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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル30巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

特集 理学療法における基礎研究

essences of the issue

ページ範囲:P.525 - P.525

 理学療法における基礎研究を,狭義の基礎医学のみならず,理学療法の礎としてのフレームワークや実践過程について様々な視点からご執筆いただきました.

理学療法における基礎研究

著者: 武富由雄

ページ範囲:P.526 - P.532

 1.はじめに

 1996年,第31回日本理学療法士学会(名古屋市)のメインテーマとして「理学療法の基礎」が取り上げられた.理学療法をより学問として体系づけ,発展させるため,臨床医学に加えて解剖学,病理学,生理学などの基礎医学を基盤として学問的体系の充実が必須と考えられるからである.シンポジウム「運動機能」では解剖学,病理学,生理学の各分野で基礎研究を行っている理学療法士が理学療法の基礎を基礎医学に求めている1)

 1965年,わが国に理学療法士の身分制度が制定された.その後およそ15年間,治療技術者の養成に重点がおかれ,理学療法の学識,技術は欧米先進諸国のそれを範として伝播し,模倣性をもって先進技術を学習し,応用する学習期であった2).振り返ってみれば科学的知識の先端を吸収するのに精一杯の時期であった.この時期の理学療法は既存の,周辺の学問的知識の集合体を基盤とした応用的技術的性格が濃厚であった3).欧米人の名称を冠した検査・評価,理学療法の手法が未だ連綿として受け継がれ,実践されているが,独創的な手法を生みだしたルーツを辿り,学術的に検討するまで考えが及ばなかった.

 1979年,金沢大学医療技術短期大学部が文部省管轄の養成校としてはじめて設置された.これまでの良き治療技術者の育成から良き指導者・研究者の育成を指向することになった.この頃から,これまで経験主義的にできあがった理学療法の成果で満足しているだけで良いのだろうか,じっくりと腰を据えて反省しはじめた.「やった,治った,効いた」の「三た論法」だけの治療効果判定では科学性に乏しい4).1984年,日本理学療法士協会が発刊する「臨床理学療法」は「理学療法学」と誌名を改称し,臨床のみに拘泥されない,基礎医学論文を含めた,広く学問的に高い内容をもった機関誌にすることを目指した5).「学問」は「まなび」でなく,「問う」ことが必要なのである6).理学療法の研究の成果を「問い」かつ「疑い」をもち,理論を開く学会(日本理学療法士協会主催)がもたれた.

 第18回学会(東京都,1983年)のメインテーマは「理学療法学の確立」,第19回学会(金沢市,1984年)のそれは「理学療法“学”の確立」と2年続いて同じメインテーマを選んだ.“学”を強調し,理学療法“学”の形成に向けての端緒を願ってのことであった.10年前の第21回学会(1986年)での研究発表184題のうち基礎研究(運動生理)の占める割合は20題(10.9%)であった7).第31回学会(1996年)では発表総数は532題と増え,基礎研究(運動生理,運動学)の占める割合も61題(11.7%)と増えた8).1995年度の「PTジャーナル誌」には学術研究方法の手順の入門講座の欄が設けられ,基礎研究への手法が紹介された9-14).1995年度「理学療法学」に掲載された研究報告35編のいずれもが,臨床経験から得られた集積を学術研究の手法と理論の発展により理学療法学研究の形態をとりはじめた15)

 養成校設立の急増とも相まって理学療法士の数は増していく.第1回の国家試験合格者は183名であったのが,平成7年度には1,422名が合格し,合格者の総計は15,607名に及んでいる16).治療技術の研究,治療対象の研究,治療過程の研究3)に加えて,疾病や障害の病因や発生機序,理学療法の作用機序,回復過程,予後に関する基礎医学をこまかな点まで能動的に知る基礎研究が関心事となってきた.

理学療法の効果判定に関連するQOL研究と今後の課題

著者: 佐藤秀紀 ,   中嶋和夫

ページ範囲:P.533 - P.538

 1.はじめに

 健康ケアモデルは,歴史的には,医学モデル→障害モデル→慢性疾患モデルと変遷してきた1).このモデルの変遷にともない理学療法の目的も変貌してきたし,今後も新たなモデルのもとで変貌するものと想定されるが2),とりわけ戦後のリハビリテーションにおけるわが国の理学療法は,「障害」の回復,改善,予防といったテーマに取り組んできた.また,理学療法のうちの運動療法に着目するなら,それはリハビリテーションの重要性に対する認識が深まるなか,治療対象の拡大化,障害の重度化・重複化といったこととともに,古典的な手法から神経学的なアプローチへと方向転換し,ファシリテーション・テクニックの効果については批判的論評3-5)がなされてきたところである.いずれにせよ,理学療法の治療効果を障害モデルとの関連でみるなら,それは対象である障害者あるいはアプローチ方法の多様性にもかかわらず,「障害」のうちの能力低下,とりわけ歩行能力等の移動低下の回復・改善と大きな関わりをもってきたといえよう.

 しかし,最近のリハビリテーションにおける研究を概観すると,その効果判定はQOL次元で検討されなければならないことが指摘されている6).もちろんQOLは,リハビリテーション領域のみならず,医学,保健学,看護学,老年学,社会福祉学等の関連領域においても,費用分析と並んで介入効果に関する重要な判断材料となっている.例えば,保健・医療・福祉の統合的アプローチを必要とする高齢障害者に対するケアマネジメントは,その介入効果の拠りどころとして,費用分析とQOL分析を最も重視しているところである7).ただし,このときのQOLは,健康指標としての広義のQOLすなわち死亡率,基本的なADL等から主観的幸福感までを含む概念から構成されていることもあれば,主観的幸福感well-beingのみを意味することもあり,必ずしも研究者間で一定の了解が得られているわけではない.

 このような背景をふまえ,本論においては,脳卒中後遺症者のリハビリテーションに関連した主観的なQOLに焦点を当て,しかも尺度開発に視点を当てながら最近の研究を概括し,さらに理学療法学における今後のQOL研究に関する展望を試みてみたい.

臨床からみた理学療法基礎研究への期待

著者: 村永信吾

ページ範囲:P.539 - P.541

 1.はじめに

 わが国で理学療法士の養成が始まり33年,その間16年目に短期大学,29年目に大学教育が開設されるに至った.この大学教育開設に前後して,“理学療法における科学性”などが,各学会,研修会のテーマに散見されるようになってきた.

 今回の特集である「基礎研究」とは,当然のことながら,様々な学問領域の母体となるものであるが,しかし,われわれ理学療法士にとっては最も不得意とする分野ではないだろうか.

 今回の筆者に与えられたテーマは,「臨床現場のなかで解決しなければならない基礎研究を自分の体験を通して述べる」ことである.そこで日々感じていることから,今後の課題について私見を述べてみたい.

理学療法における基礎医学と動物実験

著者: 灰田信英

ページ範囲:P.542 - P.546

 1.はじめに

 動物が医学研究に利用される理由は,次の2点に要約できる.1つは科学的な理由であり,再現性の高い,正確な実験結果を手に入れるためである.もう1つは倫理的な理由からで,人体実験を避けたいという人道上の要請からである.医学における動物実験は,その成果が直接的に人間社会に影響を与えかねず,信頼性のある実験が要求される.本稿では,理学療法士が適切な動物実験を行う上で,基本的な事項について述べる.

理学療法における基礎研究―私の体験と実際

臨床における基礎的研究と学際性

著者: 久保晃

ページ範囲:P.547 - P.549

 1.はじめに

 理学療法士学会や全国研修会に参加すると理学療法領域の深まりと広がりを感じる.例えば,呼吸器や循環器疾患などに分類され,そのなかでも胸部外科の手術前後での呼吸管理の手技,評価,効果判定といったように専門分化し,理学療法の深みを増している.また,新生児から老人,救命救急から在宅ケアに至るまで守備範囲は拡大され,各々の分野は社会のニーズに応えるべく盛んに活動している.

 臨床を重視し,患者との関係を大切に考えている臨床の実践家には,研究や調査に隔たりを感じている人が少なからずいるようである.特に基礎的なものはなじみにくいと思われている.研究には目的があり,特に実験となると患者さんを被検者としてしまうため人間味に欠け,治療実践に対して意図的な関与や介入を避けられないといった偏見を持ちやすい.しかし,このような否定的なイメージが存在する一方で理学療法の深まり,広がりを支えるためには臨床実践の裏づけや効果判定のための研究や調査の蓄積は必要不可欠であるとも考えられる.

 そこで私の若干の学会発表や論文報告の経験から,臨床にどっぷりつかっていた立場から基礎的な研究の体験と実際,考え方を紹介させていただく.

医科学としての理学療法学を確立するために

著者: 弓削類

ページ範囲:P.550 - P.553

 1.はじめに

 近年,医学療法士(以下PT)の学術論文や学会発表等をみると,基礎医学領域での研究が徐々に増えてきている.これは科学としての理学療法学の確率をめざす上で必要な一要素といえる.筆者は,広島大学医学部保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学講座で解剖学を担当し,並行して組織・形態学的研究を行っているので若干の体験をふまえて述べてみたい.

地域リハビリテーションにおける基礎研究

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.553 - P.555

1.はじめに

 在宅医療や地域ケアの推進は,在宅患者や障害者に対するリハビリテーションサービスの必要性を増大させ,昨今地域リハビリテーション(以下,地域リハ)に関する報告書や書籍が多く出版されている.

 地域リハへの取り組みとともに,理学療法士の関与も増加しており,理学療法士学会においても,地域リハの演題数は他のセクションと比肩するレベルに達している.しかしながら,地域における理学療法の対象や方法,効果判定等については議論の途上にあり,模索の段階にある.

 これまでの理学療法は,主として医療機関を治療の場とし,機能障害や能力障害といった身体的機能や個人を中心としたアプローチが行われてきたが,地域リハ活動では,個人と環境との関わりが重要視されている.地域リハの対象は個人のみならず,家族や地域社会を含むといわれ,しかも,地域リハにおける実践的要請からは,個人,家族,地域社会は相互に関連し,重層的に入り組んだ対象としてとらえられ,これら三者の関連性を視野に入れたアプローチがなされている.しかも,地域リハを研究のレベルで把握する場合,実践的要請を踏まえつつも,個人,家族,地域社会それぞれを対象とした研究が必要であり,現状の分析がまずなされなければならない.

他職種との共同研究を通じて理学療法学の体系化を

著者: 山田道廣

ページ範囲:P.555 - P.557

1.基礎研究のとらえ方

 筆者は以前東京都老人総合研究所に席を置き,老化に関する基礎研究に従事していたが,現在は臨床の現場にいる立場であり,厳密な意味では基礎研究を行える環境ではない.しかし,以前より基礎研究の重要性や困難さを経験していることから,ここで自分なりに基礎研究について述べてみたい.

 理学療法学の確立の必要性については,これまで多くの先輩たちにより述べられている.丸山1)は理学療法が学問として認められるには,体系化されることが必要である.その体系化は臨床研究や基礎研究によりなされると述べている.さらに,基礎研究および抽象化される研究(モデルを形成するような研究)が必要となるであろうとも述べている.また上田2)は,医療では実践性(むしろ有効性)が価値の基準となり,学問では真理性(どれだけ深く真理を究明するか)が価値の基準であると述べている.リハ医学の対象は疾患ではなく障害であり,主に合併症の研究が対象となり,疾患との関係を追及する病態生理とは一線を画すとしている.

教育領域での研究方法の提示―臨床実習での学習状況の把握と指導方法を考察していくために

著者: 清水和彦

ページ範囲:P.557 - P.560

1.はじめに

 1992年4月,筑波大学教育研究科カウンセリング専攻リハビリテーションコースに進学したとき,その後の2年3か月の苦悩の日々など,微塵も予想していなかった.しかしながら,研究の構想に関して指導を受け,総てが崩れさるには数週も必要なかった.臨床実習に関わる問題整理とその対策を研究テーマと考えていたのだが,指導教官から問題認識の低さ,研究方法の不明確さを指摘された.結局,研究テーマをめぐって「つまずき」をこの時点以降繰り返し,所定の期間内では終了できなかった.今回の執筆も,自分のつまずきを再度認識するつらい作業ではあるけれど,提示したいものもある.

筋線維タイプ分布特性に関する研究

著者: 坂本美喜

ページ範囲:P.560 - P.562

1.基礎研究について

 1)理学療法における基礎研究の位置づけ

 理学療法の発展や理学療法士の知識の向上のために,研究活動は不可欠であると思います.基礎研究では,多くのデータをもとにして,共通の所見や一定の法則などを見いだしていくことが求められます.これらによって得られた知識は,理学療法の科学的側面を確立するという意味でも重要な意義があるものと考えられます.基礎研究の結果を臨床へ結びつけ応用することは,常に念頭におかなければならないと考えています.基礎研究で得られた成果や知識が,直ちに臨床へ結びつくことは少ないと思いますが,時間をかけて研究活動を積み重ねていくなかで臨床の場面との接点を見いだし,関連性を追求していきたいと考えています.

とびら

“ジャイアンツ”への応援歌

著者: 神谷成仁

ページ範囲:P.523 - P.523

 医療機関を離れ,プロスポーツチームの専属理学療法士として活動を始めて6年が経過した.この間を振り返り,スポーツの現場でのPT活動の現状と感じたことを述べたい.

 平成2年にプロ野球では初めてPTがトレーナーとして採用された.当時,巨人軍では故障選手のリハビリテーションと若手選手の基礎体力養成の場としての“3軍”制構想があり,その専門スタッフとしての要請に応えるかたちで巨人軍入りすることになった.

入門講座 動作分析・2

動作解析機器から得る情報とその臨床応用

著者: 田中敏明

ページ範囲:P.563 - P.568

 Ⅰ.はじめに

 理学療法において動作分析は,定性的にも定量的にも重要な評価項目であり,特に定量的分析は近年コンピュータの進歩により,われわれ理学療法士も格段に動作解析機器の使用頻度が増加している.このため,本稿では動作解析機器の変遷,研究や臨床での使用状況,動作機器使用時に考慮すべき点を具体例をあげながら解説し,また今後期待される動作分析の利用法について述べることとする.

Treasure Hunting

研究の面白さを知って保健学博士―潮見泰蔵氏(埼玉医科大学短期大学理学療法学科)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.571 - P.571

 今月はわが国ではまだ数少ない博士号を取得している理学療法士・潮見泰蔵氏にご登場いただこう.氏は昭和31年1月長野県生まれの40歳.理学療法士としても理学療法の教員としても,ちょうど油の乗り切った頃といってよいだろう.現在は埼玉県士会の理事・学術局長として来年埼玉県で行われる第32回日本理学療法士学会の準備に八面六腎の大活躍をされていることと思われるが,そんな氏も,他の多くの登場人物がそうであったように,国立療養所東京病院附属リハ学院に入学するまで理学療法士がどんな仕事をするのか皆目見当がつかなかったという.まあ,そういうところが人の世の面白みといったところかもしれない.

プログレス

骨化症手術―最近の進歩

著者: 勝呂徹 ,   高橋寛 ,   工藤幸彦

ページ範囲:P.572 - P.573

 1.はじめに

 整形外科領域における骨化症とは,生理的に存在する靱帯,関節包など骨以外の組織に生じた骨化をいう.骨化症の中でも代表的なものには,いわゆる異所性骨化,神経原性骨化,術後の骨化,外傷性骨化,酸素供給不足,慢性静脈血行不全による骨化,低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病による骨化,上皮小体機能低下症,関節症乾癬性関節症,シャルコーなどに伴う骨化症がある.

 整形外科的に問題となる骨化症は,脊椎に生じる骨化症である1).脊椎に生じる骨化症には,後縦靭帯骨化症,強直性脊椎炎,Forestier氏病,クローン氏病などがある.中でも後縦靭帯骨化症は,脊髄の圧迫を生じ脊髄症状を出すことから重要である.

1ページ講座 関連領域の法制度・8

介護福祉士

著者: 石橋真二

ページ範囲:P.574 - P.574

はじめに

 社会福祉士法及び介護福祉士法が昭和62年に制定されるに至るまで,わが国の福祉専門職については,社会福祉主事と保母という2つの資格しかなかった.これらの資格は特に福祉事務所と保育所においては歴史的な役割を担ってきた.しかし,急速な高齢化の進展に伴い,高まる介護ニーズには今までの資格では対応できなくなってきていた.特に寝たきりや痴呆性老人等の要介護老人が増大し,これらの人々のお世話をするには相当な専門的知識・技術が要求されるようになった.また,在宅福祉分野においても同様で,ホームヘルパーが家庭奉仕員と呼ばれていた時代では家事援助などが中心のお世話であったが,近年では在宅福祉の需要が高まり,重介護のお世話も在宅福祉には欠かせなくなってきていた.

 このように,急激な高齢化の進展と介護ニーズの増大に対し,介護の専門性はもとより,「介護サービスの質」の確保が重要な課題となり,この「介護サービスの質」を担保するには福祉専門職の資格化が必要とされるに至り,政府提案により(全省庁の合意を得て)衆参両院,与野党全会一致で昭和62年に福祉専門職として「社会福祉士法及び介護福祉士法」が制定された.

講座 社会医療経済学・4

リハビリテーション医療経営の考え方

著者: 石川誠

ページ範囲:P.575 - P.582

はじめに

 高度経済成長が終焉し,バブルの崩壊の後遺症が未だ癒えない.医療界では昭和51年の薬価の大幅引き下げ以来,病院経営冬の時代,病院経営のピンチと言われてきた.しかしその一方で,医療ビジネスは相対的にみて成長産業とも言われている.確かに経営的危機に瀕している医療機関が存在する反面,極めて順調な病院も存在している.ではこのような状況を引き起こす原因はどこにあるのだろうか.

 平成7年度の国民総医療費は推定26兆7,000億円に達し,毎年1兆円以上の増加を示していることから,ある経営の専門家は27兆円産業を経営の素人である医師が担っていることは問題ではないかと指摘している.経営の専門家ならば,より効率的な医療の提供が可能であり,無駄が省けると指摘しているのである.医療に関しての経済問題が深刻化していることはまぎれもない事実である.しかし,経営の専門家が医療機関を経営すれば,広範な医療経済や医業経営の問題が解決できるとは考えにくい.なぜならば,わが国に数多くある会社立の病院の経営が必ずしも円滑でないからである.

 国民医療費に関する諸問題は,先進国共通の問題である.昭和54年の臨時行政調査会は「国民医療費の伸び率を国民所得の伸び率の範囲内に留める」と答申し,これをうけて厚生省の医療費抑制政策(医療費適正化政策)が開始された.ほぼ2年ごとの診療報酬改定は,大幅な薬価の引き下げと出来高払い方式から包括化(いわゆるマルメ)へと変化している.しかし,ことリハビリテーションの部門で包括化が行われているのは,病院・診療所の老人デイケアと老人保健施設におけるOT,PTだけである.また平成6年の診療報酬改定では,ほとんど増加のなかつたリハビリテーション部門は,平成8年の改定で施設基準によっては平成4年以来の大幅引き上げが認められている.以下では,これらの目まぐるしい変化のなかでのリハビリテーション医療界の経済状況について,筆者のささやかな知見を述べてみたい.

資料

第31回理学療法士・作業療法士国家試験問題(1996年3月8日実施) 模範解答と解説・Ⅱ―理学療法(2)

著者: 渕上信夫 ,   松尾智 ,   植田昌治 ,   上野隆司 ,   後藤昌弘 ,   河野通信 ,   田中敦子

ページ範囲:P.583 - P.587

初めての学会発表

全国学会発表奮闘日記

著者: 浦上遊子

ページ範囲:P.588 - P.589

 第31回日本理学療法士学会は平成8年5月16,17の2日間,名古屋国際会議場(白鳥センチュリープラザ)で,「理学療法の基礎」をテーマに,野々垣嘉男学会長のもと盛大に開催された.一般演題は18分野にわたり,口述384題ポスター130題ビデオ9題が9つの会場で発表された.

 今回幸運にも,このような全国学会で卒後2年目の私が「当院における理学療法週間の試み」と題し,口述発表する機会をいただいた.初めてゆえ,また未熟さゆえに恐れも恥も知らぬ私の学会発表をめぐるエピソードが,学会発表をためらっている方々の参考になればと思い,学会発表までの経過と経験談を綴ってみることにした.

雑誌レビュー

“Physical Therapy”1995年版まとめ

著者: 黒澤和生

ページ範囲:P.590 - P.594

はじめに

 “Physical Therapy”は,約80,000名以上のライセンスを持つ理学療法士がいる米国の理学療法士協会(APTA)の機関誌であり,1995年で75巻となる.第75巻の構成は全12冊であり,表に示す79編の論文が掲載されている.1月号には,高齢化社会の到来や人口増大による深刻な米国の理学療法士不足について焦点をあてた“人的資源”に関する4編の論文(Professional Perspective)が掲載されている.また,11月号の“呼吸筋訓練”に関する4編の論文(Clinical Perspective)や,5月,6月号には“Pharmacology(薬理学)”をテーマに13編の論文からなる特集が組まれている.

 本稿では,研究報告(Research Report)を中心に,運動療法,物理療法,運動学,検査・測定,義肢・装具,管理・教育・調査の項目に分類して,各分野で主だった論文要旨を紹介する.

 なお,文中の[( )]内の数字は,( )内が論文の掲載号数,続く数字が通巻のページを示す.

学会印象記 第31回日本理学療法士学会

震災時の理学療法士の活動に感動した

著者: 小林武

ページ範囲:P.596 - P.597

 学会前日の午後の飛行機で仙台から名古屋へ移動した.アメリカで旅客機が湿地帯に墜落したというニュースがまだ記憶に新しかった,もともと飛行機が好きでない私はいろいろ想像してしまう.「日本にはワニのウヨウヨいる湿地帯なんてないから大丈夫だ」とか「いや,確か伊豆の方にバナナワニ園というのがあったな…」とか.そんなことをあれこれ考えながら地上を見てみると太陽に照らされた雪山が雄大な姿を見せていた.離陸してから40分くらいで名古屋空港に到着し,そこからバス,JR,地下鉄と乗り継ぎ,最後はタクシーにまで乗ってようやくホテルにチェックインした.ホテルから学会会場までは徒歩15分ほどであり,翌朝は新鮮な空気を吸いながら会場へ向かった.

 5月16・17日,名古屋市の国際会議場にて第31回日本理学療法士学会が開催された.両日とも良い天気で気温は30℃近くまで上がり,仙台からやってきた私には随分と暑い2日間であった,会場は大きなスフォルツァ騎馬像がシンボルの近代的な建物で,市中心部からの交通アクセスも良く,内部も非常にゆったりとした構造であった.計10会場がひとつの建物内に収まり移動の時間が少なかったことは大変有り難かった.今回は機器展示のスペースも十分で,またその中央よりにテーブルが並べられ各種のドリンクサービスとともに配慮のいきとどいた会場配置であった.さらに昼食も広い会場が用意され,弁当やきし麺など数種の中から選択でき非常に便利であった.しかし例年のことであるが,テーマによっては会場内に入れないほど混雑していたり,逆に同時刻に閑散とした会場があったりと,その割り当てが少々不適切と思われた.

ひろば

PTSでもなくRPTでもない……

著者: 藤川和仁

ページ範囲:P.546 - P.546

 「新しい学生さんですか?」入院生活が長くなった“ベテラン”の患者さんから私がよく受ける質問である.私は今年,3年間の理学療法士養成の専門学校を卒業し,国家試験を受け,無事就職が決まった者である.

 私の勤務することとなった奈良県橿原市にある平井病院理学診療科では,理学療法士を目指す多くの学生が,1年時の見学実習,2年時の評価実習,3年時の臨床実習とめまぐるしく出入りしている.それも1つの養成施設のみでなく,複数の養成施設の学生が同時に実習を行うことも多々ある.また,私もそのなかの1人であり,3年時の臨床実習では他施設の学生と同時に平井病院でお世話になった.学生がよく出入りすることから,患者さんのなかには“学生馴れ”のした方が沢山おられる.その患者さんから「学生さんですか?」と問われた時,私は少し言葉に詰まって「学生じゃないですけれども,理学療法士の免許も持っていません.国家試験の合格発表待ちです」と答えたことがある.患者さんは不思議そうな顔をした.

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文献抄録

ページ範囲:P.598 - P.599

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.602 - P.602

 ここに8月号をお届け致します.今月は「理学療法における基礎研究」と題して特集を組みました.理学療法を多くの国民に対してより効果的に提供するためには,学問体系にこだわらずとも,その基礎を明確にすることは極めて重要と考えられます.理学療法を遂行する上では生物・医学的モデルとともに社会・行動学的指向に重要性が叫ばれて久しいのですが,それに対する基礎研究という限定された医学がかなりの割合でイメージされるようです.

 そこで本特集では,理学療法の礎を担う研究について広く捉えてその現状と将来を模索することと致しました.したがって今回は実験計画法や基礎医学にかかわる方法論の詳細には立ち入らず,そのフレームワーク自体を様々な視点から考える構成をとっています.一方では各執筆者の基礎研究に対する背景は異なり,それ自体が今後の軌跡として重要な意味を持っているように思います.基礎研究は臨床と対峙するものではなく,基礎研究に対する臨床家のある種の嫌悪感や縁遠さが少しでも払拭され,今後の理学療法を豊かなものに感じていただければ幸いです.お忙しい中を十分な時間をかけでご執筆いただいた先生方には厚く御礼申し上げます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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