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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル31巻1号

1997年01月発行

雑誌目次

特集 整形外科系運動療法の新展開

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.3 - P.3

 盤形外科領域の運動療法は,脳卒中をはじめとする中枢性疾患の運動療法と同様に理学療法士にとって技術的にも理論的にも関心の高いところであるが,理学療法士が制度化されてからこれまでの30 余年間に果してどのような進歩を遂げてきただろうか.確かに,整形外科的治療法の発展や生体力学的な考え方の普及などによって,術後早期からリスク管理を踏まえた運動療法が積極的に行われたり,治療用装具に合致したプログラムが行われるなど格段の進歩を遂げてはいるものの,その一方では,中殿筋の筋力増強訓練といえば側臥位での抵抗運動であったり,ROM 訓練といえば徒手による他動的ROM 訓練といったような定型的・量的な観点に重きを置いた方法の運動療法が中心を成しているのも事実である.しかし,最近のような従来の運動療法では不十分であるとするデータや理論が提示されている.そこで本号では,そういった整形外科領域における運動療法の問題点と今後の展開の方向性について,さまざまな側面から検討を加え,より質の高い運動療法へと発展することを期待し企画を試みた.

欧米における整形外科系運動療法の動向―我が国の運動療法の新たな展開に向けて

著者: 沖田一彦 ,   内田成男 ,   宮本省三 ,   辻下守弘 ,   清水ミシェル・アイズマン ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.4 - P.12

 1.はじめに

 近年における我が国の整形外科系運動療法の進歩には著しいものがある.この背景には,手術手技の開発・改良を基盤とし,それに見合った術後の運動療法を科学的に構築するための努力が重ねられてきた経緯がある.特に,生体力学や運動生理学の視点から高度な分析が加えられるようになった結果,運動療法は,より「早期」に,より「安全」に,より「効果的」に行われるようになってきた.

 このことは,人工関節置換術や靱帯再建術に代表される合理的な術後プログラムの展開1)が,また等速性訓練(isokinetic exercise)やバイオフィードバック(biofeedback)の概念,さらにはCPM(continuous passive motion)の導入2-4)が,臨床現場で広く実現している状況を考えればよく理解できる.わずか数十年前までの理学療法が,物理療法を主体に,マッサージと他動運動に終始していた事実5)を考えるとき,それは飛躍的な進歩といってもよいであろう.

 しかしながら,この領域での運動療法が,概念そのものを大きく変えたわけではないのもまた事実のように思われる.なぜならば,現在では古典ともいうべき整形外科やリハビリテーション(以下,リハ)の成書6,7)を紐とくと,科学的な検討こそ加えられていないにしろ,そこには,今日我々が日常的に行っている手技の原形,それも現在の形に極めて近いものを見ることができるからである.では,「飛躍的な進歩」にもかかわらず,何が変わっていないのであろうか.

 本稿では,この問題を,欧米における整形外科系運動療法の動向について報告し,我が国のそれと比較・検討することで考える.また,そのうえで,整形外科系の運動療法が今後どう展開されていくべきかについて,いくつかの提言を行いたい.

筋力増強と運動学習―Training Specificityの観点から

著者: 山本利春 ,   金久博昭

ページ範囲:P.13 - P.20

 1.はじめに

 整形外科系の運動療法において,筋力増強は主軸となる要素といっても過言ではない.特に近年のスポーツの普及に伴い,スポーツ選手のリハビリテーションにおける機能回復訓練の重要性も高まっている.スポーツ選手の場合,各競技の運動特性によって筋に求められる能力の性質が異なるため,筋力強化の際には十分な配慮が必要となる.すなわち,目的とする機能改善を効率的に達成するためには,さまざまなトレーニング方法のなかから,より必要なものを選択して行う必要がある.そのためには,各トレーニングの内容によって,どのような効果が期待できるのか,またどのような方法が最も効果が高いのかなどのトレーニングに関する知識が必要である.このような点から,スポーツ科学の分野では,筋力増強すなわち筋力トレーニングの方法に関する科学的な研究が数多く報告されてきた.本稿では,主にスポーツ科学分野の研究成果からみた筋力トレーニングの方法と効果に関する知見を,トレーニングの特異性(training specificity)の観点から述べてみたい.

腰部スポーツ障害者に対する体幹支持機能獲得のための運動療法

著者: 東田武志 ,   清水憲司 ,   森出順子 ,   狩野伸一朗 ,   森田哲生

ページ範囲:P.21 - P.28

 1.はじめに

 腰椎は体幹の支持性と運動性を担う器官であるが,体幹の支持・運動性には腰椎だけではなく周囲の腹背筋群や神経コントロールも重要な役割を果たす.なかでも腹背筋群は,腰椎を動かす動的装置としてのみでなく,活動時に椎体にかかる負担を分散し,腰椎や体幹を支える脊柱安定化装置としての役割を担う.

 激しい身体動作が繰り返されるスポーツ活動において,この腹背筋群がもつ腰椎安定化のメカニズムは重要である.腰部スポーツ障害者(以下,腰部障害者)には,強固かつバランスのとれた体幹筋力が不可欠である.また腰部障害者に対する運動療法には,腹背筋の柔軟性獲得や筋力増強だけでなく,瞬間的な身体動作に対応するための神経筋機構の再構築による腰椎安定化も重要な因子となろう.

 以上の観点から我々は腰部の筋骨格神経機能を1つのユニットと考え,その包括的な機能を脊柱体幹支持機能(以下,体幹支持機能)と位置づけ,体幹支持のための機能的な運動能力の獲得を目指した運動療法に取り組んできた.本稿では我々が考案したバルーンを用いた運動療法,active balloon exercise for the trunk stabilization(以下,ABETS:略称アベッツ)とメディカルチェックや疼痛評価,種々の除痛対策を含めた腰部障害者に対する総合的アプローチであるABETSプログラムの概要を紹介し,治療成績について考察を加え報告する.

変形性股関節症と外転筋の筋力特性

著者: 佐々木伸一 ,   嶋田誠一郎 ,   竹村啓住 ,   大森弘則 ,   井村愼一

ページ範囲:P.29 - P.36

 1.はじめに

 直立位での股関節は,大腿骨頭の関節面が臼蓋に完全に覆われておらず,大腿骨頭前面が臼蓋から前方にはみ出している.しかし,股関節90度屈曲,軽度外転位における臼蓋の骨頭被覆は,関節唇の存在も含めるとほぼ100%の被覆状態にあり,いまだ四つ這い歩行で安定する形状にある.ヒトの股関節は,系統発生・個体発生の過程での屈曲位における安定した状態から二足歩行へ移行したことから,股関節の関節面の不適合が生じたといえる.これに対し,成長とともに起こる大腿骨頸部の前捻角・頸体角の減少は,二足歩行に伴う加重環境,筋バランスの変化に対する適応と考えられるが,特に前捻の減少は股関節伸展位における被覆度の不足を補う方向に働いている1)

 大腿骨頭の骨性被覆の減少を補うため,関節包および靱帯の発達が著しい.関節包を補強する靭帯のうち,前方の腸骨大腿靱帯は最も強靱で,骨性被覆の不十分な股関節前面を補強している.これら靱帯は,股関節屈曲位で弛緩し,伸展位で大腿骨骨頭を臼蓋に引きつけ股関節の安定性に寄与している2)

Closed Kinetic Chain Exerciseの意義と臨床応用―前十字靱帯損傷患者の大腿四頭筋筋力増強効果について

著者: 宮川博文

ページ範囲:P.37 - P.43

 1.はじめに

 膝関節疾患の治療において,大腿四頭筋訓練の重要性は多くの研究者の認めるところである1-4).最近,下肢の筋力増強訓練において,下肢本来の機能から,立位による荷重下での訓練の重要性が指摘されている3).荷重が可能ならば,できるだけ早期より荷重位での訓練に移行すべきである.この荷重位での訓練は1973年にSteindlerが機械工学の分野のリンク機構を人体にあてはめ解説し,“closed kinetic chain(以下CKC)exercise”と定義した.

 具体的には足底面が接地して,地面からの反作用を下肢が受けるような運動形態とし,例えばスクワット,レッグプレスなどが代表的である.一方,非荷重位での訓練を“open kinetic chain(以下OKC)exercise”と定義し,足底面が接地せず,地面からの反作用を下肢が受け取らない,足部が自由になっているような運動形態で,レッグエクステンションが代表的である5)

 1980年代,Anderson,DePalmaらはCKCが前十字靱帯(以下ACL)再建術後の訓練法として最善であり,ACLリハビリテーションプロトコールの最も重要な要素であると報告している6-8).また,1990年代,Bynum,ShelbourneらはこのCKC訓練による大腿四頭筋筋力増強の有効性について報告している9-11)

 本稿では,このCKC訓練の1つであり,スキーヤーの脚パワーアップのために行われている訓練の1つであるベントオーバー・ニーベント(以下BK)がACL損傷患者の大腿四頭筋筋力に及ぼす影響について調査した内容を報告する.

とびら

当たり前の感覚

著者: 岡部正道

ページ範囲:P.1 - P.1

 私は,6年間特別養護老人ホームで,PTの資格をもつ生活指導員として老人の処遇に関わった経験をもとに,今は実質フリーの立場で施設や地域での生活ケアの現場に関わっている.この世界でおおよそ14年が経とうとしている.ご存知の通り,施設や地域といった生活の場における老人のリハビリには,PTのみならず生活指導員や寮母,保健婦などといった多くの職種の人たちが関わっている.生活に役立つリハビリとか生活に密着したリハビリの大切さが言われて久しいが,障害を持ち,かつ老いてゆくという障害老人の生活に直接向き合ってきた彼らから学ぶことは多い.

クリニカル・ヒント

痰の性状と痰喀出訓練―肺の聴診を含めて

著者: 中山勝寛

ページ範囲:P.44 - P.47

 1.はじめに

 痰とは,気道液が気道に再吸収されないほど生理的レベルを超えて異常かつ多量に産生され,多少の唾液を混入して喀出されたものである.分泌性上皮細胞(杯細胞)および分泌腺からの分泌が異常に増加した場合や,肺・気管支の血管から多量の血清成分が漏出・滲出した場合に出現し,その組成も生理的気道液とは相違している.

 痰が下気道に貯留すると,気道を閉塞して呼吸困難,無気肺,低酸素血症,病原性微生物の増殖,肺サーファクタントの障害など種々の障害を引き起こす1).特に気道感染症においては,膿性痰が出現してエステラーゼを遊離し,気道上皮の破壊,線毛細胞の剥離が起こり粘液細胞が増加して線毛による痰の輸送を阻害することになる.

 呼吸理学療法の痰喀出訓練は,狭義の呼吸訓練と並んで呼吸障害において重要な役割を果たす.痰貯留に対する対策として一般的に吸入療法が用いられるが,吸入療法は痰を出しやすくしてくれるかもしれないが体外に喀出してはくれない.慢性気管支炎,気管支拡張症,び慢性汎細気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患や胸部ならびに腹部外科手術直後のように,自力での喀出能力が低下している患者に対しては,更に体位排痰法,胸部振動刺激や呼吸介助法,咳嗽の介助など痰喀出訓練が必要になってくる.

 ここでは,痰喀出訓練における痰貯留部位の確認方法,気道クリアランスと痰の性状の理論的背景について述べることにする.

TREASURE HUNTING

障害をもった方の心の機微に付き合って―河原優美子さん(身体障害者療護施設山郷館)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.49 - P.49

 3年前の「第29回日本理学療法士学会](於・青森市)のポスターを覚えておられるだろうか.お年寄りから子どもまで理学療法士の手で支えようという障害予防をイメージしたイラストのことである.このポスターの作者が今月ご登場いただいた河原優美子さん.身体障害者療護施設に働く数少ない理学療法士のお一人だ.

 河原さんは秋田県鹿角市八幡平のご出身.弘前大学医療技術短期大学部理学療法学科を卒業して6年間の病院勤務のあと身体障害者療護施設「山郷館」に勤務,理学療法士の職域の広がりを象徴するパイオニアとし て福祉領域での理学療法のあり方を模索されている.

あんてな

北海道士会の新人教育プログラム

著者: 湯元均

ページ範囲:P.50 - P.51

 Ⅰ.はじめに

 日本理学療法士協会における生涯学習システムのうち,新人教育プログラム(生涯教育基礎プログラム・パートⅠ)が平成6年度より実施されている.当士会では,その重要性は認識していても未決の部分が多い点や士会員の認知度や理解度を把握していない状態での実施には多くの問題があると考えた.そこで,士会学術局での議論や会員外の有識者からの意見聴取などを重ね,かつ,主体者である全士会員に対してアンケート調査を実施した上で平成8年度より士会として活動を開始した.

 これまでの経緯と現状での問題点を整理して,北海道士会の特殊性をふまえた上で,新人教育プログラムに対する若干の見解を加えて報告する.

プログレス

理学療法と行動科学―コンプライアンスの問題

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.52 - P.52

 1.コンプライアンスとは

 コンプライアンス(compliance)とは,保健医療従事者が患者の健康のために必要であると考え,勧めた指示(通院・服薬・食事・運動・仕事などに関する指示や助言)に患者が応じ,それを順守しようとすることと定義されている.逆に守らない場合はノンコンプライアンス(non-compliance)と呼ばれる.医師が処方した薬剤がどの程度忠実に服薬されているかという調査は,1960年代より行われており,当初はdrug defaulting,medication errorなどの,主として医師の指示に従わないという意味の強い用語が用いられていた.コンプライアンスという言葉は1970年代より用いられているが,「(他者による命令・指示などに)おとなしく従うこと」というやや消極的な意味のある言葉である.他に,患者の主体性を暗示する語として,patient adherence,patient participationという用語が用いられることがある.

 コンプライアンスに関する研究は,これまでに慢性疾患患者における長期の服薬や通院に関する検討や,生活習慣や運動,食事に関するものまで,広範に検討がなされている.コンプライアンスにかかわる要因として,疾患の種類や患者の性格,指導の方法など多くのものが挙げられているが,患者に自覚的な症状(終痛などの身体的症状や直面している現実的な問題)がなく,生活様式の変更を強いられたり,複雑な治療法に対するコンプライアンスの悪さは明らかとなってきている.さらに重要な要因として,患者と医療従事者との関係や医療従事者の態度が挙げられている.

入門講座 社会福祉施設における理学療法・1

重度身体障害者更生援護施設における理学療法士の役割

著者: 小村博

ページ範囲:P.53 - P.59

はじめに

 近年,社会福祉施設における理学療法士の需要が高まりつつある.というより,需要そのものは以前より高かったのだが…….

 一般病院やリハビリ専門病院への理学療法士の指向は,現在も高いものがあると聞くが,それでも社会福祉施設や行政などで仕事をする理学療法士が,近年すこしずつ増えてきていることは,社会的ニーズが高まっていることにほかならないと思う.

 障害を抱えながら生きていく障害者にとって,理学療法士の継続的なかかわりは,生活上の安心感を生むようである.基本的な生活を営むうえで,身体的な障害が常に影響するため,そのフォローが十分かつ継続的に行われることは,本人の障害に対する不安を取り除くからである.社会福祉施設において,そのかかわりは身体的な障害に対する理学療法のみならず生活全般にわたり,日常の世話,話し相手,遊び相手など様々な形でのかかわりである.患者・治療者という一般的な病院等での関係とは趣を異にし,むしろ人と人との関係といったほうがわかりやすく自然である.

 さて,今回重度身体障害者更生援護施設における理学療法士の役割というテーマをいただいたが,全国での施設数は71施設(平成7年10月現在)あり,公立36施設,私立35施設となっている.法で定めるところの設置目的は共通していても,公立・私立での違いは勿論,各施設での特色は多分に異なる面があろうかと思う.本稿の後半は私の勤務する津麦園での話が中心になることを最初にお断りしておきたい.

1ページ講座 日本の社会保障システム・1

健康保険

著者: 長谷川良雄

ページ範囲:P.60 - P.61

 我が国では,いわゆる国民皆保険制度が確立しており,国民はいずれかの制度により医療が保障されている.医療保険制度は,職域別保険の5制度(被用者保険)と,地域住民対象の国民健康保険を併せて6制度に大別されており,ほかに老人保健制度が加わる.

 今回は健康保険6制度の概略を紹介し,老人保健制度,公費負担制度,医療扶助,労災保険などの医療関連の制度は回を追って述べる.

講座 教育効果を上げるための工夫・1

精神運動(技能)領域の教育―臨床に結びつく技能

著者: 古米幸好

ページ範囲:P.62 - P.68

はじめに

 平成8年4月には理学療法士学校養成施設(以下,養成校)は91校になった.それらの多くの養成校は,卒業時到達目標を「基本的理学療法ができる」というレベルに置いている.それは,卒業時の能力で一般的な疾患を対象として,理学療法(以下,理学療法士も含めてPT)の提供が責任を持って全うできることを意味している.そしてその責任を果たすためには,卒業前に一定の量の臨床体験をしなければならないことは必須要件であろう.

 この「卒業時基本的PTができる」という目標は,1人職場に就職した場合への対応,地域リハビリテーション活動に参加した場合への対応,現場から採用イコール即戦力と求められていることへの対応,法律制定時はドイツなどを手本とするヨーロッパ的PT観が重んじられていた等多くの環境的要因によって作られたものである.そのために,一定の臨床体験をする附属医療機関を持たない養成校は,独自の教育能力だけでは達成できない無理な目標と承知の上で作られたものである.

 日本の養成校には附属医療機関が設置されていないために,PT教育にとって欠かすことのできない大切な臨床技能のカリキュラムを実施できないのである.1995年の渡辺5)らの調査によると,養成校57校中わずか3校が同一敷地内にある関連医療機関を普段からよく活用しているという結果が出ている.ほとんどの養成校は学外医療機関の協力を仰いでいることになる.このため,新設校の急増と共に臨床実習施設の奪い合いに近い様相を呈している.

 さらに臨床実習施設の問題は,このような数の問題だけでなく,学生がPTを行うという無資格診療の問題,臨床実習施設間で生じる教育効果の格差や,環境の差など多くの問題を含みながらも,養成校は是非引き受けて下さいと協力を懇願している.

 このような問題の解決法の1つが「臨床実習前教育の充実」であり,特に有意義な臨床実習を体験することができるための「基本的技能」を臨床実習前に可能な限り高いレベルで習得させておくための教育の充実が大切である.今井の報告6)や沖田らの報告7)にあるように,各養成校でもこの点に重点を置いて教育していることが伺われる.しかし,いくら学内教育を充実しても,学内の授業で学生や教員を相手に模擬体験しただけの技能が臨床でそのまま通用することは稀であることは強調しておくべきであろう.

 今回は,川崎リハビリテーション学院(以下,川崎リハ学院)での21年間の教育経験と川崎医療福祉大学リハビリテーション学科(以下,大学リハ学科)2年間の経験を整理しながら,精神運動領域といわれているPT技能について,獲得すべき技能の内容技能獲得の手順,技能の到達レベル,技能指導方法の各種工夫等について紹介する.

報告

脳卒中片麻痺患者における患側筋出力特性と感覚障害が筋力に対して及ぼす影響―筋収縮様式による差異と患側下肢荷重率からの検討

著者: 寺田茂 ,   生田光子 ,   佐々木佳代

ページ範囲:P.69 - P.73

はじめに

 脳卒中片麻痺患者の随意運動は,その機能回復過程において共同運動パターンや痙性に強く影響される.また,随意運動は単に大脳皮質からの遠心性指令のみによるものではなく,筋や関節からの位置,角度,張力等の求心情報を即時処理して大脳の錐体細胞に伝え,その遠心性指令を次々に修正しており,運動遂行における感覚機能の果たす役割も大きい1).臨床上,感覚障害が重度な患者において失調様症状等の随意運動の混乱もしばしば観察される.脳卒中片麻痺患者の感覚障害が歩行能力や平衡機能に関与することは諸家により報告されている2,3)が,筋出力に及ぼす影響についての報告はない.

 感覚障害は,表在感覚の触覚では足底部接地感の減少,欠如等により患側荷重が減少し健側優位の日常生活活動となり,筋活動量が減少し筋力低下をきたすことが予測される.また,深部感覚においては患側荷重の減少の上に,関節運動の方向,程度,速度の認知力の低下または欠如が生じ,潜在的に筋力があっても十分な出力を出すことができない等の影響を及ぼすことが考えられる.そこで本研究では脳卒中片麻痺患者の大腿四頭筋において,関節運動の有無による相違を明確にするため筋収縮時に関節運動を伴わない等尺性収縮および感覚障害により関節運動速度が低下している場合にも運動抵抗と速度が自動的に調節され,動的筋力の測定が可能な可変速可変抵抗(variable velocity and resistance,以下VVR)の2種類の筋収縮様式を選択し,健側・患側筋出力の差異および表在・深部感覚の障害が筋出力に及ぼす影響を調査し,同時に患側下肢荷重率の関与も検討したので報告する.

ひろば

信頼関係が生んだ満足のいく退院

著者: 原口忠

ページ範囲:P.28 - P.28

 Yさんが転入院されてきたのは,脳出血発症後半年以上たってからで,前病院の提供書には「一時は意識レベル3桁にあったが,緊急開頭血腫除去術を施行後,徐々に意識レベルは改善,経口で食事可能となり,構語障害もかなり改善したが,左片麻痺は強く残存する」とあった.当院リハ開始時評価において健側上下肢に問題点はないが,患側上肢は廃用手状態,同じく下肢は随意収縮のみであり,本人家族の「伝い歩きでも出来れば・・・」という希望に対し,発症後8か月が経過し,さらに現在の状態を考えあわせて「一緒にがんばりましょう」というのが経験の浅い私の精一杯の言葉であった.

書評

-神奈川リハビリテーション病院脊髄損傷マニュアル編集委員会(編)―脊髄損傷マニュアル(第2版)―リハビリテーション・マネージメント

著者: 武智秀夫

ページ範囲:P.68 - P.68

 神奈川リハビリテーション病院の整形外科,泌尿器科,リハビリテーション医学科,内科,外科,麻酔科の医師,脊髄損傷病棟ナース,PT,OT,MSW,リハビリテーション・エンジニアなどのスタッフで構成された委員会が編集された「脊髄損傷マニュアル・第2版」が出版された.10年ぶりの改訂でその間蓄積されたノウハウが随所にうかがえる.

 合併症マネージメント,動作訓練,車いす・装具・自助具,社会復帰の・4つの章と本文の所々に挿入されている14の[Note]から構成されている.

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文献抄録

ページ範囲:P.74 - P.75

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.78 - P.78

 新年明けましておめでとうごさいます.

 今月の特集は「整形外科系運動療法の新展開」です.新展開とした理由は,整形外科系運動療法の主体がこれまでのような弱化筋のみを集中的に高めようとする定型的・量的な方法から,よりダイナミックな運動学習をも考慮した質的な運動療法へと変容する契機になればと考えたからです.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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