icon fsr

文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル29巻3号

1995年03月発行

文献概要

入門講座 学術研究方法の手順・3

シングルケースパラダイム;その方法と適応

著者: 網本和1

所属機関: 1聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部

ページ範囲:P.189 - P.193

文献購入ページに移動
 Ⅰ.初めに;群研究の限界

 理学療法における臨床研究を進める際に,従来しばしば症例を群として扱い,その対象の数が多ければ多いほど良いと信じられてきた,学会場で聞かれる逃げ口上の典型として「今回は症例数も少なく今後はもっとふやして検討したい.」というのがある.かつて筆者もつい口を滑らせた経験があるが,これは対象数が多いことが良いということが前提されているのである.しかしこれが誤りとは言わないまでも,危険な信念であることは例えば相関研究において,0.3から0.25程度の相関係数をもって(症例数が多いと)有意な相関を得た,とする類の報告が跡を絶たないことからも理解されよう.

 基本的には症例群をランダムに二つ以上の群に分け,理学療法の治療,操作の効果を調べてみようとするものが群研究であり,その症例数の設計は予測される結果の違いの大きさにかかっている.すなわち違いが明らかであることが知られているときには,症例数は小さく,わずかの違いしかないか変わらないかもしれない場合には大きくなる.さらに治療者が良いと考えている治療を一方には施行しないというのは倫理的に問題があること,および完全に同質な群を構成するのは事実上困難であることなどが,群研究の限界として指摘されている2,4,10)

 そこでシングルケースパラダイムの登場である.この方法がパラダイムと呼ばれるのは決して大袈裟ではなく,臨床研究が「生物-医学モデル」から「生物-心理-社会モデル」へと移行しつつあるという西村12)の指摘のとおりであり,この流れにおいて方法論的貢献として位置付けられている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?