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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル30巻5号

1996年05月発行

雑誌目次

特集 姿勢調節

essences of the issue

ページ範囲:P.295 - P.295

 理学療法では多岐にわたる姿勢調節の障害を有する患者を対象としており,本特集では合目的な随意運動と表裏一体の関係にある広義の姿勢調節について障害学の枠組みからその理解を深めることを目的とした.

 ご執筆は,姿勢調節についてご造詣の深い臨床(フィールド)に精通した先生方にご論文をいただき,誌上討論会による提言も試みました.

エディトリアル/理学療法と姿勢調節

著者: 内山靖

ページ範囲:P.296 - P.297

 1.はじめに

 姿勢に関連した研究は,文化人類学・教育学・工学・体育学・医学を始めとする多くの分野で積極的に取り組まれているテーマの1つで,姿勢の定義や扱う範囲は各々の領域の指向性により少しずつ異なっている.ヒトの姿勢調節は,Sherrington,Magnus,Baranyらによって平衡反射を中心とした生理機構の基本的な枠組みが整理され,視覚・体性・前庭を中心とした感覚入力に基づき小脳-脳幹系を始めとした中枢神経系で統合された情報が眼・頸・躯幹・四肢の筋へと出力される一連の流れとして理解されている.さらに近年では,動作や学習を含めた全体の系のなかで姿勢が捉えられるようになり,わが国の中心的な学術団体の1つが前庭研究会から平衡神経科学会へと名称が変更されたことからも,その流れが認識される.

 理学療法では多岐にわたる姿勢調節の障害を有する患者を対象としているが,評価-治療の枠組みや指標が十分に吟味されているとはいえず,特に生理・神経学的知見に比して障害学的概念が脆弱な印象を拭い去れない.そこで本特集では,理学療法で扱う姿勢調節の概念を吟味して今後の指向性を模索することを大きな狙いとした.本小論でその概観を眺めた後に,現在までに提唱されている定性・定量的な計測方法と姿勢調節の加齢変化を整理し,同時に臨床運動学的な接近を含めた疾患・障害の解析と運動療法への展開を促すこととした.また,脳血管障害後片麻痺の姿勢調節を正面から取り上げ,理学療法における姿勢調節の相対化と意義についても思考した.

姿勢評価法

著者: 米田稔彦

ページ範囲:P.298 - P.304

 1.はじめに

 姿勢という語を広辞苑(岩波書店)でひくと,からだの構え,とある.また,日本語大辞典(講談社)でみると,からだつき,すがた,からだのかまえ,とあってfigure,postureの英語訳が記されている.運動は,姿勢が時間的に連続して変化したものであり,体と重力方向の関係,体の動きの方向,また体の各部分の相対的位置関係として記録されるものを表す22)といわれている.すなわち,姿勢は運動の要素であるとともに,あらゆる身体運動の出発点となるものであり,運動学的にも運動療法上も極めて重要なものである.パーキンソン病の4徴候の1つにあげられるように姿勢調節障害を呈する疾患は数多く,姿勢および姿勢調節を的確に評価することは,理学療法施行上不可欠である.

 今回与えられたテーマは,姿勢評価法であるが形態的・静的な姿勢の評価ではなく,運動との関わりを考慮した姿勢評価について述べる.特に坐位姿勢から立ち上がり動作を経て立位姿勢,および歩行の前段階としての立位での体重心移動の評価について論じたい.形態的・静的な姿勢の評価には,種々の方法があるが,それらについては成書を参照していただきたい.

姿勢調節の加齢変化

著者: 種田行男

ページ範囲:P.305 - P.310

 1.はじめに

 ヒトの姿勢調節機構は視覚系,前庭迷路系,および固有感覚系などからの求心性情報に基づいて立ち直り反射や四肢・躯幹の共同運動などによって制御されている.姿勢調節能力の評価法はいくつかあり,例えば,Romberg姿勢での重心動揺の測定は主に前庭迷路系の機能を評価する平衡機能検査の代表的なものである.一方,固有感覚系については外乱(床面の移動や傾斜)に対する姿勢保持反応を観察する方法1-2)がよく用いられている.したがって,ひとくちに姿勢調節能力といっても,実施した測定法がいずれの制御系の機能を最も鋭敏に反映する指標であるかを十分に理解した上で検討する必要があろう.

 発育発達と老化の過程は発育期,成熟期,そして退行期に分けられる.生理機能には運動機能,感覚機能,内臓機能,脳・神経機能,精神機能などがあり,それぞれの機能によって加齢変化の過程が異なることが知られている.姿勢調節を主に司る脳・神経系の機能は,ほかの機能に比べて比較的高齢まで維持された後,老年期においてその機能低下が著しいことが指摘されている.そこで,本稿では60歳以上の高齢者を対象にして姿勢調節の加齢変化について検討するものである.

 まず,高齢者を対象にして行う生理的検査や測定項目は,彼らの運動能力や理解力を十分に配慮した上で選定することが望まれる.例えば,測定動作の難易度が高いために測定の成就率が極めて低いもの,および測定が複雑なために対象者がその内容を十分に理解できないものなどは高齢者の測定として相応しくないであろう.さらに,青壮年者においては測定値の信頼性が高くとも,同じ測定を高齢者で実施した場合に測定値に著しい偏りが起こったり,再現性に乏しいものなども不適当な測定法と判断される.一般的に実施されている姿勢調節能力の測定法のなかに,これらの条件を満たしながら,高齢者の加齢現象および平衡障害を検出し得るものがどれほどあるのだろうか.また,その測定精度はいかほどであろうか.臨床場面における平衡機能検査の意義はめまい・平衡障害の有無やその程度の把握,疾患経過の観察,病巣局在診断などと考えられる.一方,健康科学においては高齢者の姿勢調節能力の維持・向上を図ることが第一の目的であり,加齢に伴う姿勢調節能力の変化を捉えて,その変化をもたらす要因を明らかにし,その上で適切な予防対策をたて,その効果を正確に判定することが求められる.そのためには姿勢調節能力の変化を鋭敏に検出し得る指標を明らかにすることが重要な条件となる.

神経疾患と姿勢調節

著者: 望月久

ページ範囲:P.311 - P.315

 1.はじめに

 本稿では姿勢調節の基本的な一側面として立位における姿勢保持調節(バランス機能)を取り上げ,力学的安定性の観点からバランス機能の操作的定義化およびバランス機能を規定する要因について検討する.次に,その考え方に基づいて,神経疾患患者におけるバランス機能障害について考察し,最後に脊髄小脳変性症およびパーキンソン病の運動療法について言及したい.

[誌上討論]脳血管障害後片麻痺と姿勢調節

著者: 吉元洋一 ,   冨田昌夫 ,   吉尾雅春 ,   内山靖

ページ範囲:P.316 - P.330

 内山 本誌では初めての試みとなりますが,これから誌上討論会を始めさせていただきます.

 理学療法では実に多くの対象患者が姿勢調節に関わる障害を有しています.このうち脳血管障害後片麻痺は,四肢の随意性の低下に加えて様々なレベルでの姿勢調節障害が潜在的あるいは顕在的に認められます.

 そこで先ず初めに,「脳血管障害後片麻痺の理学療法全体における姿勢調節(障害)の位置づけ」について先生方のお考えをうかがいたいと思います.その際に,姿勢調節の概念をどのような意味や範囲として捉えているのかもお聞かせ願えると幸いです.

とびら

生身の人間―原点をみつめて

著者: 北村百江

ページ範囲:P.293 - P.293

 蓮華草が五月晴れの下で紅紫色の花を輝かせて存在を主張しています.市街地の拡大に伴って一面に広がっていた蓮華畑も縮小を余儀なくされてきました.路地や広場で遊びまわっていた子供達の姿が見られなくなって久しくなります.出生数の減少に影響されて小児関係施設も様変わりし,内容の充実化・質的変化を表看板に各地域に療育センターや通園センターが根を広げつつ地道な療育活動を進めていることは周知のとおりです.

 私の職場は総合病院で大勢の大人に混じって出生後数か月の子供も来室します.産婦人科から小児科に転床し地域に繋がる前の親子です.時間も場所も小児専用というわけにはいかず,室内への目配りからスクリーンで区切ることもできずに治療をしています.まず待合室で「可愛いですね,生後どのくらいですか.」「どうなさったんですか.」と話しかけ,治療中に泣くと「可愛想に.」とか,隣りの治療台からあやしてくれたり,親子が帰ると「あの子はどうしたの.」「あんな小さい時からリハビリするの.」などと理学療法士に質問してきたりするのです.不安だらけで親になったばかりでもある母としては,未熟な心にどのように響いているのでしょうか.

講座 社会医療経済学・1

社会変動と医療費政策

著者: 池上直己

ページ範囲:P.331 - P.337

はじめに

 高齢社会への対応,医療技術の高度化,患者の要求水準の向上などにより,わが国の国民医療費は確実に増加の一途をたどることになろう.その一方で,昨今の経済事情を背景とした財源不足を理由として,「医療費の適正化」を課題とした種々の施策が今後強められることは確かである.そうした施策のなかには,医療機関や医療関連産業の経営を悪化させる要因が数多く含まれている.逆にいえば,医療関係者は,新しい環境下の政策の流れを十分に知悉して,その流れに乗った総合的な対応を考える必要に迫られているといえよう.

 本稿では,急速な社会変動のなかで日本の医療費政策はいかなる方向へ向かおうとしているのか,今後の展開を考えてみることにしたい.

クリニカル・ヒント

パーキンソン病患者における目的動作獲得・遂行のためのきっかけ動作

著者: 外山治人

ページ範囲:P.338 - P.339

 1.はじめに

 パーキンソン病患者では“しているADL”と“できるADL”が分離しやすい1)といわれている.運動療法時には刺激や指示を与えることで可能な動作も,運動療法時以外の場面では不可能となることが多い.筆者はこのような患者に対し,獲得させたい目的動作に応じた“きっかけとなる動作”を指導することで,運動療法時以外の場面においても,目的動作が可能になった症例を経験したので,これまで指導してきた“きっかけ動作”を紹介する.

Treasure Hunting

人との出会いが一番の宝物―大峯三郎氏

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.341 - P.341

 大峯三郎氏は昭和22年北九州市のお生まれで,開校間もない九州リハビリテーション大学校を昭和45年にご卒業.理学療法士としての最初の就職先・兵庫県立リハビリテーションセンター中央病院では澤村誠志先生,三橋保雄先生らの薫陶を受け,自らのリハビリテーション観の形成につながるような貴重な経験をされたという.兵庫県立リハセンターに9年間勤務されたあと,昭和45年,産業医科大学病院開院と同時にリハビリテーション部に勤務のかたわら,現在,橋元隆(九州リハ大学校)会長の下,福岡県理学療法士会の副会長として若い会員の育成に力を注いでいる.

あんてな

第31回全国研修会の企画

著者: 吉村静馬

ページ範囲:P.342 - P.343

 理学療法士の学術研鑽の一環として毎年開催されている全国研修会も第31回を数え,今年は10月17日(木)~18日(金)の2日間,山口県山口市での開催です.メインテーマを「理学療法評価の再考」とし,治療に結びつく評価のあり方について各方面の先生方から実践報告や問題提起をしていただき,それらが参加者の日々の臨床や教育・研究にダイレクトに生かせればという意図で企画しました.

 また,理学療法における具体的評価およびチームアプローチに必要な評価のあり方についても検証し,対象者の生活の質(QOL)の向上につながる方法論を模索することも狙いとしました.

 理学療法士の誕生より早30年.従来は医療機関での理学療法が中心的な位置を占めていましたが,近年,ノーマライゼーション思想と高齢化社会の到来により,理学療法士の職域は,医療を軸としながらも,保健・福祉,あるいは行政機関などへと拡大していく傾向が強くなってきています.そして,われわれが行う評価自体も医学的側面にとどまらず,能力障害,社会的不利を含めた幅広い評価が必要になりつつあります.そこで今回の研修会では,「評価」にスポットを当て,様々な角度から理学療法を考えてみることにしました.

プログレス

ショートステイと老人の不適応

著者: 大橋美幸

ページ範囲:P.344 - P.344

 1.ショートステイとは

 ショートステイとは,「在宅寝たきり老人などを介護している者が一時的に介護が困難になったり,介護疲れで休養を要する場合に,老人を特別養護老人ホームなどで保護する(imidas '95)」ことをいう.原則として,老人を預かる期間は特別養護老人ホームで7日間,老人保健施設で14日間である.

 当老人保健施設でも,ショートステイは,7割が介護者の休養,残りの3割が困窮時の対応(冠婚葬祭や家族の旅行など)のために利用されており,毎月,ショートステイを繰り返すといった定期的な利用者も少なくない.しかし,実際にショートステイをする老人の立場からみると,このサービスの利用は並大抵のことではないのである.

入門講座 苦労する科目の教育実践・5

地域理学療法 教育理念の明確化が前提/地域リハ教育でリハ・マインドを育てたい

著者: 伊藤日出男 ,   米田睦男

ページ範囲:P.345 - P.355

 Ⅰ.はじめに

 理学療法士養成校において地域リハビリテーション(以下,地域リハ)あるいは地域理学療法に関するカリキュラムを検討する際には,授業の組み方や内容も重要だが,何よりも,どのような理学療法士を育成したいのか,という教育理念を明確にしておくことが重要であろう.医療機関において即戦力となるような理学療法士を育成するのか,それともグローバルな物の見方ができて,将来どの分野にも適応して伸びてゆけるような理学療法士を育てるのか,といった養成校独自の教育理念があると思われる.そして,各教師がそのような独自の教育理念をふまえた共通の理解をもって教育に当たることが,良い教育の前提となるように思われる.

 大多数の養成校がそうであるように,3年間という限られた養成期間のなかで十分な内容を盛り込むことは困難であり,どこまで卒前教育において行い,どこからは卒後教育に委ねるかという区分をある程度明確にすることが必要である.地域リハの授業においても,地域保健・福祉領域の数多くの問題を取り上げて学生に講義しようとしても,大きな効果は期待できないだろう.筆者の経験から,学生にはむしろ地域で活躍する理学療法士や保健婦の実際の業務を見せ,対象となる人々とじかに接触させるほうが有効である.こうした経験は,地域リハに対する学生の動機づけを促し,物事を考える枠組みを広げるきっかけとなるものと思われる.

 本論においては,教育の実践について述べるのが目的であるので,弘前大学医療技術短期大学部において筆者自身が経験してきた地域リハの授業を振り返って,いくつかの問題について意見を述べてみたい.

1ページ講座 関連領域の法制度・5

臨床検査技師

著者: 城野晃

ページ範囲:P.356 - P.356

 19世紀末の医学界の潮流は,実験諸科学の急速な進歩を背景に生理学上の成果を医学に結合させようとする“科学的臨床医学”がドイツを中心に発展した.“科学的”とされる理由は,○適用すべき病気についての有効な分類をもつこと,○正確な疾病記述を行うことであった.このため,①細菌学,病理学,病理形態学,生化学,X線学などの成果を役立てる,②治療に際しては免疫学,血清学,麻酔術,無菌手術法などの成果が動員された.

 近代医学の臨床検査は,この時代の科学技術で実証される“科学的臨床医学”にその姿を求めることができるといえよう.

特別企画 これからの理学療法士に期待すること(1)

<医師の立場から>理学療法士へのお願い/<医師の立場から>医療の協業者としての期待/<医師の立場から>脳の世紀にふさわしい運動療法を目指して―脳の可塑性と片麻痺への運動療法/<義肢装具士立場から>相互理解を深めたい/<看護婦の立場から>障害者の可能性を引き出して

著者: 初山泰弘 ,   前田真治 ,   川平和美 ,   井口万里 ,   小林芳恵

ページ範囲:P.357 - P.363

 東京オリンピックの翌年,昭和40年,主任教授から,Y国立病院内に整形外科を新設するためと,国立Y大学に特殊教育学科が開設されるので,そこの非常勤講師をも兼ねて赴任するようにと命令されました.それまでは,理学療法との関連は,整形外科医として,M日赤のポリオセンターや整肢療護園(現・心身障害児総合医療療育センター)で術後患者の装具製作や大学の衛生看護学科卒業生らと共に機能訓練に加わった程度でした.

 Y国立病院では外科とともに理学診療科があり,そこにはマッサージ師のS氏が勤務していました.その年は理学療法士・作業療法士法の制定された年で,経過措置に従い国家試験を受けるため,S氏の仲間,柔道整復師,按摩マーサージ師,はり・きゅう師その他の職種など10数名が集まり,毎週何回か夜,受験勉強をすることになりました.私もいくらかお手伝いをしましたが,当時はどの程度の内容を教えるべきか試行錯誤の日々でした.幸い皆の努力が実を結び,殆どは2~3回の受験で合格し,その中の何人かは今も現役で活躍されていますが,当時の夜の寺子屋式研修がなつかしく思い出されます.

ひろば

CBRという用語をめぐって

著者: 久野研二

ページ範囲:P.337 - P.337

 CBR(Community-Based Rehabilitation)は,途上国の障害者問題解決の考え方・方法として,1970年代後半から実践されている.カナダ等では,理学療法士や作業療法士の在宅訪問活動はホームケアやコミュニティケア,村落巡回活動はアウト・リーチ(out-reach)と呼ばれ,CBRとは区別されてきた.

 しかし,近年日本では,地域リハビリテーション(地域リハ)の総称としてCBRが用いられ始めており,これに対しては各方面から批判や懸念が寄せられている.それは途上国でのリハがCBRで,先進国のリハはCBRではない,といった単純な批判ではない.

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文献抄録

ページ範囲:P.366 - P.367

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.370 - P.370

 本号がお手元に届くころには,名古屋で開催される第31回日本理学療法士学会の最終準備に余念のない先生方が多いことと拝察いたします.

 特集テーマは『姿勢調節』で,企画の意図につきましては冒頭で十分に述べさせていただいておりますが,理学療法学そのものの発展にも重要な領域であることを重ねて申し上げたいと思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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