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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル29巻12号

1995年12月発行

雑誌目次

特集 廃用症候群と理学療法

essence of the issue

ページ範囲:P.823 - P.823

 本号では「廃用症候群と理学療法」について,1 名のリハビリテーション医と4名の理学療法士にそれぞれの専門分野を背景とした廃用症候群の捉え方と方略についてお述べ頂きました.各先生方の主題となる疾患や障害は異なっていますが,いずれも効果的なリハビリテーションや理学療法を模索する姿がうかがわれます.

リハビリテーション医学における廃用症候群および過用・誤用症候の位置づけ―その予防・治療を中心に

著者: 上田敏 ,   大川弥生

ページ範囲:P.824 - P.833

 Ⅰ.はじめに

 筆者の1人は3年近く前に本誌に廃用症候群・過用症候・誤用症候についての国際的な研究の展望と,われわれによる一連の研究の紹介を行った1).その際の意図としては,当然のことながらリハビリテーション,特に理学療法におけるこれらの症候の予防と治療という極めて実際的な問題にまで触れる予定であったが,紙数の関係でその点については箇条書き的に述べるに止まらざるを得なかった.今回の特集で再び機会が与えられたので,前回触れることのできなかった点を中心に詳しく述べることにしたい.

 全体は2部に分かれ,最初に最近の研究を中心に,前論文で触れることのできなかった点を主として,廃用症候群と過用症候・誤用症候に関する研究を総説する.ついで第2部でリハビリテーション・プログラムにおいて,過用症候・誤用症候を防ぎつつ廃用症候群の予防・治療をすすめるための具体的な方法と技術について述べる.

糖代謝異常患者の局所・全身代謝からみた廃用症候群と理学療法

著者: 木村朗

ページ範囲:P.834 - P.839

 本稿では,筋収縮と糖代謝のメカニズムを示し,動物実験・高齢者や糖代謝障害のヒト・疫学などの研究結果からみた局所と全身での廃用による糖代謝への影響について幾つかの研究を紹介し,理学療法の具体的なプログラム設定の参考となることを目指した.

高齢患者の廃用症候群の側面と理学療法

著者: 岩月宏泰 ,   岩月順子 ,   金井章 ,   中川光仁 ,   太田進

ページ範囲:P.840 - P.845

 Ⅰ.はじめに

 本邦では人口の高齢化に伴い,寝たきり老人,痴呆老人および75歳以上の後期高齢者による要介護老人が増加しており社会的問題となっている.身体的側面からみた老化は成熟期以降の機能低下とみなすことができるが,機能低下の速度は個々人によって異なり,同年齢でもそのバラツキは著しい.このバラツキは,疾病,その人の栄養状態,労働経験,運動の習慣,喫煙,飲酒の状態などで影響を受ける.このため,高齢患者に対して理学療法を実施する際にはその生活背景をも考慮すべきであり,ゴールもそれに合わせたものとなろう.

 ところで,高齢患者の理学療法を進める上で廃用症候群をいかに予防するかが重要なことは改めていうまでもない.廃用症候群は患者に過度の安静や低活動状態を維持させた結果発現するものであり,これは患者の年齢や発症からの経過・期間に関係なく生じるものである.高齢患者では疾病の重度重症化をきたしやすいことや老化による身体機能の低下などで,廃用症候群が若年者に比べ短期間のうちに発現し重度化しやすい.さらに,発現前の健康状態に回復させるのが困難であることが挙げられる.そのため,高齢患者では廃用症候群の予防が最優先されるべきであるが,臨床場面では必ずしも全て成功しているわけではない.

 今回,高齢患者にみられる加齢と廃用症候群の問題を整理するとともに,機能低下を改善させるための方策についても論述する.

神経筋疾患患者の廃用症候群と運動療法

著者: 間瀬教史 ,   居村茂幸 ,   小室透 ,   藤原誠

ページ範囲:P.846 - P.851

 Ⅰ.はじめに

 神経筋疾患患者に対し運動療法を行う場合の大切な注意点の1つは,廃用症候群と過用性筋力低下(overwork weakness)とは隣り合わせの存在にあることである.特に,疾患の急性期や筋力低下による移動能力障害が著しい患者においては,運動が不足すれば容易に廃用を惹起し,逆にわずかな過用であっても組織が壊死を起こしたり,その回復を阻害することとなる.

 過用性筋力低下の現象は,1915年,Lovett1)がポリオ患者で初めて提唱して以来,末梢神経障害,筋疾患,ギランーバレ症候群,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などで,多くの臨床報告がなされている.また,この現象の病理学的変化やその原因についての研究は,動物実験による報告があり,中でも弱化筋に対し運動負荷がもたらす危険性に関する報告が多い.蜂須賀2),Okajima3)の,アクリラミド・ニューロパチーのラットを用い,運動負荷により神経線維の小径化が起こるという報告や,Herbison4,5)の,ラットを用いた,圧挫による末梢神経障害の神経再生初期に対する運動負荷が,筋形質や筋原線維蛋白の減少をきたす報告がそれである.

 一方,逆に過度負荷による影響を考える余り,負荷が過小となり,廃用性筋萎縮を起こし,回復可能な筋力を回復させ得ない場合もありうる.また,神経筋疾患患者に対する運動負荷は,低頻度・高負荷な運動より,高頻度・低負荷な運動が用いられることが一般的なようだが,近年,比較的強い抵抗運動によっても,筋病理学的に悪影響を及ぼすことなく,筋力増強効果が得られたとの報告6)もなされている.

 筆者らは,神経筋疾患患者に対し積極的な運動療法を行い,その有効性について報告してきた.それらに基づき,文献的な考察も加えながら,現在当院で用いている神経筋疾患患者に対する運動負荷上の指標や具体的な運動療法について述べる.

在宅障害者の廃用症候群と理学療法

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.852 - P.857

 Ⅰ.はじめに

 在宅要介護老人の訪問指導を実践してきた筆者の実感としては,人間が直面した苦痛にどこまで耐え,かつ,その苦悩を緩和し,問題を解決するためにどのように知恵をはたらかせることができるものか,をそれぞれが実験しているようにさえみえる.

 考えてみると,そもそも障害者のリハビリテーション(以下「リハ」と略)とは,今まで不可能とされていたことへの挑戦であり,知恵を振り絞って可能性を拡大し,それを実証することであろう.

 在宅障害者のリハは病院・福祉施設からの退院・退所の受け皿機能であり,したがって,入院・入所時のリハケアが大変よくみえる場でもある.入院・入所時の理学療法が,教科書どおりの理学療法技術の提供で終わらずに,どこまでその人の在宅生活を想定したケアや指導がなされてきたのかが在宅障害者のリハ目標達成の鍵を握っているといっても過言ではなく,その中核は廃用症候群の予防にある.

 在宅障害者のリハ援助目標は,QOL(生活の質)向上を目指す基盤となる日常の実生活の定着化にあり,以前とは異なる障害をもった新しい生活スキルをいかに実生活に般化し,それが家族・介護者との生活とも融合し,しかもそれが継続可能な状態になることにある.すなわち,“QOL向上のための生活指導”が実施されるが,その生活指導内容には機能維持のための“廃用症候群の予防”対策が組み入れられていなければならない.

 理学療法士(以下PTと略)はその専門性を駆使し,残存機能を十分に生かし,かつ,可能な限り自立度が高い,しかも,安楽に安全にできる‘生活メニュー’を提示することによって,本人・家族が決定できるような情報を与えることになる.

 在宅障害者に重要とされている,いわゆる維持的リハとは,廃用症候群の予防を,生活者としての人間の基本的欲求に根ざした形で生活を組み立てていく作業でもある.

とびら

先天性股関節脱臼治療の流れに思う

著者: 宮崎泰

ページ範囲:P.821 - P.821

 先日,私の勤めている心身障害児総合医療療育センターの坂口亮所長の「先天性股関節脱臼治療の流れ(過去・現在・未来)」と題する講義に参加した.坂口所長は,先天性股関節脱臼の治療には古代ギリシャのHippokrates以来の長い歴史があることを前置きして,

 1)1895年頃にLorenzによって確立され,当時は絶賛された治療体系(整復―てこ作用による瞬間的な力による整復,固定―股関節90度屈曲・90度外転のLorenz第1肢位,後療法―固定後の拘縮除去)が,半世紀後の遠隔成績の発表では,骨頭変形や股関節痛による悲惨な機能障害を引き起こしていること,

入門講座 在宅障害者を支援する社会資源の活用・6

在宅介護支援センターの活用

著者: 伊藤隆夫

ページ範囲:P.859 - P.864

 Ⅰ.はじめに

 これまで在宅の高齢者・障害者を取り巻くさまざまな問題点をめぐって,保健・福祉・医療の連携の必要性が声高に叫ばれてきた.確かにそれぞれの分野での在宅を中心としたサービスのメニュー,いわゆる社会資源に関しては一定の量的な拡大が図られてきたといえる.しかしながら,そういった社会資源を,適切な時期に,適切な種類のサービスを経時的な変化に対応させながら享受できるシステムについてはまだまだ十分に整備されているとはいえないのが現状と思われる.

 とりわけ医療の分野においては,これまで病院を中心とした施設ケアに重点が置かれ,在宅ケアは保健・福祉の役割といった認識が根強かったために,その挟間で施設(病院)から在宅生活へのソフトランディングに失敗し,十分なサービスの活用がなされないまま地域に埋もれていったケースが多く存在していた.つまり,地域を活動の基盤としたサービスのコーディネートを専門とするシステムの必要性が叫ばれてきた.そして,在宅介護支援センターはこのような役割を積極的に担う機関として登場してきたといえる.

プログレス

高齢者のための新しい体力測定法―「生活体力」の測定と評価

著者: 永松俊哉

ページ範囲:P.869 - P.869

 1.はじめに

 高齢者の体力を測定評価する際には,垂直跳びや反復横跳びなどの体力要素的項目から成る壮年体力テストがしばしば用いられる.確かに,このような体力測定法は優れた運動能力を有するごく少数の高齢者には有意義と思われる.しかし,高齢期においては,自立した生活を営むための身体的能力がどの程度保たれているのかが生活の質(Quality of Life)を規定する要因として極めて重要と考えられることから,大多数の典型的な高齢者を対象に運動能力としての体力要素を測定評価することにどれほどの意義があるのかは疑問である.そこでわれわれは,高齢者において日常生活で頻繁に行われる動作を自立して遂行しうる身体的能力を保有することが肝要であると考え,高齢者に必要な体力を「自立した日常生活を送るための身体活動能力」と定義した.そして,そのような能力を「生活体力」として捉え,その能力を客観的に測定評価しうる新しいフィールドテストの開発を行った.

理学療法草創期の証言

理学療法教育事始―教育水準

著者: 田村美枝子

ページ範囲:P.870 - P.870

 理学療法草創期の証言を既に多くの方々がなされていて,私のは蛇足かなと思いながら教育水準について書くことにした.

 日本で初めての養成校国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院10周年誌の座談会で,上田敏先生は下記のように語っておられる.

夢中で走ってきた24年

著者: 高橋寛

ページ範囲:P.871 - P.871

 私の職場・太陽の家は,1965年10月5日,身体障害者(以下,身障者)に就労の機会を提供するために設立された職業リハビリテーションの場である.当初,17名の身障者(主に脊損者)でスタートし,1984年に愛知・太陽の家,1986年に京都・太陽の家を開設し,現在ではオムロン,ホンダ,デンソー,ソニー等との共同出資会社の社員を含め1,594名(うち身障者1,060名)を擁するまでになっている.

 私は1968年九州リハビリテーション大学校の理学療法科に入学.太陽の家作りをモデルにした水上勉の小説「車椅子の歌」や高校の保健体育で簡単な説明がありリハビリテーションに興味をもったからである.身障者福祉の分野に進みたいと思っていたので,どう転んでも生活ができて役に立つ資格が欲しかった(当時は,奇特がられるが飯の食えない世界といわれていた).ほかの大学には興味がなく九州リハ1校だけを受験した.入学までの期間に「太陽の家」を見学して感銘を受け,卒業後の就職先として太陽の家で働こうかと思いながらの入学であった.

クリニカル・ヒント

リウマチ性頸椎症について

著者: 吉成俊二

ページ範囲:P.872 - P.872

 1.リウマチ患者の起き上がり動作と頸椎不安定性

 ある程度進行したリウマチ患者には,上肢の支持性が悪く,膝関節の拘縮などのために仰臥位から起き上がる場合,下肢を持ち上げ,振り下ろす反動で起き上がるという動作習慣がみられる.これが頸椎不安定の発生に関与しているといわれているが,具体的な報告はあまりみられない.そこで,当院外来通院中の古典的RA患者105例(クラス2-62例,クラス3-36例,クラス4-7例,ステージⅠ-11例,Ⅱ-27例,Ⅲ-27例,Ⅳ-40例)の環椎歯起間距離(X線側面像から3mm以上を環軸関節前方亜脱臼+)と,下位頸椎病変(2mm以上の前方辷りまたは3mm以上の後方たりを+)を起き上がりパターンの違いで分類した.

講座 車いす・義肢・装具の臨床知識・6

義足装着訓練

著者: 畠中泰司 ,   近藤愛美 ,   萩原章由 ,   安藤徳彦

ページ範囲:P.873 - P.879

 Ⅰ.はじめに

 義足装着が可能な下肢切断者のリハビリテーションで重要なことは,第1に切断者の全身状態と断端が良好であること,第2に適切な良い義足が製作されること,第3に十分な義足装着訓練が行われることである1,2)

 理学療法士は,義足装着訓練のための身体的準備,断端訓練,歩行訓練,義足装着での種々の活動が獲得できるよう指導,援助しなくてはならない.

 悪性腫瘍や循環障害など疾病により切断を余儀なくされる場合は,切断前から患者と接することが可能であり,リハビリテーションチームメンバーの1人として,術前の状態を把握し,術後のことを想定した訓練を行っておくべきである.術後の理学療法は義足装着前訓練と義足装着訓練に大別され,前者は主に断端の関節可動域訓練や筋力強化訓練等であり,後者は義足の装着,義足歩行前訓練,義足歩行訓練,応用動作(ADL)訓練である1-8)

 義足装着訓練は,義足装着の可能性のある全ての下肢切断者に必要であるが,切断部位や義足の種類によって質的にも量的にも異なってくる.そこで今回は,これまでわれわれが事施してきた,青壮年の標準的な大腿切断者で全面接触式ソケット,遊動膝継手を用いた場合の義足装着訓練を中心に系統的に整理して,ポイントとなるところに重点をおいて記述することとする.

1ページ講座

リハビリテーション関連領域の重要略語集・12

著者: 太田喜久夫 ,   大川弥生

ページ範囲:P.880 - P.881

U ①unit 単位.②urine 尿.③urobilinogen ウロピリノーゲン.④urea 尿素.

UA ①unstable angina 不安定狭心症.②uric acid 尿酸→Ur Ac.③urinalysis 尿検査.

あんてな

テレビ電話による“在宅介護”ネットワーク―東京医科歯科大学との共同研究

著者: 小城恭子

ページ範囲:P.882 - P.883

 東京・板橋区おとしより保健福祉センターは,平成3年の開所以来,福祉・保健・医療の総合的ケアサービスを提供し,在宅ケアシステムの充実を図ってきた.その支援システムの1つとして研究,実験的に活用しているのが,動画カラーテレビ電話である.

 そこで,種々の在宅支援メニューの1つとしてテレビ電話がどのように組み込まれ,どのような効果を挙げているか,事例を紹介する.

特別企画

<座談会>第12回世界理学療法連盟・学会から学んだこと―次期日本開催への抱負をまじえて

著者: 中山彰一 ,   中山孝 ,   木村貞治 ,   内山靖

ページ範囲:P.885 - P.892

 内山(司会) それでは座談会を始めさせていただきます.本日は,今年6月,ワシントンDCで行われた学会に参加され,次回日本での開催の準備に係わっている先生方にお越しいただいております.

 世界理学療法連盟(WCPT)というのは,1951年に11か国が集まって作られまして,1953年に第1回の学会がロンドンで行われています.その後3年ないし4年ごとに,ニューヨーク,パリ,コペンハーゲン,メルボルン,アムステルダム,モントリオール,テルアビブ,ストックホルム,シドニー,ロンドン,そして今回の学会で12回を数えるわけです.したがって,アメリカでは第2回のニューヨークに続いて約40年ぶりの開催になったわけです.

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文献抄録

ページ範囲:P.894 - P.895

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.898 - P.898

 ここ関東の鮮やかな紅葉も,歩道を舞い乱れるようになりました.冬籠りというには慌ただしい毎日ですが,いそが(忙)しくとも心は亡くしたくないと思います.

 本日,予定通り29巻12号をお届け出来ました.恒例ながら今年1年を振り返りますと,阪神・淡路大震災や喜界島での大地震に加えて,地下鉄サリン事件や沖縄問題など自然界と社会の双方で極めて大きな事件が起きました.一方,理学療法士界では,協会設立30周年記念式典が行われ,私の所属する県士会でも法人化が認められた年でした.過去の歴史的認識とともに,将来を見通した議論がなされるこのような契機を十分に生かして,よりよい方向へ進まなければなりません.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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