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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル30巻11号

1996年11月発行

文献概要

特集 特別養護老人ホームにおける理学療法

リハビリテーションをめぐる特別養護老人ホームの現状と課題

著者: 兼頭吉市1

所属機関: 1特別養護老人ホームこぶし園

ページ範囲:P.766 - P.773

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 1.はじめに

 この報告を私の稚拙な体験から書き始めることをお許しねがいたい.

 私が特養こぶし園の施設長になって14年になる.この間,忘れることのできない多くの感動的な体験を持った.

 悲しい出来ごとといえば,何といっても入居者との別れであった.こぶし園ではビハーラの提唱者田宮仁教授の指導の下に早くからターミナルケアに力を入れてきた.その人にとって死は人生の総決算であるように,われわれ老人ホームの職員にとってターミナルケアは処遇の集大成を意味する.私はつねつね職員と共に悔いのないケアを心がけてきた.

 今,振り返って悔やまれるのは,手足が拘縮してエビのように曲がったご遺体や,骨にまで達する大きな褥瘡の傷跡の残ったご遺体をご家族に引き渡さなければならなかったときのことである.その大半は入所前の発症によるものであったにせよ,もしわれわれが適切なリハビリや治療を実施していたなら,その人の人生はもっと違ったものであったかもしれないと思われた.

 嬉しく楽しい思い出もなくはない.その1つはOさんのことである.Oさんは国立療養所○○病院から当園に入所された.療養所からの申し送りによると,Oさんは脳血管性障害の後遺症で,両下肢麻痺,失語症,性格は自己抑制がきかず,感情暴発,奇声をあげ極めて処遇困難なケースとのことであった.

 担当寮母は特別にリハビリの専門的訓練を受けた者ではなかったが,Oさんの個性の尊重に留意し,困難ケースであるとの先入観に捉われないように努めた.

 11月中旬,初雪が降って園の裏手,通称どんぐり坂の檜林が幻想的な雪景色に変わった.Oさんの介護に当たっていた担当寮母が思わず,「Oさん,雪よ!キレイだわ」と叫んだ.その時,Oさんが「ユキ」と応えたのである.

 Oさんが話せる.言葉が出たと感動した寮母は早速リーダーと協議し,言語訓練を中心とするリハビリ計画を立て,家族には毎日,Oさん宛て電話で話しかけ,回答を通じて発語の練習に当たってもらい,同室の入居者には朝夕の挨拶などの声かけによる協力を依頼した.これに併せ,残存している上肢の機能を活用して車椅子が操作できるような訓練をも実施した.

 単語ながらも発語が可能となり,車椅子の操作も可能となり,隣室を訪ね,食堂に出て職員や入居者とコミュニケーションをもつことによって社会性が助長され,抑圧されていた欲求不満も解消され,感情暴発,奇声などの問題行動もなくなっていった.

 私の思い出は期せずして2つともリハビリに関連するものであった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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