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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル31巻2号

1997年02月発行

雑誌目次

特集 4年制大学における理学療法教育

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.81 - P.81

 理学療法界およびその関係者にとって長年の念願であった4 年制大学における理学療法教育が1992年に広島大学で始まり,今年の4月に学生を受け入れる群馬大学を含め合計10校となった.これは3年制短大が設置されてきたピッチよりも早い.その背景には,既存の3年制短期大学(部)が布石になっていること,ほぼ30年に及ぶ理学療法教育の歴史があったこと,そして文部省が医療関連職種の大学教育に力を入れ始めたことがあろう.4年制大学における理学療法教育は始まって間もないが,この時期に特集として取り上げ,今後の理学療法教育の改革,あるいは後続するであろう大学の参考になればと願って企画した.

4年制大学における理学療法教育の課題と展望

著者: 河村光俊 ,   藤村昌彦 ,   奈良勲 ,   高木昭輝

ページ範囲:P.83 - P.88

 1.はじめに

 日本で最初の4年制大学教育が始まり,1期生の卒業を終え,大学院前期課程(修士)の設置と大学院後期課程(博士)設置計画,また,平成9年度から高校での新教育課程修了学生の入学,大学教育の大綱化など,めまぐるしい状況のなかに学生も教官も置かれている.この状況は学問研究に関わる高度専門教育が大学院に移行しつつある今日的状況でもある.そのため学部教育の再検討が求められ,教養的教育と専門的教育の有機的統合がなされた学部教育のカリキュラムを作成することが急がれている.このように大学のあるべき姿が大きく変化をしている時代でもある.

 ここでは4年間の学年進行を終えてみて,理学療法士の4年制大学教育を体験した立場から課題と展望について私見を交えて述べる.

4年制大学における理学療法教育カリキュラムの特性

著者: 乾公美

ページ範囲:P.89 - P.96

 1.はじめに

 平成4年4月に広島大学医学部保健学科理学療法専攻(以下,広島大学)が設立され,第1期生が昨春卒業した.同校では年度が明けて大学院が開設され,理学療法教育の高等化,専門化が進められている.筆者が理学療法士養成校を受験したとき,会場の入口で先輩方が配布した「4年制大学で理学療法士の教育を」とのビラを目にして以来,ようやく理学療法教育が大学教育のなかで行われることを喜ばしく思う.広島大学に続いて,翌年に札幌医科大学に保健医療学部理学療法学科(以下,札幌医科大学)が併設され,平成8年度までに9大学が開校した,さらに来年度も何校かの開校が予定されている.

 大学あるいは学部の設立にあたり,建学の主旨や教育理念,教育目標が討議され,カリキュラムが編成される.文部省は,それぞれ特徴ある大学の設立を望んでいると聞く.理学療法士の養成には厚生省が定める「理学療法士作業療法士養成施設指定規則(以下,指定規則)」を順守し,その上で各校の理念や目標に基づいたカリキュラムが作成される.本稿では,既に開校している9校のカリキュラムを比較しその特徴を挙げてみたい.このために,各大学より提供していただいた資料を表にまとめた.一般(教育)科目については,誌面の都合で割愛し,主に専門科目(含,基礎医学)について述べる.

4年制大学における基礎理学療法教育の課題と展望

著者: 灰田信英

ページ範囲:P.97 - P.102

 1.はじめに

 長い間の懸案であった「理学療法教育の基礎は4年制大学で」という目標は,1996(平成8)年までに全国で9校の学部・学科が創設されたことで部分的に実現した.昭和から平成に変わった頃に立ち戻ってみると,これだけの早いスピードで4年制大学が増加するとは,全く予測し得なかった.まさに,理学療法教育の平成の改革である.

4年制大学における理学療法学内実習の課題と展望

著者: 久保晃 ,   丸山仁司

ページ範囲:P.103 - P.106

 1.はじめに

 日本の理学療法教育は昭和38年に20名定員の専修学校として始まった.その後,昭和53年に30名定員の専門学校ができ,平成4年には需給計画の見直しにより,既存の養成校の多くが40名定員となった.昭和54年に3年制の医療短大(定員20名),平成4年には4年制大学が新設された.本学は平成7年に開学した4年制大学である.入学定員が80名と,他の理学療法の大学または専門学校と比較して非常に多い.そのなかで,4年制大学として,多数教育の方法を模索している現状である.

 そこで今回は,当大学で実践している理学療法の学内実習の現状と方針について述べ,実習後の試験に対する学生の反応の分析結果について報告し,今後の課題や展望について述べる.

4年制大学における理学療法臨床実習の課題と展望

著者: 篠原英記

ページ範囲:P.107 - P.113

 1.はじめに

 1963年,我が国で初めて理学療法士養成教育が開始されて以来今日まで,臨床実習は理学療法士養成教育に欠かせない重要な科目として位置づけられてきた1).この位置づけは今後も揺らぐものではないが,指定規則や各養成校のカリキュラムは時代の変化に応じて異なり,臨床実習についても,その目的・場所・期間・方法などが異なることもまた当然の成り行きである.近年の我が国の社会構造および疾病構造の変化や科学技術の急速な進展が保健・医療・福祉の分野にも様々な変化をもたらしてきたように,それに呼応して理学療法士養成教育にも,新しい保健・医療・福祉を修めた,人間性豊かな理学療法士の養成が望まれるようになってきている.理学療法士養成教育の4年制大学化はこの1つの方向性といえる.

 設立されたそれぞれの大学は設立趣旨や特徴に応じて,また厚生省の定める指定規則を順守しつつ,独自のカリキュラムを作成し,理学療法士養成教育に取り組んでいる.臨床実習教育の目標もそれぞれの大学の特徴によって変化することが予想され,それに応じて臨床実習場面での工夫が必要となってくる.そこで,大学としての臨床実習はどうあるべきかを,将来の理学療法士養成臨床実習教育への期待を込めて述べてみたい.

とびら

ある新聞記事より

著者: 古谷逸夫

ページ範囲:P.79 - P.79

 ある新聞の医療に関する連載シリーズの記事のなかで,当院で行っている股関節に対する運動療法が紹介された.過去の経験からもある程度は覚悟していたが,翌日より電話の洪水である.1日に10数本もの問い合わせがあり,電話交換からも苦情が来る始末である.こちら側にとっても業務がしばしば中断され,まさにパニックであった.これらの問い合わせを17時以降にお願いするということで,とりあえずの混乱は回避して,じっくりと話しを伺う体制をとった.

 問い合わせの内容は運動療法のパンフレットの要求と受診を希望するものがほとんどであったが,それぞれの方から病歴と現在の状況についての説明を聞くことができた.その話しのなかからは,股関節に障害をもつ方々の人生が見えてきた.例えば,学童期の子どもに対する母親の将来への不安,結婚を控えた適齢期女性の不安,進学や結婚を控えた子どもをもつ母親の入院時期についての迷い等々である.

入門講座 社会福祉施設における理学療法・2

身体障害者更生相談所における理学療法士の役割

著者: 中島鈴夫

ページ範囲:P.115 - P.119

はじめに

 身体障害者更生相談所(以下,更生相談所)は,身体障害者福祉法(以下,法)第11条の規定により,身体障害者の更生援護の利便のために都道府県が設置することとなっており(指定都市は任意設置),現在全国に69か所設置されている.

 更生相談所は,昭和25年の法の施行とともに設置され,その後幾度か改正されて現在に到っており,身体障害者の援護に関する中核的役割を果たす機関として,昨今その機能の充実がますます求められている.

 今回は,更生相談所の概要と,全国の更生相談所における理学療法士・作業療法士(以下,PT・OT)の現状(アンケート調査より)および更生相談所におけるPTの役割について述べることにする.

講座 教育効果を上げるための工夫・2

専門教育技術をいかに高めるか

著者: 沼野一男

ページ範囲:P.120 - P.124

 「教える」とはどういうことか

 「教える」あるいは「指導する」,つまり教師の教授活動には情報提示(講義,デモンストレーション等),反応喚起(質問,学習活動の指示等),フィードバック(承認,誤りの指導等)という3つの活動が含まれる.学生は教師のこうした活動に助けられて学習するのだが,その学習が効率的に行われるかどうかは,教師の教授技術によるところが大きい.

 だからこそ教師は,講義やデモンストレーションの仕方,反応喚起の技術,フィードバックの与え方などを工夫するのである.現在では,小・中学校だけでなく高等教育,専門教育においても,視聴覚教育機器やコンピュータの利用を含めて,教授技術の研究が盛んに行われている.このことは理学療法士の教育においても変わりはないであろう.

TREASURE HUNTING

鬼の復権を願って―清水義昭氏(中瀬整形外科医院)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.127 - P.127

 2万人にも届こうとする人員を擁する職能団体には何とも多様な趣味や宝物の持ち主がいるものだ.思わずそんなことを実感させられてしまうのが,今月ご登場いただく清水義昭氏だ.なぜかといって,“鬼”が自分の“宝物”だというんだから!宝物といって憚らないだけあって,鬼に対する入れ込みようは尋常ではない.奥さんともども「世界鬼学会」会員(全国各地に会員約700人)として,年1回の総会や研究発表会に参加したり,鬼伝説を求めて各地を歩き回っているそうだ.

プログレス

記憶障害のリハビリテーション―最近の考え方

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.128 - P.129

 言語や記憶など高次脳機能のメカニズムの研究は心理学の領域であり,近年の神経科学の発展に合わせて多彩な知見が集積されてきた.医療の分野では,人口の高齢化とともに脳の血管障害や変性疾患による障害が増加し続け,また事故による外傷性脳損傷は若年層にも稀でないことから,記憶障害を有する患者のリハビリテーションも重要な課題として認識されるようになった.

 近年,その臨床研究が活発化してきた理由の1つとして,1980年代に入って,CTスキャン,MRIなどの画像診断技術の進歩と急速な普及に伴い,欧米における臨床心理士の役割が変化したことがあげられる.すなわち,病巣局在の診断に資するテストの実施と解釈に関するものから心理学的治療と回復訓練に関するものへと比重が変化してきたようである.心理学の分野としては,評価における神経心理学,機序に関する認識心理学,訓練(治療)法に関する行動心理学が統合された新しい領域ということができる1)

1ページ講座 日本の社会保障システム・2

公費負担制度(1)―老人保健およびその他の公費負担制度

著者: 遠藤光枝

ページ範囲:P.130 - P.130

 国民皆保険制度により医療は保障されているが,特定の対象や疾患に対し,自己負担の軽減を目的に公費負担制度が設けられている.今回は老人保健を中心に,更生医療,育成医療等の制度について述べる.

 昭和52年2月「保健対策」と医療費の「公平な負担」を骨子とした老人保健法が施行され,事業として健康手帳の交付,健康教育,健康相談,健康診査,機能訓練,訪問指導,医療,老人保健施設,老人訪問看護等を行っている.ここでは特に関連の深い医療,機能訓練,訪問指導,老人保健施設について紹介する.

報告

在宅脳卒中後遺症者における防寒靴付き短下肢装具の使用状況調査

著者: 尾田敦 ,   三浦孝雄 ,   福田道隆 ,   近藤和泉 ,   青木主税 ,   松本茂男

ページ範囲:P.131 - P.135

はじめに

 脳卒中片麻痺のリハビリテーションにおいて,短下肢装具は歩行能力向上をめざして頻繁に用いられている.しかし,従来のような金属支柱付き短下肢装具では,たとえ屋外歩行が可能になっても,青森県のような積雪寒冷地帯では冬期間の保温性の低下や滑り易さのために屋外への外出が制限されたり,歩行訓練が不足しがちになりやすい.

 我々はこのような問題点に対処するため,1985年より図1に示すような冬期外出用の防寒靴付き短下肢装具(以下,冬用装具)を処方している1,2).その主な特徴は,①クラリーノ製皮革(台成樹脂)を使用し,靴と靴底の間に液体ゴムを塗る,③靴底をゴム製のZシートにする,④靴の裏地に保温用ボアを使用しブーツ型とするなど1)である.

 しかし,その効果や使用状況については十分に把握されていないため,この装具を処方した患者に対して,その使用状況や使用感などについて調査を行ったので報告する.

クリニカル・ヒント

ボバース概念とインテーク

著者: 紀伊克昌

ページ範囲:P.136 - P.138

 1.はじめに

 治療を求めて理学療法士の前に現れた患者や家族に対して,私たちは直ちに定形的な評価テストを開始する行為を取らない.医療カルテや画像診断等から疾患名や疾患の程度,あるいは医療相談室でのインテーク記録から家族背景,社会的背景等の事前情報を理学療法士の頭の中に記銘しておく.治療計画立案のための評価は,理学療法士がベッドサイドに訪床した時から,あるいは患者がセラピィ室に入室した時から始まる.患者の全体像を観察することから始めるが,この際の事前の予備知識はあくまでも仮説として,固定観念的な先入観にとらわれないように留意する.成人の患者ならば疾患名から離れて1人の社会人として,小児ならば1人の子どもとして,初対面者にどのような態度を取り,私たちに与える第1印象について素直に分析する.この全体像の第1印象が異様さを発しているなら,その異様さの原因と改善すべき課題として問題にする(図1).

症例報告

変形性股関節症のリハビリテーション―日常生活指導の効果について

著者: 神戸晃男 ,   山田俊昭 ,   東田紀彦 ,   西島雄一郎 ,   山口昌夫

ページ範囲:P.139 - P.142

 Ⅰ.はじめに

 変形性股関節症(以下,変股症)のリハビリテーションについては,患者の機能障害に対するアプローチのみならず日常生活指導も並列して施行することが重要である1-4)

 今回,我々は理学療法を目的に入院した1例の変股症患者に退院後の日常生活指導用の要項を作成し,実行させた結果について,考察を加えて報告する.

あんてな

日本徒手医学研究会の歩み

著者: 小林紘二

ページ範囲:P.143 - P.145

 当研究会は1983(昭和58)年の発足以来,現在(1997年)15年目を迎えている.発足のきっかけは1982年,初代当研究会会長の辻井洋一郎氏(現・名古屋大学医療技術短期大学部理学療法学科教授)が整形外科疾患の疼痛症候に対する徒手治療法の勉強会を4~5人の理学療法士仲間で始めたことである.勉強会では主として欧米のモビライゼーション手技についての文献抄読と,それを臨床の場で試し,その効果を検討するというものであった.したがって多くの治療家が集まるほど,より科学的な検証ができるであろうという辻井氏の考えから,翌年(1984年)“日本整形徒手療法研究会”という名称にてセミナーを開催した.同時にセミナー受講修了者が研究会会員となって,共に徒手治療の勉強に励むことになり,正式の研究会の発足に至った.以来毎年1回行われる“研究会セミナー”も本年で15回を数え,現在,日本徒手医学研究会という名称にて研究会員が約450人を数える任意の徒手治療研究団体として存在している.

書評

―市川洌(編著)―ホイストを活かす吊具の選び方・使い方

著者: 山下隆昭

ページ範囲:P.88 - P.88

 障害の程度を軽減するために機能障害に対する治療的アプローチが重要なことは言うまでもない.しかしながら,最大限の努力がなされたとしても,何らかの障害を残す場合が多い.この時のリハビリテーションの手法として,能力障害に対する代償的アプローチがある.このアプローチの大きな手段が福祉用具の導入である.ところが,福祉用具に関する情報は量的には非常に多いが,単なる利点の紹介のみで欠点を含めた適応範囲について詳しく論じたものは少ない.まして,移乗機器について単独で採り上げたものは初めてであろう.

 本書は日本リハビリテーション工学協会に設けられた移乗機器適用技術検討委員会の委員による検討結果をまとめたものである.我が国のリハビリテーション工学分野における第一人者の1人である市川氏を編著者として,エンジニア,理学療法士,作業療法±,看護婦,指導員らの専門家により,それぞれの立場から細かく分析と解説がなされている.

―坪井栄孝・大塚敏文(監修)―災害医療ガイドブック

著者: 小林国男

ページ範囲:P.102 - P.102

 平成7年1月17日に神戸を襲った阪神・淡路大震災は,全国民を震憾させるとともに,わが国がいかに災害に対して無防備であるかを印象づけた.これまでにも災害はわが国で頻発しているが,局地的であったり人口の少ない地域に起こったために,国民の強い関心を引くには至らなかった.そのため医療関係者で災害医療に関わりをもつ医師はきわめて少なく,医学教育のなかで災害医療が取り上げられることもなかった.したがって,災害医療に関する単行書は,神戸に大震災の起きた以前には皆無であったといっても過言ではない.阪神・淡路大震災を契機に沢山の書物が刊行されたが,これらは震災時の体験や,それを基に防災や災害医療のあり方を問う報告書の類がほとんどである.この度,医学書院から刊行された「災害医療ガイドブック」(監修:坪井栄孝,大塚敏文;編集:国際災害研究会)は災害医療全般を網羅した画期的な出版物であり,災害医療への関心が深まった今,まことに時宜を得た書といえよう.

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PTクロスワードパズル

著者: 埴亜紀夫 ,   市丸法子

ページ範囲:P.96 - P.96

 黒太枠内の文字を組合せる1つの文字になります.

文献抄録

ページ範囲:P.146 - P.147

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.150 - P.150

 本号の特集テーマとして「4年制大学における理学療法教育」を取り上げた.4年制大学での理学療法教育が始まってまだ間もないが,このテーマを取り上げることで,今後の理学療法教育の改革,あるいは後続大学の参考になればと願って企画した.

 河村氏,他には「4年制大学における理学療法教育の課題と展望」として,すでに第1期生を社会に輩出した体験を踏まえて総括的に執筆して頂いた.最初の大学教育ということで手探りしながらの挑戦が伺われる.また大学改革に伴う新たな教育活動も展開されるが,これにより教員自体への新たな学習が期待されることにもなる.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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