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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル29巻5号

1995年05月発行

文献概要

入門講座 学術研究方法の手順・5

英文抄録作成

著者: アンドリュー1

所属機関: 1広島大学医学部保健学科理学療法学専攻

ページ範囲:P.323 - P.327

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 Ⅰ.初めに

 邦文の研究論文には,必ず欧文の抄録が文末についている.研究を行なって原稿にまとめることになれば,欧米の科学者たちに認められるためにという目的であろう.昔,科学者は自分の分野に関しての研究論文をすべて読もうと思えば不可能ではなかった.その時代,英語,仏語,独語,伊語などを読める科学者が多く,科学的な好奇心があれば,幾つかの言語を学ぶことを苦にしないという姿勢があったようである.しかし一方,その時代には研究成果を,何らかの形で欧文で発表しないと,評価されないとみなされる傾向があったためでもあろう.

 現在では,欧文よりも英文に限定されるという時代になった.一方,情報量が激増してきたため,科学者が自分の分野の最新の動向を知るために関連の研究論文を読み尽くすということが物理的に不可能になった.また,アジアで発行されている英文雑誌があるとのことで,母国語による研究論文への関心は皆無に近いと思える.日本人の科学者は,そこでもし邦文雑誌のみに投稿すれば,それを目にするのは日本人の読者だけに限定されることになる.たとえ英文抄録を添付することによって,その論文に関心を抱いた外国人が別刷りを入手したとしても,その研究内容が正確に伝わる確率は小さい.要するに,邦文の研究論文の文末に英文抄録を添付する目的は,日本人に対して学問的な印象を与えることにすぎない.

 この悲観的な現実にもかかわらず,良い英文抄録を邦文の文末に加えることはそれなりの意義もあると思う.良い英文抄録は,今後探索されうる情報になる可能性があるからである.世界中の多量な情報が簡単に手に入るようになりつつあり,現在,国と国との間の距離が時間的にみて短くなってきている.しかも情報は単に文章によってのみではなく,画像や口頭,その他の手段が総合された形で伝達され内容豊かでかつ便利に使えるものになりつつある.英語はこのような疎通手段として通用することから,科学研究の新しい情報伝達のために良い英文抄録という「前菜」の果たす役割は将来ずっと大きくなると考えられる.例えば,良い英文抄録が国際ネットワークに入力されると,キーワードなどによって,関心のある人々が簡単にその内容を知ることができるので,その人々が論文の著者に電子郵便を送信し,対話による直接の情報交換が可能になるのである.

 ただし,これは良い英文抄録を前提とする話である.

 日本でなかなか良い英文抄録にめぐり遭えないことにまつわる一つの問題は,英文抄録の執筆者は国際ネットワークのような機関を意識していないことである.もっとも,邦文雑誌に邦文原稿を執筆するが,研究論文の投稿規定により仕方なくその雑誌のため英文抄録を書いているのが現状ではないだろうか.そのような意識で果たして良い英文抄録を期待することができるであろうか.

 そしてもう一つの問題は,英語を上手に書くことのできる日本人が少ないことである.基本的には中学校からの英語教育改革が必要かもしれないが,ここではそのような繁雑な問題を論じる余裕は無い.しかしすでにお粗末な英語教育を受けてしまった大人でも,これから述べる幾つかの工夫で,充分に通じる英文抄録を仕上げることは可能なのである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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