難病患者の理学療法―心に残る症例 1)症例報告
独居生活を長期可能にした遠位型ミオパチーの1症例/パーキンソン病患者と介護者のストレス―精神症状に注目して/強皮症の理学療法の経験/生活習慣の修正に苦悩した難病患者/きっかけ動作を用いて起き上がり動作が可能となったパーキンソン病の1例
著者:
浅賀忠義
,
小林量作
,
武富由雄
,
辻下守弘
,
鶴見隆正
,
外山治人
,
長屋政博
ページ範囲:P.803 - P.811
1.はじめに
難病患者を長期的に治療およびケアできる医療機関は限られており,たとえ退院できたとしても再入院を繰り返すことも多い.したがって,難病患者を担当するということは生涯にわたる出会いを意味するといっても過言ではなかろう.積極的なアプローチが困難な難病患者を前にして,理学療法の専門性は脇役でしかないことを痛感させられることも多いが,患者にとってまずは前向きな人生観が求められるとすれば,専門性を媒体とした親身な人間的交流の中に双方にとって意義深いものが秘められているように思える.
ここで取り上げる症例は,自殺をほのめかすほどに前途を悲観していた当時24歳の女性患者が,身体機能の段階的な低下にもかかわらず,退院時には前向きに生きていくことを決心するまでとなり,せいぜい2,3か月程度の独居生活というリハスタッフの予想に大きく反して,退院後2年10か月で友人と同居することにはなったが,驚くべきことに今日まで5年間以上も在宅生活を継続しているケースである.疾患名は遠位型ミオパチー(進行性で遺伝的に規定された原発性の変性筋疾患で,四肢遠位部優位の筋障害分布を呈し,既知の疾患単位には属さないものの総称.水澤英洋,他:遠位型ミオパチー,神経内科20:553-557,1984)で,極めてまれではあるが,本症例の主たる障害内容は全身性の進行的な筋力低下である.したがって,理学療法のアプローチにはそれほど特筆すべき点があるわけではないが,本特集の主旨を考慮して,察することのできた心情的な動きや在宅生活への移行期に焦点をあてて回想録スタイルで報告する.