミナー,ISPO報告など盛り沢山のプログラムに熱心に耳を傾ける聴衆が目立った.一般演題は総数91題,短下肢装具,大腿義足・股義足,義肢・装具調査,上肢切断・多肢切断,歩行補助具・車椅子,下腿義足などのジャンルに分かれて日頃の研究成果が発表され,活発な討論が行われた.

入門講座 在宅障害者を支援する社会資源の活用・5

ショートステイ,デイサービスの活用

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.773 - P.778

 Ⅰ.はじめに

 障害者の保健福祉施策に関わる最近の動向をみると,平成5年12月3日には,「心身障害者対策基本法の一部を改正する法律」が公布され,「心身障害者対策基本法」が「障害者基本法」に改められた12).この法律によって,対象となる障害について旧法で身体障害者福祉法の範囲に制限列挙されていたものが取り払われ,さらに精神的欠陥というあいまいな表現であったものが明確にされ,身体障害,精神障害と包括的に規定されることになった.また,「てんかん及び自閉症を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者であって長期にわたり生活上の支障のある者」がこの法律で障害者の範囲に含められることになった.

 一方,平成6年6月には「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律案」が国会で成立し,「保健所法」が「地域保健法」に改められることとなり,さらに今年5月には,「精神保健法」が「精神保健および精神障害者福祉に関する法律」に改正されるなど3),在宅障害者というテーマで,それに関わる施策を解説するとなると複雑多岐にわたる説明が必要となる.そこで本稿では,その対象を身体障害者に限定して,在宅の身体障害者が活用できる,いわゆるショートステイ,デイサービスについて解説する.

 身体障害者のための在宅福祉サービスについては,平成2年における「老人福祉法等の一部を改正する法律」の施行に伴い,身体障害者福祉法第18条による「身体障害者居住生活支援事業」注1)として実施されることになった5).これに伴い,従来の在宅重度身体障害者ショートステイ(短期保護)事業は「身体障害者短期入所事業」,また,在宅障害者デイサービス事業は「身体障害者デイサービス事業」とそれぞれ名称を変え,平成3年1月から実施されている.

講座 車いす・義肢・装具の臨床知識・5

義足の適合評価

著者: 大峯三郎 ,   舌間秀雄 ,   新小田幸一 ,   緒方甫 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.779 - P.786

 Ⅰ.はじめに

 下肢切断者のリハビリテーションの成否は,各専門家によるチーム・ワークの在り方に左右されるといっても決して過言ではない.医師をはじめとして,義肢装具士(CPO),リハ工学エンジニア,看護婦や理学療法士(PT)などの多くの専門家によるチーム・アプローチによって,真に実用的な義足の提供に努めなければならない1)

 このような背景の下で,理学療法士の担う役割は,切断端の機能的評価をはじめとして,義足の適合評価や装着状況などの具体的な情報を医師やCPOへ提供することや,看護婦と共に病棟での義足による日常生活指導,切断端の管理,あるいは工学エンジニアとの具体的な義足機能の評価や開発など多岐にわたっている.

 一方,近年,義足を取りまく状況については,シリコンなどの素材の使用,従来と異なる概念でのソケット形状の変化などに代表されるように,その開発と進歩には目ざましいものがみられる.特に大腿義足では,坐骨結節と坐骨枝がソケット内に収納される坐骨収納型ソケット(Ischial-Ramal containment,IRC)や,荷重部位が坐骨一辺倒から坐骨および坐骨周辺部の軟部組織全体で行うものなどへと変化してきている2,3,4).さらにソケットの素材も,弾力性のある軟性ソケットを組み合わせたものなどが使用されている.また,膝継手機構においても,多軸膝や空圧および油圧機構を用いた遊脚相コントロールが盛んに用いられるようになってきた.さらに,立脚相で膝の屈曲伸展をコントロールする義足の試用もなされている5).下腿義足では,内ソケットにシリコンを用いた全表面荷重式ソケット(total surface bearing,TSB)による下腿義足の使用6,7)や,足部においては,エネルギー蓄積型の足部8,9)を各種選択できるようになり,これらを含めて義足の処方自体にも多くのバリエーションが可能となってきている.

 このように義足の進歩に伴って新しい知見や知識が臨床の場面で必要となってきた.当然,実際に義足の適合評価や装着訓練を行う立場にある理学療法士に対しても,義足に関する様々な知識が求められるようになってきており,今回,このような背景を踏まえて,切断のリハビリテーションを施行する上で理学療法士として必要欠くことのできない義足の適合評価を中心に臨床的な観点から私見を交えながら概説を加える.

理学療法草創期の証言

特例受験資格による国試受験

著者: 三浦時男

ページ範囲:P.791 - P.791

 草創期といえば,やはり私の脳裏をかすめるのは,理学療法士国家試験のことである.振り返ってみるに,わが国にPT,OTが誕生して30年,青森県にPTが誕生したのは第1回国家試験が実施された昭和41年,青森労災病院の3人が最初であった.

 当時,本県の受験者は特例組で,労災事業団,整肢療護園,日本整形外科学会が実施する講習会を受講しなければならなかった.私が受講したのは整形外科学会主催によるもので,240時間で全課程が修了することになっていた.青森県では,弘前大学東野修治教授(後に学長)に会長をお願いし,同大学を主会場に,講習会が行われた.受講者は支部会員29人と会員外2人の31人で,勤務に支障のない土曜,日曜日の2日間で計9日間の講義が行われた.今にして思えば30年前の昔話だが,薄給の身で自費受講した私は安い素泊まり旅館(裸電球の暗い部屋で,汚い煎餅ぶとんに雑魚寝)に泊まり,食事は大学病院の食堂を利用しながら講習会に通ったものである.本県は都会と違って交通の便が悪く,ひと汽車乗り遅れて,土曜日の講習会が終わってから駆けつけたこともあった.

プログレス

無症候性脳梗塞

著者: 鈴木一夫

ページ範囲:P.792 - P.792

 1.無症候性脳梗塞が注目される背景

 自覚症状も他覚的な神経学的徴候も呈さない脳梗塞,すなわち無症候性脳梗塞の存在は,剖検で古くから知られていたが,近年CTやMRIによって容易に発見されるようになった.無症候性脳梗塞がここ数年にわかに注目されるようになったのは,この画像診断の進歩に起因する.安全に手軽に検査ができる頭部の画像診断は,わが国では検診としての必要条件を満たし,脳ドックを全国的に普及させた.その結果,無症候性脳梗塞は日常診療の場で偶然発見されるほか,脳ドック受診者や地域集団を対象にMRIを用いた報告1~3)を総合すると,平均年齢61歳の集団で13~33%,平均年齢70歳の集団では47%に無症候性脳梗塞が検出される.健康を自覚している人たちからも多く見つかる無症候性脳梗塞に,はたしてどのような病的意義が存在するかが最も興味の持たれる点である.1990年に米国NINDSで提示された脳血管障害の分類Ⅲ版では,無症候性の脳梗塞あるいは脳出血を含めた無症候性脳血管病変を脳卒中易発症状態として臨床的に意味づけている.しかし,無症候性脳梗塞が脳血管障害の危険因子であるとしても,その病型別危険度に関しては明らかにされなかった.さらに画像診断で検出される無症候性脳梗塞という新しい疾病概念そのものが,無症候なるが故の曖昧さと検出手段での問題をかかえている.

心筋細胞の発生と増殖

著者: 小室一成

ページ範囲:P.793 - P.793

はじめに

 心臓は個体発生段階の非常に早期に,臓器としては最も早く,しかも最も頭側において決定される.心臓が拍動を開始し,血液が循環するようになって初めて他の臓器の分化・成長が進むことより,心臓の分化は,他の臓器の分化・成長にとって必須であり,個体の発生にとって極めて重要である.

 ある臓器を規定している(つまり心臓を心臓たらしめている)もののなかこおいて,その臓器特異的な転写因子が重要な役割を果たしている.最近心臓においてもいくつかの転写因子が単離されてきた.心臓がどのような機序で高度に分化するかを理解することは,心臓疾患を考える上において非常に重要と考えられる.そこで本稿では,心筋細胞に発現する転写因子を中心に,心筋細胞の分化と増殖の関係についてに述べてみたい.

あんてな

日本理学療法士協会都道府県士会の法人化推進

著者: 中屋久長

ページ範囲:P.794 - P.794

 協会で過去に,士会の法人化が検討された経緯がある.その時点では大方の士会が会員数,財政面など組織が不十分であり,まずは士会組織の充実が先決で時期尚早との結論であった.その後,国の高齢化対策である老人保健法による機能回復訓練事業を中心とした公的事業への参画依頼が協会や士会に多く寄せられ,士会法人化への弾みがついた.もとより協会は公益法人であり,国民の医療・保健の発展に寄与するため全日本的な公益に資する活動は当然であるが,都道府県においてはその地域の団体である士会が公益性をもてことで更に理学療法士協会あるいは理学療法の普及と発展がなされる.先進的な2~3の士会では昭和50年代中頃からすでに法人化が検討され学習会などが行われていた.

報告

大腿骨頸部骨折後の歩行能力の推移と再転倒の現状

著者: 萩原洋子 ,   網本和 ,   牧田光代 ,   三好邦達

ページ範囲:P.795 - P.798

 Ⅰ.はじめに

 大腿骨頸部骨折は,受傷後の死亡率の高さ1)や,寝たきりへの移行の可能性2)から問題が多いと指摘され,受傷原因や場所,合併症などに関する報告は多い3).しかし,受傷後の日常生活自立度がどのように低下し,どのていど改善をみるかについては十分明らかではない.さらに,加齢による転倒率の増加が報告4)されている.転倒による受傷が最も多い3)ことを考えると,日常生活の自立度だけでなく,再転倒が重大な問題となってくると思われる.

 そこで今回,われわれは自宅退院後の日常生活自立度の変化と歩行自立度の低下をもたらす要因の分析を行い,また再転倒をおこす症例の特徴を検討した.そして,これらに基づき退院時指導および入院中の理学療法プログラムについて考察した.

阪神・淡路大震災における高齢者・障害者の避難および避難生活の問題点

著者: 瀬藤乃理子

ページ範囲:P.799 - P.802

 Ⅰ.はじめに

 1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)は,淡路島北部を震源として発生したマグニチュード7.2の都市直下型地震であった.気象台観測史上初めての震度7の激震地区は,活断層に沿って,神戸市,芦屋市,西宮市など広域に及び,全・半壊した家屋が16万棟という壊滅的な被害を与えた.電気・ガス・水道などの「ライフライン」は瞬時に寸断され,通信網,交通機関は麻痺状態となった.半年経過した現在でも,多くの被災者が避難生活を余儀なくされている.

 今回,筆者自身も神戸市内の激震地区で被災した.地震後,被災地で医療ボランティアとして活動するなかで,被災地の厳しい生活環境下で健康状態の悪化や運動機能の低下をきたしている多くの障害者や高齢者に遭遇した.その経験から,阪神・淡路大震災における高齢者や障害者の避難および避難生活上の問題点を報告し,今後の災害時の理学療法士の援助のあり方について私見を述べる.

歩行量と下肢の訓練頻度の関係―1万歩の筋活動に相当する下肢筋の訓練頻度について

著者: 市橋則明 ,   吉田正樹 ,   伊藤浩充 ,   森永敏博

ページ範囲:P.803 - P.806

 Ⅰ.はじめに

 廃用性筋萎縮は,筋の固定などによって生じる局所的要因による場合と全身的な活動性が低下することによる場合に大別される1).近年,特に全身的な活動性低下による廃用性筋萎縮が注目されており,リハビリテーションを受けて歩行自立している脳卒中患者群においてすら,非麻痺側(健側)の筋力低下や筋萎縮などの廃用症状が著しいことが報告されている2-7).このような健側の筋力低下や筋萎縮が存在することは,大川ら2)が指摘するように,現在のリハビリテーションが健側の筋活動量において不足しているためと考えられる.同様のことは,片麻痺患者の健側だけでなく,リハビリテーションの対象となるすべての疾患に当てはまると考えられる.すなわち,骨格筋の萎縮は老化や寝たきりの状態,術後の回復期などにみられる身体活動量の低下によって助長され,そこに共通しているのは筋活動量減少の影響である8)とされている.

 このような観点から,われわれは,廃用性筋萎縮を防止するためには日常生活と同じ程度の筋活動量を下肢筋に与えることが必要と考えた.過去の報告で,われわれは歩行と臥床中によく処方されるSLR,SETTING,膝屈伸動作などの筋活動を比較した結果,歩行1万歩と同じだけの筋活動を得るにはかなりの量の(SLRで1,000回以上)回数を行う必要があり,一般に行われている筋力増強訓練では,筋活動量という面からは不足していることを指摘した9).そこで今回は,入院中の下肢の筋活動の低下を補う運動として,さらに活動性の高い運動を選び検討したので報告する.

雑誌レビュー

“Australian Journal of Physiotherapy”1994年版まとめ

著者: 堤文生 ,   高橋精一郎 ,   橋元隆

ページ範囲:P.807 - P.811

はじめに

 オーストリア理学療法協会が発行している“The Australian Journal of Physiotherapy”は年間4回発行される季刊誌であり,1994年で第40巻を数える.本年は40巻を記念して特別号が編集され,計5号発行された.

 本誌は主に“Leading article”“Original Article”“Book Reviews”“Letter to the Editor”などの記事で構成されている.過去3年間の“Original Article”の論文数をみると,1991年16編,1992年27編,1993年27編と年々掲載数が増加している.1994年記念号を含めると,26編の論文が掲載されている.

 このレビューでは,“Original Article”の26編を,運動学,運動療法,神経生理,測定と評価,調査と統計,物理療法,教育と管理運営,小児関係,その他の項目に分類して紹介する.

 なお,文中( )内の太字数字は論文掲載号を,細字数字は掲載ページ数を示す.

1ページ講座

リハビリテーション関連領域の重要略語集・11

著者: 太田喜久夫 ,   大川弥生

ページ範囲:P.812 - P.813

SIMV synchronized intermittent mandatory ventilation 同期間欠的強制換気.

sin. sine[ラテン語] ~無しで→W/O.

書評

史野根生(編)―「膝のスポーツ傷害」

著者: 石井清一

ページ範囲:P.760 - P.760

 この8月の夏休みを利用して,「膝のスポーツ傷害」を読ませていただいた.史野根生氏が編集して,史野氏を含めた7名の分担執筆による著書である.実は,史野根生氏の長兄は,私とは医学部の同級生である.昭和34年,5年の頃であったろうか,私は医学部の学生時代に大阪の史野家を訪れたことがある.史野根生氏とは,その時以来の顔見知りの仲である.スポーツ医学は私の専門分野の1つであるが,膝の外科は専門ではない.しかし,史野氏の最近の活躍に注目し,大変うれしく思っていたことが,この本を読むきっかけを作ってくれたのである.

ひろば

学生の教授評価

著者: 坂本年将

ページ範囲:P.765 - P.765

 学期末になると,幾つかのクラスで担当教授から質問紙が学生に配られる.「教官が学生を侮辱することはなかったか?」「学生の質問に対し適切な助言を与えたか?」「講義の内容は適切であったか?」「教官の専門領域に偏ることはなかったか?」「提出物の返却,助言は迅速かつ適切であったか?」「成績評価は妥当であったか?」といった質問がずらりと並んでいる.回答は匿名である.

臨床における「精神医学」の重要性

著者: 髙﨑伸一郎

ページ範囲:P.806 - P.806

 本誌第29巻第7号のこの欄で,理学療法学科学生にとっての「精神医学知識の重要性」を強調しておられた田邨文彦氏の文面を一読し,私が現在担当しているある症例との関連で共感を覚えたので,患者との関わりのなかで感じたことなどを,この場を借りて筆を進めていくことにしたい.

学生から

初めての評価から

著者: 藤川孝彦

ページ範囲:P.798 - P.798

 2月の末から,2週間の短期間であったが評価実習を経験した.これまでの机上での学習とは異なり,患者さんを前に緊張と戸惑いと失敗の繰り返しのなかで,初めての評価をすることができた.

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文献抄録

ページ範囲:P.816 - P.817

編集後記

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.820 - P.820

 暑い夏が終ったと思ったら,もう朝夕は肌寒い季節となりました.今月の特集は「病棟訓練」です.

 筆者がリハ医学を研修した初期の頃に御指導を受けたA先生が,いつも病棟に行って患者の生活を時間をかけて観察しておられることに感銘を受け,「生活の場」で患者をみてこそリハ医だという無言の教訓を学んだものでした.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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