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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル29巻3号

1995年03月発行

文献概要

特集 疼痛

疼痛の生理

著者: 横田敏勝1

所属機関: 1滋賀医科大学生理学第一講座

ページ範囲:P.148 - P.154

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 健康であった人に突然襲ってくる痛みは,警告信号である.また,体が傷付いてしまった後の痛みは,安静の必要性を思い知らせて,治癒の促進に役立つ.

 最近,我が国で先天性無痛症患者の会が発足した.この病気は末梢神経が痛覚線維を欠く先天異常である.この病気をもつ人たちは,歯が生えると舌を傷付けてしまう.無理な関節運動にブレーキがかからず,剥離骨折を起こしやすい.また骨折があるのに平気で歩き廻り,治癒を妨げる.やけどを負っても肉の焦げる臭いが出るまで気付かない.傷口が化膿しても敗血症の全身症状が出るまで放置される.カナダから数10年前に報告された症例は痛みを感じない点を除けば,感覚機能や精神活動は正常で,知能指数も高かった.また周囲の人々も十分気を付けていた.それにもかかわらず10代の後半から20代の前半にかけて,関節や脊柱の変形,変性がしだいに目立つようになり,28歳の若さで気管支肺炎のため死亡した.この患者の場合,長時間立っているだけで脊椎骨に負担がかかり,脊柱の変形,変性が現れた.また同じ姿勢で臥床していると,容易に褥瘡が発生した.低レベルの信号が痛覚線維を伝わって末梢から送られてくるだけで,生体は体位を変え,潜在的に有害な持続性過負荷から身を守っている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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